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異世界で咲く華  作者: ロンパン
修正前
16/20

蟻の穴から堤も崩れる 後編

 都会暮らしの人間には夜の怖さと言う物は分らない、夜は暗いと言ってもビルやネオンが闇を照らしている。人間にとって夜は恐怖の対象だったが、電気や車が通る時代ではその恐怖は忘れつつあった。そしてその恐怖の闇はこの戦場で再現される。


 「来たぞ!!」

 「死ね化け物!!」

 オレンジの雨が何かに降り注ぎ、何かを絶命させる。要塞から吐き出されるオレンジの雨は何者も寄せ付けず、何とでもなかった地方の要塞は中国軍が居座ることによって難攻不落の要塞になった。







 上陸から翌日中国軍が奥地に侵入、首都を攻め落とすための滑走路を建設を開始。だが同時に、石油のある方へにも兵力を分散するため余計に危険な状態になると判断した司令部は本土に空挺部隊を要求する。


 資源地帯は決して平らとはいえないが、見通しが良い箇所で普通に遠距離からのアウトレンジを行えば問題がない、だが首都までのルートには「ゼノス」と呼ばれる都市要塞があり、拠点として利用することになるが、接近戦に陸軍や陸戦隊は難色を示した。


 上陸部隊本部は空爆の要請をするが現地住民も巻き添えで犠牲が出るばかりか、反中意識が高くなるのではと懸念があった為空爆は行えなかった。そこで空挺部隊がそこに向かうことになる。

 夜中に空挺部隊は空から侵入した後、特殊な化学物質を用いた着火剤とゲル状の油を使用し中国軍ではない「何か」が火を放ったことにした。

 翌日、夜明けと共に上陸部隊が上陸。住民の安全確保を名目に都市要塞から排除し、近くの広場でテントなどで作った避難所と言う名の隔離所を建設したのだが。


 「掃射完了。」

 「そろそろ電池が切れそうだ。」


 それぞれの兵士は暗視カメラをヘルメットを装着、またはガムテープで無理やり貼り付けている、それには理由がある。

 SFやファンタジー好きな兵士が発案したものだ、本来今のような闇夜に隠れて使用するものだが昼でも使用している。理由は相手が「透明」だからである。


 「陣地から一歩も出たくねぇな。」

 「ああ、プレデターみたいだ。」

 昼間であれば一応プレデターみたいにぼやけて姿が見えるが、赤外線だとハッキリ見える。当初昼でも平然とやってきたが今では夜間にしか攻撃を仕掛けに来なかった。

 「気付いたら後ろから襲うタイプの戦場が嫌いなんだよ。」

 ガムをクチャクチャ噛み上士(軍曹)はガムを吐き出す、彼はよく洋画を見ておりよく影響を受けている。そのせいか仕草が中国兵というより、美国アメリカの海兵隊のようだった。

 「魔法使いをどう思いますか?」

 下士階級の兵士がこんこんと指でPKM汎用機銃の柄を一定のリズムで弾きながら言う。

 「見ろ、あの避難所。あそこに絶対紛れ込んでいやがる。」

 中国軍は現地住民の避難所の周りに地雷を埋めて対処しているが、兵士の間であそこから敵が来ていると噂になり、士気が低下していた。そしてこの二人も一時間おきに敵が夜襲をかけてきたので、精神的に余裕がなくなってきていた。

 「あそこに迫撃砲でも打ち込むべきなんだよ。そうすりゃ魔法使いの爺さん婆さんに襲われずに済む。そんで早く帰って、レンタルショップで洋画を見る。ただ、掘り出し物を見ていたのに新作の洋画が無くなった途端俺のテリトリーに入ってきやがった。」

