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寝技にマグレ無し

2017/08/12 加筆修正しました。


読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。

「これまでに色々なスポーツやってきて、センスのあるヤツを見たことあると思う。努力では超えられそうにない壁を感じたこともあるやろう。まして、そんなセンスあるヤツらが、俺らなんかより良い環境で努力するんやから、正直追いつこうなんて無理な話や。だから、同じ練習、同じ戦い方をして、勝てる訳が無い。たとえば、小学生が同じ練習をお前らよりしたとして、お前ら負けるか? 負けへんやろ? 同じ練習するってことは、結局それって運任うんまかせにしてるってことや」


 まなぶは、一呼吸置いて、更に話を続ける。


「みんなは……寝技にマグレ無しって、聞いたことあるか? 立ち技には、センスが必要だし、オリンピックでもマグレで勝ってる感じの試合を観た事あるやろ? でも寝技には、それがない。寝技は、練習すればするほど、その費やした時間を自分の強さに変えてくれるんや。実際に、立ち技を捨てて寝技だけを極めた学校が、全国に行った例があるんや。俺は……野球ではバントが、その寝技に当てはまると考えている」


 学は、野球部員なら当然の知識を敢えて口にすることで、あたかも自分たちも、その『勝利』という答えに近い計算式がバントであると錯覚するように、順を追って説明した。


 1.相手ピッチャーの体力の消耗

  バッターにバントの構えをされれば、ピッチャーはその処理のために前方に走る、否、走らなければならない。例えそれがフェイクであったとしても、その構えを見ただけで体が動いてしまうように練習しているからだ。


 2.相手ピッチャーの精神の消耗

  バントをすれば、ピッチャーはボールをストライクから外すことが多い、つまりはボールが先行する。それを繰り返されれば、ピッチャーに苛立ちが生まれ、コントロールにも影響が出る。また、前方に走る際に躓き、足でもくじいてくれれば儲け物。さらに焦って暴投してくれれば尚いい。


 3.目を慣らすため

  バントをするために球筋をずっと見ていれば、目が慣れて巧くボールをとらえられるようになる。


 学が想定していた反論が、キャプテンの南波から出た。


「だいたい言いたいことは解る。でも、バントだけで点を取れってか? 押し出しでも期待すんのか?」


「寝技の柔道だって、立ち技をしない訳じゃなかったんや。如何にして寝技に引き込むかを考え、そのための立ち技や、一本にならない投げられ方を研究してたんや。一本さえ取られんかったらいいんやから、投げられてる途中で体捻る練習はしてたんや。バントはあくまで基礎、本当に大切なのは、その先にあるカット打法を身につけて欲しいんや」


「チョット待てや、カット打法はルール違反やろ?」


 南波が言うとおり、高野連の公式ルールには、特別規定というものがあって、事の発端ほったんは1972年のこと。

 地方大会で、カット打法を得意とする選手が二球ファウルした後に、球審が「もっとフォロースイングをしないと、バントとみなす」と注意を促したのだ。

 さらに2013年、花巻東高校の選手が注意を受けている。


「ルール違反やないよ、故意にやればスリーバント失敗となるだけで、退場になったり、負けになったりする訳やない」


「それでも、スリーバント失敗は痛いやんか」


「おいおい、どうやって故意か故意じゃないか見極めるんや。得意な球くるまで、カットしたらアカンのか? よく思い出せ、花巻東のカット職人も、フォロースイングしっかりしてるように見えたやろ? だから、問題になる試合まで、審判はずっと対応してこなかったんや。アイツがインタビューで『球数投げさせることが自分の持ち味』やと、余計なこと言うてしもうたんが、失敗やっただけや。もし、カットがアウトというルールになってみろ、ツーストライクからのファウルは、全てアウトにせんとアカンようになる。さらに、もしそんな警告を受けたとしても、それは相手チームにもプレッシャーが掛かることや。だったとしたらやで、それを見越して練習してる、俺らの方が有利やないか」


 部員たちから、一斉に『おぉ~』という関心の声が漏れた。

 学は、心の中で叫んだ。


 よかったぁー、コイツらアホで。


 学の話は、本当のことを織り交ぜながら、まるで答えが導き出されたかのように誘導したにすぎない。

 冷静になれば『それを見越して練習してる』は、普通にヒットを打つことだし、まして『俺らの方が有利』なんてことは無いのだ。


読んでくれて、ありがとうございます。


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