北方防衛戦
町を三つほど取られた、そして包頭市もこれから捨てる。315省道等はモンスターが少ないことも加えて鉄道が通っていたためすぐに対処ができた。巴音杭方面は既に放棄、新华大街もそのなりかねない状況になっていた。
国境付近に出動していた軍がすぐに駆け付けたにも関わらず膨大な数に後押しを受け撤退を余儀なくされたのだが・・・
「いいかこの新华大街が突破されると北京から前線へ送る物資に大幅な乱れが生じる!何があってもここは阻止せよ!」
時々爆撃機が飛び交う、今北京では武装警察が総出動しており厳戒態勢に移っている。ここから北京まで902kmもあり北京はまだまだ安全圏なのだがその分派兵も遅れることを意味する。
北京軍区が現在の所防衛にあたっているが数が足りない、加えてハイテク機器が一部使えなくなっている。まずGPSが使用不可能となっている
「おおすげぇ、第38集団軍だ。」
町から避難してきた住民の一人(軍オタ)が行進する車列をみてそういった。
朝鮮戦争で名を挙げたことでで有名なその第38集団軍は多量の機械化部隊を率いていた、有名な師団が出動することにより前線の士気は上がるそして住民も安心する。加えてこの師団は武器が全て最新式と来ており正に無敵の師団だと言っても過言ではない。
「これで俺らは安心して列車に乗れるな。」
積荷を下した後列車に無料で乗れることになる、ただし急いで降りないと兵から荷物を窓から投げられる。だが非常時な為仕方ないだろうし、たかが荷物のために前線が崩壊したなどとなれば笑い事ではないと流石に住民も理解している。
モンスターとの遭遇で逃げるのに精いっぱいだった男は心に余裕ができた。
「あの第235機械化歩兵旅団も来るって噂だし。でも興安盟は今どうなっているのかな、確か管轄こそはしていないと聞いたが。」
「大丈夫だろ、さすがに放置するほどわが軍は馬鹿じゃない。それより235旅団は朝鮮戦争だけではなくその前の内乱の時から中越戦争まで経験している。所詮相手は獣だ。何も考えず突進してくるだけさ。」
だが何故その精鋭をもっと早くに、あの獣が侵攻する前に国境へ配備しなかったのか。三日以上も前にドラゴンが出現したと通報があったにも関わらずにだ。
GPSの問題、混乱の問題、燃料の問題。それぞれの問題が重なったと発表したが本質はもっと別の所にあった。
まず誘導爆弾がGPSを介しての爆撃を行っているので正確性に難があった、高高度に航空機を常時飛ばしてGPSの代用を考えたが気休め程度にしかならない。つまり前世期のように大量の砲兵部隊を用意しなければならなかった。
そして一番の問題は弾薬とそれにかけた時間であった。 莫大な弾薬があるはずの倉庫に弾薬がなかったのだ。
今回は機動性が悪くなおかつ人間より体力耐久性のある化け物が相手の為7.62mm弾を大量に使用すると北京軍区は想定した。(というより5.8mm弾では威力不足のではないのかと指摘があった。)だがここで問題が発生する。
物理的には代用が効くうえ問題がないと言うわけではなかったのだが問題がなかった。80式、67式RPK軽機銃を固定機銃として画策して旧式装備品の倉庫を確認すると空っぽになっていた。
実は旧型の武器は第三国へ向け転売されていたことが判明した。
無論第三国へ転売すること自体は問題ではない(国際社会から見れば問題だが)つまり汚職として、着服として転売していたことが問題だった。
旧式装備の主な転売先は中東やアフリカといった国。いくら頑丈に設計されたソ連式の設計とはいえ壊れることには変わりがなく、最終的に使用不可能となるとなればモスボールの費用やその維持費に莫大な予算が使われる。ならば鉄くずにして何かの再利用に使ったり訓練で消費をしたり、それこそ第三国に売り払うことが良かった。
なかったこと自体は問題ないはずだが調整に貴重な時間が浪費されてしまう、またその背景がマスコミにばれた時人民のコントロールができなくなる可能性もある。書類上あったことになっているので一応戦力として数えられていた。だから問題になった。他にも14.5mm、12.7m等があるので穴は埋められたので戦略上では問題はないだが”あるはずの弾薬がない”事例があまりにも莫大であった。
その為それぞれの工場に生産するように命令を下され、消費する弾薬を喰いとめれるのかと懸念が広がっている。
