ホントの気持ち(改)
更新遅れて申し訳ありません。
改稿→12/02
「ぐぅぅぅぅぅ!!」
騎士の下から上への斬り上げで、ガーネットさんが後方に大きく吹き飛ばされる。
仰向けに倒れたガーネットさんの白銀の甲冑はボロボロで、所々、皮膚が露出していた。
身体中斬り傷だらけで鮮血に染まった彼女の白い皮膚はこの世で最も貴き傷だった。
僕達を護る為にこんなに酷い傷を負ってしまって――。
耐えられないよ!!
「ガーネットさん! もういいですよ! 止めて下さい! 僕です! 召喚士は僕なんです! 名乗り出なかった僕への罰ならもう十分ですから!」
僕の言葉を聞いていたのはガーネットさんだけではないのを失念していた。
騎士が鮮血の着いた漆黒の剣を一振りし、再度、興味深々に僕に眼を向ける。
「やはり戯言だったか。貴様が真なる召喚士だな。我と戦え! その血をこの剣に啜らせ、我は更なる高みに登る! 我が欲の糧となれ!」
漆黒の巨馬が蹄で大地を蹴る。
轟音がこだまし、周囲の魔物すら畏怖する。
騎士はガーネットさんから標的を僕に切り替えて、一気に肉薄して来る。
駄目だ!
恐怖がまだ完全に取れてない! 足が動かない!
死んだ!!
そう思った時、横から瀕死のガーネットさんが巨馬に飛びかかる。
大剣を巨馬の首に突き刺しては鬼神の如き表情でしがみつく。
「私の仲間に手出しはさせん! 殺させない――。誰一人殺させはしないぞ!」
巨馬が悲鳴をあげて苦しむ。
身をくねって、必死にガーネットさんを振り払おうとするが、彼女が離れることは無かった。
「執念」
彼女からその言葉が見えた瞬間だった。
「Hiiiiiiiiiiiii!!」
耳を劈くような悲鳴をあげて巨馬は地に伏した。
ガーネットさんも巨馬と一緒に地に叩き付けられる。
「ガーネットさん! 無事ですか!?」
僕の声にガーネットさんが大剣を杖代わりにして立ち上がる。
「ハァ、ハァ。無事な訳が無いだろう。だが、一匹は仕留めた」
凄い!
ガーネットさんは本当に凄い剣士だ!
そう思った時、悪寒がした。
ガーネットさんの背後に巨影が見えた。
次の瞬間、ガーネットさんの腹から漆黒の剣が生えた。
「ガハァ!!」
「まさか、我が馬が屠られるとは――。我が地に降ろされたのは何千年ぶりぞ? 感覚すら忘れかけていたわ。この女騎士には褒美をやらねばな」
騎士はそう言ってガーネットさんから漆黒の剣を引き抜く。
そして、倒れるガーネットさんを僕の方に蹴り飛ばして来た。
僕の足にぶつかってガーネットさんは止まる。
「が、ガーネットさぁぁぁぁぁぁん!!」
しゃがんで彼女に触れた時、「冷たい」と思った。
「ゆ、ユン! 何とかガーネットさんの傷を治せないかな!?」
振り向いてしがみついているユンに問うけど、ユンはそれ所じゃなかった。
「ご主人、怖いよぉ。こ、怖い、七死官の一人……。死にたくないよぉ。ボクはまだ死にたくないよぉ――」
ユンの気持ちが痛いほど解るから、僕は何も言えなかった。
そう言えば天使が言っていた。
ユンは幻獣の中でも一番弱いんだ。
だから、弱い僕と通じる所がある。
ガーネットさんはそんな弱い僕達を護る為に……。
「トーヤ――」
息も絶え絶えの小さい声でガーネットさんが喋る。
「な、何ですか?」
「召喚士はお前だ。戦い方はお前次第。可能性は――、お前の中に……」
それだけ言うとガーネットさんは吐血して、動かなくなった。
仲間と呼べる人の死。
短い期間だったけど、ユンと馬鹿して、巻き込まれて、笑って――。
そんな人の死。
涙が止まらない。
溢れて仕方がない。
動かなくなったガーネットさんの手から大剣を放して、胸の前で握らせ、瞼を閉じさせる。
解った事がある。
僕が抱いていた感情は「憧れ」という感情だ。
今まで護って貰えなかった僕を護ってくれた初めての人。僕にとっての英雄。それが、ガーネットさんだったんだ。
奪ったな?
