新参者への挨拶
「駄目だ、全然魚が取れない。」
ウニオー大陸から西へ500kmそこにドッコウ諸島とその中で一番大きな島ドッコウ本州の港でレベルで言えば2でもなければ3でもない、つまり2.5程だろうか。
「しかし何故だここ一か月全くと言ってもいいぞ。」
流石に役人もおかしいと思ったのか調査に乗り出すことになる、そこで分かったことは半年前から急激に漁獲量が減り、最終的にほぼゼロに近い状態になっていた。そしてその半年前に何があったかは調査をせずとも半分決めつけていた、どうしても同時期に、そしてタイミング的にもそうとしか考えられないのだ。それは国家でありそして人災である。その国の名前を彼らの文字で表記するとこうなる”中華人民共和國”
しかし証拠もないのに抗議するわけににもいかないために情報集めを行うことになり、その第一段階としてチュングア人の商人と会う方法から考える。
だが、それは予想以上に困難を極めた、それは彼らが予想以上に閉鎖的で外に出ようと考えてこなかったからだ。チュングア町と呼ばれる町で引き籠ってばかりだった、またここには市場が小さい、商売のチャンスがないと言って数もそうそういない。商人の数より外交官のような警戒心が強い者しかいない、つまり
「抗議ができない。」
情報が全く流れてこない、チュングアの船の船員に会うことさえできない状況だった。船乗りであれば漁業に関してある程度は知っているだろうと思ったが。
「女性を雇って、ハニートラップでも仕掛けるか?」
「あの野蛮人に抱かれたいと思うやつがいるか?」
タバコをふかしながら漁港の小屋の窓から海を眺める、そこには国から配給が成されており、それを求めに来る漁民であふれていた。
その中で紅茶をすすりながら海に浮かぶ葉巻を眺め、チュングアの船って大きいな列強国並みの船だぞと素直な感想を言う。
その男の言う通り、チュングアの船は島の様だった。しかもその黒い船は貨物船であり軍艦ではないと聞いた、そしてその周りで灰色のオマケみたいな船が軍艦だと言う。
「しかしあの黒い船ボロボロですね。」
双眼鏡から見るとその船は見て分かるようにボロボロだった、あちこち錆びついており、塗装もはがれかけている。仲間はボロボロだと評しているが、そのボロボロの部分から出ている錆に脅威を感じた。そして彼からしてみれば海軍の船よりも巨大な船とそして鉄という重い物を使っている彼らの船が信じられなかった。
どんな国でも木製であり、鉄を使用するとしても金具として使用する程度で大きさに至ってはルイーマ共和国やバージリ王国でさえ150m級が一般的だがあの船は300mは超えている、彼らの戦闘艦は大きさこそ一般的な列強と同じだがあれより強大な戦闘艦を持っていても不思議ではない。
彼らの船は使用用途が良く分からない多く、特に異様に目がひきつけられる船と言えば二つの船を一つにまとめた様な不思議な船だ。『北調991』とペイントされた白い船は時々軍艦と消えたと思えばまたこの港へ戻ってくるという不思議なことを何度も何度も行っていた。
また逆に『科学号』と塗装された船も時々帰っては消えての繰り返しである。
一体何をしているのか。
任務とは関係のないことを考えているときに待ちに待った機会が舞い降りる。
「チュングア人が案内と護衛を頼んだようです。」
部屋に入ってきた組合の長がそう報告した。
「測量艇を使用するにあたって現地の案内をつける、加えて我々の護衛として軍人が同乗することになる。」
測量艇の船長はそういう、その測量艇は玉青型の上陸艇を改良したもので、ノルマンディー上陸作戦に出てきそうな船だった。
「これ、隠しておきますか?」
船長に61式の対空機銃を隠すかを聞いたが隠す必要はないと回答した。
「見たところで分らんだろう、逆に自衛用の武器一つ持っていないと勘違いされる方が不味い。」
そう言って艦長は腰に清龍刀を下げている、そして他の乗員はそれに加えて85式サブマシンガンをぶら下げていた。
「ライフルに銃剣じゃないんですね。」
「ライフルで交戦するより逃げまくれというのが方針だからな、小銃を使うときはもう終わりの時だならばいっそのこと命中率よりこれの方がいい。」
「護衛艦もついてくるんですか?」
「いや、座礁する可能性があるから最低限自分たちで身を守れだと。」
「せめてロケットランチャーが欲しいですね。」
