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堕天使と竜帝(改)

改稿→12/02

 熱気を帯びた空気が肺を犯して来る。

 眩暈を覚えて足に力を入れるが、そこに踏ん張るべき大地は存在しない。

 三六〇度の視界は全方位敵に満ちている。

 心一つで飛び出した僕にはこの戦いは分が悪い。

 そんな事は百も承知だ。

 だけど、唯、指をくわえて見ているだけだなんて僕には無理だ!

 いかに「竜帝」の力を手に入れたとしても、初使用の僕には手に余るものらしい。

 力の制御が上手くいかない。

 アゼザルは僕が空中に飛び出した瞬間に、使い魔らしき巨大な鴉達を解き放った。

 その数はニ十匹はくだらない。

 一気に押し寄せる鴉の大群と、アゼザルの操る魔法で僕は一気に劣勢に立たされた。

 だけど、決して勝てない戦いじゃない。

 アゼザルの魔法は竜帝の力が完全に防いでくれている。

 機動性は僕が不慣れなせいで何度も墜落しているけど、もう少し――。もう少しすればコツを掴めそうなんだ!

 戦闘センスが無いのは知っている。

 奪われる存在が急に強くなる筈が無い。

 だけど、集中するんだ。

 覚悟を決めろ。

 譲れないものがあると知れ。

 こんな僕にだって大切な存在が出来たんだ!

 リリーナさん達、必ず何とかして見せるから!

 何度目かの空中でも姿勢制御に失敗し、鴉の群団に囲まれては地上に叩き付けられる。

 背中を激しい痛みが襲う。

 意識が一気に吹き飛びそうになる。

 歯を喰いしばっては叫びそうになる自身の声を我慢する。

 間髪を入れずにアゼザルが魔法を叩き込んで来る。

 どうやらアゼザルの得意魔法は炎系のようだ。

 身体中を地獄の火炎が包み込む。

 死にはしない。

 それは、竜帝の力が魔法系の力を何かで完全に遮断してくれてるからだろう。

 だけど、人間の身体は無事ではない。

 アゼザルは頭がいい。

 こっちに魔法の効果が薄いと既に知っている。

 だから規模(・・)の大きい炎系魔法を使用している。

 苦しい。

 相手はこっちが酸欠(・・)で死ぬのを待っている。

 何て恐ろしい奴なんだ。僕が魔法をサッパリ使えないのを知っているんだ。だから、遠距離の安全な位置から魔法を放つだけにしている。

 近距離は使い魔の鴉の大群が空を制し、大地は大蛇が制している。

 四方八方敵だらけだ。

 何とか――。

 何とかこの危機的状況を打破しなくては!

 業火の中から跳躍して、脱出する。

 こちらの飛翔時間は三十秒。飛翔というよりは滑空に近い。ある程度は方向、速度の操作は出来るけど、速度や小回りは本当に飛翔している堕天使のアゼザルには正直劣る。

 操作方法も感だけに頼って動かしている。

 このままでは負けが確定してしまう!

 打開策を考えるんだ!

 空中に勢い良く飛び出した瞬間、鴉の群団が四方八方から襲いかかって来る。

 拳を振り回したとしても、鴉には傷一つ与えられない。

 それなら効果的に逃げるべきだ。

 じゃあ、何処に?

 この部屋には森と明かり代わりである炎玉以外に存在しない。

 炎玉?

 そうか! その手があったか!

 大地に降り立ち、周囲を伺う。

 大蛇がこちらに一斉に襲い掛かって来る。

 躊躇している暇は無い。コイツは一種の賭けだ!

 大口を開けて噛み付きにかかって来る大蛇の頭を跳躍し、踏みつける。

 バネの代わりだ!

 大蛇の頭を全力で踏み潰しては竜帝の力を足に溜める。

「飛べぇぇぇぇぇぇ!」

 絶叫と同時に大蛇の頭が破砕される。

 ザクロの華が足元で咲くと同時に、大蛇は絶命する。

 勢い良く大跳躍した僕は鴉の群団を突破して、後方に控えるアゼザルに迫る。

 アゼザルは耽美な顔を邪悪そうに歪めると漆黒の羽根を羽ばたかせ、動く。

「召喚士殿、考えたな! 使い魔の群れを一気に突破して吾輩に照準を絞って一騎打ちと来たか! だが、天空は吾輩の支配下! 貴殿の滞空時間も三十秒と観察から判断出来ておる! 吾輩の力量と知能を甘く見たな!」

 そう叫ぶとアゼザルは両掌をこちらに向けて来た。

 業火が身体を包み、空中で燃え上がる。

 急激に失われて行く酸素に意識が朦朧とする。

 そのせいで姿勢維持が出来なくなり、アゼザルへの直進進路がずれた。

 クソッ!

 こんな事で諦めてたまるか!

 竜帝なんだろ!? 要るもの持って行っていい! この状況を打破する力を出してくれ!

