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ピッチャー川島の憂鬱

2017/08/14 加筆修正しました。


読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。

「なぁ、俺らの戦法ってさぁ……」


 土日祝はトレーニングをせずに、全てを練習試合にしていた市西野球部。時には、ダブルヘッダー(1日2試合)をすることもあった。

 それは、本番で緊張しないよう試合に慣れる為というのもあるのだが、練習の成果がボチボチでも現れないと、部員たちのモチベーションが保てないと考えたからだ。

 それでもやはり、慣れない事をするせいか、今日までの37試合の成績は、11勝21敗5分と、まだまだ悪い。

 しかし、元々の実力からすれば、これでも強くなっていたことと、さらに、勝ち星と引き分けが、後半に集中していることもあって、戦績の割りに学の株は上がっていた。


 そして、本日38試合目、西宮北高校との練習試合。

 3回裏、先頭打者を四球から、2ベースのタイムリーを浴び、北高1点リードのまま、現在7回表、市西の攻撃。


「なぁ、俺らの戦法ってさぁ……バラしてええの? 予選まで隠してた方が、ええのんとちゃうの?」


 ベンチで対戦相手の選手データをノートに書き込んでる学に、横でバッターを応援していた尾木が質問してきたのである。


 おっそ! 遅すぎるわ! 38試合目でかよ!


 疑問に感じる点が幾つも在るこの練習試合、いつか聞かれるだろうと、予め答えを用意していたものの、聞かれないままに時は過ぎ、自分の戦術を信じてくれていて、もうそれを聞かれることなんて無いのかな?と思いはじめた頃だった。


「同じ疑問を思ってる奴がおるかもしれへんから、試合終わったら説明するわ」


「わざとやったんかぁー、やっぱりなぁー」


 コ、コイツ……質問しといて、答えも判っとらんくせに、やっぱりなぁーって……


 その後、試合は膠着状態が続き、結局、1点リードされたまま試合終了。


「今日は、ありがとうございました。また、機会がありましたら、よろしくお願い致します」


「いやいや、こちらこそ、ありがとう。俺らはええ気晴らしになったし、1年もええ勉強になったと思うわ。それにしても、自分の言うとおり、ピッチャーせんで良かったわ。あんなんされたら、受験勉強にまで引きずりそうや」


 北高の元主将は、笑ってそう言ういと、後輩が待つ野球部の部室へと向かい、学も校門前に待つ監督のワゴン車へと急いだ。

 校門前では、部員たちがスパイクからスニーカーに履き替え、荷物はそのままに、次々と校門から走り出していた。

 練習試合の相手先が10km以内の場合、その行き帰りは、必ずランニングをすることにしている。


「ここからやと、だいたい20分くらいで揃いそうだろうから、ちょっと急ごうか」


 そういって、学と他の女子マネージャーたちは、その場に置かれた部員たちの山のような荷物をワンゴンへ積み込んだ。


 来る時は嫌だった、北高前に続く、長くて微妙に嫌な角度の坂をドタバタと音を鳴らし、部員たちは駆け下りる。

 他校の生徒は、来る度に『あぁ、ここの高校に選抜されなくてホント良かった』と思うのである……ある小説が、この高校を舞台にしてアニメ化するまでは。


 15分後、部室にトップ集団が到着し、部員全員が揃ったのは更に5分後。

 全員が揃う頃には、部員たちの荷物も降ろし終わり、毎回行われている試合後のミーティング開始する。

 部員たちは、当たり前のように、部室に用意されているオニギリとお茶を手に取って食べ始めた。

 これは、学が許可というより、むしろ強制していることで、食べて体力をつけることと、また、噛むことによって、話への集中力をあげるためである。

 話に集中してもらうために、無駄話は勿論禁止している。


「今日は、みんな惜しかったな、前から言ってるように勝つことが目的じゃないとはいえ、勝ちに拘るのも大事やと思ってる。少しずつモノにしてる実感は、みんなにもあるやろうけど、俺の予想では、おそらく春で結果は出せない。やけど、夏には、夏には必ず、甲子園に行ける筈や!」


 一拍置いた後、試合中の質問に答えることにした。


「そうそう、尾木から質問があったんやが、予選まで俺らの戦法を隠さない理由――みんな知りたいか?」


「俺も、普通練習試合って、予選当たらない他の県にするから、チョットおかしいなぁとは思ってたや」


「南波は主将してたからな、その辺は疑問に感じるわな」


「あと、相手に2年が、たまにおらへんのが気になるな」


 部員でない監督までもが、この疑問に乗ってきた。


「なぁ、俺は……いつになったら投げれるんや?」


 オニギリを食べないままに、エースの川島は、少し不機嫌そうに、そう呟いた。

 全ての試合で、川島はピッチャーではなく、ライトをやっていたからだ。

 疑問点は違うものの、このタイミングで説明することにした。


「じゃ、川島のも含めて、順を追って説明する」

読んでくれて、ありがとうございます。

サブタイトルから、解った方も何人かいらっしゃると思いますが、作品中の「ある小説」とは「涼宮ハルヒの憂鬱」のことです。


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