第15話 約束してくれませんか?
アヤナ「あなたにはね、とても感謝してるのよ」
「最後にあなたと逢えて、本当によかったって思ってる。うふふ。」
「ありがとう!」
「そして…さよなら!」
そう言うと、アヤナはロケットの青酸カリをいっきに飲み込んだ!
オレ「ダメだぁぁぁぁぁぁ!」
俺はそう叫びながら車椅子から飛び降り、転がりながらアヤナに近付いてキアリーンをかけた。
青酸カリは即座にすべての内蔵へ深刻なダメージを与えると昔何かの本で読んだことがある。
キアリーンで青酸カリの毒性を無効化してもすでに内蔵に与えたダメージまでは回復できないかもしれない。
俺は倒れた彼女の傍らでしゃがみこんだ体制のまま彼女の上半身を抱き起した。
そして、念のため彼女の体中に何度もホイミンをかけた。
オレ「アヤナさん!起きて!」
俺は彼女の体を抱きかかえたまま何度も名前を呼び続けた!
アヤナ「あれ?」
「なんで私まだ生きてるの?」
オレ「ふーっ!よかった!間に合って…」
アヤナ「あなたが余計なことしたのね!」
「どうして私を安らかに眠らせてくれなかったの?」
オレ「だって、毒りんごを食べたお姫様を目覚めさせるのは王子様の義務だから…。」
…
アヤナ「ぷっ…あははははははは!」
アヤナは涙を流しながら笑い続けた。
…
オレ「あの…、今のジョークちょっとベタすぎました?」
アヤナ「そんなことないよ!すっごく心に響いたわ!」
「それで、私を救ってくれた王子様は、ちゃんとこの責任をとってくれるのかしら?うふふ。」
…
オレ「俺さっきアヤナさんの告白を聞いていて…その…なんていうか…
アヤナさんになら俺の秘密を全部話して協力してもいいかなって思ったんです。」
アヤナは俺の腕に抱かれた姿勢のまま、真剣なまなざしで俺の目をじっと見つめてきた。
オレ「信じられないかもしれないけど…」
「俺、トラックにひかれて意識を取り戻してから魔法が使えるようになったんです…。」
アヤナ「まほう?」
オレ「はい、今のところ使えるのは回復魔法と毒消魔法とそれから…」
「そうだ、百聞は一見に如かず!ちょっと今使って見せますね!」
俺は彼女を抱きかかえたまま、呪文ウインドウから「ピオリムン」をタップした。
ピオリムンは、オリジナルのDQでは周囲の仲間ごとすばやさを上げる魔法である。
ビューン
アヤナ「今何か風が横切るような音が聞こえたわ!」
俺は呪文ウインドウからもう一度「ピオリムン」をタップした。
ピオリムンは、重ねがけができるのだ。
ビューン
オレ「アヤナさん、ちょっと立ってかるくジャンプしてみてもらえますか?」
アヤナは、ゆっくりと立ち上がり、その場でかるくジャンプした。
すると、アヤナの体は2mぐらい宙に浮いてから、ゆっくりと落下して着地した。
アヤナ「なにこれ!超たのしーーーーーーぃ!」
アヤナは、まるで月面歩行でもしているかのように、
ジャンプしては、ふんわりと着地するを繰り返しながら屋上中を飛び回り始めた。
オレ「アヤナさん、あまり高くジャンプしすぎるとひどい筋肉痛になるからほどほどにね!」
実は、今日屋上でレベルアップしてから病室へ帰る前に、トイレによってピオリムンの効果を少しだけ試してみていた。
まだ簡単な検証しかできていないが、
とりあえず1回かけるごとに2~3倍ぐらいすばやく動けるようになり、
それに比例して周囲の体感時間が長く感じるのだ。
まるで自分以外の周囲の全てがスローモーションで再生されているような感覚なのである。
俺はトイレの手洗い場で両手に溜めた水を空中に放り投げては、
それを全てすくい取るという検証が楽しくなって、
童心に帰ったようについ夢中で水遊びをしていたのだ。
だから今アヤナが楽しそうに飛び回っている気持ちはよくわかる。
アヤナ「なんか元にもどっちゃったかしら?」
そう言いながら、彼女が歩いて戻ってきた。
オレ「その魔法の効果は2分ぐらいしか持続しないんです。」
ピオリムンの効果時間も既に確認済みである。