 「それは残念ですね。」

 とりあえず適当にながす、だが新作の洋画が見れなくなったのは本当に辛かった。上士程のマニアではないが、娯楽が減ったことには変わりがなくとてもつらかった。

 基本中国独自の娯楽はパクリばかりで、結局は外国頼みだ。また外国のオリジナルの方が質が良い。

 「ここに州知事のサイボーグが来れば一発ですね。」

 「おっ!分っているじゃないか!」

 今の間にしか使えない外国をネタにした時事ジョーク、使える間に使おうじゃないか五年もすればこういったネタが話せないのだから。


 下から聞こえる緊張感のない声、自分も参加したいと思うが重要な任務についている為参加することができない。なんとなしに見張り台から狙撃銃を構えて避難所に標準をつける、無論引き金は牽かない。 小狼シャオランは通常のスナイパーだけではなく、中国製対物ライフルQBU10と露製のOSV-96が支給された。12.7mmの口径は伊達ではなく、場合によっては装甲車も撃ち抜く威力がある。

 香港ではオリハルコン製の鎧やフードを撃ち抜くのが限度だったため米国の12.7mmより威力のあるOSV-96が配備された。(というより、香港事変で使用していた殆どが露製12.7mmだった)

 「これ絶対データ取りたいだけに支給しただろ・・・」

 OSV-96を見ながらそう言った。途中で壊れたり威力不足で効かなかったらどうしようと呟いてぼんやりと森と壁の外に目を向ける。改造されたSKS(ほぼ別物)は狙撃銃の代用としても申し分なかったがそれでも威力に信用できていなかった。

 「早く朝にならないかな・・・」

 息を吐くと白いタバコのような煙が出る、本物の煙程ではないがそれで温もりを取りながら外界を眺めた。ふと思う小狼シャオランは今ご先祖様と同じようなことをしていることに気付く。ご先祖様は町に壁を造り、こうやって見張っていた。弓矢と剣ではなく銃だが蛮族たちの侵入に怯えながら暮らしていたのだろう。




 「くそ、またやられた。」

 「あいつら夜でも昼でも俺らを撃ってくる。絶対姿が見えているぞ。」

 いくら透明になっても見つかる、逆に中国軍は草木に溶け込む服と草を巻き付け獣のように隠れる。しかもこれが厄介なことにほぼ全軍にこのスキルがあり、頼れる感知の魔法も魔力のない彼らの前では意味をなさない。

 「作戦変更だ、20人も死んだ、チュングア軍に透明の魔法は通用しない。」

 森の草むらに隠れながらチュングアの立て籠もる要塞を眺める暗殺部隊、そして近くに難民テント。見通しが良いところに置いてあるので近づくことすらできない。


 要塞に立てこもっている部隊は150人の中隊で構成されており明らかに人員不足のはず。城壁の周りには地雷と呼ばれる罠、そして有刺鉄線と言う針金。彼らは亀のように閉じこもっている。

 人員の少なさに目を付け内部から破壊工作を行おうとするが、最初からいた現地の工作員はチュングアの精鋭部隊「ザンビン」に殺されたという。

 

 一向に首都へ向けての侵攻をしない中国軍をみて前線のバージリ軍は恐れをなした、臆病者と言って蔑んだが逆に住民は自分たちの町を不当に占拠する恐ろしい存在だと評価は二手に分かれた。 因みに当の中国軍は慢性的な兵力不足によるその場しのぎの対処と指揮官自身が透明の部隊に警戒していた。

 「どちらにせよ、ここで屯されると何もできないぞ。」

 「あと5日もすれば何とかなるだろう、問題は王子がいない状態で我々が奪還できないことだ。」

 運がよく、英雄という戦略兵器称がいたからこそ今回の戦争を行っている。もし王子が戻ってこないのであれば自分たちはこのような戦いを行えただろうか、行えないだろう。


 すると感覚のなくなった足の指をぎゅっと握っている新兵がいた、彼は基礎教練を受けた後隠密部隊に向いていると判断され送り込まれたが、性格が原因で向いていないと判断され情報戦等ではなくこのような破壊活動に向かわせている。

