魔族との対話
「では、魔大陸にある油田よりこの前ドッコウ諸島で報告された海の向こうに石油プラントを建設した方が良いと?」
「はい、陸部だとまた最初っから鉄道を建設しないといけないこと、そして魔物がいます。ですが海からの輸入だと主要都市部から近いそして既に構築された石油ルートのインフラが整っています。」
「魔大陸に吹き出すほどの石油がねぇ。」
人民解放軍は魔物と呼ばれる新種の生き物、モンスターの撃退に成功したのちそのまま北進を進め遂に前線を国内から消すことを成功した、そして後方を魔大陸内に設置すると言う快挙を成し遂げたのだ。
そしてそこに調査隊を送った結果大きな油田があると報告がなされ、今その対策の会議を行っているところだった。
「魔大陸に安全圏ができたのは良いが、そこにもやはり”いる”のだろ?」
文官が深緑の制服を着た張ライに質問を投げかけた。
「はい、”います。”ですので軍がハンターという特設部隊を作り残党狩りを行っています。と言っても人間と違い巣を見つけたら火炎放射で焼き払ったり毒ガスで殺したりする対処法ですので駆除に近いですが。」
「人間と違って簡単だな全部振り分けせずに処理できるからね。」
「あぁ人間の戦闘はもう御免だ、報告によれば我々が魔術の初歩の習得に10年はかかると聞いた、だがその10年の学習を無視してそのまま戦闘に入るのは危険だ。何せ人間は学習する。加えて我々はこの世界に対してあまりにも無知だ。」
だがその軍部が一番懸念していたことを引き起こすかも知れないことが起きた。
「大変です!魔大陸で知的生命体がっ!」
元ロシア連邦極東地区(現魔大陸)
「・・・あれも駆除の対象ってわけじゃなさそうだな。」
グレーというより黒い雲そして岩だらけで草が少ない土地はまるで地獄のような土地、そんな土地の中4台の戦車は目の前の軍勢に足止めを喰らっていた。
戦車長は嫌な予感をして機銃から手を離し中へ避難した。 主砲に徹甲弾を込める、あのドーム対策だあの強固なドームはそれで一瞬とはいえ徹甲弾だとその物理エネルギーだけ(と言っても人が死ぬレベル)が貫通することが判明した、だがすぐに回復しドームその物がが消えることはないが。
「あいつら言葉を・・・」
「魔物は話さないんじゃなかったのか?」
明らかに目の前に見えるのは半分人間の形をした何かが、人型の魔物と接触したことはあるが知能まではなかった。しかし今目の前にいるのはあの時の魔物より人間寄りで話し合いが通じそうだった。
「攻撃しますか。」
「勝手にするわけには・・・うん?何か明らか人間寄りで明らかに人の領域に住んでいそうな場所からやってきたような・・・そんな感じの人種までいる。おっ猫耳!」
「戦車長?」
「俺の本能が言っている・・戦うべきではないと。」
「駄目だコイツ早く何とかしないと・・・」
4台で編成された62式軽戦車のはその奥地で歩兵の援護を頼まれたはず、だがその途中でそれを見つけた。
彼らは完全武装をしており、鎧そして何より石器や錆び付いた斧を使用していた今までの人間系の魔物と違い一線を越えていた。
「まともな装備に、金がかかっていそうな部隊。隊長は女性、外見だけだと貴族かな?あれだけ反射するぐらいピカピカな鎧だ、貴族でないにしろそこそこの地位だろうな。」
魔物に貴族という概念があるかは別だが、流石に指導者のような立ち位置はいるだろうと思った。
「貴国はどこの国であるか?未だ我が国に侵入していないとはいえこれ程の軍勢を動かすとなれば静観を続けるわけにはいかない。」
大きな声でその貴族と思わしき人物が出した。
「我々は中華人民解放軍の者である、我々は現在国境に侵入した脅威の根源を排除すべくここに出陣した者なり。あなたに我々の行動を阻害される覚えは無い、また貴国と国交を結んでおらず。・・・って勝手に言ったら上官に殺されるしな。ちょっと拡声器あるか?」
「いえ、雑誌があるのでこれでメガフォンを作ってください。」
戦車長のアニメ雑誌をメガフォンに変えて渡すと本人はそれをすぐに広げて戻し、代わりに資料用として配布されたRPGのモンスター図鑑を丸めた。
「我々は中華人民共和国解放軍、蘭州軍区第57自動車化歩兵師団所属の者である、貴官は特使とみてよいか?」
メガフォンで怒鳴りつけるように言うと相手はそうだと返事した。
「了解した、今から連絡をとる。」
彼はすぐさま無線機でこのことを司令部に伝える、知的生命体の存在を知った北京政府は大きく動揺したものの特使を迎え入れ丁重に扱うよう命令をした。
「案内しますので着いてきてください。」
すると恐竜サバイバル映画に出てくるラプターのような生き物に乗り戦車の近くに寄りつく、防弾ガラス越しにその姿を視認した操縦者は少し顔を引き攣らせたものの戦車の中だから大丈夫だと言い聞かせた。
「後ろでは無く横から着いてくることをオススメします、排気ガスがヤバいんで。」
「言われなくともそうするわい。」
中国兵に聞こえないように愚痴をもらした、現に近づいただけでこのラプターもどきは排気ガスの臭いを嫌がった。
「早かったら言ってください、騒音がうるさくてもあれほど大きな声ならば聞こえるでしょうし。」
「了解した。」
最初は30km程の速度を出していたが平気そうなので徐々に速度を速度をあげ、巡航速度の40km台に入っても普通に着いてきていた。
