全ての始まり(修正)
「ん?エラーかな?」
一人の青年がカチカチとパソコンをクリックする。だが画面に表示されたのはサーバーからの応答がありませんという表記だけだ。
「何だよあと少しで勝てたのに。」
ネットゲームでついさっきまで韓国・アメリカチーム相手に勝てると思っていたが直前でサーバーと回線が切れたのだ。ため息を着きながら動き出すのを待つが動く気配が全くない。
「止めだ止め。」
彼はパソコンの電源を切りネットカフェを後にした。そして目に入った光景に少しばかりウンザリした、その理由は市中の人民は労働に勤しんでいるからだ。
「明日から仕事は嫌だなあ。」
携帯を見ると解放陸軍の制服を身に包み、ドレスやスーツを着た家族が写っていた。それは言うまでもなく自分とその家族である。
大学まで進学したが就職は上手く行かず、名誉職でかつ金が貯まりやすい軍隊に入隊したのだ。
「大学まで行かせてくれた親に申し訳ない…」
そう自分の面子の為に入ってしまったようなものだ。肉体労働に就くと何のために大学まで行ったのかと言われる未来が見える、かと言って事務職のバイトから這い上がれる程実力はない。そこで選んだのが人民解放軍に入隊することだった。
ただこの好景気に敢えて軍に所属する必要はあるのかと疑問を持っている。軍を辞めて店を経営するだけで大儲けする者、同級生は会社を立ち上げて外車を購入出来るほど金持ちになった。
「あと数年ぐらいしたら転職しようかな…バイトの土産屋の方が儲かるし」
そう思いふけるとスマホに着信が入る。電話は駐屯地からの電話だった。
「はい。王 浩宇 ワン ハオユーです。」
「おう、ハオユーか?理由は分からんが集合がかかった。すぐ戻ってくれ。」
理由は分からない、そして集合がかかっている、それは緊急な用事だから集まれという意味と差はない。
「了解」
電話を切ると軍用機が空を通過した、その時いつもと様子が違うと肌で感じた。
「これは、いつもの集合じゃなさそうだ。」
町の住民は珍しそうに空を眺めている以外に変化はない。そのうち全容がニュースに流れるかそれとも何も流れないか、そんな無意味なことを考えている間にバス停に着いた。
するといつもより客を乗せたバスが停車し、ドアが開いた。
「おや、また兵隊さんか。」
バスの中をよく見ると自分と同じく集合のかかった者が乗車していた。軍に所属している者は服装や髪型と言った雰囲気が一般人と違う。だから先ほどの運転手は気づいた。
因みに軍人は公共機関は割引が効いたり無料になったりと軍に対しての福祉がこの中国では充実している。
「あら、ハオユーじゃん。」
中に幼馴染、李 依诺リー イーヌオがいた。普段は制服を着ているせいで私服が凄く新鮮に感じた。
流行の服に西洋ブランドのバッグ、そして香水の香り。最近の噂では空軍のパイロットと付き合っていると聞いている。
「幹部の給料は良さそうだね。」
「副業をしているのよ。それにこれは私のお金で買ったわけじゃないわ。私たちは公僕よ4800元しかないのにどうやっても買うのよ。貴方も副業はしてる筈よ。」
「土産屋で外国人相手しているだけだよ。」
幹部の給料の少なさに驚くがそれ以上に幼馴染が階級だけではなく、人脈やコミュ力の分野でも自分の手の届かない所にいるなと思った。
「駐屯地前~駐屯地前~お忘れ物の無いようにご注意下さい。」
「着いたか。」
「それじゃあねハオユー」
警衛の確認を終え門を超えた後別れそれぞれの所属する部隊の隊舎に向かった。
「第一から三小隊まで集合終わり!」
「了解、今いない者らは連絡は取れているのか?」
「はい、遠出しているだけで連絡は取れました。」
「よろしい。現在中国全土で謎の通信障害が発生した。何故か国外だけで中国国内の通信は可能という非常に不可解な現象が起きている。
まぁただの通信障害なだけで、すぐに非常召集は解除されるだろう。」
すぐに非常召集は解除される、中隊長からの一言で少しホッとする。
「だが、いつでも出動できるように待機はしておけ。」
気を引き締める辺りが彼の勤勉な性格を表していた。
日本海。
義務のように諜報活動を行っている中国戦闘機、J-10戦闘機は違和感を感じていた。いつもなら日本のF-4偵察機やF-15戦闘機、そしてJ-10とフォルムが似たF-2戦闘機が出動し警告をしてくる筈だが何もアクションが無かった。
「妙だな。」
「機長、そろそろ引き返しませんか?GPSの反応がないのは変ですよ。」
「安心しろ誘導は基地から出ている、電波妨害の形跡はない。おい、海上にキーウェイ(船の通った跡)発見。撮影するぞ。」
操縦桿を傾け撮影を行う船の特徴は全体的に白色、操縦主は海上保安かと思いながら観察するが違和感を感じる。
性能の良いカメラを積んでいるのでこれ以上高度を下げる必要はない。
操縦桿を上げ高度を上げると機長に判断を仰いだ。
「よし、帰隊するぞ。」
「了解。」
海や空だけではなかった、異変へ対する対策や確認は地上でも行われていた。
アクサイチン、ここはインドと中国がよく紛争を起こしていた場所だ。いつものように我らの土地に侵入を試みるインド人を撃退しようとしていた。蘭州軍区は今回の謎の通信障害はインドにありと判断し陸上部隊に斥候を送らしたが解答は予想外だった。
BJ-2022と呼ばれるジープがちょこんと崖の上でちょこんと鎮座するように駐車していた。
そこで二人の兵士が小銃を携行するも、全く 敵を警戒していなかった。
何故ならこの場所は本来崖なんて存在しないのだ、自分達は崖の上から下界を見下ろすが如く180度の角度で見渡せた。本来アクサイチンの盆地の海抜は4,000メートルを超え、山岳部は6,000メートルはある。下手をすれば小型飛行機でさえ到達できないような高さだ。もし目の前に普通の土地が現れたのならこうなるだろう。
「先輩、これは?」
「無線を開くぞ、インド軍は多分…傍受しないと思う。まぁ暗号化されているから大丈夫だと思うけど…」
目の前からインドが消えて代わりに謎の森が崖の下から出現しました。それ以上のことは伝えることはできない。
「おい、念のためスマホでカメラ取れ。」
「はい。」
事実をありのまま報告して正気を疑われては堪ったものじゃない。
翌日、中国にそして世界でどんなことが起きているのかを中国人民だけではなく、この世界の人々は知ることになる。