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その者たちの存在は(改)

改稿→12/02

ユンの手を引いて取り合えず森を抜けた。

ナーブ村から外の世界なんて全く知らない初めての体験になる。

森を抜ける頃には明時だった。

森を抜けた時、ユンが無邪気に声をかけてきた。

「ねぇ、ご主人! こっちの方向から美味しそうな匂いがするよ!」

「匂い? そんなもの全くしないけど……」

「ボクに任せてよ! その代わり、ご主人がボクに食べさせてね!」

 ユンはがっしり僕の右手を恋人繋ぎすると、駆け出した。

 その速度は人間離れし過ぎていた。

 僕の身体は旗の様にユンに振り回される。

 こんな目に遭えば、本当にユンは幻獣なんだという意識が無理矢理にでも目覚めてくる。

 ユンが何故、幻獣の姿から人の姿をしているのか? そして、僕は今後どうしたらいいのか? そんな事を考える時間を神様は与えてはくれ無さそうだ。

                     ○

 命を賭して辿り着いたのは大きな街だった。朝だというのに多くの人が行き来していて、商売をしている。煉瓦(れんが)の家の窓からは煙があがり、生活感が漂っている。大通りには市場があり、賑やかに売り買いが行われている。勿論、食べ物も――だ。

 ユンが嗅ぎ取ったのは大通りで売買されている食べ物の匂いだ。

 その証拠に、ユンはさっきから横でだらしなく口から涎を出しては、市場に陳列された食べ物を見てうっとりしている。

 買ってあげたいけど、僕、無一文だしなぁ。

 ユンが可愛らしい尻尾をブンブン振りながら、僕の手を引きながら話す。

「ご主人、ご主人! ここまで案内したからご褒美欲しいな! 欲しいな!」

「うん。僕もユンにご褒美をあげたい気分だよ」

「やった~! じゃあ、バジリスクの香味焼きと、ゴブリンの肉とキノコのアヒージョ、あと森果実のパエリア、それとね、それとね!」

「全部見るだけ!」

「ガーン!! 食べちゃ駄目なの!? 何で!!」

「僕がお金を持って無いから。だから、まずは仕事を探そう。この街に住むにしても何処か違う街に行くにしてもお金が必要だよ」

「うぅ……。食べ物~。食べたいよぉ。グスン」

 ユンの頭を撫でながら「よしよし」と言い聞かせる。

 本当に悪いと思うし、無一文の自分を呪う。

 早くお金を稼いでユンに食べ物を食べさせてあげなきゃ。

 そう考えると歩く足にも力が入るってもんだ。

 僕は古の民で召喚士。

 なら、出来る事がある筈だ。

 そう思って門戸を叩いたのは冒険者ギルド。

 何度か冒険者がフラリとナーブ村を訪れては魔物を狩ってくれた。その時、話してくれた武勇伝が頭の隅にこびりついていた。

 僕には関係の無い世界だと思っていたけど、こういう時に関係が出来るとは思わなかった。

 冒険者ギルドに入ると屈強な冒険者が数多く居るかと思えば、そこはもぬけの殻だった。

 受付嬢が僕とユンを交互に見ると慌てて近づいて来た。

「も、もしかして冒険者志望の方ですか!?」

「あのその、良く現状を理解していませんが、冒険者として働きに来ました」

「それを冒険者志望と言うのです! 良く来てくれました! 半裸のカップル様!」

 えらい仇名が着いちゃった。

 確かに僕は上半身裸で、ユンはブカブカ服一丁だからそうなるか。

 ユンは何故か顔を赤めて「えへへ~」と後ろ頭を掻いていた。

「まずは服を貸し出しましょうか。いくら仲が良いからと言って事の後に冒険者登録に来ては駄目ですよ。ご盛んな時期で、可愛い彼女持ちなら我慢出来ないのは解ります。ですが、冒険者は体力仕事。事の後では体力が落ちます。ヘロヘロの冒険者では格好がつきません」

 この人は何を言ってるの?

