モブは止まらない。
ヴィルヘルム・クロイツェル王弟、権力に固執せず国の今後を想い臣籍に、役職は付いていても実質は一騎士。
現在22歳、現国王陛下が跡を継いだのが四年前、その決断を18歳でして行動に移す、って凄いわ。
前世18歳なんて、友達とゲームアニメの話でギャーギャー騒いでいた程度なのに。
環境が人を育てた?
ううん、環境が同じでも誰もが皆同じ行動取れるかと言ったら甚だ疑問ね。
多分、本人の資質かしら・・・
まあ、これらの情報もお父様が直接聞いた話ではないでしょう
全てが嘘とも言えないけど、事実とも言えなさそう
最終的には本人とお話して知る事が一番大切よね。
という訳で
「お父様、ヴィルヘルム様に一目惚れしました」
お父様は完全に固まってしまいました
一呼吸、二呼吸して、漸く再起動です。
「リリアン、トーマスは好きかい?」
ん?何故ここでお兄様?
「勿論、大好きです!」
即答します。
「その気持ちとヴィルヘルム様を思う気持ちは一緒ではないかい?」
あー、そう来ましたか。
五歳児が年上を好きとなると、そう判断されても仕方ない事ではありますが
お父様違いますよ、中身は五歳じゃないんです!
決して憧れや親愛、家族愛の類ではありません。
普通の恋愛的な一目惚れなんですが・・・
「お父様、私の気持ちは私のものです、少なくともお兄様への気持ちとは別物だと思います」
と言うと、お父様は顔色を変えて焦り出しました。
「リリアンにはまだ早いのでは」
「もう婚約している人居ますよね」
「かなり強面だけど大丈夫?」
「容姿に関しては少なくとも『一目惚れ』なので大丈夫」
「良く知りもしない人物となんて不安」
「ならば早めにお互いを知った方が良いのでは、そもそも問題のある方なのですか?」
「そんな事はない、けど」
「駄目、早過ぎる」
「素敵な方から婚約者が決まって行くのでは?
早過ぎると言って、何時なら良いと言うのですか」
「年齢差が17もあるよ」
「年齢差は確かに有ります、それらも含めて知り合うという事は認めて頂けませんか」
「・・・」
「・・・」
「リリアンが居なくなると寂しい・・・」
う、感情論で来ましたか
そんな捨てられた子犬のような目を向けないで下さい
「お父様、何も今すぐ婚姻を挙げて嫁ぐと言っている訳ではありません、顔を合わせてどのような方か知りたいのです、お話だけでも何とか出来ませんか?」
・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
沈黙が痛いです・・・
まあ、無理を言っている自覚はあります
婚約どうのこうのとかではなく
王弟、現公爵様とお知り合いになれませんか?
なんて無理無茶難題ですわね。
すると、お父様が諦めたような困ったような、しかし柔らかな苦笑いを浮かべて言います。
「分かったよリリアン、これから丁度お披露目のご挨拶だから、その時に何とかするよ」
お、お父様!?無茶言った当人の私が言うのも何ですが、大丈夫ですか
あれ?これ何かあったらお家断絶の危機になるのでは
不敬罪大丈夫?大丈夫よね・・・
色々考えていると悪い事しか思い付きません
一気に不安になって来ます
じわりとイヤな汗を感じながらも、遂に順番が回って来てしまいました・・・
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指示があるまで頭を下げて
指示があれば頭を上げて御挨拶
「初めまして、マイケル・モブラック子爵が長女、リリアン・モブラックです、どうぞお見知りおきを」
良し!私の仕事は終わりよ!
お父様、後は任せましたわ(笑)
取り敢えず、両陛下を見ます。
うん、完璧ね
私が王です、と言わんばかりの雰囲気
本当に同じ空気纏っているの?
そこだけ特別な空気作り出してない?
目は優しげ、だけど怒らせたら大変な事になりそうな気がするわ
畏怖とまでは行かない、陳腐な言葉になってしまうが
格の違い、威風堂々。
前世の記憶があると言っても一般人
貴族になっては五年程度の子供では、計れる人間ではなさそうね
それこそ不敬、かしら。
王妃様も陛下に並び立って遜色ない方よね
完成された一枚絵、見ているだけで眼福なお二人ね。
王子二人は・・・
アルバート第一王子は、正に絵本の中の王子様だわ
両陛下の、ううん、ルーク陛下の幼い頃がそのままアルバート様
米国みたいに親の名前を子供に付けて、Jrと呼びかねない程そっくり。
特に優しげな眼差しとか、でも陛下もアルバート様も優しさだけでは無さそうだけど
アーサー第二王子は・・・
あー、その、私はごめんなさい、って感じよ。
モブに用などない、我が視界を汚すな雑種
と言わんばかりの険のある視線
それを一瞬向けたかと思えば、もう私は視界には入ってないわね
止めてよー?乙女ゲームのテンプレな展開宜しく
学園でヒロインに出会って、チョロチョロの手のひらコーロコロで、人前で断罪の挙げ句に婚約を破棄する!とか言わないでよ?
まあ、いいわ、どうせ今回が唯一の接点
ストーリーはカラフル軍団とピンクちゃんで頑張って下さい、私はモブよ。
それよりヴィルヘルム様よ
近くで見ると本当に最高ね・・・
ゴリゴリの体格、鋭い眼差し、格好良過ぎるわ
自分の顔が熱い、真っ赤になっているのも自覚しているけど
もう目を外せない、好き・・・
完全に凝視していたら
はた、と目が合ってしまい
ヴィルヘルム様が胸に手を当てて軽く会釈して、にこり。
ぎゃあああああ!
何これ、白馬の王子様か!
いやいや騎士様か!あ、でも元王子様か!
眼差しは鋭いのに瞳の奥が本当に柔らかいの
素敵すぎか!
悶えそうになるのを必死に耐えた私を誰か褒めて。
なんて、ヴィルヘルム様に夢中になっている内に
後日お会い出来る事になっていた。
凄いわお父様、ヴィルヘルム様とはお話なさってませんよね?
国王陛下とお話していたけど内容なんて全く記憶に残ってないわ、どうなさったのか後で確認しておきましょう。
お父様、何者。