有為転変の世の習い
「離脱するだと?」
ルイーマ共和国より巨大で、かつ神殿を連想させる建造物群が浮遊大陸にあった。
それは巨大な神殿でいくつのも柱が綺麗に並べられており巨木の森にいるかのような錯覚を憶えさせる、また一つ一つの柱の大きさは3mを超えており、通常の魔法でこれらを造りあげることは可能であっても実現は不可能だ。
このような建造物を造り上げることができるのは英雄の称号を与えられるほどの膨大な魔力か強力な戦闘力、知力といった賢者であるからこそ可能な所業である。
勿論中国もこのような建造物は作れるだろうが、作ったとしても維持費の問題で途中で取り壊しになるだろうし、天安門の紫禁城や万里の長城のように歴史的価値がないのであればそこまで維持する必要はない為メンテナンス不足で自然倒壊することが妥当だろう。(またその万里の長城も元世界にいる頃から消失している箇所がある。)
「君はもし魔族の侵攻に当たった時、君は英雄の一員としてではなく我々の下で動くことになるのだぞ?」
そしてその建物の中でまるで裁判所のような場所に天井のステンドグラスからは議場を照らしていた。そしてまるで被告人のように立っている青年がそこにいた。
「私はそのような階級の為に英雄になった憶えはありません、またバラスカ王国の王子であり、あなた方が一方的に英雄の称号を押し付けたにすぎません。私は臣民を守るのであれば立場がどちらであろうとも関係はないです。」
「教養のある君なら理解できるだろうが王族や貴族または政治的に深い関わりのある人間が英雄ほどの力を持ち合わせた時、どれ程の戦乱や混乱をもたらすのか知らないわけではない。」
その事例は今、正にこの状況を表している。
すると王子はこれかと反論するばかりに賢者と言う称号とかつての英雄だった老人達に反論する。
「戦乱や混乱ならば既に起きています。北部にあった小国はバージリー王国に侵攻されました。地下から湧き出る黒い油、チュングアでは石油と呼ばれるものが地下水に流れ込み最終的に飢餓と戦乱が起きました。その時英雄協会は何をしていましたか?」
「英雄協会は対魔族の為の組織であり、それぞれの国の政治に関与してはならないし出来ない。”勿論食糧も空から降らすこと”もな。」
いかに英雄とて食料を増やすことなど不可能だと言いたげな返事だった。
「仮に飢餓から救うことが出来なくとも戦乱を止めることぐらい!」
「私達は戦争を止める権利がない、それぐらい分かるはずだ。」
「傍観者気取りか!?人類の平和のための英雄協会だろ!!
すると老人はひげをいじりながらヤレヤレと若者に質問を投げかける。
「その理屈だとチュングアに攻め入った君たちの国も人類の平和を乱す対象国になるが?」
「それはっ!」
「それは隣国に君たちの国の商人が食糧を売っていたのは良かったが自国まで食糧不足になった、飢餓を抑えるためにも山賊や傭兵を動員しチュングアに攻め入った。
何故このような強硬手段に出たのか、魔族に魂を売る裏切り者に成敗という名目で出動したのか。
恐らく君の国の官僚は侵攻を利用しての山賊の排除に治安維持、口減らし、そして上手く事が運べば侵攻した後山賊や傭兵たちに植民地を造らせるつもりだったのだろう。加えて恐らくだが武器の量産の下準備も含めていたのではと思われる。だが正規軍が撤退する前にチュングア軍に反撃され、貴重な戦力を失ってしまったがな。」
「ち、違うあれは・・・」
「武器商人を初めとする利権の集団のせいでもある、そう言いたいのだろ?それが政治というものだ。付け加えるなら、もう一つの名目としては食糧難拍車をかけ深刻な状態に陥ったのはチュングアのせいだとも言える、だからその報復として攻めた。これも事実ではあるからな。そしてチュングアも君たちと同じ理由で攻め入るだろう、ただし侵略へ対する報復と食料の確保という名目付きでな。」
実際中国がこの世界に登場したおかげで食料や魚の乱獲にてバランスが崩れかけている、普通は食べないクジラだけではなく、珍獣までも殺していたところを見ると相当な食糧難に陥っているのだろう。
すると艶めかしい女性が書類を浮遊魔法で王子の手元に送る。
「可愛い王子様に良いことを教えてあげるわ。その石油って物を彼らはものすごく欲しがっているわ。彼らのエネルギー源でもあるの。もし運が良ければ黒い油の問題も解決するかもよ?」
赤い髪に成熟した体、そして元世界でいうブルサ地方に位置するトルコ風の服装を着た女性はもう一つ情報を与えた。
「そうそう、一つ言い忘れたけど何故今魔族と戦をしないか知っているのかしら?」
