モブ、デビュタント。
国王陛下達が入場すると、それまでザワついていた会場が静寂に包まれます。
数歩遅れてそれについて行く私達、静かな会場の所々から
「誰」
「王弟様と、、誰・・・」
「え、モブラックさん?」
「誰だ・・・」
と、ヒソヒソ聴こえてきます。
私と分かったのは多分同じクラスでしょう、後はステルスしていた私を知っている人はそうそう居ませんから、当たり前の反応ですね。
視界の端に婚約者にエスコートされているララとルル、ライラ達が入り、薄く微笑を送ると小さく手を振って応えてくれます。
「皆、成人おめでとう、この場に居る若者は今後の国を支える者達だ、己の立場を知り常に規範となるよう精進して欲しい、成人とは始まりである、これから数十年を貴族として生きて行く始まりの一歩を、しかと踏み締めて、国を、民を、導く礎となって欲しい」
やだ、国王陛下が国王陛下してる!
内心で冷やかす余裕も戻って来ていると
「さて、若者の門出を長々と話して白けさせるつもりは無い、こちらの者達を紹介しよう」
言われて、国王陛下達から一歩下がって控えていた場所から横に並ぶ。
「我が弟ヴィルヘルム・クロイツェル公爵、そして婚約者のリリアン・モブラック子爵令嬢である」
陛下が紹介すると会場内がザワつく
「誰っ」
「モブ?」
「モブ・・・、ラックて誰だ」
「やっぱりモブラックさん」
「モブ子爵令嬢!?」
モブ連呼で内心苦笑いです、いえ確かにモブでモブラックなんですけどね!
「あんな、地味、、可憐な子が、あの公爵様の・・・」
「食われるぞ・・・」
食われないわよ!ヴィルヘルム様を何だと思っているのよ!
そんな風にツッコミを入れていく
「クロイツェル公爵の婚約者リリアン嬢は15歳、皆と同じく今日デビュタントである、晴れの舞台に彼等への祝福を願っても良いだろうか」
と国王陛下が語り掛けると、ザワついていた会場が拍手に包まれホッとひと安心する。
32と15だと・・・、食われるぞ・・・、とか耳に入って来ます
誰よ、しつこいわね!歳の差なんて大した事無いのよ、食べられません!
「さて、略式ではあるが正式な婚約を結んだ2人だが・・・」
ん?ダンスに入らないの、チラっと国王陛下を見ると
そこにはワルイ顔をしたルーク義兄様が
サーっと背筋にイヤな汗が伝う感触
「来月2の月に結婚式を行う」
?
はいっ!?来月結婚式!?
声にも出さず、顔にも出さなかった私を誰が褒めて欲しい!
隣のヴィルヘルム様を見ると、口が半分開いてます。
あっ・・・、ヴィルヘルム様も知らなかったのね・・・
エリザ義姉様は、、知ってますね・・・、あの顔は。
会場の隅、影の方に私の家族が居るのを見つけると
お父様が遠い目をして棒立ちになっています、知らない、と。
お母様はニコニコしています、多分知らなかったけど予想していた、そんな感じですね。
お兄様は盛大に苦笑いです、知らないし、予想もして無かった、と。
この国王は、本当にもう・・・
後は流れで一緒にファーストダンス
パートナーを替えて・・・
「どういうことですのルーク義兄様!」
顔に笑顔を貼り付けて、問い質します
「おお、見事な顔だリリアン、出来るではないか腹芸」
シレッと言い放つ国王陛下に若干イラつきながらも
「もう、本人達には内緒だなんて!」
「何だ嬉しくないのか?」
「嬉しいけど、こういうのは困ります、せめてヴィーには伝えておいて下さい、見ましたかヴィーの顔」
心底驚い・・・
「ああ、最高の顔だな、あそこまで虚をつけたのは何時ぶりだろうか」
・・・、ダメだコイツ・・・、性格屈折しつつも弟好き過ぎるだろ!
もう心の中では敬語も使わないリリアンである。
ダンスも終わり、国王陛下達は退席、後は若い者で、と。
私達の周りに一斉に人が!
来ません、ヴィルヘルム様が魔除けになってます・・・
大人達が怖がる人物に、15の若者が気安く近付いて来る訳がありません、これはこれで平和ですが。
「「リリ」」
「リリアン」
うん、持つべきものは友人よね、ララ、ルル、ライラ。
「ヴィルヘルム様、こちらはララエル・エルロイ伯爵令嬢とルルエル・エルロイ伯爵令嬢、ライラ・ローレライ伯爵令嬢、私の親しいお友達です」
「初めまして、私はヴィルヘルム・クロイツェル、我が婚約者とは仲がいいようで話は良く聞いている、これからもよろしく頼む」
「「初めましてクロイツェル公爵様、私達はララ(ルル)エル、エルロイ伯爵家の長女(次女)で御座います」」
「私はライラ・ローレライ、ローレライ伯爵令嬢です、お話はかねがね・・・」
「ふふっ、やっとみんなに紹介出来たわね!」
「「やっと正式に認めた、リリおめでとう」」
「本当に王弟公爵閣下とはね、リリアンおめでとうございます」
「ありがとう!嬉しいわ」
「それにしても来月結婚式なんて聞いてないわよ」
「「青天の霹靂」」
「私も今初めて聞いたわ」
「私もだな」
「「「え?」」」
私とヴィルヘルム様の言葉にララ、ルル、ライラが固まります。
かくかくしかじか・・・
「なんか国王陛下って」
「「性格ワルっンンーっ」」
「ダメよララ、ルル、事実だけどダメよ」
ララとルルの口を手で押さえます。
「良いんだリリー、ララエル嬢、ルルエル嬢、ライラ嬢、兄上は性格がヤバい」
あ、言っちゃいましたね、しかもワルイじゃなくてヤバいって・・・
と言うか、周囲の視線が凄いです、そんなに気になるなら話に来ればいいのに、察したヴィルヘルム様が
「ララエル嬢達は、私の事は、その恐ろしくないのか?」
「「全く」」
「顔立ちは一般的には恐ろしいですが、リリアンから色々と惚気話聞いているので全く」
「私、惚気けてなんか・・・」
「「「惚気けてました」」」
あ、はい・・・。
「「これは逆に居心地が良い」」
「そうね、クロイツェル公爵様には申し訳ありませんが、余計な者が近付いて来ないので快適ですわ」
ライラぶっちゃけ過ぎ!
「そうか、いや貴女達が気にしないなら上手く利用してくれて構わない、これからもリリーを宜しく頼む、この通りどこか抜けてる所があるから」
「えっ」
「「「分かってます、任せてください」」」
「えっ?」
何か私の扱いひどく雑ではありませんかね?
気の所為ですか?




