女騎士の真実(改)
改稿→12/02
ユンが騎士にさらわれた。
思いの外、その現実は僕にとってはショックだった。
今までの短い旅の中でこんな情けない僕を慕ってくれていたのはユンだけだった。
そのユンをさらって騎士は何をするつもりだろう?
ユンは幻獣ユニコーンだ。
確か、ユニコーンの角にはあらゆる病を治し、不老不死にする力があると伝えられていたような気がする。
幻獣は唯でさえ貴重な存在だ。
今はよく解らない理由で人間の姿をしているけど、ユンにもしもの事があったら僕は耐えられない!
助けに行かなくちゃ!
でも、今の僕に出来る事は少ない。
僕の感情が高まった時、脳裏に響いた女性の声は誰だったのか?
今はそんな事はどうだっていい。
女性の声は僕に二つの力を教えてくれた。
一つはユンに使った本能の解放術式「解放」だ。
この術式は連続して使う訳にはいかない。
本能の解放というと「力が強くなっていいじゃないか?」と思うかもしれない。
だけど、この術式は僕は何も失わない。
失うのは対象の幻獣なんだ。
本能を解放した幻獣は普段より荒々しくなるし、力が強くなる。だけど、その状態を長時間維持すると、流石の幻獣でも肉体の崩壊が始まる。幻獣だって無敵じゃないんだ。唯、人間の存在する生態系の外に存在する特殊な霊体なんだ。屈強な存在もいるけど、そうでない霊体も存在する。ユンがそうだ。非戦闘系で回復が得意な幻獣だ。無理をさせれば霊体が消滅してしまう。
「解放」はそこまで危険な術でもあるんだ。
そして、もう一つ知った術式がある。
それは僕だからこそ出来る術なんだ。
召喚士の中で、長は一術式だけ他人に真似出来ない術式を持っていた。それはその者が古の民の中でも運命を握る勇者である証だったそうだ。
ある長は炎を操る術式だった。別の長は無から輝く武器を生成する術式だった。
そんな言い伝えを僕は頭の中で聞いたんだ。
それが一番簡単に聞こえたのが――。
『あなたは力を欲しますか?』
この言葉だった。
そして、僕の力は最低だった。
こんな力を得て何になるというんだ?
確かに僕は無力な自分自身を心底呪った。
だから、本気で力が欲しいと思った。うん、その心に嘘、偽りは無い。
でも、蓋を開けたら神様はこんな力を僕に与えて嘲笑っているように思えて仕方がなかった。
「使えるものなら使ってみろ。使えば貴様は後戻り出来ないからな」
神様はそう言っているように思う。
でも、ユンを助けたい。
だから――。だから、僕は!!
振り向くとガーネットさんの遺体がひっそりと横になっている。
僕だって不本意だ。
でも、この方法しかないんだ!
ガーネットさん、安らかに眠る所を邪魔してゴメンなさい。こんな弱い僕に力を貸して下さい!!
右掌をガーネットさんの遺体に突き出し、瞼を閉じては即席で覚えた体内魔力を臍の丹田に集め身体中に循環させる。魔力は丹田に一番溜まりやすく、そこから身体中に運ぶことが出来る。魔力の血管とでも言えばいい。丹田が心臓で、気持ちが鼓動させる仕組みだ。
そして、一気に練り上がった想いで、身体の隅々に魔力を循環させれたと解った時に、呪文が合図となる。
「再生と服従の輪廻を回れ! 再転生!!」
言葉を放つと同時に、右掌から紫色の気流が発生してガーネットさんの遺体を包む。気流は優しく横たわっていたガーネットさんを包み込み、ゆっくりと持ち上げると金髪を優しく撫でる。傷口から流れていた鮮血が徐々に止血されていく。そして、身体中の傷口が閉じられた時、ガーネットさんが瞼をゆっくり開く。
「――」
「おはようございます。ガーネットさん」
「おはようございます。ご主人様」
解ってはいても、頭を金槌で思い切りガツンッと殴られたような感覚だ。
この新術式「再転生」は傷つき倒れた幻獣に自身の魔力を与え配下に加え直す下僕化の術だ。
つまり、ガーネットさんは――、幻獣だったんだ。
本人が自分自身を人間と定義していた程、記憶が薄れていたのだろう。でも、召喚士としての知識を多少得た僕には解ってしまった。ガーネットさんが近づいたり接触した時の甲の紋章の疼きは幻獣が近くに居た知らせだった。そして、ガーネットさんが死んで数時間が経過する時、初めて幻獣としての本性が現れる筈だった。
だけど、僕がガーネットさんを下僕化した。
これでガーネットさんは僕の言う事を聞くしかない。
そして、ガーネットさんの真名は――。
「君の力が必要なんだ。力を貸して欲しい。今後共宜しく。ガーネットさん、いや、瞑界神ギルガメシュ」
「ご主人様の意のままに――」
ガーネットさんは大剣を僕に差し出しながら片膝を着いた。
そう、ガーネットさんは武王でもあり、瞑界神でもあるギルガメシュなんだ。
女性であれだけ大剣を振り回せるのも本性がギルガメシュなら頷ける。
しかし、どうやらギルガメシュとしての霊体よりも何か人間としての存在感が強いみたいだ。
「ギルガメシュ、君には人間としての本能が存在するみたいだ。君は何か僕に隠し事をしていないかい?」
「申し訳ありません。ご主人様に隠し事はいけません。私は幻獣ギルガメシュの父と人間の女のハーフです」
「そうか……。だから、ソードダンサーという職にも就けたし、血液という人間的特徴が存在するんだね」
「はい。ですが、再転生を受けて幻獣としての特性が人間としての特性を上回ったようです。今後の戦闘に支障はないか……、と」
「あのさ、僕が一番悪いんだけど、本来の喋り方に戻せない? まるで別人だよ」
「生前の記憶はありません。私はギルガメシュ。ご主人様の下僕です」
どうやら僕の罪は消えそうにない。
でも、これでユンを助けに行ける。
ユン、待っていて!
必ず、助け出すからね!