第16話 子供がまだ食ってる途中でしょうがァ~!?
あれから3日後のお昼時間、病院の昼食を断った俺は、モーニングコートに着替えていた。
オレ「俺、モーニングなんて着るの初めてなんですが…^^;」
これは鈴木さん(アヤナのボディガードの1人)が持ってきてくれたものだ。
鈴木「本日のパーティーには、大企業の幹部や著名人などの重要人物がたくさんいらっしゃいますので、
田中様にも最低限の正装に着替えてお越し頂きたいのです。」
「もちろんこれは、お嬢様のご意向でもございます。」
オレ「そ、そうですか…まーいいですけど…ハハ…。」
・・・
さて、なぜこんな状況になっているかというと…
先日の庭園自殺未遂事件(命名俺)の翌日、
アヤナが精密検査を行ったところ末期だったはずのガンが完治していたそうだ。
どうやら、青酸カリの悪影響を心配して何度もホイミンをかけたことが功を奏したらしい。
ホイミンの治癒力おそるべし!
…などと感心している場合ではない。
アヤナは日本屈指の超大企業 桃園グループの次期代表の有力候補だったらしく、
病気が回復したならすぐに盛大な快気祝いのパーティーを開いて、
元気な姿を各所へお披露目しておく必要があるらしい。
それでアヤナは急遽退院することになったのだ。
まだ若いのに御苦労なことである。
で、なぜかそのパーティーに俺も出席することになってしまったのだ。
正直、俺はパーティーとか人がたくさん集まる場所は苦手なので行きたくない。
だがアヤナからどうしても来てほしいと何度も懇願されて断れなかった。
俺はアヤナに魔法のことは絶対秘密にするよう念を押しておいたが、
担当医を含め、アヤナに近しかった者何名かには何かあるとあやしまれているそうだ。
このパーティーに俺が参加してアヤナの側近的な立場を見せておくことで
不穏な輩が不用意にちょっかいを出してこないように
抑止できるかもしれないという目的もあるようだ。
面倒なことに巻き込まれなければ良いのだが…。
オレ「鈴木さん、俺って平和主義なんですけど…」
俺がそう言いかけると、
鈴木「もう無理でしょうね…。」
…と、まるで俺の未来の平穏を全て否定するかのように言葉をかぶせてきた。
何か嫌な予感がする。
病院から送迎用のリムジンに乗せられてパーティー会場入口に到着した俺は、
鈴木さんと一緒に案内係に誘導されるまま門の中へ入った。
オレ「広ぉぉぉぉぉっ!」
門の入り口から正面奥にそびえ立つお城のような建物まで、
綺麗な模様の石畳の道がまっすぐ続いている。
そして、周囲には規則正しく刈り込まれた芝生が、
まるでゴルフ場のようにどこまでも広がっていた。
建物までの距離は、入口からざっと100mぐらいはあるだろうか…。
案内係の女「こちらは、桃園会長が個人で所有されている迎賓館でして、
特別なパーティーの開催のときだけ入館が可能となっております。」
オレ「そ、そうなんですか…^^;」
俺たちは、一番奥にあるお城のような建物の入り口に着くとすぐに中へ通された。
中に入った俺は、そのすばらしい光景に目を奪われた。
全体的に白を基調として柱や壁の細部まで彫刻の施されたバロック様式の建造物のようだ。
入口正面のホールには、ダイヤモンドをちりばめたような巨大なシャンデリアがあり、
天井には世界的に有名な大聖堂にも劣らないようなバロック絵画が一面に描かれていた。
これはもう宮殿といっても過言ではないだろう。
こんな豪華な宮殿を個人で所有してるとか、もうため息しか出てこない。
正面奥のパーティー会場へ入ると、すでに多くの招待客が閑談していた。
ふと周りを見渡すと、TVやネットで見たことのある有名な政治家や芸能人もいる。
鈴木「では、私はお嬢様の警護へ戻りますので、ごゆっくり…。」
オレ「あ、わざわざ迎えに来てくれてありがとうございました。」
鈴木さんは、俺に一礼すると、すぐに行ってしまった。
1人残された俺は、とてつもない場違い感の雰囲気にのまれて、すっかり委縮していた。
