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11/13

Probatio Diabolica

読んでくださる方に、合う作品であることを祈りつつ。


2017/08/22 修正済み。

 俺は……ただ……

 ルールを……守っただけなのに……

 な、なんで……こ、こんなことに……


 その男は、気温が与える熱とは別の要因によって、多くの汗を掻いていた。

 否、掻かされていた。


 男は、野球が好きだった。

 特に、高校野球が大好きだった。

 この中からプロになる選手が、そして、10年に一人の怪物と呼ばれる選手が現れることに、心躍らせていた。

 ただただ野球が好きで、出来る限り近くで見たいという衝動が、捕手の真後ろまで来させるようになっていた。

 審判をするにようになって12年。

 全国大会の主審をしたこともあった。

 まさか、別の意味の怪物が現れるとは、思ってもみなかった。


 俺、なんか悪いことしたんか?


 今日ほど、否、審判員になってから、ジャッジをすることが嫌になったのは、初めての経験だった。

 一球一球のカウントが、異常なほど緊張と恐怖で、いつ心臓が破裂しても可笑しくない気分だった。


 そうだ、この試合が終わったら、審判を辞めよう。

 やっぱり、涼しい部屋で横になりながら見るのが一番だ。


 まるで、どこに投げても打たれると思ってしまったピッチャーのように、主審青木の心は折れていた。


 時間を遡ること、30分。


 市西の選手たちは全員、2ストライクに追い込まれるまで、バントの構えをし、その後、ストライクをカットするという手段を取っていた。

 二回までは、様子を見ていた主審の青木も、2013年花巻東高校の例もあってか、市西の戦法を行き過ぎと判断した三回の表、塁審たちを呼んで協議したのち、同意を得た上で、市西の主将である学を呼び注意を促した。


「市西のカットは、目に余るものが在る。次、カットすれば、特別規則19項により、バントとみなし、アウトカウントを取る」


「解りました、主審の裁量にお任せします」


 予想してたよりも、あっさりと受け入れられたことを意外に思ったが、やはりスポーツをやる高校生は違う、その気持ちの良いスポーツマンシップに笑顔で頷きながら、試合を再開しようとした、その時。