だがその間何もしていないわけではなく空軍による攻撃を行っていた、通常爆弾だけではなく気化爆弾、クラスター爆弾を投下などをして大幅にモンスターの侵攻を遅延させることに成功させる。そしてすぐさま住民の避難を済ませて準備が整い次第砲撃を行う予定だ。
中には核兵器の使用を考える者もいたが得体の知れないモンスターに向かって発射した場合最初は良いが放射能が北京に来ないのか、その放射能でもっと危険なモンスターが生まれないのかと声があった。
実際放射能を浴びると大抵は死ぬかその影響で生まれてくる生き物は奇形として生まれ身体能力に著しく低下すると考えられ、日本の怪獣映画を代表とする化け物が生まれることはないと否定一般の見解を示した。
だが、実際にあり得ない生き物が存在し、生物学上不可能な大きさと身体能力を発揮しているモンスター目の前にして学者と軍は100%と断言出来ず核兵器は見送りとなった。
「GPSの代用として疑似GPSを積んだ航空機を飛ばす、ただあくまでも代用であり過信してはならない、必要となれば目測で攻撃せよ!」
そうは言うがここにそろっている砲弾は殆どが通常砲弾、つまり元から目測でにしかならない。
パレード以外では見ることの叶わないこの隊列そして重装備、今北京軍区以外から集められた混成師団がここに揃っている。
隣では何のためのハイテクだ、使えないのかもしれないなら安物の89式81式に揃えろよと愚痴をたたいている兵士がいる、その兵士は122mm40連装自走ロケット砲を捜査しているなんとなしに信用のないGPSのアイコンを見た。無論このGPSの反応は高高度に飛んでいる航空機から発信されているものだ。
確かにそうだが、相手は新型の戦車でも何でもないつまり安物で威力の高い兵器の方がコストパフォーマンスは良い。だがそれが間に合わないのだ、そして通常の自分たちの知っている戦争とは違ったのだ。
まず目に入るのは 95式25mm自走機関砲、80式57mm自走機関砲と言ったローテクでかつ弾幕のはれる対空兵器だった。そして装甲でおおわれていない兵士の顔に恐怖の顔が映っている。それらの半分以上は装甲に守られているものの地平線の彼方、砲兵のはるか先で敵を喰いとめるために待ち構えていた。
偶然なのかそれともこっちのことを把握していたのか、地上の敵が砲兵部隊の射程外で待機しており砲兵は何もできない。そしてその飛行物体を止めきれずに一時撤退をするか否かは前線の対空部隊の戦闘にかかっている、砲兵の護衛にあたっている歩兵部隊は時折PKMやガトリンガンを初めとする武器を気を紛らわす為にチラリと見て前線の勝利を祈った。
「敵発見、攻撃を開始する。」
攻撃ヘリが編隊を組み、パレードのようにそれぞれ間隔をあけて隠れもせず一定の高度で対空ミサイルを抱えながら移動する。その様子はまるで渡り鳥みたいだった。
「空中停止!」
するとホバリングに入り全機が空中に静止すると隊長機の発射を合図に一定の間を開けてから対空ミサイルがそれに向かって跳びまくる、まるでマスケット銃時代に遡りしたような光景だった。
手持ちの対空ミサイルを撃ち尽くすとから30mm機関砲を一気に発射、曳光弾は黒い雲に向かって消えていき、黒い雲からにはボタボタと黒い何かが落ちる。
「弾薬を撃ち尽くした、基地に帰還する。」
その帰還途中に第二派、第三派の攻撃ヘリ、中には汎用ヘリも含んだ臨時撃墜部隊がグルグルとローテーションで行っており何度も行き来する様子を対空陣地の高射部隊と砲兵部隊は確認した。それからしばらくしてモンスターがある防衛ラインを突破すると攻撃ヘリ部隊は出動しなくなった。
対空陣地に引き籠っている高射部隊の隊長はカメラ越しにモンスターが向かってくるところを確認できた。
「クソ、軽く数百体は死んでいるはずなのにまだいやがる。」
まだだ、まだだと言いながら射程距離に入ると隊長はすぐにでも引き金を引きたい部下たちに指示を出す。
「今だ!高射砲撃て!!」
ふと発射命令を出している隊長は思った、空軍は何故もう攻撃を行わないのか何故ジェット機でたたかないのか。全部は叩き落とせないことは百の承知だがここでは陸軍のヘリ部隊しか出動していない。
実は今飛んでくる化け物の巣に対して空軍は爆撃を行い弾薬を空にしてししまったのだ、だがそれでも数百匹以上、陸軍の戦闘ヘリを含めば千匹は超えている。
