小さな勇者
「召喚士、我、マハザエルを超えれるか!? その考えの源は、その傲慢さは何処から来る!?」
「傲慢だと思うならそうだよ! 僕は自分自身の行動を――、心を信じたい! だから、君達みたいに人を困らせる、不幸にする存在を僕は否定する!」
「生意気を!」
次の部屋で待っていたのは最後の三天使の一人、マハザエル。
一対の雄大な翼は三天使共通だけど、コイツは幻獣に近い存在だった。鷹の上半身にライオンの下半身が特徴的だった。俗に言う「グリフォン」という存在だ。こんな魔獣まで配下に加えるなんて――。
今、僕達が居るのは廃城のエントランスだ。
そう、地上に戻って来たんだ。
でも、そこで待ち受けていたのがマハザエルだった。
エントランスを「資格の部屋」と言って、マハザエルを打ち破らねば強欲の騎士には会えないという仕組みらしい。
そんなマハザエルに挑んだのは僕だ。
「もう、誰かの背中を見るだけの存在は嫌だ!」
「僕が皆を護れる存在になるんだ!」
そう強く想い、唱えた竜帝の名は功を奏した。
発動した術式は僕に無比なる力を与えてくれる。
広大なエントランスを舞台にマハザエルと空中戦を繰り広げる。
風を切って相当の速度を出しながら一直線にマハザエルが突っ込んで来る。その速度は周囲の芸術品をかすめるだけで粉々に粉砕していく。こんな凶悪な体当たり、初めて見た。真正面から相手にするのは危険過ぎる。如何に竜帝の身体をしていても唯じゃ済まないぞ!
幸いマハザエル行動は一直線だ。回避は難しくない筈。
猛スピードで突進してくるマハザエルを中心に、右側に半弧を描くように瞬時に回避運動を取る。
だけど、空中戦は相手の方が一枚上手の様だ。
回避した瞬間、マハザエルの翼が一直線に伸びた。身体を無理な態勢にしても巨体が空気を受け止め浮力に変えて安定性を出しているんだろう。そんな野生の特徴を活かし、L字を描く様に急カーブして突貫してくる。
完全に回避したと思ったのに!
完全に意表を突かれた。
そう気付いた時は手遅れだった。
高速の体当たりを受けて、身体が軽石を投げた様に簡単に弾かれる。
悲鳴をあげる間も無く、気付けば床に墜落していた。
頭を振って朦朧とする頭の中をハッキリさせる。
竜帝の力が弱い訳じゃない。
僕の扱い方が悪いんだ。
立ち上がり再度、マハザエルと対峙する。
怯むな、恐れるな。奴を倒さないと次が無いんだ!
マハザエルが嘴をカチカチ鳴らしながら、感傷にひたる様に語る。
「今宵、月は丸い。我が力も最大限に発揮されよう。召喚士、貴様はどうだ? 力を最大限に発揮出来るか? 死して後悔は無いか? 愛おしい女は抱いたか?」
マハザエルの問いかけにチラリとエントランスを見る。
そこには心配そうに僕を見上げる美少女が三人居た。
「僕は今、死ぬと後悔がある。無い何てとてもじゃないけど言い切れない。だから……、だからぁ! 全力で生きる! 君を倒す!」
「ならば、我が力を一瞬に込めよう! 来い、召喚士! 刹那の瞬間で優劣を決めよう!」
マハザエルが宙で右前足をかき始める。
同時にそよ風がエントランス内に吹き始める。
そよ風が徐々に激しくなっていく。そして、マハザエルが「CAAAAA!!」と吼えた時には突風となっていた。
突風に煽られ、身体が固定出来ずに振り回され始めた。
このままじゃ、戦闘どころか、負けてしまう!
そう思った時、心に思った言葉が口に出た。
「負けられない。まけられないんだぁぁぁぁ!!」
その時、竜帝が力を貸してくれた。
突風の中でも、風の影響を受けずに動ける様になった。
これで、やっと土俵に上がれた。
相手はこれまで以上に力を溜めている。
僕も力を溜めなければ、一瞬にしてやられる運命を辿るだろう。
だが、そんな結末は許されない。
僕は召喚士で古の民の転生体。勇者なんだ!
完璧じゃなくていい。唯、三人を護り通したいんだ! 三人にとっての勇者でありたいんだ!
「いざ!」「行よ!」
マハザエルの声と僕の声が重なった。
それは刹那の勝負の合図。
マハザエルが宙を駆ける。
こちらも一気に加速する。
視界がぼやける。
もう、僕とマハザエルの世界だ。
相手は得意の突撃攻撃。身体自体が武器そのものだ。
対してこちらは右拳を突き出しての捨て身の突貫。
勝負の決めては速度だ。
どちらがより加速出来るか?
