魔球
2017/08/12 加筆修正しました。
読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。
「バントとカット打法を隠さへん一番の理由は、実践でしか身に付かへんからや。ピッチャーが何処投げるか、どんな球種を投げるか判らんやろ?」
「否、それは解る。でもさー、作戦ってやー、ほら、秘密にするもんやん?」
副将の南波が、そう言うと他の部員たちも「そうや、そうや」と口々に言い出した。
学は、落ち着けとばかりに、両手を前に出し、それを制した。
「実はバレたところで、対応策が有って無いようなもんやねん」
それはまるで組み体操のように、部員たちは同じタイミング、同じ方向へ、首を傾げた。
「有って無いに等しいって? どうゆうことや?」
顧問の先生ですら、理解不能だったようで、学は事細かに解説を始める。
「バントだけなら、前進守備でもして内野を堅めればいい。カット打法だけなら、ピッチャーがインハイにストレート投げるなり、変化球を多めに投げればいい。でも、この2つを混ぜられたら、対応が正直面倒臭い。ツーストライクまで、バントとバスターを警戒せなアカン。バント構えたら、内野手全員が前に走って、バット引いたら戻って、三振か打ち取るまで、全員分を九回や。今まで対戦してきて、初回はそれらしい対応してたけど、早いトコなら4回くらいやったかな? 定位置から動かんようになって、ピッチャーですら、前に出んくなっとったやろ?」
すると、再び、組み体操のように、全員が同じタイミングで「あぁ~」と言って頷いた。
「対応策は知ってるんや。けど、どうせ打たへんのやったら、走って体力消耗するのアホらしいやろ? それが練習試合なら尚更で、監督が『もう前に出るな!』って、吠えてたトコもあったやろ? つまり、見せたところで相手は、対ウチの練習をしないことになる」
「でも、本番では走ってくるやろ?」
「練習で身に付けてへんのに、実践でそう巧く出来んよ」
「それは解ったけど、じゃぁ練習試合を県内にするんは?」
「それは、俺が相手のデータを集めてるからや」
なるほどと思ったのも束の間、違う疑問というか悩みが南波から出る。
「でもさ、それって俺らも、集められとんのとちゃうの?」
学は、その質問に半笑いしながら、
「ウチは、バントとカット打法以外書くこと無いやろ? 書いたとしても、誰が巧いかくらいや。それにな、実は、バントとカット打法だけにしとるんわ、逆に自分たちの得意や苦手を隠しているからなんや」
部員たちは、まるで狐につままれたかのような顔をして、学の顔を見ている。
「例えば、南波はカーブ苦手やけど、バントなら当てれるやろ? バスターに切り替えて見送ったとしても、空振りしたとしても、それは切り替えのタイミングが合わなかったからと思われるだけで、苦手とは思われへんよ」
「え? そうか?」
「自分が苦手やから、バレてんちゃうか?って思うだけやって。俺らの勝負はツーストライクからや、それまでの球種には、ストレートや変化球も在るやろう。んじゃもし、ストレート空振りしたら、ストレート苦手って思うか?」
「そんなもんなんか? あ! データといえば、ほとんど1年と引退した3年ばっかやったやん、主軸の2年居ないのにえぇんか?」
「俺たちの目標は夏やから、1年は選手データとして使える。本当は2年も混ぜたいけど、それやと試合を断られてまうからな。でもな、そんなに重要じゃないんや。だってさ、2年が参加しなかったら、俺らの戦法をブッツケ本番でやることになるから、割りと有利でも在る。あと引退した3年混ぜた理由は、その学校の野球スタイルが解るのと……あとはサイン盗んでる」
「え?!」
「サインって、割りと変えない高校多いねんで。変えてるところもあるけど、俺からしたら、変えてないに等しいな」
「へぇ~」
まるで、合わせたかのように、部員たちは同時に感心した。
「さて、散々戦術をオープンにしてきとる訳やが、俺たちにも隠しておきたいもんがある。それが……川島や!」
「まぁ、確かにな、お前が川島に教えたフォークは凄いから、それを隠したい気持ちは解る。でも、実践練習が必要なのも確かやで。相手が県外なら、えぇんとちゃうか?」
ヘコんでいる川島を監督が気遣った。
学が教えたというフォーク、それは川島の相談から始まった。
「俺、変化球のキレがイマイチやから、野手に転向した方が……ええんかな?」
川島の球速は、部員のなかでは一番速い140km/h。
しかし、手も指も小さいことで、スプリット(SFF)やスライダーを覚えてみたものの、変化量がイマイチなために、三振はおろか凡打にさせることができなかったのである。
そこで学は、野球をする人間が普通では発想しないようなボールの握り方を教える。
「こう握って、押し出すことを意識して投げるんやで」
「え? でも、これやと握り方でバレへんか?」
「大丈夫、大丈夫、ピッチャーの握り見れる奴なんて、おらへん、おらへん。もし、お前が言うように見れるんやったら、中指と人差し指の方がよっぽど判りやすいよ。ただ、その握りでやるなら、ストレートの投げ方も変えた方がええな」
そもそもフォークの原理は、ボールを回転させないことで空気抵抗を多く受け、それによって起こる変化であって、必ずしも、中指と人差し指で挟まなければならない訳ではない。
学にしてみれば、投げたボールを変化させるにはどうすればよいか?という空気力学の問題を解いたに過ぎないのである。
実は、学が考案したこのフォークの握り方をするプロ野球選手が、かつて存在している。
その選手も、川島と理由は同じで、指が短いことから、親指と人差し指で挟んだ擬似フォークを開発したのである。
仕方なしに開発されたフォークであったのだが、なんとこのフォーク、平均的なものよりも落差が大きい。
しかし、一番の問題は、会得するのが非常に難しいらしく、実践で投げたのは数名しか居ないのである。
川島が実践で使えるようになるのは、春季大会の後くらいを予想していたのだが、意外と早く覚えてしまった。
下手すると、春季大会で活躍してしまいそうな勢いさえある。
夏が目的な学にとって、春で下手に勝って、強豪高に目をつけられては困るのであった。
さて、気になった方も多いかな?
この話で紹介された魔球を投げていたのは、オリックスに居た佐藤義則さんです。
そのフォークは、ヨシボールとも呼ばれていたんですよ。
会得するのが非常に難しいらしいのですが、ダルビッシュは一日でマスターしたらしいですよw
でもね、実は私がこの魔球を知ったのは、佐藤義則さんよりも前なんです。
それは、私が小学生だった頃に、友達が得意としてたフォークの握りだったんですよ。
物語の中で、学と川島の会話は、実際に私と友達が交わした会話でもあるんです。
しかも、そいつね、野茂よりも前にトルネード投法してたんですよw
読んでくださって、ありがとう。




