モブ、焦る。
「何をしている」
その声は聞き慣れた声、でも私の知らない声色。
表情を見るまでもない、瞬時に理解する
怒っている、かつてないほどに。
場は静まり返り、皆動きを止める
騎士のお姉様が先に我に返り、取っ組み合いをしていた騎士の急所を蹴り上げ無力化、続けて私を掴みあげていたチンピラ騎士も一瞬で拘束、地面に押さえ付けて一言。
「ヴィルヘルム様申し訳ございません!コイツらの処分はこちらにお任せ下さい、その後私も責任を取ります、どうか!」
と、聞いて私もハッとなりヴィルヘルム様に抱き着く。
「ヴィー!もう大丈夫、ありがとう助かったわ」
ふと見ると、剣の柄に手が添えられていて背筋が冷える
(ああああぶないっ、私、嫌よ、生首なんて絶対見たくないわ!)
間を置いたのち、ふうー、っと怒りを吐き出すかの様に深く一息吐いたヴィルヘルム様は
「リリー何があった、怪我は、手首が赤くなっているな、護衛騎士が付いていながら、いや、こいつらは?」
矢継ぎ早に聞かれます
「このチンピっ、騎士様が王城内を身元不詳の者が彷徨いていると、私は身分を明かせませんが陛下の命で護衛騎士が付いているのでご確認をと、怪我はありません、これは赤くなっていますが痛くはありません大丈夫です、お姉様は良くして下さいました、2人相手では当然手が回らないのは仕方がありません、お姉様に非はありません、最初に陛下王妃様の客人であると言いました、彼らは名乗りもしないので何処の誰かも分かりません!」
ひと息で全部言い切ります。
その勢いにヴィルヘルム様は押されたのか、少し平静になり
「あ、ああ、護衛騎士に非が無いのは分かった、こいつらに関してはそれなりの覚悟を負って貰おうか」
程々にお願いしますね、私の身元が怪しいのも一理ありますし・・・
まあそれを加味しても、貴族令嬢に対する行動ではありませんでしたが。
と、ヴィルヘルム様の顔を見ると深い皺が眉間に
「ヴィー、こっちを見て」
「何、」
両頬に手を添えて、私から深く口付けします
「ん、・・・」
数秒経ってからゆっくり口を離すと
「リリー、何を」
「ヴィー、私は貴方のそういう顔はあまり見たくない、私の為に怒ってくれたのはとても嬉しいけど、眉間に皺を刻んだ旦那様は嫌よ?」
と眉間をぐりぐりと指で解すが、言い切ってから恥ずかしくなり、顔の前の帽子の長い縁を掴み顔を隠す。
きゃー、私、自分から何を!
「リリー・・・」
ヴィルヘルム様はフッと優しい瞳に戻ると、私を抱き締めて来た
「わっ、ぷ」
そんな一部始終を見せられた、件の騎士2人は呆気に取られ
護衛騎士のお姉様は「あらー」と良い笑顔になったかと思えば、鋭い眼差しになり
「だから陛下の客だと言っただろうが!」
と、押さえ付けている騎士の頭をスパンっと叩いた。
「リリー、次からこの様な事があった時は全て言ってしまって構わない」
「え、でも」
「君の安全には替えられない、今回の騎士は近衛騎士団ではなく王宮騎士団で、近衛騎士にはある程度事情が周知されているから問題無いが、王宮騎士団は現場主義の叩き上げで気性の荒い者も居る、立場も違うことから事情も周知されていない、だから」
「分かりました、本当はあの騎士様があまりにも尊大な態度で「俺を知らないのか」と言ってきたもので、爵位や立場を測りかねて対応に困ってしまったのです」
結局名乗りませんでしたしね!
「ああ、あいつは隣国の伯爵家5男坊だ、知らないのも無理はないが・・・」
「ええっ、伯爵家の5男であそこまで尊大になれるのですか!?」
ある意味感心してしまいますね、わざわざ隣国から来た上に騎士になって、あの態度、なんか察するものがありますわね・・・
「察しの通り、あの性格だ実際の荒事の現場なら頼もしいのだが、運悪く今日は王城警備に居たようだな、アレでも腕だけは立つが今後王城内の警備には配置されない」
はあー、適材適所と言うか、まあ貴族達の多い場所にアレでは問題多過ぎますわね。
護衛騎士のお姉様は最後まで謝っていたけど、2対1はどうしたって手が足りないわ、気にしてないと伝えても
「どのような状況であれ護衛対象を危険に晒すなど・・・」
と、退きません、ならば。
「なら、次にこういう時があった場合は私を抱えて走って逃げてしまいましょう!すぐ追いつかれるでしょうが、人目があるところまで行けば大丈夫でしょう?」
私がドレスで走れると言っても騎士の前では一瞬で捕まりますし、かと言ってお姉様が1人で騎士を制圧するには剣を抜くしかありません、が、剣を抜いたら相手も剣を抜く、そうなると殺傷沙汰になりかねません、だから今回お姉様は剣を抜かずに取っ組み合いになりました。
相手が賊ならそれで良いでしょうけど、相手が騎士ではちょっと・・・
でも、害を為すなら騎士でも敵性判断になるのですかね?
いえそもそも、騎士が敵って私は賊じゃないのだし、どうしろと、という話です。
そう考えるとチンピラ騎士は本当にお馬鹿さんですよね、全くの不審者が王城内を歩ける訳が無いのです、護衛騎士が近くにも居てコレでは、何故あそこまで人の話を聞かないのか謎ですね?
と色々考えて居ると
「リリーを抱けるのは俺だけだ」
突然抱き抱えられます
「わ、」
「次からは俺が直接義姉上達の所へ迎えに行く、リリーは俺が来るまで待っていれば良い」
「あー、はい・・・、」
私達2人揃うと絶対ラファエル義母様とエリザ義姉様に弄られますよ、良いのですかね?
流石に王太后と王妃を相手に、迎えに来た!じゃあな!は出来ませんよね・・・
きっと「少し話していきなさい?」となります。
「・・・、母上も義姉上も話好きだから仕方あるまい」
諦めてますね、あの御二方に勝てる人は多分居ないでしょうし、飽きるまで弄られろという事ですわ。
恐らく陛下も勝てません、実の母と王の嫁になる女性ですから・・・