そう考えた時、脳裏に自身の敗北した姿が浮かんだ。
加速しきったマハザエルの体当たりにやられ、四散する肉塊。それが僕だ。
そんなの嫌だ。怖い。
でも、僕が逃げたら、次に肉塊になるのはユンかもしれない。ガーネットさんかもしれない。リリーナさんかもしれない。
そんなのはもっと嫌だ!
何でもするから、もっと速く! 奴より少しでも速くなれ!
すると、また竜帝が応えてくれた。
丹田が熱くなり、魔力が無理矢理引き出されて行く感覚に見舞われる。
身体が怠いが、一気に加速する。
刹那の勝負。速度差はほぼ互角。
なら、何の差が勝負を左右するか?
それは気持ちの差だろう。
勝利への渇望。
その差が一瞬の勝敗を別つ!
「「!!」」
一瞬にして視界が暗転する。
次に、激しい衝撃。
「痛いッ!」と思う前に「死んだ」と思った。
真っ暗な空間に放り込まれ、視界はゼロ。手足の感覚も無い。
ゴメン、ユン。ガーネットさん。そして、リリーナさん。僕は勇者にはなれなかったみたいだ。
転生して最後は情けなく死んでしまうのか――。
格好悪いなぁ。
その時、完全に聞こえていなかった耳に声が聞こえて来た。
「ご主人! 目を開けてよ! ねぇねぇねぇ!!」
「コラ、ユン。ご主人様は疲れてられるのだ。少しは気を使うなどの行いが出来ぬのか? 貴様はそれでもご主人様の幻獣か!?」
「あら? 寝顔はあどけないなぁ。ちょっと意地悪したくなるじゃない。心臓が動いてるから大丈夫よ。フフフ、アタシって意外とSかもしれないわ」
視界がゆっくりと彩られていく。
そこに最初に飛び込んで来たのは、三者三様、個性的な微笑みを浮かべて僕を迎えてくれた美少女三人だった。
その光景を見た時、少し、ホンの少しだけ、自分の幸せさを実感することが出来た。
「「「お帰り、トーヤ」」」
「ただいま」
三人の勇者になれた気がした。
「召喚士、我、マハザエルを超えれるか!? その考えの源は、その傲慢さは何処から来る!?」
「傲慢だと思うならそうだよ! 僕は自分自身の行動を――、心を信じたい! だから、君達みたいに人を困らせる、不幸にする存在を僕は否定する!」
「生意気を!」
次の部屋で待っていたのは最後の三天使の一人、マハザエル。
一対の雄大な翼は三天使共通だけど、コイツは幻獣に近い存在だった。鷹の上半身にライオンの下半身が特徴的だった。俗に言う「グリフォン」という存在だ。こんな魔獣まで配下に加えるなんて――。
今、僕達が居るのは廃城のエントランスだ。
そう、地上に戻って来たんだ。
でも、そこで待ち受けていたのがマハザエルだった。
エントランスを「資格の部屋」と言って、マハザエルを打ち破らねば強欲の騎士には会えないという仕組みらしい。
そんなマハザエルに挑んだのは僕だ。
「もう、誰かの背中を見るだけの存在は嫌だ!」
「僕が皆を護れる存在になるんだ!」
そう強く想い、唱えた竜帝の名は功を奏した。
発動した術式は僕に無比なる力を与えてくれる。
広大なエントランスを舞台にマハザエルと空中戦を繰り広げる。
風を切って相当の速度を出しながら一直線にマハザエルが突っ込んで来る。その速度は周囲の芸術品をかすめるだけで粉々に粉砕していく。こんな凶悪な体当たり、初めて見た。真正面から相手にするのは危険過ぎる。如何に竜帝の身体をしていても唯じゃ済まないぞ!
幸いマハザエル行動は一直線だ。回避は難しくない筈。
猛スピードで突進してくるマハザエルを中心に、右側に半弧を描くように瞬時に回避運動を取る。
だけど、空中戦は相手の方が一枚上手の様だ。
回避した瞬間、マハザエルの翼が一直線に伸びた。身体を無理な態勢にしても巨体が空気を受け止め浮力に変えて安定性を出しているんだろう。そんな野生の特徴を活かし、L字を描く様に急カーブして突貫してくる。
完全に回避したと思ったのに!