俺は近くにいたボーイさんからシャンパングラスを1つ受け取ると、
入口の一番近くにあった大きな丸テーブルへ車椅子を寄せた。
見ると、その丸テーブルには小学生低学年ぐらいの男の子と女の子2人が、
お皿に山盛りに積まれた豪華な食べ物にパクついていた。
男「おや、君も招かれたんだな。」
子供たちの横に座ってニコニコ微笑みながらワインを楽しんでいた白髪混じりの初老の男性が、
突然俺に声をかけてきた。
オレ「はい。えっと…どこかでお会いしましたっけ?」
男「おっと失礼、直接会うのはこれが初めてだったな!」
「私は、桃園病院 院長の齊藤だ。」
オレ「あ、院長先生でしたか。こんにちは…じゃなかった、初めまして!」
齊藤院長「まー堅苦しい挨拶はなしだ。ワハハハハハハハ!」
「実は孫たちは、皆の代表でアヤナさんへ花束を手渡す役を頼まれておってな…」
「私も今日はアヤナさんの1知人としてこの子たちと一緒にお招き頂いたというわけさ。」
オレ「そうなんですね…院長先生はアヤナさんと昔からお知り合いなのですか?」
齊藤院長「うむ。私はアヤナさんが子供の頃、ホームドクターをしておったのさ。」
オレ「へぇ~。アヤナさんてどんな子供だったんですか?」
齊藤院長「そうだな…」
「彼女は、子供の頃から聡明で容姿端麗な子だったな。」
「気の強いところもあるが、純粋でやさしい心の持ち主だったから
周囲からも愛されておったよ。」
「だから、彼女がすい臓ガンで倒れた時は、私も随分心を痛めたよ…。」
オレ「アヤナさんの病気ってすい臓ガンだったんですね…」
齊藤院長「ああ、すい臓ガンは症状が出た時は手遅れのことが多くてね。」
「彼女が今回完治したという奇跡を知った時、
本当に神様が直してくれたんじゃないかと思えるぐらい私も嬉しかったよ。」
オレ「うんうん。ですよねー!わかります!!」
(まー直したのは俺だけど!)
齊藤院長「ときに、最近うちの病院で面白い噂があってな…」
オレ「面白い噂?」
齊藤院長「うむ。」
「今回のアヤナさんのガンの腫瘍がたった一週間で消滅したこともだが…」
「救急車で運ばれてきた患者と一緒に事故にあった子供の怪我が跡形もなく消えていたとか…」
「複雑骨折で手術したお婆さんがたった一週間で傷跡もなく完治していたとか…」
齊藤院長は、そう言うとニヤっと妖しく微笑みながら俺を見つめた。
オレ「そそそ、それは、その、あの、噂ですよね?ハハハ…」
齊藤院長「ふふっ、そういえば君も大きな事故から奇跡的に助かったのだったかな?」
「そういえば、奇跡の噂が流れるようになったのは、
偶然にも君が入院した頃からだな……ふふっ。」
オレ(うっ…この人何か感ずいているのだろうか?)
オレ「あ、俺のは、そのたまたま打ちどころが良かっただけですよ。ハハハ…」
もちろんウソである。
一度死んで女神様に転生してもらった件は誰にも秘密の極秘事項なのである。
齊藤院長「な~、田中君、もしよければ今度…」
齊藤院長がそう言いかけたところで、室内にたくさんあるシャンデリアが一斉にうす暗くなり、
室内奥にある螺旋階段の上の扉が開いた。
螺旋階段がライトアップされると、桃園会長とアヤナがゆっくりと階段を下りてきた。
桃園会長「本日はお忙しい中、おこし頂きありがとうございます。」
「時間となりましたので、ただいまよりパーティを開催致します。」
桃園会長がそう話すと会場から一斉に拍手が鳴った。
そして、桃園会長とアヤナの周囲はあっというまに人だかりになった。
オレ「あの人がアヤナさんのおじい様ですか?」
齊藤院長「そうだ。会長はめったに人前に姿をあらわさんからな…」
「今日は部外者にとって会長と言葉を交わせるチャンスでもあるのさ…」
「さて、わしも挨拶しておかんとな!」
そう言って、齊藤院長は足早に桃園会長へと歩み寄って行った。
アヤナの方は、オールドローズの刺繍の施された薄いピンクのアフタヌーンドレスに身を包みパーティメイクしている。
まるで絵画から出てきたような超絶美少女がそこにいた!
