接触・・・X
いつものように「我が領土」であるアクサイチンに出動する予定だったのだが、そこにある物は何もない崖だけだった。あの忌々しいインド人の姿は見えない目の前に見えるのは見慣れない森林だけだった。
そして今自分たちが踏みとどまっている場所は崖のてっぺんで、下界を見下ろすが如く180度の角度で見渡せた。本来アクサイチンの盆地の海抜は4,000メートルを超え、山岳部は6,000メートルはある。下手をすれば小型飛行機でさえ到達できないような高さだ。もし目の前に普通の土地が現れたのならこうなるだろう。
任務を受け毎度のように挑発行為を行おうとしたのだが、できなかった。いやそれどころじゃなかった。アイドリングをかけながらBJ-2022と呼ばれるジープを停車していた。
「とりあえず写真を撮って本部に送るぞ。」
「了解しました。」
「え、何?急に崖ができた?国境で?インドが消えた?」
西蔵軍区基地指揮所の司令官はその報告に眉をひそめた、仕事の打ち合わせをして海外へテレビ電話をしていたのだが急に繋がらなくなりイライラしていた。その時にこの連絡だった。
「それでどういう報告だ?」
報告書に添付された物を見るが全く状況がつかめない。
「まず住民が無事なのかを確認しよう。」
司令官は椅子を傾けまず着手するべきこと指示を部下に下した。
北京中央にこのことを報告しまず行ったことは国境の警戒を最大限に上げることだった、通信妨害とシステムのダウン時に攻め込むことが現代戦のセオリーな戦い方であるが、今の時代先進国同士で戦闘を行うことはない加えて、したとしても世界経済が混乱するに決まっている。だが国家非常事態に近い形になってしまっのだ。
この事態はアクサイチンだけではなく中国全土の全国境線で起きている現象で一部では外洋に出た船舶が行方不明になっている。飛行機も何もかも中国外では全て消えてしまった。
北京
「本国と連絡が途絶えた?」
「はい。」
高そうな背広とバッジを付けた日本の職員がこの施設の長に報告をした。
日本大使館でその連絡を聞いたとき腕を組み考え始める。
「中国の嫌がらせでしょうか。それとも盗聴するための準備か何かでしょうか。」
通常国の代表に盗聴を仕掛けるなどとはあっても嫌がらせはやらないだろうと思われる、だがここは中国なのだからやりかねないと心の奥底で思ってしまう。(ぶっちゃけ貿易等前例があるので思っても構わないのだろうが。)
「実はね、アメリカ大使館もそうらしいだよ。そんで邦人から本国に連絡が取れないと連絡が殺到していて。」
「・・・・ということはこれは中国政府ではなく全土で起きている障害ですか。」
「何にせよ・・・今は中国政府の連絡待ちだよ。」
佐藤大使は日本から持ってきたタバコに火を付けそれをふかす、中国のタバコは不味くうまくないため何時も買いだめをしていた。だが運の悪いことに買いだめをする前で1カートン分のタバコしか残っていない。
「早くこの問題を解決してくれんかな・・・」
日本、韓国?
「何も見えません。」
瀋陽軍区から出動したスホーイ戦闘機が日本の領域に入るがいつものように警告がない、加えてスクランブルもない。当然だった何せ日本列島自体がなくなっていたのだ。北朝鮮に対して確認を取ったところ韓国も消失していることが判明した。そして偵察機を飛ばすと案の定韓国も同様に消えていた。
「海上に波後を確認、今から写真を撮る。」
機体を滑らしそれを確認する、そこそこの大きさ白く塗られている。巡視船?パイロットはそう思った。全長が150mもある日本最大級のしきしま巡視船だと思った、そこで日本の存在が確認できるものだと信じていた。
「巡視船・・・にしては形が奇妙だ。」
高速船とフェリーを合体させたスマートな船だった、水色の線が引いており宇宙船だと言われても違和感のない近未来的な曲線そして神話的なデザインを兼ね合わせたような。武装はしておらずただの巨大クルーザのようだった。
だが国籍はどこなのだろう、バブル時代の日本ならまだしも今の不況まっただ中の日本にはそれはないと思った。
「連絡を取ってみろ無線を開け。」
「了解。」
本来であれば日本の領海であるはずなのだがお構いなしだ。
「連絡取れません、バンクだけ振り帰還することを進言します。」
「了解した許可する。」
機体はバンクだけを振るとそのまま基地へ帰還を果たした。だがこの接触が後に大きな問題を起こすとは北京中央政府は想像できなかった。仮に想像していたとしてもこの後に起きる国難によってそれは解決できなかったと後の歴史家は語った。
「あ・・・・」
モンゴルの国境付近で自家用車を走らせていた一人の住民が立ちすくんでいた、今日は商品の仕入れをしにモンゴルまで行く予定だったのだが、ある物によって遮られる。
「ああ・・・・」
白い軽トラックはドドドドとアイドリングの音が軽くなっているそして目の前にはドラゴンが物珍しそうに道をふさいで軽トラックを凝視している。
決して野獣ではない、匂いを嗅ぎそして調べようとしている車の特徴そして中の人間がどんな格好をしているのかを。運転手は本能的にそう感じた、ただの野獣ならば今頃縄張りだか餌だか分らないが食べ物として認識して攻撃しているだろうから。
そしてドラゴンは荷台の部分にかみつき持ち上げた、運転手は出る勇気もなければアクセルを踏む勇気もなかった何もしないドラゴンを刺激しないことだけを考えていた。
「た、助けて。」
何故こうなったのか、自分は普通に商売をしていただけなのに、自分は普通に走っていただけなのに何故こんな非常識なことに巻き込まれているのか。
グラリと羽ばたく音と共にエレベータが上の階に上がるときのようなGが体に染みこんだ。
「えらいこちゃ。」
遠目でドラゴンに拉致される様子を見た村人が草むらから隠れてみていた、遠目とはいえ30mもある巨大な生物が降りてきた、しかも真っ赤で目立つ。
スクーターで走っているときブワリと黒い影が一瞬通り過ぎた、そして上を見上げた先にはドラゴンが大きな蝙蝠のような翼を広げそしてさっきの事柄が起きていた。
「け、警察に通報。」
かくしてモンゴルの国境から西洋型モンスターを中心に、本格的な魔族の中国侵攻が三日後を境に始まった。