国外は化外の地
戦車スコープから見える小さな光景はいつ見ても不安だ。狭所恐怖症でない人間も狭所恐怖症に発症しかねない。
「おいおい、全く知らない土地になっているな。」
画像をも送れるようになったタブレット端末付きの無線機で送られた画像やドローンで撮影した航空写真による簡易的な地図を眺める。
59式戦車という骨董品に近い戦車に搭載される21世紀の通信器具、誰が予想出来ただろうか。
砲塔内では物理的に装填手、砲手、車長が同じスペースにいる為、操縦者以外は確認できる。
「あ~こっちからは見えないんですが前進前に覗いても良いですか?」
ハオユーは未知の土地に興味が湧き、どうしても確認をしたかった。
「諦めろ、帰ったら見せてやる。」
戦車長が笑いながらも頭の中では次の行動を考えてた。
地形が途中から全く違う、それは今まで培ってきたノウハウが通用しないということだ。
植物もどの植物が毒を持っているのか、どんな野生動物がいるかも想像出来ないのだ。
「良いか、訓練感覚で下車するなよ。人間より恐ろしい化物が徘徊しているかもしれないからな。」
旧型の革製ホルスターには54式拳銃という旧式の銃と81式自動歩槍(以降小銃と表記)、そして85式軽型衝鋒槍だ。
他の部隊は95式小銃や05式サブマシンガンを使用しているが、こんな辺境に近い部隊は当然後回しにされている。
「こちら斥候01、放送する。現在通信指揮車から50kmの場所に恐竜のような生き物が徘徊各部隊注意せよ。
数は約百以上加えて青色の肌をして角が生えた人間らしき者も発見。ドローンを回収したのち離脱する。」
「なんか不穏な通信が入りましたね。」
「不穏すぎるわ。」
ハオユーと戦車長は軽口を叩きながらも、前線の状況に喉を鳴らした。
するとジェット機が横切った。JZ-8F偵察機が内地に向け飛び去っている。最近の光景とはいえ、普段関わりのない職種の兵器を見ると少なからず興味が出る。
「本当に非常事態ですね。」
「嗚呼、全くだ。」
誰が想像出来ただろうか、この田舎部隊が実戦を経験することを。
「でも妙ですね、地図を見る限り綺麗に国境に沿って入れ替わっています。普通なら国境の一部が途切れたりもしくは隕石のクレーターみたいにどっかを中心に変な形で入れ替わってる物だと思ったんですが。」
ハオランはタブレットを触りながら言った。
それもその筈だ。暫定的に今は得体の知れない地域に国土ごと転移したということにしているが、こうも綺麗に国境に沿って入れ替わるものなのか?
車長はその疑問に対して正体不明の不安を抱えた。そして一人の軍人としてこの国家で一体何が起きているのかを再度気にし始めた。
「人為的か?いや仮に人為的として誰が何のために?」
人為的だとしたら何のために、そしてそれを起こした人物は何を望んでいるのか、自分達は何をさせられているのか。
「いやいや、これは天災だそうに違いない。国境に沿っているのも何かの偶然だ。」
所詮は戦車長だ、国を動かす力はない。自分に出来るのは戦車を指揮して敵を105mm砲で撃破し歩兵達を前進させることだ。
「しかし…化物か。歩兵や戦車を相手する数倍は楽かもしれんな。」
人間相手だと知恵があり、面倒だ。迂回されたり相手の意をつくような攻撃をしてくる。だが化物は動物と変わらないだろう。戦車が撃破されることは恐らくない。
「これより斥候は撤収する」
一方斥候はドローンを操作し、ドローンを回収していた。
「回収完了」
回収するとBJ-2022(以降ジープと表記)に乗りエンジンをかける。
「取り敢えず我が解放軍は距離を置くんですかね?」
「ああ、そうだ。俺ら斥候と同じだよ。情報を集めるだけ集めて、そんで情報が集まってから行動開始だ。それまで必要のない接触は避ける。状況は違えど新兵教育で習ったことと同じだよ。」
そう言いながら悪路をジープが走る、だが彼は忘れていた。敵は常に自分たちより先を行っている先進国だと。だから自分たちのしていることは相手もしているという教訓を。
走り去るジープを鳥が眺めているそして飛び立ちそのジープに追従していった。
ドローンしか意識していない彼らにはただの鳥にしか見えず、特に警戒も取らずそして気づきもしなかった。
「エスタース姫どうかされましたか?」
ローブを着た魔族が不思議そうに訪ねる、というのも何もないのにニタリと無表情で有名な姫君が笑ったのだ。
「人間だ。」
「はい?」
「人間がいた。今使い魔に付けさせている。」
水色の肌に黄色い目、にんまりと笑ったその表情から犬歯まで見えた。
「愉しくなりそうだ。」




