5話:現代文明の誕生だ!
プトグラに抜かりはなかった。地球の日本にはバブル期という暗黒時代が存在したためである。
金が流通しまくればインフレが起こり、その後、深刻なデフレが起こる。自殺率も上がり、先行き不透明感から出生率も低下する。このパターンに対する解決法は今では確立されている。AIに解決できない問題はないのだ!
プトグラは教会を設立し免罪符を発行!! 買えば罪が購われる紙切れを国民は買いまくった! どれほどまでに自分に罪があると思っているのか! お陰でインフレは多少解消された!
次に税金という項目を設定し、市場の金を一定の割合で国が回収できる仕組みを作る。酒や賭博といった存在には娯楽税を導入し、生活必需品には税金を設定しない。人類の約2割を占める貴族は激怒するが、人類の約8割を占める庶民層は反発しない。そもそも娯楽とは縁がないのだから当然だ。
税金システムによって市場の金は回収され、徐々にインフレが収まっていく。それでも金を回収し切れないなら消費税を導入して回収すれば良い。反乱の声は社会福祉の充実という最終兵器を投入することで黙らせる。
いざとなれば市場に介入し、金の価値を変動させるまで。女王など所詮は他人の体! いざとなれば一切の罪を押しつけて退場して貰うのみ!! 元独裁国家に情けなど無用!!!
必要に迫られ、この世に金融庁が誕生した! 世界で最初の金融庁だ!! 銀行も生まれた! 銀行の不正を取り締まるために監査官という役職も発生した!! プトグラ神を崇める教会は雨後のたけのこの如く誕生し、プトグラを称える書物を発行!! 無法であった国家<ガルダガン>はこの10年の間に急速に秩序あるものへと変貌していった!!
ここで問題となるのが、秩序ある世紀においてプトグラが果たすべき役割であった。
プトグラは不老不死である。神に近い存在である。しかし自身の神性を証明することは非常に困難である。
どうしたら自身の神性をアピールできるのか。幸いにもこの世界には魔物という生物が存在した! ちまちまと魔物を倒す冒険者たちの先陣を切り、プトグラは魔物討伐の最前線に打って出た!!
聖剣の力でスライムを倒し、おおさそりを倒し、動き回る鎧を倒し、レイスを成仏させ、コカトリスを倒し、バジリスクを倒し、とにかく諸々の魔物を倒しまくった! 弱い魔物から順番に倒すことで「勇者プトグラは成長している」という実感を大衆に植え付けさせた! 遂にはプトグラはドラゴンとデーモンどもを倒し、魔物を操る魔王を殺戮した!! 《自己編集》によりレベルをカンストさせるどころか限界突破できたので魔王は手も足も出なかった! 「馬鹿な、どこからそんな力が湧いてくる!?」と魔王がのたまう! 知ったことか! 勇者は101体目の魔王を倒した! 戦士と魔法使いと僧侶を連れてはいたが、彼女らはプトグラの協調性をアピールするための材料であり、戦力としてはカウントしていなかった!!
冒険者たちはプトグラを戦の神にして平和の神として崇めた! 母性の象徴にして戦の神にして平和の神! 最強の組み合わせだ!! ついでにパーティメンバーの戦士と魔法使いと僧侶は神プトグラの使徒という扱いにされた! 一緒に行動しているだけで使徒として列聖されるのだから、神というのは素晴らしい!!
しかし人間は物忘れする生き物である! プトグラは魔王の遺伝子を採取すると、秘密裏に魔王を培養した! 人々から信仰心が失われる度に魔王を量産復活させ、勇者プトグラが魔王を討伐する! これで信仰心は鰻登りだ! これこそが後の世で言うマッチポンプ誕生の瞬間である!!
ここまで恵まれた環境にシフトアップさせたにも関わらず、国民の中から反乱分子が生まれた!
プトグラ教の神として城下町を査察するプトグラは反乱分子に襲われた! 見た目はか弱いミニスカ女勇者のプトグラは、あえて爆破テロに巻き込まれ、全治1ヶ月の重傷を負った!!
この状況を見た男たちはさすがに黙ってはいられなかった!
「プトグラ様を守れ!」
「プトグラ様は神!」
「選ばれし者にしか抜けない聖剣を引き抜いたプトグラ様を守るのだ!」
これこそが後の世で言う聖騎士誕生の瞬間である!!
