06
泣き止まない少女をなだめ、冗談を訂正しながら暗い部屋から出た。
それから少女の誘導に従い、居間のテーブルに向かい合うよう椅子に腰かけた。
明るい場所に来て、少女の風貌がよくわかる。
綺麗な黒髪のロングヘアーに整った顔立ちをしている。かなりの美少女である。
先程からの様子を見た印象では、大人しいタイプなのだろうか。全体的に、幼さを感じさせる。
少女はずっと顔を伏せていて、どう話を切り出せば良いか迷い、無言の時間が流れていく。
このままでは埒が明かないので、見切り発車で会話を試みる。今度は真面目に。
「先程は本当にごめんなさい。魔法陣を見ましたが、あなたが私をここに呼んだのですね?」
少女ははっと顔を上げ、小さな声で答える。
「そうです。私がお兄ちゃんを生き返らせる為に魂の禁呪を使いました。」
「しかし結果は失敗で、兄の死体に関係のない人間の魂が宿ったと...?」
「あなたが私のお兄ちゃんでないなら、そういうことだと思います。」
というのが、俺がここにいる理由らしい。
何故兄の代わりに俺の魂が呼び戻されたのかはわからないが。
「ちなみに日本って国に聞き覚えはありますか?ここはどこなのでしょうか?」
「その国は知りません...多分。ここはシンバ帝国のラフタルという街です。」
まったく聞き覚えがなかった。世界史なんて大して知らないけれど、過去の欧州にタイムリープしたわけではないのだろう。本当に異世界なのかもしれない。
「そっか...。なら、確認したいことがあるから少し街へ出ても良いかな?」
「構いません!それまでに夕食の準備をしておきますね。」
許しも貰えたので、街並みを見てくることにした。
どんな世界が広がっているのか、わくわくが止まらない。
市場で武器や見たこともない食べ物が並んでいるのだろうか...エルフとかいるのだろうか。
初対面での会話は礼を尽くし丁寧にするのがモットーなので、充分礼節は取れただろう。
勿論部屋での会話はノーカウント。記憶から消されました。
だからこれからは、タメ口で
「じゃあ行ってくる」
特に持ち物などないので、身一つで玄関の扉を開く。
「うん!いってらっしゃいお兄ちゃ...あっごめんなさい。」
「お兄ちゃんって呼んでくれていいよ?すぐ戻ってくるから!」
そう言い残し、玄関からの外にある未知の世界へ飛び出した。