「無茶を言うな、機関銃でも当てるのが難しいのにロケットランチャーなんて外れるだけだぞ。」
小型艦は特に波の影響があり、射撃は困難を極めるこの時空中で炸裂させるように設定をすれば命中率は大幅改良されるだろうが、そこまでの職人技を鍛えるのならば機関銃を撃ちまくればいい。特に調査艇の人間がそこまでの訓練をする必要はない。
『しかし不安であることには変わりはない。』
今回監視と言う形で現地の軍隊が付いたが、実際は現地の海賊などが怖いからという理由からしてつけた、何も知らない人民は情けないと文句を言うだろうが魔法と言う得体の知れない何かを扱える相手に下手に手出しできないのだ。
加えてドームの一件がある、そのドームは榴弾やロケットを十発も防いだと報告があった、また時間の間隔が広ければ回復し何十発も耐えていたドームもあり下手をすれば何時までも破壊は出来ないのではと懸念もあった。
「ルイーマ共和国の都市にもドームの機材があったしな。」
「魔法使いですか・・・怖いですね。」
「怖いで済む問題か。とりあえず対処法がわかるまでやるしかない。」
その時手漕ぎボートでやってくる騎士団一向を見て、部下はやはり護衛は必要ないのではと心の中で思った。
ディーゼルエンジンを始動すると耳障りな音がドドドと鳴り響く、排気口から黒い煙を出し折角環境問題もないきれいな土地でお構いなくガスを出す。もし欧米や日本だと、環境を配慮せよと文句の一つや二つでてきそうだが幸運なことにその国々は存在しない。
中国にはない新鮮な空気を味わいながら漁船の如く沿岸部を一周する。
「結構深い、駆逐艦が停泊できるな。」
「ここからとれるのは木材ぐらいですかね?」
「それでも大型輸送船が使えるだけありがたい、中継地点としては大いに役立つ。」
「でもここから西ってバージリ王国だっけ?なんか厄介な国らしいぞ。」
「でも商売相手としていいかもしれないだとよ。」
その国の町の印象はルイーマ共和国より野暮ったい印象を受けた、例えで言うならばルイーマ共和国が某リンゴ社のスタイリッシュなパソコンででバージリ王国は理系が作ったゴテゴテのパソコンのようなイメージだ。
ルイーマ共和国では空中浮遊の馬車をよく使用するがこの国では政府機関でも車輪を使用している。ルイーマ共和国が異常なだけであり実際は中国人の勝手な感想なのだが仕方のないことだった。
「ん、船が空飛んでいる。」
「本当に異世界だな。」
木製の船に帆を張って進んでいた、彼が新聞で見た
あの宇宙船のような船は何だったんだろうか、急に未来チックなデザインから中世のデザインに逆行している。
そのギャップが少し船長の違和感を感じさせた。
「この煩い音は何とかならないのか?」
鎧ではなくローブと簡単なレザーアーマを身に着けた騎士と魔法使いが艦測艇を見てそういった。
「仕方ない。」
「そうか、無理言って悪い。」
「ここには、海賊が出るんだってな?」
「ああ、バージリ王国で起きた戦争が原因で出没が酷くなってな。」
「戦争、何かあったのか?」
「何でも黒い油みたいな物が事故で吹き出てな、それが地下の水脈に当たるようになって・・・まぁここから先は言わなくても分かると思うが、バージリ王国は周辺国にってこと。」
「黒い・・・油みたいな物?」
船長は表情に出すな、弱みを掴ませるなと心で呟きながらその情報を抜き出そうとする。
「それってこの地図で言うどの辺か分かるか?自分がしなくとも世界地図がどっかの筋で手に入るからやらなくても良いと思うが。」
印刷された大雑把な地図を見せると彼は指で沿岸部を指す、そしてそこから40km離れた場所に例の周辺国の国境があった。
「不憫だな、侵略された国は。」
一番不憫なのは魔大陸とつながっているアンタらだよと騎士は言いかけたが、そこでその言葉をするほど彼は愚かではなかった。 そして船長はこのことを一刻も早く報告をせねばと思ったその時だった。ズシャーと波を切る音と複数の山賊みたいな男集団。
「海賊だ!機関最大全速!」
排気口から真っ黒な煙がより一層吹き上がり、エンジン音がより一層鳴り響く。
「測量中に攻撃を受けた、攻撃ヘリによる至急支援を乞う!」
61式の対空機銃に初弾を装填し敵に照準を付けた、そして船長は地図に丸を書き部下に渡す。
「いいか!この写真をパソコンで送れ!」
