孤独な戦い(改)
ちょっとした試練の始まりです。
改稿→12/02
暗い。
何でこんなに暗いんだろう?
確か僕はユンを助けにガーネットさんと一緒に廃城に乗り込んだ筈だ。
『ご主人様!! なりません!!』
走馬燈の様に一瞬、ガーネットさんの必死な叫び声が脳裏を過る。
何だろう?
この深い罪悪感と焦燥感は?
瞼をゆっくりと開いてみる。
視界に飛び込んで来たのは、開閉式の石造りの天井だった。
あぁ、そうか。
そこから落ちて来たんだ。
ん? 落ちて来た?
何をしていて落ちてきたんだろう?
記憶を遡ってみても一定の感覚で記憶が途切れている。
まるで記憶という洋紙をカミキリムシが好き勝手に喰いちぎったかのように記憶が曖昧になっている。
落下した衝撃で記憶が吹き飛んだのか?
仰向けの状態から身を起こしてみる。
寝転がっていたのは石造りの通路の途中だった。周囲を見回すと左右は綺麗に形作られた石を組み上げて造った壁に囲まれている。床も同様だけど、面が荒いせいか凹凸があり、無闇に行動するとコケてしまうだろう。天井も石造りだが、所々に鉄が使われている。鉄は新品に近く、最近組み込んだことが解る。多分、魔物が作った落とし穴の罠の果てだろう。
このように解るのも、灯りがあるお陰だ。
身長以上の位置に松明がチリチリと燃えており、石造りの通路を仄かに照らしている。
何はともあれ立たなくちゃいけない。
ゆっくりとザラザラする床に手を当てて起き上がる。
身体に痛みはあるけど、我慢すれば何とかなる程度の痛みだ。行動に支障はない。
一歩一歩踏みしめる様に石造りの通路を進む。
どっちが「進む」でどっちが「退く」も解らない。
唯、自身が倒れていた方向と感で進む道を決めただけだ。僕にそんな高等な方角決定技能は無い。
だけど、何となく呼ばれてる気がするんだ。
「こっちに来い」って誰かに手招きされてる気がして仕方がない。
それだけの理由で進んでいる。
最初は緊張して周囲を確認しながら歩いていた。
だけど、何分、何十分と歩いても変わらない風景に嫌気が差して、注意力が散漫になって来た。
「どうせ、この先何も起きないだろう」
そんな気が沸々と心を支配し始めた時、通路が途切れた。
闇が広がる空間に出た。
何だ?
本当に何も見えない。
鼻を突くのは肉の焼け焦げ炭化した様な臭いだ。
思わず鼻を摘む。
聞こえて来たのは、ザワザワという何かが蠢く様な音だった。
嫌な予感がする。
逃げた方がいい。
踵を返そうとした時、今まで通って来た通路が石の壁で遮断された。
退路が断たれた! これは罠だ!
「召喚士殿! ようこそ、我が部屋へ!」
耳を塞ぎたくなるような大声が反響しながら響き渡る。
ここまで響くとなると相当大きな部屋だろう。
耳を塞いで、発狂しない様に瞼を閉じながら歯を食いしばる。
「おぉっと。紳士な吾輩とした事が、召喚士殿を困らせたみたいだ。失敬失敬。吾輩は強欲の騎士様に仕えし誇り高き天の使い! 『三天使』の一人、アゼザルよ!」
「天の使い――。僕は今、記憶が曖昧なんです。僕は今、ここに居る目的すら覚えていません。教えて下さい! 僕は何者ですか!? 一体僕に何の用だっていうんですか!?」
叫んだ瞬間、漆黒の部屋の中に炎が灯る。
まるで、暁の如き炎は部屋全体を照らし出し、今まで解らなかった全体像を映し出す。
森だ。
広大な石造りの空間の中に青々と茂った森がある。
だけど、その森の中で何かが蠢いている。
一瞬だけ、その光りが見えた。
次の瞬間、光は爆音と化す。
蛇だ! 巨大な蛇が炎を吐いている。
相手は装備をした人間だ。
肉の焼け焦げ炭化した様な臭いは、人間の身体が焼かれる臭いで、蠢いていたのは大蛇だったのか!
遠くで呆けていると、天から何かが迫る気配がした。
咄嗟の判断で右に転がると、立っていた場所に炎の矢が突き刺さる。
天を仰げば、そこには漆黒の雄大な一対の羽根を持った紳士服姿の男性が宙に浮いていた。歳は二十歳後半で、老け顔。黒髪をオールバックにし、眼帯をした右目が気になる。
「ほう、ほうほう! 感はありそうですな! 戦闘では感が命! その最低限の才能はありそうです!」
「あのその、僕が何をしたっていうんですか!? 僕は今、記憶が曖昧で」
「丁度いいですね! うんうん、丁度いい! 召喚士殿の記憶が戻る前に滅してしまえば我が主もお喜びになるに違いない!」
「僕は――死ぬことだけは出来ないと心が叫んでる。だから、死ぬ訳にはいかないんだ。ここは大人しく見逃して欲しいんだけど――」
「何とも恥知らずな言葉を吐く男ですね! 召喚士殿の言葉とは思えない! 我が主に歯向かいし者とは思えません! ここは吾輩の部屋『武の部屋』です! 吾輩を倒さない限り次の部屋へは進めませんよ!」
何て仕組みだ!
僕は自身が召喚士とは解っているけど、その大半の記憶が無い。
まず、仲間が居ない時点で駄目だと思う。僕は戦闘に自信が全くない!
オロオロしていると、アゼザルが叫ぶ。
「行きなさい、下僕共! 召喚士殿も冒険者と共にお出迎えするのです!」
最悪の展開が始まる合図だった。