モブ、義母と。
「ふふふ、ヴィルったらね・・・」
「ははは、仲良くやっているようで何よりだよ」
穏やかなひと時を過ごす先代ガウェイン王とラファエル妃、そんな彼らに届く離宮に響く声
「・・・ぃゃぁぁぁ・・・」
「えっ?」
「・・・、今のはリリアンさん、かな?」
数日前から離宮にて同居している義理の娘リリアンの叫び声に驚き、2人は顔を見合わせる。
「何かあったのかしら」
「まさか、離宮で何かなんて」
離宮の立地は王城の奥、警備体制も考えると基本的には何かなどは有り得ない自体であるが、義娘は叫び声をあげていた。
「ねえ・・・」
「ああ・・・」
2人は頷き、数人居る護衛の内2人を様子見に行かせる事にした
「状況を確認して来て頂戴、リリアンちゃんの安全の確保を最優先に、今の時間ならきっと客間でエステを受けている筈よ」
「抜剣も許す、賊が居たなら容赦するな、だが女性に対する配慮も忘れるな」
斬り捨てる事も辞さない、だがエステ中のリリアンの周囲には侍女が多数、男性は居ない事を考えると女性の前で人を斬るにも刺激が強いから気を付けよ、と。
「ならばこの2人を行かせましょう、この2人は格闘術に秀でています、剣を持つ者にも遅れを取りません」
筆頭護衛騎士の言葉に頷く、先代王ガウェイン
「良いだろう任せた、だがそれでも女性に対する配慮を忘れるな」
「「はい!」」
精悍な顔つきに気力を漲らせ、騎士2人は走り出して行った。
30分ほど経っただろうか、困惑顔の騎士が帰って来たのは
「どうしたの?状況は?」
ラファエルが聞くと、騎士の1人がとても言い難そうに
「賊ではありませんでした、リリアン様も御無事です、但し」
但し?
「ヴィルヘルム公爵様が・・・」
ヴィルが?何故ここでヴィルが来るの、と先代夫婦2人も困惑する
「リリアン様に御説教されて居りました・・・」
「リリアンちゃんがヴィルに説教?あんなにベタ惚れしているのに、そんなに怒っているの?」
「何があったのだ?」
「え、えー、リリアン様がマッサージをお受けしていた所に、公爵様が立ち入ったとの事で、その」
ピクと全てを察したラファエル王太后の目は一瞬にして吊り上がる、それに気付いたガウェインは黙り込むことにした。
騎士はそのまま報告を続ける
「公爵様が突然入って来た事により、リリアン様は、えー、見ら・・・」
「もういいわ、解りました」
そこで騎士もラファエル后の様子に気付く。
「安全は確保されているのね」
ラファエル后が静かに問う
「はい!安全に異常はありません!」
「ヴィルとリリアンちゃんは客間に?」
「はい!居ます!」
「今から行きます」
「お供致します!」
「ウェインは此処で待っていて、これは女の話よ」
「ああ、行ってらっしゃい・・・」
ガウェインは知っている、だから是以外は口にしない
ラファエルが怒りを秘めた時には彼女が満足するまで止めてはいけない事を。
ただただ送り出すしかない事を。
そうしてリリアンの居る客間に着いたラファエルは何とも言えない状況に、気勢を削がれる
「いいですかヴィルヘルム様!女性の園と言うものはですね、何も男性に意地悪したくて男性を入れないのではないのです!
男には男のお話があるように、女には女の話があるのです!聞いてますか!?」
説教する白い布の塊(恐らくはリリアンだと思われる)に
「ああ、聞いている、すまない・・・」
正座して只管に謝る息子ヴィルヘルム。
「嫁入り前の女性がエステを受けている部屋に押し入るなど、ましてや、は、はだ、・・・、っ肌を、見るなんて!」
「・・・、すまない」
「いいですか!今日のような時は褒められても嬉しくも何ともありません!感想を言うなど「じっくり見た」と白状するようなものです!「一瞬の事で良く見えなかった」と言う事が1番の配慮です!」
「はい・・・」
「で!どうなのですか!」
言葉は完全に欠落しているが、そこで察しないヴィルヘルムではない
「忘れました、何も見ていない・・・」
「リ、リリアンちゃん?」
やっと義娘?に声を掛けると、布の塊が飛び付いて来てパサリと頭部周辺の布が落ちる。
「リリアンちゃん・・・」
見ると耳の裏、首筋まで真っ赤にして顔を上げない娘に全てを理解する、当然首元の隙間から下に服を着ているようには見えない。
「そうよね、恥ずかしいに決まってるわ・・・」
抱き締めながら出来るだけ優しく言うと、コクリと頷く。
「リリアンちゃん身体が冷えているわ、1度ゆっくりお風呂に入って身支度を整えてらっしゃい、ね?」
再度無言のままコクリと頷くリリアン、近くの侍女に視線を送ると「心得ました」とばかりに頷き、侍女達は改めてグルグル巻きにするとリリアンを連れて出て行った。
「で、ヴィル、何があったの?」
一通り話を聞き、ラファエルはため息を吐く
「全部ヴィルが悪いわ」
「ぐ」
バッサリ切り捨てられるヴィルヘルム
「貴方ね、自分に置き換えてみなさいよ、自分がお風呂上りで全裸の所にリリアンちゃんが突然来て、「大変御立派なものをお持ちですね」なんて言われて嬉しいと思うの?困らないの?恥ずかしくないの?」
「い、いや・・・」
「なら、なんでそんな事言ったのよ、どう受け取ったって恥ずかしいに決まってるじゃない、しかも成人したばかりの未婚の令嬢、いくらヴィルにベタ惚れなリリアンちゃんだって怒るわよ」
「う・・・」
「そもそも部屋に押し入るなんて・・・、痛いのなんて、女性が受けるエステでもそれなりにあるのよ、いえ、いい事思い付いたわ」
「?」
「このままヴィルを帰してもリリアンちゃんもわたくしも溜飲が下がらないわ、だから受けてもらいましょうマッサージ、わたくしがウェインの健康の為に考案、実践、開発した健康地獄マッサージ」
「待って下さい母上、健康マッサージなのに地獄って」
「お黙りなさい、エステで悲鳴をあげることも有ると体験してみればリリアンちゃんが痛いと叫んだ事も理解出来るでしょう?」
パチンと指を鳴らすラファエル、ヴィルヘルムの両脇を抱える騎士2人
「お、お前達っ」
焦るヴィルヘルム、ずっと正座していたので足に力が入らない
「ほら、殺るわよヴィル、覚悟を決めなさい?」
恐ろしい笑顔で迫る母親。
「ぐ、ぐわああああーっ!」
その後、リリアンがまともに顔を合わせてくれるまで1週間かかり、結婚式が迫る中ヴィルヘルムは生きた心地がしなかったそうな。
更に国王には「何をやってるんだお前は」と飽きれられ、義姉にはひとしきり笑われた後に存分にいじり倒された事、先代ガウェインは何かをやり遂げたようなラファエルの様子に小さく息を吐いた事は、また別のお話である。