 「ブーツになれていないと感覚がなくなる、鳥とか牛とかの肝を食べると治る。」

 「は、はい。」


 古参兵の民間療法を聞かされると新兵は安堵の表情を見せた、気にしない者もいれば不安に駆られる人間もいるだろう因みに彼も後者だ。

 「最近コブリンや小型のキメラを集めているそうですが」

 「あいつら、すぐに逃げるし使えんぞ。」

 「ですよね、普段はどんな時に使っているんですか?」

 古参兵はこいつは現場より後方で作戦を練っている方が似合っているのではと思いつつも説明をする。

 「ん?基本は数合わせに使われる。利点はまず飯が少なくてすむ、それに素早いうえ人間と同じく弓矢が使える。あとは武器も自分で用意してくる。

 だが、最後の踏ん張りと言うかガッツがない。五分五分の戦闘の時は動かないし後ろから弓矢で脅さない限り使えない。場合によっては裏切ってこっちに襲い掛かってくる。

 だから勝てる戦の時は戦費を抑えれる良い駒だがこのように苦戦しているときにゴブリンを使用するのは得策じゃない、諸刃の剣だ。」

 そう言ってもう一度要塞を見直す。そういえばチュングア人はゴブリンのように貪欲だと聞いたが、実際はどうだろうか?本当にゴブリンでさえ嫌がる物を平気で食べているようだが・・・







 一昔前のSF映画よりもSFじみた戦闘指揮所で大量の液晶画面を眺めながら羅援らえん少将は新大陸に展開している部隊を把握に努めていた。

 「要塞を確保した部隊からはなんと?」

 「もっと増援が欲しいと・・・」

 「今すぐには無理だ。」


 現在、途中で給油する滑走路も、インフラもないこの世界では全て船で頼っており、危険な巨大生物の件もあってか中国海軍は、護衛を付けずに輸送船を戦場に送るのは自殺行為だと言って余計に兵力及び物資不足を招いた。それだけではなく、2週間のラグと本数の少なさは上陸部隊の大きな負担となり、外国籍の船をはく奪することも試案している。


 しかし何故ここまで船舶の不足を招いたのか、まず中国軍は仮に海洋に進出するときもせいぜい尖閣諸島や南沙諸島ぐらいで、南沙諸島の相手は東南アジア諸国のような弱小国家しかいない。そこまでの大規模な上陸部隊は必要としなかった。

 「コンテナ船やそういう部門も兵員輸送として使用することに?」

 「中国には900隻以上の貨物船があった。今は転移のせいでその半分以下の400隻と外国籍の船だけだけどな。今改造して直接上陸できるようにしているし何とかしようとしていた。だが間に合わなかったんだ。」

 休憩が与えられた下士官はテントの外で暖かいコーヒーを飲みながら駄弁る。


 下士官の一人は上陸途中に旅客船が混じっていたことも思い出す。戦時体制が整っていれば欲しい物は一週間もすれば手に入る、だが石油や資源がままならない時期で戦時体制に切り替えれば・・・目に見えない大量のシャドーバンクがある中国では国家破綻もありえる。


 「上手くいけば・・・転移して幸せなのかも。」

 「ん?何か言った?」

 「いや、何でも無い。」

 補給科の仕事だ、俺らには関係ないと締めくくった。多少厳しいがこのまま順調に進めば何も中国は安定した生活が得られる、そして欧米という邪魔者がいない世界で自国に有利な経済や市場を開拓し美国のように頂点へ、いやかつての中国のように戻れるのかもしれない。

 「緊急事態発生!ゼノス要塞で敵がっ!要塞が陥落!」

 「・・・は?」







 「クソ!どうなっている!?早く機銃をもってこい!!」

 映画マニアの上士はSKS改造小銃を撃ち穴の開いた壁に手榴弾を投げつけた。いきなり室内で爆発したと思ったら自分たちの知らない地下通路からゴブリンがなだれ込んできた。

 セミオートに制限された銃で室内の戦闘はめっぽうに不利であった、結界やオリハルコン対策としてこの銃を装備していたが、皮肉なことに今目の前にいる敵はそんなものを必要としない相手だった。身長は120〜130cmぐらいの子供のような体格だが、子供とは比較にならない体力と腕力を誇り錆びた剣と盾を持ちぞくぞくと占拠してきた。