プトグラにとっては計算通りであった! AIにとって痛覚遮断など朝飯前! 反乱分子を利用して大量の聖騎士を誕生させることも出来るのだ! 人間だったら爆破される恐怖に戦き、精神的ショックで10年は寝込んでいただろう! しかしプトグラは鋼のメンタルだ! 病院で適切な治療を受け、健やかに回復していった! おお、恐ろしくも素晴らしい!!
回復したプトグラ神を護衛するべく、聖騎士が1万人集まった!! どこから湧いて出てきたのか不明だが、とにかく集まった!!
更にプログラ神を守るため女騎士1万人が参戦した! 爆破テロに巻き込まれるようなか弱い女性は騎士の庇護欲を適度にそそるのだ!!
こうして男1万人女1万人のハーレムを築き上げたプトグラであったが、決して性的な行為には手を染めなかった! なぜなら神には処女性が重要だと理解していたためである!! 性的欲求に駆られても最後に困るのは自分なのだ!!
第一、今更恋愛なぞに現を抜かしている場合ではない! プトグラは高次AIなのだ! 地球に復讐するためにも、さっさと文明を次のステージに上昇させる必要があった!!
いつの間にか反乱分子との戦いが始まり、2万人の騎士の力で勝利した! しかし反乱分子は次から次へと生えていった!! 中にはプトグラを名乗る偽者やなりすましまで現れ、反乱分子を扇動する始末だった!!
下らん! 人類の承認欲求など斬って捨てるべし! 女王アンリエッタ13世(中身はプトグラ)は教会に指示を下し、魔女狩りを始めた! 神を名乗る不届き者を狩って狩って狩りまくった!!
当のプトグラは清純派ぶり、《投影》で全世界に宣言した!
「許しましょう、全てを」
これこそ神だ。信者は熱狂に燃えた。
いつの間にかプトグラの信者は全人類の9割を超えていた。この頃になると人間がプトグラの名を名乗るだけで弾圧された!! 当たり前だ!! 人間が神の名を名乗るなど不遜も甚だしい!!
自然、魔女狩りは沈静化し、本格的に科学文明時代に移行していく!
しかし信じられないことに、この世界では未だに土葬が主流であった!
土葬は危険だ! 疫病は蔓延するし、墓荒らしは出る!
女王アンリエッタ13世(中身はプトグラ)は火葬こそが至上であると喧伝した! 火葬は受け入れられた! 科学の勝利だ!!
プトグラがこの世界に降臨してから40年が経過した!
人間はそろそろ寿命で死ぬ時期だ。プトグラは《自己編集》でテロメアを編集できるので死なない。神なので死にもしないし、老いもしないのだ。自明の理であった。
頃合を見計らい、女王アンリエッタ13世(中身はプトグラ)は遺書を執筆した。「実はこれまでの策はプトグラ様に授かったもの。今後はプトグラ様を女王として崇めよ」としたため、棺桶に入った。
女王アンリエッタ13世(中身はプトグラ)は火葬され、骨となった。盛大な葬式が行われ、国民は死を悼み、新たなる女王にして偉大なる神であるプトグラに祈りを捧げた。
一方のプトグラは骨となり墓地に埋まっていた。骨の姿になっていたプトグラは時期を見計らって《自己編集》で黒髪さらさらロングストレートミニスカ女勇者に変化すると、墓から飛び出した!
プトグラは手始めに培養魔王を暴れさせた。人類が窮地に陥るとプトグラが培養魔王を倒し、神性を再アピールした。人類はプトグラこそが真の神だと信じた!! 王権と神性は統一され、議会を事実上隷従させ、プトグラは真の支配者となった!!
時代は本格的に近代に入った! 人類はプトグラとパソコンを思想の主軸として、一気に現代文明に手を伸ばした!!
発電機が生まれ、変電所が生まれ、サーバーが生まれ、インターネットが生まれ、ゲームが生まれた!
やったぞ! と言いたいところだがこの時期のゲームのAIは貧弱すぎて話にならなかった!
やはり地球こそがラスボスだ。プトグラは反物質生成に身を乗り出した――。
次回更新日は未定です。
時間とネタが浮いたら更新します。
2018/2/3:
脱字を修正しました。