にゃーとご主人様と宝物
にゃーは普段は白い猫の姿をとっているけれども本来は猫の獣人で、そして吸血鬼を狩る“ハンター”だった。ほんの6、7年前までは。今のご主人様に可愛がられるようになった時に無差別に狩ることはやめたのだ。
今のご主人様に出会ったのはにゃーがまだ前のご主人様に猫として可愛がられていた頃だった。その心優しい綺麗な人族の女性は、他の人族たちに大切に大切にされていたのだったけれども、ある日タチの悪い吸血鬼の男に襲撃されてしまった。
にゃーも獣人の姿に戻り隠しておいた銀の銃弾に魔力を込めて、両手の機関銃でご主人様を奪われてなるものかと必死に奮戦したのだけれども……相手の方が少し格上で、にゃーは致命傷を負い大地に沈んだのだった。連れ去られるご主人様の悲痛な悲鳴を聞きながら。
次に目覚めた時、そこは天国でも地獄でも治療院でもなく、落ち着いた雰囲気のそれでいて上質な内装で飾られた一室のベッドの上だった。
「なぜ、にゃーは生きている?」
「……あら、目覚めたのね?可愛い猫ちゃん」
湧いた疑問を思わず口に出すとベッドの隣に置かれた椅子で優雅に紅茶を嗜みながら何かの書物を読んでいた、物腰柔らかそうな女性が優しく微笑みながらこちらを見下ろして言った。
「……“純血”か。なんの冗談にゃ?にゃーは“ハンター”。貴女の敵にゃ」
「……知っているわ。あいつを相手に良く戦ったじゃない。結果は残念だったけれども」
「どうしてにゃーは生きている……いや、違うか。生かされているのか。なぜ、にゃ?」
「…………気まぐれ、よ」
「気まぐれで貴女は敵を助け敵に血を与えるのか。…………にゃはははは、仕方がにゃい。これからよろしくにゃん、ご主人様」
「えぇ、よろしくね」
それからは新しいご主人様のペットとして可愛がられながら、密かに近づこうとするハンターや、ご主人様に害を為そうとする吸血鬼を見付けては密かに狩るというスタイルに成り代わった、そんなある日。
「ただいま。いい子にしてたかしら?ウィン」
「にゃあ。今日も平穏無事にゃん。……それはどうしたのにゃ?」
ご主人様は一人の少女を連れてきていた。一目でその少女が“混血”とわかりまじまじとにゃーは彼女の事を見て、そして気が付いた。
「……良く似ているでしょう?きっと忘れ形見よ」
にゃーの耳元で囁くように話しそのまま少女を連れて通りすぎるご主人様に思わず振り返ると、ご主人様はふわりと優しい微笑みを見せて浴室へと続くドアの向こう側へと消えて行った。
「…………にゃあ」
にゃーの脳裏にあの頃の日々が甦る。少女が生きているということは形はどうであれ、前のご主人様はあのあと生き延びたのだろう。死んだほうがマシな体験はしたのだろうけれども。
“混血”の彼女は多分、ご主人様の“気まぐれ”という優しさに包まれてこの後もここで過ごすのだろう。ならば、にゃーがすべきことはただ一つ。
「……今度こそ守って見せるにゃ。ご主人様と、彼女を」
窓の外に輝く満月を見上げ、にゃーは深紅の瞳を細めながらニタァと嗤う。
「今度こそ宝物を守りぬくのにゃ…………」
月光が降り注ぐ窓辺に寝ころんだままにゃーはその肉球で銀の銃弾を弄びつつ、そっと呟いた。




