第2話 苦渋
登の言い渡した試練は、少女たちの想像を遥かに越えていた。ここで裸を見せると?
國の男たち──いや、他の女たちにも見せたことのない裸を、この屈強な男たちに見せつけろというのか。
「どうした、早く脱がんか。」
登が笑みを浮かべながら言った。この男の笑みほど、濁ったものはない。少女たちは戸惑うどころか、恐怖すら覚えていた。
「おい、早く脱がんか!」
そう叫んだのは登と同じく、平八郎に仕える高正だった。顔は縦長く、頬に皺を寄せた初老のような人間だった。しかし、歳は登と同じで26であった。
「分かっておらぬな高正。これは、女が自ら恥を知りながら脱ぐことが重要なのだ。急かすのは素人というものぞ。」
誰にも聞こえないような小声で、登は高正に言った。
「そんなことはどうでもよい。俺はすぐにでも女の裸を見たいのだ。」
「まあ、落ち着け。期を待つのだ。」
「お前がそう言うのなら仕方ない。」
登と高正は少女たちの方を見た。少女は、目線をあちこちに通わせるものの、一向に脱ぐ気配はない。
「しかしこれでは埒が開かないな。仕方ない。」
登は少し深めに息を吸った。
「よいか王の嫁となる者よ。こんなところで恥じていて、平八郎殿と結ばれるとお思いか。」
そして続けて登は言った。
「今より、脱ぐのが最も遅かった者は、その首を切り落とす!」
少女たちに戦慄が走った。
最初に脱いだのは飛鳥であった。着物の帯を外し、着物を足元へと脱ぎ捨てた。
おお、と周りにいた男たちは歓声を上げた。
飛鳥の胸や腰、尻にかけての全体のバランスがとてもよく、全身にかけてスラッとした体型であった。
しかし、当の本人飛鳥は、顔を赤らめ俯いていた。
「ほう……これは中々のもの……。」
高正が飛鳥の全身を見渡しながら言った。
「どうじゃ高正。これが真の究極たる美よ。」
「確かに……。これは素晴らしいものじゃな。」
先ほどまで我慢していたせいもあろうか、高正の顔はだらしなく気味が悪い顔となっていた。
「では飛鳥とやら。奥へと案内するゆえ、ついてくるがよい。」
登が飛鳥の方を見ながら言った。しかし、登の目線は飛鳥の目元ではなく、胸や、性器の方へと向いていた。
飛鳥はその視線に気付いたか気付いてないかは定かではないが、右手で胸を隠し、左手は股を隠した。
飛鳥は登の傍へと寄った。二人は奥の部屋へと消えていった。
「さて。」
高正が声を漏らした。少女たちの全神経は高正へと向いた。
「既に俺と登──
先ほどの奥に消えた男と話し合った結果、お主らを全て処刑することにした。」
またもや少女たちに戦慄が走った。話が違うではないかと思った。
「先ほどの気品溢れる少女──飛鳥と言ったかな、あの少女こそ我が王の嫁にふさわしいと思う。そこで悪いがな、お主らにもう用はない。口封じとして、殺されてはくれぬか。」
高正は淡々と言った。しかし、高正はそんな約束を登とはしていなかった。これは、高正が独断で決めたことだった。
「皆の者、囲めい!」
高正の一声で、少女たちの周りにいた男たちは刀を静かに抜き、構えた。
少女たちは背中をぴったりと合わせ、完全に脅えていた。
そのとき、奥の扉が思い切り開く音がした。
男たち、そして少女たちは、一斉にそちらを見た。そこには、平八郎が立っていた。
「なにをしている貴様ら。」
平八郎の声は静かながらも、完全に怒りを含んでいた。
「これは平八郎殿の嫁を選別しているのでございます。」
高正は悪びれる様子がなく言った。
「生憎でございますが、この娘らにはその資格がないようで……、今から処分する次第でございます。」
「処分だと?」
先ほどの声よりも、大きく強い声で言った。
「ならば、そのまま解放してやればよいではないか。殺す必要などない。」
「それは無理でございますな。」
高正が苦笑しながら言った。非常に醜いものである。
「この娘らには、死を覚悟してもらってのことでございます。見過ごしてしまっては、意味がありませぬ。」
高正がそう言った直後、平八郎は高正と目を合わせた。高正は醜い笑いを浮かべたまま固まった。
平八郎は、ゆっくりと高正の方へと歩き出した。
すると、周りにいた男の一人が平八郎の前に歩み出た。
「邪魔だ、そこをどけ。」
平八郎は目の前に現れた男に目を合わせず言った。
「それは出来ませぬな。」
「王の言うことに従えないと、そう言うのか。」
「ほう、確かにそれは良くないことですな。」
男は静かに刀に手をかけた。
「では今を持ってより──」
平八郎も刀に手をかけた。
「穂呂平八郎を処刑致す!」
男は素早く抜刀し、平八郎に横向きで刀を振った。平八郎は即座にしゃがみこむと、抜刀し、目の前に男の両膝を切り落とした。
男の醜い声が響く。その瞬間、広間には緊張が走った。
「討ち取れ皆の者!穂呂平八郎を今ここで滅ぼすのだ!」
高正が叫ぶと同時に男たちは平八郎に向かって走っていった。
高正は脅えきっている少女たちに話しかけた。
「俺と一緒に来るがよい。もしも、逃げようなどとした際には、その首を切り落とさせてもらおう。平八郎ほどではないが、俺も腕は立つ。」
平八郎は男たちと戦っていた。三十余の人間と互角に戦っている。いくら『寅』を持っているとはいえ、傷一つ負わぬのは平八郎の抜群の戦闘能力の高さのためであると言えよう。
「あいつはまさに化け物よ……。」
高正が呟くように言った。そして、高正はその場に倒れ込んだ。高正の首には、クナイが刺さっていた。投げたのは、楓であった。
「おい見ろ、高正様が死んでおられるぞ!」
集団の一人にいた男がそう叫んだ。
しかし、集団といっても残り五人しかいなかった。
男が叫んだ瞬間に、その集団の男たちは気を取られた。その隙に、平八郎は五人の首をはね飛ばした。
死屍累々の広間に、やっと静寂が訪れた瞬間であった。
「大丈夫か、お主ら。」
平八郎が、少女たちの足下を見ながら言った。
「ええ、大丈夫でございます。」
楓が言った。
「そうか、それは良かった。」
「あの、先ほどの女の人は大丈夫でしょうか。」
桜が心配しながら言った。
「女……?」
「もう一人、私たちの他に女の人がいたのですが、何者かによって奥に連れ去られました。」
「なんだと!?」
平八郎は驚愕した。王室から広間までの間に、そんな人物などいなかった。
「この場にいないとなれば、登か!」
平八郎はすぐさま後ろを向き、走り出した。
「悪いが、皆も探してくれ!」
平八郎は走りながら言った。
「はい!」
少女たちの声が背後から聞こえた。
少女たちは散り散りになり、関所を囲むように探し始めた。
登は飛鳥を弄んでいた。一糸纏わぬ飛鳥の裸体は、登を興奮させるためには十分だった。
「ほほう、若い女の肉体は、これほどまでに艶めかしいのか。」
登は飛鳥の体を堪能していた。
一方飛鳥は、なすがままの状態であった。
容姿としては最高の飛鳥も、力では叶わないことなど重々承知であったからである。今はこの屈辱に耐えるほか無かった。
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