完全に意表を突かれた。
そう気付いた時は手遅れだった。
高速の体当たりを受けて、身体が軽石を投げた様に簡単に弾かれる。
悲鳴をあげる間も無く、気付けば床に墜落していた。
頭を振って朦朧とする頭の中をハッキリさせる。
竜帝の力が弱い訳じゃない。
僕の扱い方が悪いんだ。
立ち上がり再度、マハザエルと対峙する。
怯むな、恐れるな。奴を倒さないと次が無いんだ!
マハザエルが嘴をカチカチ鳴らしながら、感傷にひたる様に語る。
「今宵、月は丸い。我が力も最大限に発揮されよう。召喚士、貴様はどうだ? 力を最大限に発揮出来るか? 死して後悔は無いか? 愛おしい女は抱いたか?」
マハザエルの問いかけにチラリとエントランスを見る。
そこには心配そうに僕を見上げる美少女が三人居た。
「僕は今、死ぬと後悔がある。無い何てとてもじゃないけど言い切れない。だから……、だからぁ! 全力で生きる! 君を倒す!」
「ならば、我が力を一瞬に込めよう! 来い、召喚士! 刹那の瞬間で優劣を決めよう!」
マハザエルが宙で右前足をかき始める。
同時にそよ風がエントランス内に吹き始める。
そよ風が徐々に激しくなっていく。そして、マハザエルが「CAAAAA!!」と吼えた時には突風となっていた。
突風に煽られ、身体が固定出来ずに振り回され始めた。
このままじゃ、戦闘どころか、負けてしまう!
そう思った時、心に思った言葉が口に出た。
「負けられない。まけられないんだぁぁぁぁ!!」
その時、竜帝が力を貸してくれた。
突風の中でも、風の影響を受けずに動ける様になった。
これで、やっと土俵に上がれた。
相手はこれまで以上に力を溜めている。
僕も力を溜めなければ、一瞬にしてやられる運命を辿るだろう。
だが、そんな結末は許されない。
僕は召喚士で古の民の転生体。勇者なんだ!
完璧じゃなくていい。唯、三人を護り通したいんだ! 三人にとっての勇者でありたいんだ!
「いざ!」「行よ!」
マハザエルの声と僕の声が重なった。
それは刹那の勝負の合図。
マハザエルが宙を駆ける。
こちらも一気に加速する。
視界がぼやける。
もう、僕とマハザエルの世界だ。
相手は得意の突撃攻撃。身体自体が武器そのものだ。
対してこちらは右拳を突き出しての捨て身の突貫。
勝負の決めては速度だ。
どちらがより加速出来るか?
そう考えた時、脳裏に自身の敗北した姿が浮かんだ。
加速しきったマハザエルの体当たりにやられ、四散する肉塊。それが僕だ。
そんなの嫌だ。怖い。
でも、僕が逃げたら、次に肉塊になるのはユンかもしれない。ガーネットさんかもしれない。リリーナさんかもしれない。
そんなのはもっと嫌だ!
何でもするから、もっと速く! 奴より少しでも速くなれ!
すると、また竜帝が応えてくれた。
丹田が熱くなり、魔力が無理矢理引き出されて行く感覚に見舞われる。
身体が怠いが、一気に加速する。
刹那の勝負。速度差はほぼ互角。
なら、何の差が勝負を左右するか?
それは気持ちの差だろう。
勝利への渇望。
その差が一瞬の勝敗を別つ!
「「!!」」
一瞬にして視界が暗転する。
次に、激しい衝撃。
「痛いッ!」と思う前に「死んだ」と思った。
真っ暗な空間に放り込まれ、視界はゼロ。手足の感覚も無い。
ゴメン、ユン。ガーネットさん。そして、リリーナさん。僕は勇者にはなれなかったみたいだ。
転生して最後は情けなく死んでしまうのか――。
格好悪いなぁ。
その時、完全に聞こえていなかった耳に声が聞こえて来た。
「ご主人! 目を開けてよ! ねぇねぇねぇ!!」
「コラ、ユン。ご主人様は疲れてられるのだ。少しは気を使うなどの行いが出来ぬのか? 貴様はそれでもご主人様の幻獣か!?」
「あら? 寝顔はあどけないなぁ。ちょっと意地悪したくなるじゃない。心臓が動いてるから大丈夫よ。フフフ、アタシって意外とSかもしれないわ」
視界がゆっくりと彩られていく。
そこに最初に飛び込んで来たのは、三者三様、個性的な微笑みを浮かべて僕を迎えてくれた美少女三人だった。
その光景を見た時、少し、ホンの少しだけ、自分の幸せさを実感することが出来た。
「「「お帰り、トーヤ」」」
「ただいま」
三人の勇者になれた気がした。