『こいつらの乗っている恐竜モドキ、中々の体力だな。下手すればそこら辺のバイクより使い勝手が良いぞ、いやそれどころか山岳地帯だとバイクやキャタピラの乗り物より・・・』
このことをレポートにまとめて報告するべきだなと考えた戦車長はメモ帳に40kmで並走する能力ありと書き記した。
しばらくすると地平線の向こう側に鉄条網とコンクリートのバリケードを設置しただけの中国軍の簡易要塞があった、敵は獣で銃のような物は使ってこないが飛び道具や魔術的な攻撃に備えて念のため塹壕も掘られている。
「奇妙な構築だな。」
ウァリエタースは素直な感想をもらした、結界構築の装置もなければ要塞を作っているようにも見えない、適当に壁を並べて適当に針金を敷いて中途半端な地下要塞を構築しているようにしか見えなかった。
「それにしてもあの乗り物は一体。」
彼女は中華人民共和国と名乗る国家に所属する軍隊、つまり戦車に興味を示した。一見ゴーレムのようだが強そうに見えない、というより何で筒なんてものつけているのかとさえ思っている。
通常ゴーレムは人形か動物や虫を模倣したものを作る、例えば蜘蛛のゴーレムに刃と何かしらの飛び道具を装着させる等。だがこの乗り物にはそれが無い。
エクスプロードを搭載した長距離型支援の乗り物と同じ類だろうか、しかし彼らと会った場所は山岳地帯しかも彼らを引き止めなければもっと険しい場所になるはず、そのような場所に長距離ようの乗り物を持ち込んでも邪魔になるだけである。
「全く良く分からぬな。」
・・・・・・・
「北京政府は何と?」
「大使館に手紙等をスキャンして送信しろだと。」
「この世界の文字なんて読めませんよ。確か翻訳魔法でしたっけ?それがあってやっと会話できる物を・・・せめて漢字がこの世界にあったら幾分楽だったんだけどな。」
「だな・・・」
迷彩服を着ているだけで戦闘能力はあまり無い方である彼らは今の状況をかなり恨んでいた、ただでさえネットが寸断され色々麻痺している状態だ、思うように情報を送受信できないのでそのストレスはピークに達しそうだった。
「さて、中央には頑張ってもらうぞ。何せ我々よりいい環境の筈なんだからな。」
モニターによって照らされた彼の顔に笑みが映し出された。
「遅いな。」
「五時間は経っているな。」
あの後兵力を野戦要塞に呼び戻し余計な行動をとらせないようにした。
北京にいる官僚の人間とおそらく何かしらのやり取りをしていることだけは分かるが、どうするつもりだろうか。
今後モンスターの巣を駆逐できないようであればまた国境を超えてくる可能性があるまたここから東の地で油田が見つかり、何としてでも手放すことは無いだろう。
「お、貴族さんが帰ってきた。」
戦車長はアニメ雑誌を自分の愛車の中に入れて双眼鏡で観察をしてみると彼女の顔はどこか満足げに見えた。
「成果ありって顔だけどうちはどうなんだろ?」
一番の問題は中国が損をしていないかであった、彼はいい加減な性格であるものの中国を守らんとす軍人、国益に反することがあればそれなりに嫌な気分になる。
「戦車は小隊に分かれて歩兵の援護をしろ!あと二<アール>小隊は火炎放射器を設置するからここで待っていろ!」
「あ、結局自分たちは働くんだね。」
「ウァリエタース姫、信じられませんなそんな巨大国家が転移してくるなどと。」
「近々父上に上告せねばならん。あと国境の件もすぐに話をつけねば駆除を理由に進撃しかねん。」
もう既に未開拓値の半分近い領土は残念なことにチュングア国軍が進出していっている、また元々自分たちの領土でなかっただけに口出しができない。
彼女たちは比較的知能を有する高位魔族に当たる。ここから西の方角に彼らの首都や町と言った設備がある。いわばここは未開拓地なのだ。
何故調査に赴いたのかと言えば急に魔力反応が消えたのだ。それだけでも大騒ぎだというのに知能を有さない下級モンスター、魔力を帯びただけの獣が急激に南下を開始した。
最初は何かの災害が起きて大規模な犠牲者でも出したのだと判断したがどうやら違った様子だった。
東方をおさめているドラゴン一族を筆頭に南部の攻撃を開始したのだ、南部には人間の世界がある。かつてその大陸も人間の土地ではあったがかつての指導者、魔王が人間を追放することに成功した。
だがそれ以上のことは行わなかった、何故ならば大きな海を超えてまで人間を根絶する理由もなければそんな面倒くさいことをする必要もないのだ。
時々下級のモンスターが人間の大陸に流れ込みそれが人間社会でそこそこな問題を起こしているが決して政府の意図でもなければ、ドラゴンの命令でもない。
因に何故下級モンスターはドラゴンの意思に従うのかといえば、飼いならすのがある程度知恵のある魔族よりも飼いならすのが上手なだけだ。
しかしどうなるのだろうか、ドラゴンからしてみれば自分たちの土地に買ってに人間が入り込んだように思うだろう。縄張り意識の高いドラゴンはチュングアを襲ってしまった。
彼らの立ち位置は簡易的にとは言え把握できた、例え魔物が侵攻しなくとも彼ら自身が北進を行っていただろう。
「問題はどう付き合うかだ。」
魔法の知らぬひ弱な人間だとしても13億という人口は明らかに異常な上、彼らの使用する魔導兵器も異常だ。はっきり言えばここまで不思議なものを見ると何とも言えないし、下手に手を出せない。
「どちらにせよ、隣人になった以上彼らと共存するしかあるまい。」
まぁ立場はこちらが上だがなとウァリエタース姫は心の中でつぶやいた。