僕にとっての英雄を奪ったな?
今まで奪われ続けて、更に僕から奪ったな?
『あなたは力を欲しますか?』
うん、欲するよ。だって――、
「今以上、僕から大切な存在を奪わせてなるものかぁぁぁぁぁぁ!!」
『ならば、唱えなさい。あなたの言葉――』
「我に従いし同志よ! その内なる力を解き放て! 解放!」
解る。
解るよ。
これは幻獣の本来の力を解放する呪文。
今、僕と契約している幻獣はユンだけ。
ユンは戦闘に関しては臆病で、甘えん坊の性格だ。
だが、どう猛なユニコーンが正体。
この呪文でユンの野生を全面に押し出す!
伝わって欲しい! 僕の想い! 僕の願い!
僕の背後で怯えて泣いているだけだったユンが呟く。
「ご主人、年増が死んで悲しい?」
「うん」
「僕は悲しくなんてないよ」
「うん」
「悲しくなんて……、ないんだからね」
「解ってる」
「でも、ご主人の気持ちが伝わって来て、ボクは今、無性にムカムカしてるよ」
「そう」
「ボクは年増ともっと話したかった! それを駄目にして、ご主人を泣かした奴をボクは許さない!」
「行け! ユン!」
ユンが大地を蹴る。
その力は巨馬の数倍、いやそれ以上だ。
疾風の如きその速度は、常人では視界に捉えることすら不可能だ。
ユンの本来の姿は四脚の馬。
速度でかく乱して攻めるのは十八番だ。
だが、騎士は余裕な態度で剣を構える。
「ほう! これが召喚士と幻獣の連携という奴か!? 面白い! 面白いぞ! 我が血がたぎる! 幻獣の女、勝負!」
「君が年増を殺して、ご主人を泣かしたんだ! 謝れ!」
ユンの正拳突きが騎士を捉える。
銅鑼を叩いた様な轟音が響く。
防御が主体の騎士でも、ユンの素早さの前では防御をする動作を取る暇が無い。
小柄なユンが巨体の騎士の懐に入り込んで連撃を叩き込む。
甲冑に拳という非現実的組み合わせでも、幻獣ならそれを可能にさせる。
ユンの一撃で騎士の甲冑に窪みが出来る。連撃ともなれば甲冑が破砕される寸前までボロボロになる。
これには騎士も予想外の反応を見せる。
騎士はユンに後方に蹴り飛ばされ、大地を転がる。
一方的な暴力に騎士は「あり得ん――」と声をあげる。
「トドメだ! 行け、ユン!」
「うん! コイツで逝っちゃえ!」
ユンが駆けだそうとした時、騎士が動いた。
「ここまで――。ここまで差を見せつけるか! 貴様等は危険よ! だが、貴様等は恰好の研究材料だ! ふっ、フハハハハ!」
「逝っちゃえぇぇぇぇぇぇ!」
ユンが渾身の拳を突き出す。
だけど、何だろう?
この不安は?
騎士が避ける素振りを見せない。
漆黒の剣を降ろしてまるで身体を張って受け止めるような態勢だ。
……!
もしかしたら!
「ユン! 駄目だ!」
「えっ!?」
「遅い!」
ユンの拳が騎士の甲冑を貫く。
だが、騎士は絶命せずにユンを抱きしめては拘束する。
「何、君はどういうつもり!?」
「フフ。貴様を我が城に招待しよう。退くぞ!!」
「ユン! ユゥゥゥン!!」
騎士は大きく跳躍して、森の奥に消えて行く。
周囲の魔物達も霧が消えるが如く、退いて行った。
残されたのは僕とガーネットさんの死体だけだった。