「・・・手を出すことによって痛手を恐れいる。向こうから攻撃もしてこないのにリスクを冒してまで戦う必要がない為。」
「模範的な答えありがとう、でもね別にも理由があるの。」
「?」
「それを知りたければ英雄協会に残りなさい、それとも王族だの国だの狭い世界に閉じこもる?」
だが王子は真っすぐな瞳で返事をする。
「私はバラスカ王国のシャルル・ド・ゴール。シャルル一家の長男。私は自分の家の為にそしてバラスカ王国の為に存在します。」
そう言い残してその場を去った。
「どういうつもりだ?辞めると言った人間にアレを教えようとするとは?」
かちゃりかりゃりと鎧の音を鳴らしながらローマの戦士を連想させる格好をした英雄の一人が彼女の真意を確かめよとする。
「引き止めるにはいい材料じゃない。」
「もしそれが漏れたら!」
「不真面目で有名な私が言った、それだけで不確定事実と判断するわ。」
「万が一と言うこともある!」
「でもね、それを使ってでも彼にはここにいてもらいたいと思った・・・では駄目かしら?彼のような真っすぐな青年は国の汚い所を知らないわ。王とは形だけの存在で官僚や大臣の操り人形になってしまう。」
「王とはそういう物だ、王が王であるときは建国の時や戦乱の時もしくは大きな功績をあげるか人付き合いが得意な者だけだ。あの王子は人柄は良いがそれ以上の物を持っていない。
奴の知り合いも汚れを知らぬ青年や人柄だけの取り柄の老人ばかりだ、最後は操られているという自覚がないまま過ごしていくだろうよ。」
「ええ、でも私たちもそうよ?大きな力を持っているだけで結局人間であることからは逃れられないのよ。私たちもリーダーがいるようで結局いない。」
彼女はそう言って悲しそうに窓を眺める。
「あらあら、ハイエルフのお客様ね。そういえば今日定例会だったわ。でも私彼らのこと苦手なのよ。」
「俺も好かん、普通のエルフなら兎も角ハイエルフは俺らを見下していやがる。」
プライドが高そうな彼にとって一番堪え難いことなのだろう、特に手出しできない相手は。
目が合うとハイエルフは詰まらぬ物を見たような顔をしてそのままこの建物に入っていった。議題の内容は決まって魔大陸とダークエルフのことである、だが今日の主な内容はそれではない、ハイエルフが気にしている勢力は赤をシンボルとする民族と国のことであった。 異世界出身とはいえ人間である者が今日魔族と結婚するという前代未聞の問題を話し合うため、そして今後のパワーバランスの為。
「ハックション!風邪かな?」
その赤をシンボルとする国のでその当事者は盛大にくしゃみをした。
今魔族側も含め自身の家族に大勢の護衛をつけてこの町ドラストピに向かっている、何故ならば結婚式があるからだ。
「あ〜戦車に乗って戦っていた時期が懐かしい。」
「楚紅運≪ちゅ・こううん≫大丈夫だゴーレムとかいう乗り物が乗れるぞ。」
過去に耽っているかつての部下を見て上官が特に意味をないフォローをした。
「いや、戦車の方が安心できます。」
彼は墨汁のように真っ黒で反射しそうな程綺麗な黒い西洋甲冑を身につけていた、そしてそこに魔族の文字と文様が白い線で描かれている。
「しかし軽い、これで我が国の防弾チョッキより頑丈だからびっくり。」
「フルサイズの弾薬でなければ7.62mmもはじき返すそうだ。」
「MA・JI・DE?」
「うんMA・JI・DA・YO」
「何で日本語で会話しているんだろ?」
「そういえばニュース見たか?」
「スマホで見ましたよ、なんか知らないけど英雄協会でしたっけ?それが今回の結婚を問題視しているとかなんとか。内政干渉するなの一言で片づけたらしいですけど、わからないでもないですよ。」
「やめてくれよ、魔族に聞かれたらどうするんだ。まぁ人間と結婚しようとしているんだ、昔と違って絶滅させようとは思ってないと思うよ第一八千年前の話らしいじゃないか。むしろ今の魔法より八千年前の古代文明の方が気になるよ。
逆に考えれば人類はそれほど進歩していないってことかもな。我が国を見ればわかる。滅んでは栄えての繰り返し。この世界も我が国と同じなのかもしれない。」
そう言って友人はスマートフォンをポケットにしまう。
「らしくないことを言いますね、何かあったんですか?」
「この結婚は技術交流と有効のアピールだ。軍人の端くれならわかるはずだ。」
「とはいえ、この世界の人間を全て敵に回しかねない。目の先の利益しか求めているのかそれともちゃんと考えているのか、もしくはそうしざえない状況だったのか。」
「・・・・」
「まぁ今はそんなことより・・・・ん?」
上官がスマホのページを開くと表情が強張る。
「上官?」
