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プラカード  作者:
2/13

熱血甲子園

読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。


2017/08/12 加筆修正しました。

 プラカードのオーディションから一ヶ月後、まなぶは野球部に居た。


 当然のように、担任から猛反対され、入部できた今でも「考え直せ」と言われ続けている。

 普通に考えれば、進学校で二年の夏から、部活を始めるヤツなど居ない。学が在籍する理数系クラスなら、尚更なおさらだ。

 逆に、早めに部活を辞めて、受験に専念しても良いくらいで、校内トップである学も、有名大学合格者の一人として、その数に入る予定とされていた。

 しかし、長い説得もそこは公立高校、強制することまでは出来なかった。


 プラカードのオーディションに受かった女子生徒に、本番で代わってくれるように声をかける策も考えたが、幾つ策を考えても、失敗しか見えない。

 更に、オーディションの時は『面白いヤツ』とか『目立ちたがり』で済むが、これ以上は『頭の可笑しいヤツ』に確定されてしまう。

 もう学に残された道は、野球部に入って甲子園を目指すしかなかった。


 無論、勉強漬けの毎日だった学が、今から努力したところで、いくら弱い高校でも、そのレギュラーはおろかベンチでさえも入れないことは理解している。

 というより、そんなものを取る気も、欲しくもなかった。


 そう! 狙いは、あくまでプラカード、唯一つ!


 今頃入ってきたヤツが、野球部で役に立てる場所があるとすれば、それはマネージャー。


 実は、プラカード持ちには特別枠がある。

 それは、野球部の女子マネージャー。

 しかし、その枠を利用した人間は極僅かだったりするのである。

 その理由は、野球部が予選落ちしているのに、自分だけ出るのは申し訳ないからということだ。

 それを取れれば楽なのだが、男の学がその座を奪える訳もないし、たとえ、オーディションのように女装したとしても、行進練習に参加することさえ無理だろう。

 結局は、どう考えても男の学がプラカードを持つには、協力者が居るという答えしかなかった。


 さて、野球部に入れたまでは良かったが、目の前で練習する野球部員たちは、熱心に練習するものの、とても甲子園……いや、予選を勝ち抜けるようなうつわではなかった。

 県内には、野球で名を売っているような高校が幾つも在る。

 才能在るヤツが、必要以上に努力している、そんな高校に勝つためには、それ以上努力するか、効率的な練習をするしかない。

 勿論、公立高校としての限界時間がある為、午後8時までには校門から出ていなければならない。

 公立高校としての限界が超えられない状態での練習では、ほどほどに努力して、楽しく野球がやれればそれで良い、運よく勝てたなら儲けもの。

 学の目には、そうとしか映らなかった。


 可愛いマネージャーから「私を甲子園に連れてって!」と言われれば、部員たちも奮起ふんきするのだろうが、男に……しかも中途入部のヤツに言われても、逆に反感買うだけで甲子園への道は、余計に遠くなる。

 このままでは、研究した勝つための練習方法も、受け入れられないままゴミ箱行きだろう。


 だから、先に恩を売ることにした。


 知り合いが経営しているバッティングセンターを部費の余りで、全員が毎日通えるようにしたのだ。

 練習ではあるものの、バッティングセンターでのそれはゲーム感覚で、部員たちは毎日通うほどに喜んだ。


 それから、幾日か過ぎた或る日。

 バッティングセンターのオヤジは、タバコのフィルターを奥歯で噛み、吸っては消し吸っては消しを繰り返し、イライラをつのらせていた。

 それは、格安で貸していることが原因ではなく、チンタラチンタラと毎日楽しそうにやっている野球部員たちに対してだった。


 こいつら、ホンマに甲子園行きたいんか?

 ヘラヘラしやがって! 歯を見せるな! 歯を!

 

 もう、その光景に堪えられなくなったバッティングセンターのオヤジは、学との約束を破って、監督を呼び全員を集めさせた。


 学との約束……。

 それは、自分と学が知り合いでも何でも無く、学が三ヶ月間、雨の日も風の日も、このバッティングセンターに通い、部員たちを格安で練習させて欲しいと頼みに来ては、後片付けを無料で手伝っていたのである。

 その熱い気持ちに打たれたからこそ、月のタバコ代にもならない金額で、貸そうと決めたのだった。

 更に、オヤジはタダでも良いとまで言ったのだ。

 だが、学は「そこまでしてもらうのは申し訳ないし、それに少しでもお金を掛けて練習しないと、慣れてしまって練習がダラダラしてしまうかもしれませんから、少しでも払わせて下さい」と言ったのである。

 十分過ぎるほど、鶴田少年の気持ちは伝わり、オヤジはこう応えた。


「では、有り難く受け取ろう。だが、もし甲子園に行けたあかつきには、全額寄付させてもらうよ」


 もし、理由がこれだけだったのなら、一ヶ月は我慢して、約束を守っていたかもしれない。

 だが、オヤジには我慢しきれない、もう一つの理由が在った。

 それは、学がバッティングセンターに手伝いに来るようになって、二ヶ月が過ぎた頃。

 いつも手伝ってもらってる負い目から、タダで遊ばせてあげようと声を掛けたのだが、返ってきた答えは……、


 言うのは、今しかない!

 学君の居ない、今しか!


 学は風邪のため、今日は休んでいた。

 学が居ないという認識が、更にバッティングセンターのオヤジを熱くさせた。


「おまえら、なにチンタラ練習しとんじゃ! おまえらが、こうしてウチで練習できてんのも、学君がこの三ヶ月間一日も休まず、タダで後片付け手伝ってくれたからなんやぞ! 学君が野球できない気持ちを考えたことあんのか!

 学君はなぁ……学君はなぁ……野球やりたくても、重い心臓病で出来へんねんどぉー!」


 そう泣きながら叫んだ。


 監督、そして野球部員たちは、全てを悟った。

 学が男なのに、プラカードのオーディションを受けたこと。

 二年の夏になって、マネージャーとして野球部に入ったこと。


 男がプラカードを持つなんて出来ないと解っている筈なのに……

 誰よりも、甲子園に立ちたい筈なのに……

 その代わりを俺たちに……

 なのに俺たちは……


 部員たちは、陰で「馬鹿と天才は紙一重」だとか「プラカード(あだな)」などと呼んでいたことを恥ずかしく思った。

 中には、オヤジのように泣き出す者さえ居た。

 その熱い想いで部員たちは、自然と円陣は組み、想い以上に熱い雄叫びをあげた。


 翌日。

 グランドで激しく練習している野球部員たちを見て、学は笑うのを必死でこらえた。


 計算通りぃぃぃ!

 体育会系ってヤツは、熱い!

 そして何より、病というヤツに弱い!

 もし、俺が死んだりしたら、もっと甲子園へ行く確率は上がるやろう。

 まぁ、死なへんけどな!


 あとは、このデク人形ども巧みに操って、甲子園や!


 しかしそれにしても、予想以上にバッティングセンターのオッサンの口は軽かったなぁ。


読んでいただいて、ありがとうございます。

今後も、がんばります……たぶん。

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