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訪雲の宴  作者: 万々万々
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第1話 王の嫁

「平八郎殿、そろそろ祝言を挙げられてはいかがでしょうか。」

平八郎に仕える男が言った。

平八郎も二十四。祝言を挙げられない歳ではなかった。

しかし、平八郎は国王になるときに心に誓ったことがある。

東西で争いが起きぬよう、全ての者に平等に接すると。しかし、祝言を挙げてしまえば、その嫁を持った國はそのことを鼻にかけ、もう一つを卑下することがあると平八郎は睨んでいた。

(のぼり)。気遣いは嬉しいが、またあの惨事を繰り返すことになるだろうと思う故、それは出来ぬ。」

「しかし、あれは関所の人間の悪い冗談であったでしょう。」

「いや、仕切る人間がおらずとも、戦いは起きる。覆三郎が戦いの場を設けただけであって、争いはすぐにでも起こるようだった。」

「ならば我らが国王よ。貴方は生涯独りでありつづけるおつもりか。」

「そうではないのだ。ただ、俺がもらう嫁で争いが起きることが嫌なのだ。」

登は思案した。

「それでは、私に良い考えがあります。」

「なんだ。」

「東西の争いを好まぬというのなら、東西から嫁を募り、どの娘が相応しいかを見定めるのです。」

「俺が見定めるというのか?それでは結果は同じ。選ばれなかった方の國は惨めぞ。」

「もちろん、見て選べ、というのではありませぬ。その娘たちに、それぞれ試練を与えるのです。」

「ほう、試練とな。」

「ええ。様々な苦行を強い、最後に残った娘をもらうのです。」

「しかし、それではやはり勝った方が卑下するのでは?」

「両国に同意を得た上での選別をいたします。不服を漏らせば、打ち首にするということでも書いておきましょう。」

「ああ、しかし……。」

平八郎はあることが気になっていた。

王という立場よりも、懸念することがあった。

「お前と今こうして簾を通してしか会話できぬ今、俺が嫁をもらってよいものなのか。」

平八郎には六年前の名残で、人と目を合わせることができない事情があった。

「問題ありませぬ。目を合わせなければ事は起きず、あとは平八郎殿が思う存分女の身体を堪能するだけですぞ。」

「それでは理性なき獣よ。」

「軽い冗談でございます。では、そのようにして女を募ってもよろしいか?」

「ふむ、仕方あるまい。」

そう言うと、登は平八郎が鎮座する部屋から襖を開け、出て行った。


平八郎が登の話をすんなりと受け入れたのには理由があった。それは王としてではなく、一人の男として、祝言を挙げたかった。王になる以前は、國の女と祝言を挙げ、平々凡々に暮らすつもりだった。それが今ではどうか。登を筆頭に、平八郎を王にしたいという連中が現れ、早々と王になってしまった。初めは断ったのだが、半ば強引に王にされてしまったのだった。そのとき、王には平等さが必要と思い、今まで暮らしてきたのだ。

そしてもう一つの理由として、先ほど登が言うように、女の身体を味わってみたかった。西で見た女たちの身体を見ていたとき、自分の中になにか分からぬ気分があったのを平八郎は覚えていたからである。

期待半分、不安半分で平八郎は登の帰りを待った。


その日の夕刻、東と西。それぞれの代表に、ある文が届けられた。

国王と祝言を挙げたいと思う者は、明日の正午に訪れよ。ただし、地獄のような試練を耐える忍耐力のある者だけを募る。と書かれていた。

代表は國の女を集め、このことを伝えた。

最初は国王の嫁になれると喜んで来た者もいたが、地獄のような試練に脅えて帰っていった者もいた。


そして、翌日正午。

関所があった場所には、登を含めた側近たちの他に、十人の女たちがいた。

右から、飛鳥、楓、桜、竹、七、浜、舞、八千代、蘭、若葉。

皆、端整な顔立ちをしており、容姿は素晴らしいものであった。

登が一歩前に出た。

「よくぞ集まってくれた、皆の衆。だが、これから行うのはまさに地獄のような諸行であるぞ。もしも、嫌というものがおるならば、今すぐに立ち去るがよい。」

登が言った。女たちはそれぞれの顔を見合わしたが、やがて全員前を向いた。

「ほう、誰も帰らぬとな。素晴らしい。それでこそ我らが国王の娘。」

微笑みながら言っていた登から、ふと笑みが消えた。

「だが、今から起こる苦行にもし耐えることができなければ、お主らの首をはね飛ばすことになるが、それでもよいか?」

女たちの中でざわめきが起こった。驚愕する者、二人で話し合う者、下を向いて何か考えている者。

「今ならば、まだ帰ることができる。これが最後の機ぞ。」

静かに、しかししっかりとした声で登が言った。

「一つ、お尋ねしたいことがございます。」

そう言ったのは、一番左にいた若葉だった。

「申してみよ。」

「耐えることができても、それが二人以上の場合はどうなるのですか?」

登は表情を変えずに、若葉の方へと目線を合わせた。

「その心配は必要ない。一人になるまで続けるだけよ。」

女たちは一瞬戸惑ったが、それでも意志は変わらなかった。

「よろしい。では中へと案内しよう。」

登のあとに女たちは続いた。


女たちがたどり着いたのは、なかなかの広さを持つ広間であった。広間と言っても平八郎らが斬り合った屋外ではなく、関所を入ったところにある屋内だった。

女たちは円の形になるように言われ、それから外側へと向くように指示された。周りには、三十余の人間が立っている。

「では早速、第一の試練を言い渡す。」

女たちは息を呑んだ。

「王の嫁となるからには、心身潔白でなければならぬ。」

登は続けるように言った。

「今この場で着物を脱ぎ捨て、我らに裸を見せよ!一糸纏わぬ姿で、身の潔白を証明するのだ!」

女──いや、少女たちの、地獄が始まった瞬間であった。

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