調査隊
「それが空軍の報告か?」
中国総書記は報告書を読み頭を傾げる、この報告書を良しとした武官の連中は正気なのだろうか。
同じような報告は空軍だけではない、陸も海も奇怪な報告書を提出した。
「モンゴルの国境付近で見たことのない動物がいたと警察に通報があったそうです、また空中に西洋竜に酷似した未確認飛行物体が飛んでいたと民間機からも報告が上がっています。
現地部隊はモンゴル軍が何かしらの軍事展開を行ったとして戦時体制並みの実弾を要請してます。」
「警備を強化することは結構だが、その何だ?中国以外の土地が謎の土地と入れ替わった可能性があるというのは根拠があるのか?国防部長。」
国防部長、日本ではいう防衛大臣に所属する国の頭の一つだ。
「まず陸海空全ての写真や映像を始めとする報告、そして人工衛星からの通信途絶、そして物理的にモンゴルとチベット自治区、支那トルキスタン方面で謎の生命体と現地人に遭遇しました。」
「現地人!?まさか軍は国境を超えたのか!?」
中国は今経済によって成り立っている、昔のように無茶をし過ぎると経済制裁を加えられ経済が悪くなる、嘘でも良いから正統性がないとかつての大日本帝国のように足元から崩れてしまう。
書記長はそう言った意味では現実主義で、国際社会に合わせて動こうとしていた。
「いえ、向こうが、モンゴル方面で国境を越えてきました。いつもでしたら不法入国で逮捕する所でしたが、今回は特例として様子見だけで終えました。というのも意思の疎通ができない可能性があった為です。」
「可能性があったとはどういうことだ?武装をしていたのか?」
意思の疎通が出来ない可能性がある、その言い方に違和感があった。
「武装は槍、しかも矢尻は石器で作られてました。あと…二足歩行のトカゲだと。」
「二足歩行のトカゲ?」
書記長はページを捲るとそこにはデジカメで撮影したであろう二足歩行のトカゲが印刷されてた。
「若い者はゲームのキャラクターに因んでリザードマンと呼んでます。」
「これは本当にいたのか?CGとかじゃないだろうな?」
「捏造する必要がないと、それに一件や二件ではないです。」
書記長は眼鏡を外し天井を見上げる。
「株価はどうなっている?国務院常務副総理」
国務委員、総勢20名が担当している中で一番位が高く、そして金融機関を担当している国務院常務副総理が書類を捲りながら株価を読み上げる。
だが聞く意味はなかった、というのも聞くまでもなく全ての株価は下落していることは分かりきっているのだ。
「各国の大使館からも情報を提供せよと問い合わせが来ております。」
「だろうな、急に本国と連絡が取れなくなったんだ。だが我々もだ、世界各国の中国大使館や領事館と連絡が取れてない。pkoで派遣した軍からの連絡もない。」
となれば国防部長の報告を…中国以外の土地が未確認の土地になって出現したという報告を、状況的に受理するしかない。何故ならそれ以外信憑性がないのだ。
「国家非常事態宣言を発令する。国防部長、軍は引き続き監視を厳にし、何かあれば報告せよ。あと調査隊を軍で作り謎の陸地を調べてくれ。」
「わかりました同志、それでは軍に命令を下しておきます。」
こうして国防部長を始めとする国務委員の面々は立ち上がり自身のするべき業務へ赴いた。
同時刻、ハオユーは戦車点検手入れを行っていた。それは古い戦車であり、現代戦では発展途上国ぐらいにしか役に立たない。15式戦車に切り替える予定ではあるが大分先の話になるらしい。
エンジンルームを開き油の点検やボルトの確認、そしてキャタピラの繋ぎ目を一つ一つ丁寧に叩き確認する。
「未だに待機が解除されないなぁ…」
東風EQ2102…つまり軍用大型トラックに着替えの戦闘服やマガジンポーチ小銃だけではなくトイレットペーパーや消耗品、そして自身の個人物品を積み込み何時でも出動出来る態勢でいた。
「ハオユー何かネットで色々騒ぎになっているぞ。」
そう言ったのは砲搭から頭を出している同僚の王浩然だ。スマホを見せてネットで話題になっている画像が見せられる。
「ハオラン、俺の見間違いでなければ謎の生き物が農作物を食べているように見える。」
「うん、しかもチベット自治区だからウチの担当の可能性が高い。」
「マジかよ!」
もう一度スマホの画像を見せてもらう、自動車程巨大な四足歩行の生き物が舌を伸ばし作物を舌で拾い上げて食べている。他の写真は納屋に勝手に侵入した四つ目の猫らしき生き物が威嚇している。
あちこちには元から国境警備を行っていた部隊や武装警察が町に侵入した動物に対して射殺をしている写真だ。
アスファルトの上に血を流し死ぬ不気味な肌をした毛無の馬モドキ、流れる血は何故か青色だった。
「これ一時間前にニュースで発表されたらしい。」
「おいおい、化物まみれじゃん。」
ハリウッド映画の世界にでも巻き込まれたのだろうか?
謎の高揚、そして不安が自身の胸に疼く。
「○○部隊及び連隊に所属する者は各部隊の朝礼場所に集合せよ!」
スピーカーから流れる集合の報せに緊張が走る。今までは抜き打ち訓練の集合な為溜め息が出ていたが、今回は明らかな実戦今時の若者でさえそれに対して溜め息が出る程不謹慎な心を持ち合わせていない。
いつも見慣れた朝礼場所に集まると既に中隊長が待っており、他の作業の無かった先輩らも並んでいた。特に悪いことはしてないが罰が悪そうに列中に入る。
「これで全員だな。これより時刻合わせを行う、全員時計を外しここにある時計に付け替えろ。」
「ああそうか、人工衛星が壊れたから自動修正がなくなったんだ。」
理由は不明だが人工衛星からの信号がピッタリと国籍を問わず昨日から取れなくなっていた。
お陰で手動で時間を合わせる羽目になっている。
「時間合わせよし!時間合わせをしたな?これよりチベット自治区の国境沿いに現れた謎の土地の調査を始める、既に斥候が前進し調べているが体長が三メートルを超える生き物を確認され機械化された部隊が必要だと判断された!
そこで我々戦車部隊が斥候と前進し支援を行いながら奥地で陣地の構築及び構築中の防御を担当する。
何か質問事項はあるか?」
唐突な命令下達、そして作戦概要。これは言われる間でもなく。
「了解!」
解散後直ぐに前進することだった。