俺は、入院していたときとは比べ物にならないアヤナの美少女ぶりにすっかり見惚れてしまっていた。
桃園会長のとなりで周囲からの祝福に微笑んでいたアヤナは、
チラっと一瞬だけ俺を見るとゆっくりとこちらへ歩いてきた。
オレ「退院おめでとうございます。」
アヤナは、黙ったまま俺の耳元に口を近付けると、
「パーティーが一段落したら私のプライベートルームへ来て!」
「渡したいものがあるの!じゃ後でね…。」
…そう小声で話してからすぐに別のテーブルへと移動して招待客たちとの閑談を再開した。
それから1時間ほど俺は特に何もすることもなくテーブルの上に並べられたご馳走に下鼓を打っていた。
今日は病院の昼ごはんを断っていたせいで、腹ペコだったのだ。
アヤナに花束を渡し、無事役割を果たした子供たちは、
丸テーブルに戻ってくると、またぞろご馳走にパクついていた。
オレ「君たちよくそんなに食べれるね?」
小さな女の子「だって食う子は育つっておじーちゃんが言ってたもん!」
「あたしね、いっぱい食べて早くアヤナおねーちゃんみたいに大きなおっぱいになりたいの!」
それ「寝る子」の間違いだろっ!
いや、そんなツッコミはどうでもいい。
そんなことより、
オレ「そうか…アヤナおねーちゃん、そんなにおっぱい大きいのか?」
小さな女の子「うん。前に一緒にお風呂はいったとき見たの。すごく大きかったよ!」
「こーんなだったよ!」
小さな女の子は、自分の胸の上で手を動かしながらアヤナの胸の大きさを表現しようとしていた。
うっ…この話、もっと聞きたい…。
…と思った、そのとき…
「ドドドーーーーーーーーーーーーーン!」
突然、パーティ会場全体に大きな縦揺れの振動があった。
オレ(ん?地震か?かなり大きな縦揺れだったな…)
「キャーーーーー!」
俺は突然大きな叫び声を上げた女性客の視線に合わせて天井を見上げ驚いた。
天井一面にたくさん配置されているシャンデリアの全てが左右に大きく揺れていたのだ。
各丸テーブルは、このシャンデリアのちょうど真下になるように配置されている。
ミシ…ミシ…ミシ…
シャンデリアのつられている金属の根元部分がきしんでヤバイ音がしている。
招待客たちのほとんどは危険を察知したのか、すでに壁際へと移動したようだ。
ふと見ると、俺と同じ丸テーブルでご馳走にパクついていた子供たちが、
椅子の上でおびえながら固まっていた。
「2人とも急いで壁の方へ逃げて!」
俺は壁の方を指さしながら子供たちに口早に叫んだ。
しかし、子供たちは恐怖のせいか椅子に座ったまま動こうとしない。
まずいな…。
このままここにシャンデリアが落ちてきたら大惨事になりそうだ。
俺は心の動揺を抑えつつ、呪文ウインドウからピオリムンを2回タップした。
ミシ…グギ…
招待客たちのどよめきが更に大きくなった次の瞬間、
ドーーーーーーーーーーーーン!
俺たちの丸テーブルの上にあったシャンデリアが、真っすぐ下に落ちてきた!
「キャーーーーー!」
「うぁぁぁぁぁぁ!」
壁際で息をのんで見つめていた招待客たちが、シャンデリアの落下を知らせるように一斉に叫んだ。
ガッシャーーーーーーン!