中国には広大な国土ゆえに通信などが重要視されている、特に内陸部ではPHSの普及率が日本より超えている箇所さえある。
だがここは異世界だ、加えて全ての人工衛星が消えた。通信衛星の重要さと便利さを知っている中国は直ちに衛星を打ち上げれる余力があるうちに打ち上げる、GPSや通信衛星などロシア製の資材や日本製を代表とする電子機器の部品が枯渇する前に出し惜しみなく使用し作った人工衛星だ。
無線そのものは問題なく、一部の場所を除き使用できる。だがいずれ無線はどこかで何らかの形で流出し暗号文を使用しざえない状況に陥るだろう。 そして今、功をなし石油があると思われる場所を記した画像を衛星を通じて送られようとしていた。
「ここはわれ等に任せよ!」
杖を敵に突き付け魔法陣が現れたかと思うとそこから青白い光弾と炎が打ち出される。
だがそれは殆ど外れたり当たっても目に見えない透明なドームで防がれていた。
「あいつら結界を使っているぞ!」
「兵士崩れの連中だ!」
その時だった船の上空に一人の男が何かを発射したそしてそれは61式に衝突した。
「うおっ!?」
引火した61式の弾丸はあちこちに飛び散り上空から攻撃した男さえも絶命させてしまった。
「艦長!」
85式を抱えた部下が指示を請う、援護はまだか救援はまだなのか、ここで手に入れた観測のデータもついでながら送信しているが今の攻撃で衛星用の器材が壊れてしまった。
つまり今使えるのは無線の音声のみ。
「正当防衛!」
85式を乱射するように発砲するがドームで防がれてしまった、彼らは結界だといっていたのだがその攻略法を聞くのを忘れていた、だが今聞くことはできない、なんせあの爆発で死亡または瀕死の状態だったのだから。
「となれば北方防衛のように力技で突破するしかないのか。」
だが可能なのか、61式の機関銃を失った自分たちに残される武装は85式の拳銃弾を使用したこの武器だけだ。
なぜライフル弾じゃないんだ、なぜライフルを持ってこさせなかったとさっきとは真逆のことを思ったがすぐに持っていたとしてもあのドームをつぶせるとは到底思えなかった。
船はもう動かない、あとは拿捕されるのを待つだけ、だがここに積まれている器材は絶対にとられてはならない、取られたところで使い道はわからないだろうが技術流出につながるかもしれない。
その時だった、彼らが船から乗りあがり占拠を始めようとした、むろんこれに対抗して応戦する、するとどうだろうか船で近づいていた時よりも圧倒的な弾幕を彼らに降らせることができた。
距離にして10mもない、数人分の7.62mmシャワーを浴びせられた結界は消え魔法使いとその周りにいた海賊を肉塊に変えていく、そして次に上陸した敵もその弾幕で倒すが。
「この蛮族風情が!」
彼らが打ち出した光弾が船員に当たるとグシャっと骨が折れる音とともに地面に崩れ、中には肉がえぐれて血を出しているものさえもいた。
「それはこっちのセリフだ!」
もはや装填している暇さえもない、清龍刀を抜き切りにかかるがそれ以上の速さでナイフを腕に投げつけ抵抗ができないようにされた。
「貴様ら、こんなことをしてただで済むと思うなよ。」
中国軍兵士は剣を向けられているのにも関わらず敵意をむき出しにしていた、それが気に食わなかったのか海賊は抵抗のできない彼の顔に足を挙げた。
「魔法の一つも扱えない蛮族が何をほざく、しかも碌なものを持っていないな。」
異国の珍しいものでも期待していたのだろうが実務的なものだけで殆ど使えないものばかりそして使い方を知らなければ宝の持ち腐れのものばかりだった。だがそんな彼らでさえ惹かせたものがある。
「しかしこのパイプみたいなものは何だ?明らか魔法じゃないだろ。」
屍から剥ぎ取った85式を珍しそうに海賊の一人が見ている、この武器が他国に渡れば大きな損失になると説明を受けた彼にとってそれは耐え難いものだった。
中国政府はこの世界の技術力の高さ、そして魔法技術に恐怖を感じていた、外見が中世の人間の国でも下手をすれば武器の再現ができるのではないのか。
頑丈でシンプルな構造が特徴である共産側の武器を中国は初めて恨んだ。魔法を使える上に銃を大量生産でもされては・・・
「この船、なんもねぇや。この騎士の鎧でも剥ぎ取りやすか?」
「よせ、雇い主に殺させる。」
『雇い主に殺される?』
どういうことか、こいつら宝が目当てじゃないのか?