 残る時間二十秒。

 身体の腹の部分、丹田が熱くなる。

 魔力が集中している部分から更に力が無理矢理引き出されて行く感覚に見舞われる。

 意識が朦朧とする。

 だが、竜帝が応えたんだ。

 劣勢を切り返す!!

 背後の三対の放熱板から魔力であろう、紫色の粒子放出され、一気に加速と姿勢制御される。

 残り十五秒。

 一気にアゼザルの懐に飛び込み、奴の身体にしがみつく。

 アゼザルが怒り狂っては至近距離で炎系魔法を連発する。

 いかに強固な竜帝の身体でも、人間部分に被害が及ぶ。

 首、関節と弱い部分が火傷を負った様だ。

「えぇい、下等な人間が!! 放せ、その汚い腕を放せ! 吾輩は堕天使だぞ! 貴様等なんぞ蛆虫、ダンゴ虫と同等だろう! 吾輩の高貴な身体にしがみつき何を考えている!?」

「それが君の本性だね! 人間を見下す邪悪な心! 武人でも天使でもない! 本当に醜い堕天使だ! 君は魔王軍の一尖兵だ!」

「ゴミが吾輩に対して口にする台詞か!」

「ゴミのプライドを舐めるな!」

 残り十秒。

 徐々に熱くなって来た。

 空間を魔力で湾曲させて炎の玉を天に上げているのだろう。

 そこに到達しつつある。

 息が苦しい。

 でも、アゼザルも同様の様だ。

 荒く息をしながら攻撃の勢いが落ちて来た。

「か、下等生物の癖に……。吾輩と心中するつもりか!!」

「君を倒せば、冒険者が解放される! 誰かが強欲の騎士を倒せばいい!」

「蚤ガァァァ!」

 残り五秒。

 人間の部分が持たなくなっている。

 竜帝の力でカバーしている部位は問題ないが、内部はそうはいかない。

 血液が沸騰したら? 肺に熱風が入ったら?

 考えただけで寒気がする。

「熱い熱い熱い熱い熱い熱い!! こうなれば、不本意だが、ゴミだけでも黄泉路に!」

 残り三秒。

 アゼザルを抱きかかえていた腕が凍りつく。

 残り二秒。

 渾身の魔力を頭に回して全力の頭突きをアゼザルの鳩尾に叩き込む。

 残り一秒。

 悶絶するアゼザルの腕を払って、炎の玉に向かって蹴り飛ばす。

 アゼザルの火玉への落下。

「こ、この、ムシケラァァァ!」

 落下しながらアゼザルの断末魔を聞く。

 炎の玉に蹴り込まれたアゼザルは確実に絶命した。

 その証拠に鴉が奇声をあげながら、消滅して行く。湾曲させて繋いだ空間が元に戻る。

 そして、青々と茂っていた森が消え、そこには死体の山が出現した。森を生み出す奇跡の代償となった人達だろう。

 僕はそこに落下して行く。

 力はもう殆ど無い。

 滞空する魔力も使い切った。

 どの程度上空に上がったのかは解らない。

でも、凄い事をしたのは事実だ。

このまま地面に落下したら、確実に死ぬ。

でも――。


「「グランドウッド!!」」


 大勢の声が地下の大部屋に響く。

 大地が隆起し僕が落下する地点の大地から樹が生え、急速に成長し、僕を受け止めてくれた。

 ひと息吐くと竜帝の力は四散して人間の姿に戻ってしまった。

 樹がゆっくりと大地に戻って行く。

 樹から降ろされた時、リリーナが先頭に立って迎えてくれた。

「本当にあなたって人は――。感謝してね。その凍った腕はアタシのフリーズよ。馬鹿力でしがみついた腕の解き方はそれしか無かったのよ。ちょっと腕を見せて」

 リリーナは僕の酷い凍傷になってしまった腕を優しく撫でると呪文を唱えた。

「この者を蝕む病を消せ、リバイド」

 すると、淡く優しい光が腕を包んだと思うと、徐々に凍傷を負って腕が回復し始めた。数秒したら元の腕に戻った。

「ハイ、これで大丈夫よ。もう、何て無茶苦茶な。でも、あなたにはここに生き残った冒険者全員を代表して言う必要があるわ。ありがとう。あなたの勇気と正義があってアタシ達は最後には戦えたわ。あなたこそアタシ達の本当の灯火なのよ」

 初めての瞬間だった。

 ナーブ村では存在すら疎まれ、主人にはゴミ扱いされていた僕が、今、冒険者に感謝されている。

 温かい。

 心の憎しみが溶けてしまいそうだ。

 僕は自分自身が知らず知らずのうちに涙を流しているのに気付いた。

 格好悪いじゃないか。

 でも、それくらい大事件だった。

 その日、僕には生まれて初めて多くの仲間が出来た。


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