つまり今対空陣地に向かっている敵はその陸空軍の追撃による生き残りとなる。だが前線の兵士にはそのことを知らせていない、正確に言えばジェット機などによる支援ができないことを知らされていない。 本部は別の作戦行動中だと伝えているが実際死の恐怖に直面した後にその言い分を信じるのかどうか、だが真実を知らせることによるモラルブレイクを恐れてそれを知らせることはなかった。
黒い雲に黒い花火が撃ちあがるとまたボトボトと堕ちる、そしてこっちに堕ちてくるいや降りてくる雲が・・・・
「うおおおおっ!?」
ガシンと衝撃が走り機関砲を積んだ装甲車にへこみができるそしてヘルメット越しに操縦者は頭と鼻をぶつけてしまい鼻血を垂らした。
装甲に覆われた対空砲車は射撃を行うが地上に降りた化け物に対しては同士撃ちもあり得るため92式装甲車からの7.62mmに射撃のみにしか行わない、だがそれだけでそれ以上のことをしなかった。する必要がなかった。
『十分にひきつけれたやるなら今だっ!』
隊長は合図を送ると兵士はあるスイッチをカチリと力強く押す。するとバンバンと破裂音が地面から起きて装甲車をあたり一面を砂埃のカーテンで包まれた。
ドラゴンを含め虫型の魔物そして明らかな人型の生き物もこの地面からの爆発に驚いたもののすぐに装甲車への攻撃を再開した。だが何の意図があってしたのは分らない。最初は爆破による自爆攻撃だと思ったが違った、確かに爆発の起きた地点で生身で立っていれば人間は死ぬだろうだが魔物にとっては骨を折るほどの重傷を負っても数日で回復する、そしてそのことは人間も知っているはずなのだ。 なのに何故なのかその疑問は一秒もかからないうちに分かる。
「~~!?」
モンスターたちは急に呼吸困難になり苦しくなった、ある種族は苦し紛れに地面を転がりあるモンスターは逃げるように空を飛ぶ。だが口から泡や血を噴きそのまま倒れそのまま運よく上昇してもそこには下から発射された鉛玉によって地上へ引きずられる。
「やったぞ!」
ガスマスクと画面越しに外のモンスターが死ぬ様を見てガッツポーズをとる。
それぞれ距離をとり地上にいるモンスターを”駆除”するが地上に降りずにそのまま奥の砲兵部隊をたたきにスルーしたモンスターが約二百匹ほどいた。
毒ガスの特徴は空気より重く、さっきのように勢いよく空中に噴出させてない限り殆どは地上にしか漂わない(逆に軽いとすぐに分散して毒として機能しなくなるため仕方ない)運よく毒ガスの攻撃を免れた残りは先にある砲兵部隊へと向けられた。
「二百以上の敵移動中!」
後方の砲兵にその知らせが伝わったとき緊張が走る、前線の兵ほどではなかったが得体の知れない化け物がこっちに向かっていることはそれなりの恐怖を感じさせた。
「射程距離に入った撃て!」
陣地から射程距離に入ると対空ミサイルが一気に花咲かせ飛翔物体、いや敵機に向かって花火を作る。量より質を求めている近代戦ではありえない光景が今目の前で繰り広げていた。これこそ正にソ連軍が求めていた飽和攻撃論が今この異世界の地で発揮される。
バタバタとさっきの戦闘同様に落ちるが、さっきと違う点は生き残りがいないことだ、運よく飽和攻撃から逃れたモンスターは軽く興奮状態に陥った高射部隊の犠牲になった。
「やった!!」
国境警備隊が全滅したと聞いたときはどんな恐ろしい化け物かと思いきや、ただの突進をするだけしかできない体の大きな獣だった。
「攻撃前方の高射部隊は作戦どうり、撤退を開始する。」
「了解。」
とはいえ本当に空中戦力はこれだけなのか、次の戦力があるのではという懸念はある。
そこでスホーイ戦闘機がひっきりなしに飛び回っている。後に状況を知らない陸軍の末端下士官が空軍はただ単に飛び回っていただけだと後に叩かれるが、今この状況を知る者からしてみればいかに空軍のしてきたことが重大でかつ情報という目に見えない物が大事なのかを思い知らされた。
高射部隊が数時間かけて帰ってくるがその姿は痛々しい物だった、人的被害はなかったもののひびの入った防弾ガラス所々破損したライトやバックミラーそして装甲そのもが凹んでいて、タイヤが一部使い物になっていないもの。
勝利の余韻がある程度かき消される夜になった頃にそれは発見された。
「こちら二、敵が移動を開始した。」
「了解、引き続き監視をせよ。」
「こちら興安盟の四、こちらも移動を開始した。」
「了解、そっちも同じく監視せよ。」
どういうことだ?