その時だった。
ヒュンと甲高い音とバシュバシュという着弾音。何事かと思えばそこには赤い薔薇が咲き乱れていた。その一瞬の薔薇は彼の顔に降りかかる。
「うちの船員に手を出すな蛮族が。」
船長は拳銃を発砲してその海賊に向かって発砲をした、だがその船長が次の言葉を発することなく彼も同じく薔薇を咲かした。
「やかましい蛮族。」
黒いローブ姿の男がいつの間にか小さな杖を構えており艦長の頭をはじき飛ばした。
その黒いローブ姿の男は普通の男性ではないことが兵士は直感で分かった、彼が現れたとたん海賊の態度が急に固くなり緊張を通り越して驚いてさえもいた。
「こいつを連れて帰るぞ。」
船よりまず自分の回収が目的、正確に言えば中国の情報が欲しいのだろう。しかし何故軍人である自分を拉致するのか、確かに軍人は戦死もあれば行方不明になるケースが多い。だがこの状況下では下手をすれば外交問題になりかねない。
何故なのか、彼らは一体どこの組織でかつどこの国の人間なのか。
彼は言葉を発しようとしたがそれは叶わなかった、それが最後の光景で最後の瞬間であったのだから。
「グッ!」
分身の魔法を使用した魔術師が急激な精神汚染に見舞われて膝を地面に下した。心配した部下が駆け寄るが鬱陶しそうに手を振り遮る。
彼自身も何が起きたのか分らなかったのだ、分身相手に精神汚染を行い本体に攻撃する手段はあるがこのように一瞬で起きることではない、つまり分身の体がバラバラになったとにしか考えられなかった。
だがどうやって殺したのか、殺される前であればリンクを外せば問題はない、だが相手はリンクを外す暇さえも与えずかつそれさえも気づかせないようにしてそれを実行した。
「あの蛮族一体何をした?」
にじみ出る額から恨めしく天井を眺めた。
「攻撃完了、周りの脅威を排除する。」
陸軍所属WZ-9ヘリは魔法によるテレポートによって味方の拉致及び情報流出を恐れて攻撃を断行した、無論船員に当たる可能性もあったが拉致さて技術流出をすることを考えれば軽いのかもしれない、どちらにせよ生きていられなかったのかもしれないのだから。
しかし何故陸軍が出動したのか、頭文字は全く違うが同じ機体を使用している海軍のZ-9Cヘリとは運用方法が違う。 WZ-9は”武装”ヘリであるのに対し、Z-9C対潜用のヘリである。つまり潜水艦(クラーケンのような海中の生物)を叩きのめすための物であり、機関銃などは装備していなかった。簡単なガンポットは装備してあっても威嚇程度しか使用できずボートに乗った人間であるならばなおさらであった。
対してWZ-9は武装ヘリであり、アパッチのような攻撃ヘリでもある。機関銃もZ9-Cと違い手でガチャガチャとガンポットを操作し主導で目視で狙う物ではなく、デジタルと連動して弾道などを計算しつくして発砲することができる装置を陸軍所属WZ-9は兼備えている。
ならば何故海軍にその装置を付けないのかと言われているがそれは簡単な理由だった、「使った事もない物をいきなり一度二度練習しただけで使いこなせるわけがない。」
つまり今まで使ったことのない物を使えと言われても無理な話である。
そこでこのような海賊対策で駆り出されている。
元世界で海賊狩りの経験のある特殊部隊も同行させるべきだという声も上がったが、彼らの仕事はそれ以上に国土防衛と”別の任務”に当たっている。
「行け行け!」
後から来たZ9-Cから投下されるのは95式を構えた海軍所属の特殊部隊だった、無論動くものはないと確認を取っている、あとはどれだけの生存者がいるかだ。
「あの黒ローブは・・・?」
「大丈夫か?」
間一髪拉致をされる前に助かった。
「黒ローブが・・・」
「どうした?」
その時に気付いた、彼の周りに黒いローブの切れ端と死体がなかった。
「死体が・・・ない?」
『これも魔法ってやつか・・・』
ボロボロになって使えなくなった船、そしてほぼ全滅状態になった現地軍そして無残な姿をさらした中国軍。
「見物がワラワラ来ていらぁ。」
特殊部隊員の一人が陸地の方を向いて言った。現地の人間が一連の騒動を陸から不思議がってみていた、それはそうだろう爆発に大規模な戦闘そしてヘリコプターがバタバタと音を鳴らしているのであればなおさらだ。
人が少ない箇所だが、今はその面影すらない。
「負傷者を艦に積んだら撤収だ、そんでこのボロ船は回収するらしいから自爆はさせない。」
「了解しました。」
久しぶりの更新です