第4話 不死の身
平八郎と飛鳥は、共に西へと戻った。
西の者たちは平八郎らを温かく迎えてくれ、その日のうちに祝言を挙げた。
そして夜、平八郎と飛鳥は床についた状態で話し合っていた。
「なあ飛鳥。」
「なんでございましょうか。」
「そんな丁寧でなくてよい。お主は俺の妻であり、俺は既に国王ではないのだ。」
平八郎は苦笑しながら言った。
祝言を挙げたあと、平八郎は皆に告げた。
もう既に俺は王ではないと、ただの平八郎として扱ってくれと。
皆はそれをすんなりと受け入れた。
「じゃあ、平八郎……。」
「うむ。それでよい。」
平八郎は満足げな表情を浮かべた。
「それでな飛鳥。お主もやはり不死の身となるものなのか。」
飛鳥の体が一瞬動いて見えたのは気のせいだろうか。
「ええ。私は、不死の身となるもの。」
「お主らは、どのような人間なのだ?」
天井を向いていた飛鳥が平八郎の方へと向いた。
「いや、気に触る言い方だったのならすまない。俺はただ、お主らのような人間を見るのは初めてでな。」
飛鳥は、再び天井の方へと向いた。
「私たち不死の身を持つ者……崖魔と呼ばれる、東の國にしかいない民族でございます。」
「ほら、また丁寧になっておる。」
飛鳥は口をつぐんだ。
平八郎は思った。この女房は照れておるな。全く可愛いやつよ。
「崖魔とな?」
「ええ。崖魔の始まりはわかりませぬが、その血を受け継ぐ者は、日没と同時に命が消えると、素晴らしい力を得ることが出来るのです。」
飛鳥は淡々と続けた。
「しかし、死したあとの容姿とその非人間的な強力な力を見て、人々は悪魔だと罵りました。まあ、それは昔の話ですがね。」
「飛鳥は……どのような力を持っているのだ?」
「誠に申し訳ありませぬ。これは崖魔の掟ゆえ、話すことはできませぬ。」
「そうか……。」
平八郎は残念な気持ちだった。しかし、それが彼女の生きる道の掟ならば仕方がない。
「今日は夜遅い。また明日でも話すとしようか。」
「ええ。」
平八郎と飛鳥は、共に寝入った。
それから8ヶ月後、飛鳥は男の子を産んだ。
しかし、それは平八郎の子ではなく、忌々しき登の子だった。平八郎と飛鳥が秘め事を行う前に、飛鳥の腹は膨れ始めたのだ。
「飛鳥……、お主はこの子を育てたいか?」
赤ん坊は平八郎に抱き抱えられていた。
「ええ。私の子どもです。私が育てたいです。貴方が嫌でなければ……。」
「そんなこと構わんよ。」
「よかった……。」
飛鳥は笑った。
その顔を見て、平八郎は再び惚れた。
そして、月日は流れた。
平八郎と飛鳥は産まれてきた男の子に飛輪と名付けた。
飛輪は健やかに成長し、一人前の男になった。
顔は凛々しく、肉体は逞しくなり、西どころか東でも知らぬ者はおらぬ青年へと成長した。
それは飛輪が十四歳のときである。
「父上、母上。話があります。」
飯の最中、先に食事を終わらせた飛輪が改まって言った。
「なんだ。」
平八郎が箸を置いて返事をした。このとき、平八郎は三十八である。
「私は、父上のような立派な武士になりたいと思っております。」
飛輪が平八郎の目をまっすぐ見て言った。
「立派など……。もう過ぎた話よ。」
「そんなご謙遜なさらずに。」
「それで、話とはなんだ。まさか父を褒めただけでは終わるまい。」
「はい。私は関所をもう一度再建したいと思っております。」
「なに、関所だと?」
平八郎は怪訝な顔をした。
現在、関所だった場所に人はおらず、荒れ果てた状態である。
そんな状態で、飛輪は何をしようと言うのか。
「今、通り魔というものがおります。私は関所に本部を構え、それらを捕りたいのです。」
飛輪は目を逸らすことなく言った。
確かに、ここ最近通り魔と呼ばれるものがはやっている。夜中の山中にて、道を歩いている人が腹をえぐり取られるということが多々報告されている。
「しかしお前はまだ十四。危険ではないか。」
平八郎のこれは、親心である。息子を危険な目に遭わせたくない。
「父上も十八で國のために戦ったと聞きました。ならば私も、國のために戦いたいのです。」
「ふむう……。」
平八郎はしばらく考え込んでいたが、
「あいわかった。お前がそう言うのだから、俺も従うほかなかろう。」
「ありがとうございます。」
飛輪はその場で深々と頭を下げた。
「関所の再建は俺も手伝おう。資金は工面してやる。」
こうして、関所は平八郎らによって建て替えられ、新たに関所を設けることとなった。
「全て父上のおかげです。ありがとうございます。」
「甘いぞ飛輪。ここからが正念場よ。」
「はい!」
そして平八郎は山を下り、西の方へと帰っていった。
一方飛輪は、関所の中に住まいを構えた。今宵からここで寝泊まりする気である。
そして日没。
飛輪は、初めての見回りに出かけた。
辺りは闇。土の上を歩くだけでも大変である。
「これは大変だぞ……。」
悠長に歩いていた飛輪は、背後から迫る刺客に気が付かなかった。
飛輪は、腹に鋭い痛みを感じた。腹を見ると、刀が後ろから貫いているのがわかる。
「飛輪……、全く邪魔者よ。我を討とうとするとは。」
飛輪はその声を聞いたが、その顔を見ることはできなかった。振り向く前に、腹の痛みで気絶してしまったのである。
後ろから刺した男は、飛輪から刀を抜いた。
そして、そのまま山の闇の中へと消えていった。
数分後、飛輪は目を覚ました。
腹の血が止まっている。それどころか、痛みすらない。
飛輪は思い出した。飛鳥から聞いていたことがあった。
飛輪に流れる血は、日没と同時に命没するとき、心臓は止まれど生きながらえると。
確かに。全身が冷たくなっていく感触がわかる。
しかし飛輪は狼狽えず、山中を走り出した。
飛輪は自らの力が何かを飛鳥から聞いていた。
父だけが知らぬ飛鳥と飛輪の力。
飛輪に流れる崖魔の力──それは『念じた相手の両目を潰すことができる』能力であった。
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