トイレの検証中、途中で魔法の効果が切れたせいで股間が水浸しになり、
恥ずかしい思いをしながら病室へ戻った事は、もちろん内緒である。
アヤナ「もしかして今日熱帯魚の部屋で背中の痛みを直してくれたのって回復魔法なの?」
オレ「そうです」
「さっきアヤナさんが飲んだ青酸カリを無効化した魔法は、
昼間ハチに刺されたときに使った毒消魔法です。」
アヤナ「あー、あの手が緑色に光ったときのやつね。」
オレ「はい。」
「念のため回復魔法も体中にかけておきました。」
「これからも、アヤナさんに何かあれば俺がすぐにこの魔法で回復します!」
「だから、もう死ぬことは考えないって約束してくれませんか?」
アヤナ「いいの?あなたに迷惑をかけ続けることになるのに…私…」
オレ「俺、アヤナさんに出来る限り生き続けてほしいんですよ!」
アヤナ「……」
アヤナは何かを話そうとして戸惑い、それは結局言葉にはならず涙になってあふれ出していた。
オレ「そうだ、青酸カリの悪影響はもう治ってると思いますが、
念のため明日精密検査を受けて確認してくださいね。」
アヤナ「うん…」
アヤナは大粒の涙を流しながら、やっと絞り出したようなかすれた声でそう答えた。
オレ「じゃぁ、今日はもう遅いし帰って休みましょう!」
アヤナ「うん…」
俺とアヤナが屋上のドアを開けて一緒に病棟の中へ入ると、
黒服の男たち2人が頭を深く下げて出迎えてくれた。
オレ(きっとこの人たち、今日アヤナさんが死ぬつもりだと知ってたんだろうな…)
俺はアヤナに気付かれないように、
2人の黒服の男たちへ無言でサムズアップして安心させてから病室へ戻ったのだった。
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『~桃園グループ株式会社 会長室にて~』
深夜0時過ぎ、桃園グループ本社の超高層ビル最上階にある会長室はまだ煌々と明かりが点いていた。
コン、コン。
坂口「会長、坂口です。今戻りました。」
会長「入れ。」
坂口「失礼します。」
会長「それでどうなった?」
坂口「アヤナ様はまだ生きていらっしゃいます。」
会長「そうか!薬を飲まなかったのか!」
桃園会長は喜びをほほに浮かべながらそう言った。
坂口「はい。おそらくですが…。」
「一緒にいた男性に説得され自殺を思いとどまったものと思われます。」
会長「一緒にいた男性?病院の医師か?」
坂口「いえ、桃園病院の入院患者です。」
会長「その男はアヤナとどのような関係だ?」
坂口「本日アヤナ様に誘われて庭園へ同行していたようです。」
「彼は2週間ほど前に事故で入院した 田中ゆうじ という名前の浪人生です。」
会長「アヤナが庭園に他人を誘うとはめずらしい…」
「アヤナの自殺を思いとどまらせてくれたのであれば、何か礼をせねばならんな。」
「それで、どのように説得したか会話は聞き取れたか?」
坂口「それが…本日アヤナ様が花火の打ち上げを依頼されたため、
庭園の無線盗聴器に電波障害が起きておりまして、
会話が途切れ途切れでほとんど聞き取れませんでした。」
会長「そうか…。それでアヤナは今どうしておる?」
坂口「病室に戻られてからしばらく興奮した様子で室内を歩き回っておられましたが、
すぐに落ち着かれて、今はぐっすり眠っておられます。」
会長「ふむ…。ペンダントはまだアヤナが所持しておるのか?」
坂口「いえ、アヤナ様がもう不要だとおっしゃってBGの佐藤に手渡されました。」
「佐藤にはすぐにペンダントの破棄を指示しておきました。」
会長「ふむ。もう自殺は考えていないということか?」
坂口「はい。おそらく…。」
会長「となると、田中という男は敵ではないということか?」
「アヤナがそれほど気に入った相手なら、一度会ってみるか…。」
坂口「それは、まだ時期尚早かと。」
「アヤナ様に取り入って何かを企んでいる鬼堂グループの手の者という可能性も考えられます。」
会長「ふむ。ではその男を家族も含めて詳しく調べておけ。」
坂口「わかりました。」