ほぼ同時に行動を起こした、まるで軍事行動ではないか?
張 ライ 中将は頭をぼりぼりとかきむしった、北京軍区の地図に黒い凸マグネットと黒い矢印のマグネットが国境沿いから排出されている。そしてその矢印の向きは。
「全て北京に向かっている。こいつら知恵があるのか?偶然にしてはおかしい相手は人間と同じ知能を持っている。油断したら北京が火の海になるぞ。」
進言するか、だがそんなことをしてはパニックが起きる。一千百万の人民が一気にわれ先に屁と南へ逃げるだろう、だがそんなことになれば交通がマヒしかねない。
いや進言しよう、隠した後軍事裁判で人民の晒し者になるよりかはここで前もって報告した方が良い全て文官に責任いや仕事を押し付けた方が楽だ。今は目の先の戦場を専念できるよう
に彼はその選択をした。
射撃!
砲からは火の花そしてロケット砲からは流星が闇夜から照らし出される。
だがここで信じられないことが起きる、そして絶望的なことが起きた。
「おい何だあのドームみたいのは?」
半径50m高さ25mぐらいドーム状のバリアーが中国軍の攻撃を防いでいた。
うっすらと紫色に発光しているそして砲弾やロケットが当たるたびに強く点滅をする。
「嘘だろ!?」
そのバリアーみたいなものは脅威的で砲弾の直撃を喰らっても消えなかった。
「射撃!射撃!射撃!あのバリアーが消えるまで射撃!せよ!!」
その規模のバリアーが数えきれないほどある、ちらほらバリアーがない箇所があるがそれは砲撃と共に吹き飛んだ。どうするべきか。
「損害あるように見えません!」
偵察ヘリから聞こえるその報告はあまりにも酷だった、最初の勝利の余韻は何だったのか自分たちは滅んでしまうのか。
「諦めるな!壊れない壁なんぞ存在しないただ単に固いだけだ。戦車にしろ何にしろいずれ壊れる!」
すると謎のドームは煙が渦巻くようにふわりと回転して消える、最初のドームが消えたのを合図にちらほら消えていく。
「ドームが次々消えていきます、それも砲撃の激しい箇所からです!」
「了解した!全砲兵に告ぐ!指揮車を中心として2時の方向距離を20kmに照準を付けろ!」
一か所づつ確実に破壊そして殲滅していく、どういう原理なのか分らないがアレには物理攻撃を遮断するにも限度があるようだ。 今後徹甲弾や色々試すことになるだろうが今はそんなことを試している時間はない。
「照準よし!射撃!」
GP-1 152/155mmレーザー誘導砲弾は一応は持ってきているがまだ使用しない、一発は一千万円近くするバカみたいな砲弾だ、だが今回はそれすらも持ってきているが今現状の無誘導の砲弾でも対処可能でありする必要がなかった。
「右側殲滅完了!次中心方向!」
いける、いけるぞ
現場の隊長はまだ戦闘が終わっていないにも関わらず勝利を確信しそして安心しきっていた、だがそれが仇となることはなく数時間後にこの防衛戦は成功し調査隊を魔大陸へ向けそして南で発見した謎の船の調査、消えたインド領の代わりに出た新天地の調査を開始される。
そして一か月後ルイーマ共和国で中国と北朝鮮に対しての論議が国会で開かれることとなった。