 何だか凄い誤解を受けてる感じがするんだけど。

 誤解を解く暇も無く、受付嬢は僕には「初心冒険者の服」一式を貸し出してくれた。ユンには「町娘のロープ」を貸し出してくれた。尻尾が見えなくなったホッとしたよ。

 服を着て改めて受付嬢の窓口に座っては話しをする。

 受付嬢が真剣な表情で話す。

「ここは『再会の街』。一見、平和に見えますが、実は近くの廃城に魔王軍の幹部が住み着いてしまいまして……。ギルドに所属していた冒険者が次々と名乗りを上げては討伐に向かってくれたのですが、誰一人帰って来ません。逆に、魔物が街の周囲に出現し始め、治安の悪化が進み、街の住人が困っています」

「賑やかな街なのにそんな裏があるとは……。僕は全く解りませんでした。良く人が隠れたり逃げたりしませんね」

「隠れるにしても、結局は街の中ですからね。魔物の恐怖からは解放されません。逃げる事も出来ませんから、ある物資で賑やかに過ごし、恐怖心を隠しているのです」

「ご主人! ボク知ってるよ! そういうのを『空元気(からげんき)』って言うんでしょ!?」

 とりあえず横に座るユンの頭を撫でてはこの街の状況を把握する。

 解ってしまうんだ。

「拘束」の辛さと「空元気」の虚しさをね。

僕がそうだったから。

殴られ、犯されしながらも翌朝には笑顔で居なければまた恐怖に晒される。

この再会の街の人々は死ぬ前の僕と同じ状況なんだ。

放ってなんておけないよ。

「あのその、僕も冒険者として魔王軍と戦えませんか? 僕にも出来ることがあると思うんです」

「そう言って頂けると思っていました! では、冒険者協会に登録をしましょうか! こちらにどうぞ!」

 受付嬢に流されて奥に進むと、薄暗い個室に大きな水晶が置いてあった。その上には太陽の光を収束するようにレンズが設置されており、下にはカードが置いてあった。

「こちらが『投影の水晶』です! 触って頂けるだけで、水晶が太陽の光を集めてカードにあなたの職や今の能力を記してくれます! ささ、騙されたと思って水晶に触って下さい!」

 本当かなぁ?

 僕が水晶に手を触れる。

 すると、太陽の光を受けた水晶が光り輝き、下に設置された収束装置に光を収束させ、カードに熱で文字を記載して行く。その速度は速く、僕が息を呑んでる間に終わってしまった。

 受付嬢が書かれたカードを取り上げて読み上げようとして、息を呑む。

 ん?

 何か変な事でも書かれてたのかな?

「あのその、僕、何か変なのですか?」

「変ってもんじゃありませんよ! あなたは基礎ジョブどころか、上位ジョブにも特殊ジョブにも分類されていません! 新ジョブの発見ですよ! 世紀の大発見です!」

 僕は珍獣じゃないよ?

「それに身体能力は普通、いえ、それ以下の部分もありますが、『精神(メンタル)』と『魔力』が測定不能!? これはもう魔法使い系職になるしかありません! あなたは何者ですか!?」

 僕は召喚士だから魔法使い系と言えばそうなんだけど、そんなに凄いの?

「これは救世主が現れましたね! トーヤさん、是非、魔王軍を追い払って下さい!」

 受付嬢が僕に一礼しながらカードを差し出してくる。

 受け取ったカードに書かれた内容を読みたいけど、僕は読み書きを習ってないから読めないんだ。残念だなぁ。

 次にユンがどうしても僕と同じことをしたいと言うので、冒険者協会に登録することにした。

 同じように水晶に触れる。

 光がカードに文字を書く。

 受付嬢がカードを見るが、奇声をあげる。

「彼女さんもどのクラスにも振り分けられていません!! こんな世紀の瞬間に立ちあえるなんてわたしは何て幸運なんでしょうか!!」

 だって、ユンは幻獣だもん。

ジョブも何もあったもんじゃないと思うけど。

「基礎ステータスが測定不能!? 町娘がどんな訓練してるのですか!? ハッ! 夜の訓練がそんなにもステータス向上に役に立つと!?」

誤解が酷い誤解を生んだ!!

「違いますよ。僕とユンはそんな爛れた関係じゃあ」


「うん!! ボクは昨日、ご主人に抱き付いて寝たよ! 抱き合ったら暑いんだよ!」


「抱き合ったら熱いと!? それはアレがですか!?」

 うん、駄目だ。

 ユンは純粋に言ってるだけと思うけど、受付嬢は誤解からもう、僕達を磁石だと思ってる。

 その後、しばらく受付嬢は頬を赤く染めて、僕達を真っ直ぐ見てくれなかった。

 誤解を招くとこんなにも気不味いなんて思わなかったよ。


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