 対結界用の為に用意した小銃はセミオートで弾幕を張れるものではない、銃剣による白兵戦になったが白兵戦ではむき出しの足と手を狙われ中国兵は次々と命を絶たれていった。

 サブマシンガンや彼らが使い慣れていた小口径小銃は、普通の部隊に配備せずむしろ使い慣れていない銃で戦っているそのおかげで、ただでさえ慣れない相手に余計に不利な状況下にあった。

 「ぎゃああ!」

 喉を斬られ倒れる兵士、またこの入込んだ場所でモンゴルの弓騎兵が使うような短弓で狙いも正確。仲間を助けようと小銃を構えた同僚はゴブリンの矢で思うように戦闘が行えなかった。


 通常の銃撃戦のように距離を取ろうとすれば直ぐに追いつき剣で殺され、白兵戦では不利な上に矢で行動不能になる。

 「おい!そこの機銃!撃て!」

 洋画マニアの上士が先ほどの陽気な会話とは別人と思える程非情な命令を下した。

 「しかし上士殿!味方がいます!」

 「撃つ前に伏せる様に言えば良い!このままだとこの階まで上がって全員殺されるぞ!」

 上司はそう言って侵入してくる穴に数発撃ちゴブリンを撃ち殺したが焼け石に水状態だった。意を決したように彼は味方の入り混じるゾーンに二脚を立て銃口を向ける。

 「みんな伏せろぉぉぉ!!」

 伏せれるように数コンマの間を置いてPKM機銃を降らした。

 「うおおおおおおおおおおお!!」

 仮にも正規の兵士で訓練を受けてきた兵士は、数コンマでも反応し無理して伏せた。またゴブリンも数ある中国兵が抵抗より伏せの体勢を優先したことを不審に思い、ゴブリンは声のする方へ眼をむけた。他の兵士と同じく大きな発射音がするだけの飛び道具を構えているだけだった。ただ少し形が違うだけ、下士を百人隊長か何かと考えたゴブリンは頭を潰そうとする。

 だが、予想外なことが起きたのだ。

 「グギャ!?」


 ゴブリン達は連射で発射する銃を見たことがなかった、さっきまで使用していたSKSのように喧しいだけでここまでの脅威になる兵器に思えなかったのだ。

 だが彼の持っている物は面制圧のために使用する銃、数百発を装填作業を行わなくても射撃を可能とする汎用機銃は密集でむき出し状態になっているゴブリンにとって絶好の的となった。


 「撃ち続けろ!銃身が真っ赤になって溶けても撃ち続けろ!」

 「了解!」

 「貴様らも伏せるだけじゃなく匍匐前進でこっちに逃げろ!」

 上士は自分の部下に向かってくるゴブリンの毒牙から守るべく優先的にリーダーシップや行動的なゴブリンを一匹また一匹射殺した。

 下士は内心すごいなと感心する、小銃は水平にしっかり持ち撃たないと見当はずれに飛ぶそのことを一番知っていた。そしてその射撃を立ち撃ちだけで行っている。


 「射撃止め!あの緑のイボ野郎は逃げて行った!総員反撃!」

 すると匍匐前進をしていた兵士はすぐさま小銃を持ち、攻撃を初め緑と赤で埋め尽くすのに時間はかからなかった。


 「入り口に入ってきたやつを倒す!毒ガスを持ってこい!」

 「了解!」

 「おい通信兵!人型の化け物ゴブリンを撃退完了!侵入時に使用された穴に毒ガスによる掃射を開始!以上だ!」

 「了解!」

 上士がそういうと下士の汎用機銃を見る。銃身は少し変形しており、先ほどの無理がたたっていた。

 「新しい銃を調達!急げ!」

 「え、しかし書類が・・・」

 「そこの固まっているお前ら!今すぐ銃及び弾薬を武器庫から持ち出してこい!敵が侵入していると伝えろ!そしてそこの手の空いている者!お前らも同行して武器庫の警備に当たれ!」

