第8話 これ何かわかりますか?
なんかなつかしい味がする!
病室に戻ってきた俺は、お婆さんからもらった甘露アメを口の中でコロコロ転がしながら、一緒にもらった金属のピンのようなものを手にとって眺めていた。
これなんだろう?
見たことのない形してるけど…。
俺はお昼ご飯を運んできてくれた看護師さんに、それとなく聞いてみた。
オレ「看護師さん、これ何かわかりますか?」
看護師「あら、それ骨折の治療で使うホネの固定具だわ。どうしたの?」
オレ「あ、さっき廊下でひろったんです。」
もちろんウソである。
お婆さんの骨折を直したお礼にもらったなどと言えるハズがない。
看護師「まーそう。じゃぁ、私が預かっておきますね。」
俺は看護師さんに言われるがままに、固定具を手渡した。
つまり、お婆さんの複雑骨折がホイミンで治癒したときに、不要になった固定具が自然に飛び出したというわけか。
それなら、もし銃で撃たれて弾丸が体に残ってしまったとしてもホイミンなら完全に直せるということだ。
めちゃめちゃ治療効果高いじゃん!
俺の「ホイミンで骨折は直せないのでは?」の検証は、予想に反したものであったが、俺はこの結果に満足していた。
ようするに、ホイミンでも直せるケガと直せないケガがあるってことだ。
おそらく俺の脚のマヒは、後者なのだろう。
しかし、俺は決して悲観していなかった。
なぜなら、これで次の目標がハッキリしたからだ。
DQの回復魔法には、ホイミンの上位魔法であるベホイミンというのがある。
ホイミンでダメなら、ベホイミンを覚えるまでLVを上げて試してみればいい。
それでもダメなら、さらに上位魔法のベホマンを覚えればいい。
パンがなければお菓子を食べればいいじゃない!的なあの思考だ!
いやまて、だいぶ違うな…。まーいい!
ようするに、俺の次の目標はベホイミンを覚えるまでひたすらLV上げすることなのである。
その日の夕方、俺は1人で中庭に来ていた。
もちろん、蚊を倒してLV上げすることが目的だ。
3時間ほど粘って経験値10から20まで上げた。
しかし、LVは上がらなかった。
前回は経験値10でLV2へ上がったので、次は経験値20でLV3に上がるかもと思っていた。
むー、LVアップのたびに必要経験値が増えていくパターンか…。
おれは、汗だくになった体をタオルで拭きながら病室へ戻ってきていた。
次のLVまでの必要経験値はいったいいくつなんだろう?
俺はオリジナルのDQの仕様を思い出していた。
たしか、教会でセーブしたときに次LVまでの必要経験値を教えてもらえたはずだ。
しかし、この現実世界で教会の神父様に聞いたとしても必要経験値を教えてもらえるとは思えない。
そうなると、やはり地道に経験値を稼いでいくしかないか…。
俺は、買ってきたレスカを一気に飲み干すと、その日は早めに寝てしまった。
次の日の早朝、俺はまた中庭に来ていた。
今日から、朝・昼・晩の空き時間全てを使ってガッツリ経験値を稼ぐつもりだ!
中庭の細い道を車椅子で移動していると、早朝にもかかわらず人がたくさんいることに気が付いた。
オレ「おはようございます。何かあったのですか?」
業者「ああ、おはようございます。」
「じつは中庭で蚊がたくさん発生しているみたいだから掃除して欲しいと病院から依頼がありまして、これから水場の入れ替えと殺虫剤散布を行います。」
「人間には無害な殺虫剤ですが、においがかなりきついと思いますので、申し訳ありませんが、しばらく病室へ戻っていてもらえますか?」
オレ(ぐは…。ここ掃除されちゃったらLV上げできないじゃん><)
俺は、しぶしぶ病室へ戻ってきた。
新しい狩り場が必要だ!
病院付近にある公園か植物園まで行ければ、蚊はたくさんいるはずだ。
俺は、採血にきた若い看護師にそれとなく聞いてみた。
オレ「この近くに草花のたくさんある公園か植物園ってありますか?」
若い看護師「そうですね、植物園はないけど公園なら徒歩で15分ぐらいのところにありますよ。」
「その公園の中央には大きなお花の時計があってとてもきれいなんですよ!」
オレ「ちょっと気晴らしに公園まで花見がてら散歩に行くとかって可能ですか?」
若い看護師「ええ、よほど重病患者でない限り、前日までに外出申請書を出して担当医の許可がもらえれば可能ですよ。」
よし、俺は足が動かないだけなので外出許可はたぶん大丈夫だろう…。
若い看護師「ただし、今使用されてる病院貸出の車椅子は、衛生上の問題で外出禁止のルールになってまして…。」
「外出される場合は、先に自分用の車椅子をご用意頂く必要があります。」
オレ「あ、そうなんですね…。」
車椅子か…買うと2~3万ぐらいするんだったかな?後でAmazonで探してみるか。
…などと考えていると、
若い看護師「花がお好きなんですか?」
オレ「はい。俺、草木や花を見るの大好きなんです。」
もちろんウソである。
もし「蚊を倒してLV上げしたい!」などと本当のことを言えば、外出許可そのものがアウトになりかねない。
彼女は花が好きなのだろう。俺の返答に、若い看護師はニッコリと微笑んでいた。
若い看護師「では、外出申請されたいときはいつでもナースコールしてくださいね!」
オレ「わかりました。ありがとうございました。」
若い看護師は、俺から採血した血瓶を手に、足早に病室の外へ立ち去って行った。
…と思ったら、すぐに戻ってきた。
若い看護師「そういえば…この病院の屋上に庭園があるそうです。」
オレ「え、そうなんですか?」
若い看護師「ええ、私は最近赴任したばかりでまだ行ったことないのですが、定期的に業者が手入れをしていて、とてもきれいな花がたくさん見れるそうです。」
オレ「なるほど!それなら近いうちに見に行ってみます。ありがとうございます。」
若い看護師はニッコリと微笑んで、今度は本当に病室から出て行った。
花がたくさん咲いてるなら、蚊以外の昆虫がいるかもしれない。
俺は久しぶりにワクワクしているのだった。
【次回予告】
[第1章 入院編] 第9話 庭園を見たいのかしら?