パリンパリンパリンパリン…
パリンパリンパリンパリンパリン…
落ちたシャンデリアのガラスが丸テーブルの上で細かく割れて更に四方へはじけ飛んだ。
そして、他の丸テーブルの数か所も、シャンデリアが落ちてきてガラスの破片が飛散していた。
数分後…、招待客たちの視線は、シャンデリアの落ちた1つの丸テーブルに集中していた。
なぜならその丸テーブルには、車椅子に座った少年が微動だにせずにそこに佇んでいたからだ。
招待客たちは固唾を呑んでその光景を見守っていた。
ジャリ、ジャリ…
細かく飛び散ったガラスを靴で踏む音がして、子供たちが丸テーブルの下からはい出してきた。
オレ「2人とも、ケガはない?」
俺は車椅子に座った姿勢のまま、そう問いかけた。
小さな女の子「うん、大丈夫。オニーチャンありがと!」
小さな男の子の方は、真っ青な顔をしてプルプル震えていた。
こういう時は女の子の方が強いのだ。
オレ「もう大丈夫だからね!」
俺は、車椅子に乗ったまま男の子の頭をなでながらニッコリほほ笑んだ。
俺は、さっきシャンデリアが落ちてきた瞬間の事を思い出していた。
ガラスが飛び散っている空間の中で、俺は車椅子にのったままガラスの破片を掻い潜りつつ移動して2人の子供をテーブルの下へ運ぶという神業をやってのけていた。
…といっても、これはピオリムンの効果のおかげだ。
俺には飛び散る全てのガラスの破片が、まるでスローモーションのように見えていたため楽勝だったのである。
もちろん、俺も子供たちも切り傷1つおっていない。
壁際で固唾をのんで見守っていた招待客たちからは、
安堵のため息と、どよめきの声が一斉にあがっていた。
おそらくさっきの俺の動きは、普通の人間には速すぎて目で追えなかったハズだ。
だがもしこの中にオリンピック級に動体視力の高い者がいたとしたら、
あるいは俺の異常なすばやさに気付いた者もいるかもしれない。
だが、それよりも、あの状況からなんで車椅子に座ったままの少年が
かすり傷1つない状態で助かったのか?
…という疑問がこの場のおかしな空気を支配していた。
オレ(うっ、ここで何か言ってごまかしとかないとやばいか?)
そう思った俺は、
オレ「子供が…まだ食ってる途中でしょうがァ~!」
俺はシャンデリアの落ちてきた天井を見上げながら、そう叫んだ。
・・・
・・・
・・・
招待客A「ぷっ、ふははは!」
1人の客が笑いだすと、つられたように周りの他の招待客たちもクスクスと笑い始めた。
招待客B「ワッハハハハハハハ!あんた、最高だよ!」
招待客C「そうね、この状況でなかなかそのジョーク出てこないわよね!キャハハハ!」
なんかTVで見たことのある有名な女優がそうフォローして笑ってくれたのをきっかけに、
招待客たちのほとんどが大爆笑し始めた。
この場のおかしかった空気を軽いジョークでごまかすつもりが、
想像以上に受けたようで俺はホッとしていた。
・・・
アヤナ「皆さま、お怪我はありませんでしたか?」
「地震はすでにおさまったようです。」
「迎賓館入口横に医療スタッフを待機させておりますので、
もし怪我をされた方がいらっしゃいましたら、すぐにお立ち寄りください。」
「予定より少し早い時間ではございますが、
皆さまの身の安全を考慮して、パーティーはこれでお開きとさせて頂きます。」
「本日は、お忙しい中ご足労頂き、ありがとうございました。」
アヤナがそう告げると、会場からは一斉に拍手が起こり、招待客は徐々に帰って行った。
気が付くと、いつのまにか齊藤院長が俺の近くまで戻って来ていた。
齊藤院長「田中君、孫たちを守ってくれて本当にありがとう!」
「このお礼は日を改めてさせてもらうよ!」
オレ「あいえ、当然のことしただけですからお気になさらず…」
齊藤院長「謙虚だな!」
「君は我々にとって本当に神様が使わした救世主なのかもしれんな…。」
齊藤院長は意味深にそう言うと、2人の孫を連れて帰って言った。
・・・
そして、
齊藤院長と入れ替わるように、さっき別れた鈴木さんが戻ってきた。
鈴木「田中様、桃園会長が直接お話しされたいそうです。
一緒に来ていただけますか?」
オレ「あ、はい。わかりました。」
俺は鈴木さんに車椅子のグリップを押されるがまま、
迎賓館の奥にあるプライベートルームエリアへと向かうのだった。