 「了解!」



 『隠し通路があるとは・・・』

 他の所から悲鳴や騒動が聞こえる、そして要塞だけではなく城下町へ逃げる兵もちらほら聞こえる。

 「この城下町そのもので同時攻撃・・・他の部隊が持ち直すか・・持ち直せるのか?」

 司令部の命令が機能しているところをみると、まだ絶望的な状況ではなかった。まだ奪還てきる余地があるように見える。


 「よし、お前ら梯子はしごを持ってこい、そしてお前らは今すぐここに爆薬を設置しろ。」

 「・・・・」

 「おい!聞いているのか!?」

 窓から振り返った上士はあれだけ慌ただしかった兵士たちが聞こえもしなければ見ることもなかった。正確に言えば自分の周辺の兵士だけいなくなっている。


 「・・・おいお前らどこに行った!?」

 返事がない、遠くから聞こえる銃声と悲鳴。まるでこの部屋だけ別世界にようだった。気味が悪くなった上士は小銃を構え周りを見渡す。

 右、下につながる階段の入り口だけで何もない。左、屋上へ繋がっている階段だけで何もない。

 そして上に銃を向け数発放つ。

 薬きょうだけカランと寂しくなり、天井に銃創が出来ただけだった。

 「映画だと上に化け物がいたりするんだけどな・・・」

 警戒を緩めずに小銃を並べている、するとズボリと片足が吸い込まれる。

 「うおっ!?」

 何だと思い下を見ると黒に近い緑の何かが触手のないイソギンチャクそれが

自分の足に吸いついていた。すると周りはそのイソギンチャクのような何かが数体まるで餌に群がる鳩のように一斉に地面に沿って向かってきた。

 「な、何なんだ!?」

 急いで小銃を足を吸いついている何かに向かって放つ、だが

それでできた穴は直ぐに吸収されお返しと言わんとばかりに牙が生え足を刺した。

 「ぐあああああ!!ば、化け物め!」

 悶絶しなかがら銃剣を差し込み直接撃ちこむ、だがそれをあざ笑うかのようにその再生能力を活かし、銃剣から銃を侵食し始めた。

 「畜生!!!」





 事の始まりは銃と呼ばれる兵器の破裂音がなったことだ。

 彼らの叫び声そして大量の破裂音が連発で聞こえた時には要塞で異常があることが

火を見るより明らかになった。

 隠密部隊はこの異常な状態に、そしてあれだけ苦労させられたチュングア軍がどうやって

ここまで追い詰められたのか、単純に興味が湧いた。

 「これは一体何があった?」

 だが敵であるチュングア軍が混乱に陥るのはこちらにとっても好都合、ぐだぐだ考える前に

好機とみて動こうとしか結果。

 「動くな!見ろ。」


 いきなり要塞から空飛ぶトンボがとび出し入り口を空けるというより、破壊し中から鉄馬車がとび出してきた。統率された状態ではなくただ単に逃げ回っているだけ、その無様な姿。何がそこまで追い詰めさせたのか。

 そして収容所の方から緑の鉄馬車が出動し機銃を撃ち始める。そして夜中何が待ち受けているかも分らないにも関わらず警戒も何もせず猛スピードで夜道を駆け抜けて行った。


 「危ないな・・・」

 「しかし、何があったか分らんが何で要塞を放置したんだ?普通は取り返そうとするだろうに・・・」

 いきなり逃げ出すのはいくらなんでもオカシイ、傭兵ならばまだしも正規兵がだ。

 士気が低い部隊を送り込むことはまずないだろう、このような重要な拠点を防備するときは特にだ。

 「ん?」

 底知れない不安を感じる、これは長年の勘。日常で何か予定ややらないといけないことを忘れている時に感じる違和感。

 そういえばこの暗闇の中光を灯している鉄トンボ、木々が遮っている為空から見つかる心配はないだがそれが引っ掛かっていた。彼らは本当に”見て”いるのだろうか、それとも別の何かで。

