第4話 レベルアップ?
翌日の夕方、俺は妹のさやかと一緒に病院の中庭へ来ていた。
さやかを連れてきたのは、ちょっと試したいことがあったからだ。
もちろん、蚊をやっつけて経験値を稼ぐことが目的なので、ノースリーブに短パンというとてもラフな格好だ。
この場所は入院して初めて来たが、病室の窓から見えてたよりも意外と広く感じる。
小学校の体育館ぐらいはあるだろうか?いやそれよりも少し広いかもしれない。
草むらはあまりないが、桜の木がたくさん植林されているようだ。
病院の出入り口からはコンクリートで舗装された散策用の細い道が敷かれているため、俺のような車椅子の患者でも気軽に散歩にくることができる。
ところどころに水場も見えるため、蚊がたくさん生息していそうだ。
本来であればウイルスを媒介する蚊が病院の中庭にたくさんいるのってまずいんじゃないか?とも思うが、今の俺にとっては格好の検証スポットなのである。
俺たちは、中庭中央の小さな噴水の近くにあるベンチまで移動した。
そして俺は、さやかをベンチの左端に座らせると、その左横へ並ぶように車椅子を寄せた。
妹「ねぇおにーちゃん、ここで何するつもり?」
オレ「ああ、ちょっと試したいことがあるんだよ」
妹「なんかここめちゃ暑いんですけど…!」
今日は日中35度を越える猛暑だったため、夕方になった今も汗ばむほど蒸し暑い。
オレ「ごめんごめん、あとで冷たいものおごるからちょっとだけつきあってくれよ!」
妹「まーいーけどさー」「で何すればいいの?」
オレ「もし、さやかの手足に蚊がとまったら、俺にその蚊を叩かせて欲しいんだ。」
妹「なにそれ?」
そう言うと、さやかは俺の目をジっとのぞきこんだ。
妹「んー、ま、いっか。おにーちゃんがそういう目してるときは何聞いても教えてくれないだろうし…。」
さすが俺の妹!理由が説明しにくい事情を即座に察してくれたようだ。
妹「あ、ほら!さっそく蚊がきたよ」
さやかが指差した左腿を見ると、蚊がとまっていた。
おれは、「パチン」といっぱつで蚊をつぶした。
しかし、戦闘ウインドウもサウンドも何も反応しなかった。
つまり、俺が襲われた状態で倒さないと経験値はもらえないということか…。
そうこうしてる間に、戦闘サウンドとともに
「蚊があらわれた!」
…の戦闘ウインドウがポップアップした。
「蚊の こうげき!」
「ゆうじは ちを すわれている」
オレ「さやか、今度はこの蚊を逃がさないように一発で仕留めてくれ!」
俺は右肩にとまった蚊を指差しながらそう言うやいなや、
「パチン!」
さやかはそっこうで蚊をたたいていた。
そして、戦闘ウインドウには、
「蚊は いなくなった。」
…と表示され、戦闘サウンドが鳴りやんだ。
なるほど、俺以外が敵を倒しても経験値はもらえないわけか…。
その後、いろいろと検証した中にも収穫はあった。
さやかにとまった蚊を殺さないように軽く叩いてもらってから俺の手のひらに乗せ変えてしばらく待つと戦闘ウインドウが表示され、それを俺がたおしても経験値はもらえることがわかった。
これはパワーレベリングしたくなったときに使えそうな手だ。
そして、今日俺が一番知りたかったことがついに確認できた。
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ゆうじは レベルが あがった。
ちからが 10ポイント あがった!
すばやさが 10ポイント あがった!
たいりょくが 10ポイント あがった!
かしこさが 1ポイント あがった!
うんのよさが 10ポイント あがった!
さいだいHPが 10ポイント あがった!
さいだいMPが 10ポイント あがった!
キアリーンの じゅもんを おぼえた。
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よっしゃ!レベルアップしたぞ!
…て、かしこさだけ1ポイントかーいw!
までも、新しい呪文も覚えたし良しとしておこう。
キアリーンは、たしか毒を消す呪文だったはずだ。
俺は、さっそくコマンドメニューのじゅもんからキアリーンを左手でタップしてみた。
「ターゲットに触れてください。」
予想通りホイミンと同じターゲットを指定するメッセージが表示された。
実は検証が手間取って蚊に食われてしまった場所が何か所もあったので、さっきからポリポリかいて赤くはれていた右腕前腕部にタップした左手でそっと触れてみた。
すると、左手の指全体が緑色の淡い光を放ちすぐに消えた。
ふむふむ、ホイミンは白い光だったのに対し、キアリーンは緑色の光なのか…。
ん?あれ?なんかかゆみが消えた?
このエフェクトも幻覚なわけだからプラシーボ効果ってやつかな?
妹「今、おにーちゃんの手、緑色に光らなかった?」
オレ「え?さやかにも見えたの?」
妹「うん、なにそれ?マジックのネタ?」
俺(この幻覚は俺にしか見えないはずなんだけどな…よし、ちょっとさやかにも試してみるか!)
オレ「あのさ、どこか蚊にくわれてかゆいとこある?」
妹「えっと、ここがいちばんかゆいかな!」
そう言ってさやかが指差した左腿を見ると、かなりおおきくプックリと赤くはれていた。
俺は、再びキアリーンをタップした左手でその患部に触れてみた。
妹「あっ!緑色に光ってる!すごーい!なにこれマジック?」
オレ「まだかゆい?」
妹「あれ?ぜんぜんかゆくなくなったかも?」
「あ!さっきまでプクって赤く腫れてたのも治ってる!すごーい!」
「わかった、おにーちゃんが今日見せたかったのこれでしょ?」
「マジックに見せかけて、かゆみどめの薬つけたんだよね?」
「あはは!すごいね!めっちゃ驚いちゃった!」
しかし、この事実に一番驚いていたのは、実は俺だ。
自分だけの幻覚だと思っていた魔法のエフェクトがさやかにも見え、しかも実際に効果があったのだ。
【次回予告】
[第1章 入院編] 第5話 これは転生?