「あぁ、主審。ひとつ聞き忘れていました。特別規則19項ルールなんですが、もちろん、明確な基準が在ってのことですよね?」


「もちろんだ」


「予め、教えて頂けませんか? その基準を」


 そのジャッジを不審に思っているかのような発言に対して、嫌味を含めて答えた。


「フォロースルーが、しっかりしているかどうかだよ。戦法として使ってるのに、そんな事も知らんのかね?」


「申し訳ありません、勉強不足で」


「それでは、始めるよ」


「あぁ、あともう一つ」


「なんだ、まだあるのかね?」


 苛立ちを少し露にした。


「もちろんですが、相手側も適用されますよね?」


「当り前だ!」


 主審の青木は、語気を強めてそう答えた。


 その後、注意を促したが市西は戦法を変えず、アウトを重ねチェンジとなった。

 そして、三回の裏、川西北陵の攻撃、1アウト2ストライクで早速問題が発生する。


 打者の打ったボールがチップして、ボールがキャッチャー後方へ流れた。

 主審がファウルのコールをした瞬間、市西の監督がタイムをかけ、主将の学が主審へと走る。


「なにかね?」


「明らかに、我々より、フォロースルーが足りませんでした。今のはスリーバントでアウトの筈です」


 確かに、打者のバットは振り切ってはおらず、カットとみなされても可笑しくは無かった。


 青木は、返事に迷った。

 本音で言えば、回数が明らかに多く、カットを目的としているように見えるからこそ、市西の選手をアウトにしたのだ。

 しかし、それを言うことができない。

 さっき「明確な判断基準は、フォロースルーだ」と言ってしまったからだ。


 青木は苦し紛れに、


「今のは、ヒットを狙ったがファウルになったと判断した。君、そうだね?」


 言われるがままに、川西北陵の選手は頷く。

 しかし、それが更に主審青木の首を絞めることとなる。


「では、我々と今のファウルとの違いはなんです? どうして、我々だけがヒットを狙っていないと言えるのですか?」


「それは、君たちは明らかに回数が……」


 つい本音が漏れた。


「回数? それは何回ですか? 何回すればアウトにすると、規定に明記してないのに判断されるのですか?」


 時間が掛かっていることを不審に感じて、塁審たちが寄って来た。

 そこで、主審の青木は、塁審たちに尋ねてみた。


「私は、今のはファウルだと思うのだが、君たちの意見も聞きたい」


「今のを市西と同じように、バントとしてアウトにしろと言ってきたのかね君は?」


 塁審の佐々木は、驚いて学の方を向く、


「はい」


「言いがかりも甚だしい、君は19項の全文を知らんのかね?」


 そう言われ、学は全文を読み上げた。


「2015年版、高校野球特別規則19項。バントとは、バットをスイングしないで、内野をゆるく転がるように意識的にミートした打球である。自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルにするような、いわゆるカット打法は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある」


「そうだ、判断する・ば・あ・い・も・あ・る、ということだ。よって、今のはファウルだ」


「可笑しなことを言いますね。審判の好き嫌いで、判断するということですか?」


 佐々木は呆れ、この会話自体を終わらせることにした。


「これ以上は、遅延行為とみなすが言いかね?」


「では、そのジャッジを提訴します」


 その言葉に、佐々木は鼻で笑った。


「高野連に提訴したところで、答えは同じだよ」


 学は、ニヤリと厭らしく笑って、


「誰が、こ・う・や・れ・ん、と言いました?」


 その言葉に、審判たちは凍りつく。

 ただでさえ、2013年に賛否両論に別れ、苦情も多かった。

 だがあのレベルのカットマンは、早々現れないだろうと、2015年版でも残された。

 それはもう、ただ、1972年に下された審判は正しかったのだと、保身ともいえるプライドのために残したと言わざるを得ない。

 裁判になれば、おそらく負ける。

 コチラの映像は、どちらですか?などと問われたら、その違いを説明が出来ないからだ。

 特に、市西の選手たちは、2ストライクになるとバスターのポーズを止め、通常の構えからカットを行っていた。

 フォロースルーも申し分ない、ただ、カットの数が多過ぎたというものだ。

 明確な記述がなく、判断は各審判に丸投げした、曖昧で証明が出来ないが存在しているルール、それが19項だ。


「しっかり、映像も押さえさせてもらいましたよ」


 学は、止めを刺した。


 裁判になれば、自分たちの名前が公表される。


「そんなことをすれば、君たちも……」


「高野連が、僕たちを出場停止に? 出来る訳ないでしょう。暴力沙汰ならともかく、ルールの改訂を求める抗議なんですよ。高野連がしたくても、世間が許しませんよ」


「き、君は何か? わ、我々を脅すというのか?」


「脅し? どうして脅しだと思うのですか? ジャッジは正しいのでしょう? 堂々とこのままジャッジしてくださいよ」


 そう言って、学はベンチへと下がる。


「ちょっと待ちたまえ!」


「遅延行為とみなされたくないので、帰ります。どうか、公平にジャッジをしてください。青木さん、佐々木さん、田中さん、矢野さん」


読んでくださって、ありがとう。


タイトルの和訳は「悪魔の証明」です。

意味は、証明することが、非常に困難な命題を証明すること。


個人的見解ですが、花巻東のカットマン(プロではないの名前は伏せますね)は、40年に一度の本物の怪物だと思います。

私がスカウトマンなら、彼を一位指名に押しますね。


かの巨人のバント職人、川相昌弘選手のように、長く活躍できる選手だと思います。

現在は大学なのだそうですが、ぜひ、スタイルを崩さず、もう一度、あの素晴らしいカットを見せて欲しいものです、阪神タイガースで!


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