 「全員一時バラけろ。」

 「え?」

 「念の為だ今すぐ、バラけろ。」

 バシュ・ドカン


 独特な音そして衝撃、真っ白な光景。おそらくチュングア軍の攻撃を受けたのだろう。

 そういえば隠密部隊を嫌う、将校団がいると聞いた。彼らは真正面からの戦いが好きだったな。そんな彼らは今何をしているのだろう。散る前にそれだけ気掛かりだった。




 「周辺に潜んでいた敵クリア!おい今一番階級が高いのはだれだ!?」

 「上士(軍曹)レベルしかいない!司令部が全滅して逃げることだけが部隊の目的になっている。それ自体が目的になっている。」


 茂みに隠れている敵らしきものを熱源センサーや赤外線カメラで察知し攻撃した、もしかしたらアレがこの騒動の実行部隊なのかもしれない。

 その部隊の一部を叩きのめしたが、本当に実行部隊なのかを確認する手段を今は持ち合わせていなかった。何せそれを確認するはずの兵士全員が後方の多数の味方がいる所へ逃亡中なのだから。それはそうだたかだが150名で要塞を管理すること自体オカシイのだ。いくら監視システムを使ったとして、いくら防犯カメラを使用してもだ、歩兵の代わりになりえる物はそうそうないのだ。


 上は実験のつもりで行っていたのだろう、だがそれにしてももう少し人員を割いてもよかっただろうに。

 「どうしますか機長?”蜂鳥”の性能だと700kmは移動できますが・・・護衛をしながら

だとどうでしょうか・・・」

 軽ヘリコプターではそこまでの装備も性能も期待できない。

 「後方の陣地は400kmだ。だが地上の速度は40km~50kmが限度だろう、そして移動距離ももし予備の燃料を搭載していなければ400kmも移動できないぞ。」

 「コチラ地上部隊、電波届いているか?」

 「ああ、聞こえる。今のところ地上に敵影はない。地上には何人いる?」

 「20人程だ。詳しいことは混乱していることと無線機を持ち合わせていない車両もあるせいで人数の確認ができないんだ。」

 「おい!要塞はどうなった!?さっきから音信不通だったんだぞ!」

 すると無線から現状の報告、というよりただどうなっているかを問いているだけのように聞こえる。

 「ゼノス要塞は陥落しました、現在周りの敵を掃射しながら撤退中です。」

 トラックに積んである無線機で応答する士官、撤退命令を出した張本人だ。

 「何!?撤退中だと!?何故取り返しにいかない!?命令だ!今すぐ取り戻しにいけ!!」

 こっちの現状も、また必要以下の人員しか割かなかった本部に怒りを覚えた。

 「上陸した部隊は数千人はいます、ですが何故こちらに150名と僅かな兵しか送らなかったのですか!?現在20名しかいません!この状態で進撃は不可能です!」

 「!!」

 無線機の向こう側から聞こえる焦り、何にそしてどこへ兵力を分散させているのか。その報告は入ってこない。

 「分かった、撤退を認める。」

 20名で無理に向かわせたところで士気が下がる、そして何より無駄な犠牲が出る。

 「宜しいので?」

 「構わん」

 羅援らえん少将は要塞にバツ印を付けてため息をついた。

 「結界を敷かれる前に破壊してしまった方が良い。確かゼノス要塞に行く途中で補給陣地を作っただろ?あそこにあいてあるシルクワームを撃ちこんでやれ。」

 「しかしあれは首都の王城を叩くための・・・」

 「そのうちミサイルは注文すれば次の補給で届く。要塞で何かされるよりマシだ。」


 羅援らえん少将は地図に立っている要塞フィギアを指揮棒で倒した。

そのフィギアは某RPGのオマケに付いてくるもので、要塞の上に蛇の雑魚キャラが乗っていた。

 羅援らえん少将の副官はそれを拾い陷落とシールを張った。その時に雑魚キャラは折れていることに気付く。その雑魚キャラの折れ口から白いプラスチックが見え、なんとなしに気分が落ちた。


 「俺蛇が嫌いなんだよな。」

 ベトナム戦争を描いた洋画を連想させる、そしてその映画のラストはこの本部と同じようにテントで作られ、それが銃弾の嵐で本部そのものが崩壊してしまうストーリーだ。

 それ以降何故か蛇を見た後に不幸なことが起きる、演習の時も試験のときも蛇を見たときは飛び切り嫌なことが起きた。

 この玩具の蛇ももしやしたらと思ったところで、羅援らえん少将に呼び出される。


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