不審に思ったコウウンは尋ねようとしたときスマホのニュースページを見せた。
「・・・え?」
そのこの記事に載っている内容はおおよそ信じられなかったどうやって、そういえばネットで噂になっていた。近いうちに始まると・・・だが本当にこんなことに。
「失礼します!本部から緊急入電!」
「スマホで確認したよ嫌だね、技術の進歩ってやつは怖いね。軍の連絡網より子供でも持っているスマホの方が情報が早いなんて。」
”人民解放軍反攻を開始・公海にて海戦勃発”
「敵飛行船に対艦ミサイル発射!撃墜しました。」
「海中に気をつけろ、巨大ウミヘビやクラーケンに一度捕まったらシャレにならない。」
レーダーにはヘリコプターがいくつも映っており今正に海中の攻撃に備えている、海の温度海流の流れ、そして成分などのデーターが無いためソナーに多少の性能低下は免れない、故にヘリからソノブイを可能な限り投下し、穴埋めをしているのである。
「さっきは驚きましたね、あのタコ。」
揚陸艦の艦長に向けて副官がそれを言う、艦長は嗚呼と適当な相づちを打って異世界の海を眺めていた。
その海中生物が接近していることが判明し、クラーケンと呼ばれるタコに似た巨大軟体生物に魚雷や爆薬を投下して撃破した。その撃破した後海は一面バラバラになり死骸と墨で真っ黒に染まった。まるで石油タンカーが事故を起こしたのではないのかと勘違いしたぐらいだ。
「見えない程先に敵がいて時折発射されるミサイルが敵を倒している。我々はその様子が見れないとはな、様子が分からないせいで実感がわかない。」
上陸艦の艦長はそういう、あくまでも上陸専用の船、ユージャオ揚陸艦は自衛用のミサイルや砲はあれど戦闘で使用できる物ではない。だがそうだとしても戦闘が起きているのに何も出来ない自分がもどかしかった。
後続のユカン型や中には明らかに軍用ではない貨物船や客船が着いてきていた、そこにあるCIWSや短距離ミサイル、そして重機関銃は無いよりマシなレベルでいざという時不安が残る。
「遠足じゃないんだぞ。」
だが彼も分かっていた、中国は大陸の国であり上陸作戦なんてもの尖閣ぐらいでする必要がなかったのだ。「有り合わせの上陸部隊、どこまで戦えるだろうか?」
一方、空母遼寧に乗り合わせている上陸の司令官は本土からもたらされた情報に顔を青ざめた。戦場にトラブルはつきものだが、まさかこんなことが起きるとはとワナワナしていた。
「これだから政府の約束は信用できないんだ!」
「囮の飛行船を破壊しました。」
飛行船から離れた海域で漁船程の大きさの船がぽつんと航行もせず浮いていた。今までの様子を水晶玉から眺めていた士官が拙そうな顔をして分析していた。
「かなりの威力だったぞ。」
失っても痛くない飛行船をオートパイロットで前進させたがこちらの射程外の距離で砲を打ち込んできたのだ、しかもかなりの威力で。
「向こうにも探知魔法が存在するようだな。」
「魔法弾ではなくそのまま何かを打ち出しているようですね。」
「感心している場合か、あれは直接船から打ち出されたことは分かった。あとはチュングアのフィジ(飛行機)はどれほどの威力があるのか・・・・」
「海戦で迎え撃つのは危険すぎる、一旦撤退しスキをつくしかない。大型船ではなく小型船にエクスプロードを積んで攻撃するしかない。」
「効くのか?我々の船はコンクリートや”ウィターエ”の木材を使用している対して相手は鉄だ、鉄は何だかんだ言って割れにくいし頑丈だぞ?」
「それだけだ、結界も張っていないし充分通じる。・・・それに朗報だ。」
「うん?」
「王子が英雄協会から脱会するそうだ、一週間後に正式に脱会の届けを出す。」
「それはありがたい!!」
「今頃チュングア人はあたふたしているぞ。」
「違いない。よし、全速力で戻るぞチュングアに・・・・・」
急に黙りだした同僚に不審を感じた彼が何が合ったのか確認しようとした時何かが見えた、海と比べて薄い青で塗られた空間から白い光が見える。そしてそれを眺めたとき理解した。
「チュングアの攻っ!」
彼が最後まで言葉を発する前にその船は火柱を上げ海のもずくとなり、木片と紙だけが残った。
「こちらZ-9C、敵の小型船だと思われる船を撃沈しました。いくつか紙か機材らしき物が浮いています。後に回収させるべきだと進言します。」
「了解した、回収部隊が来るまで待機。周囲を警戒せよ。」
「了解。」
その船は木製でオーバーキルさえ思われた、対艦ミサイルの無駄遣いだと言われたこともあるが結界の存在もあるためオーバーキルぐらいが丁度良いとされた、だがミサイルの性能低下も考えられるのでこのような放っておいても問題なさそうな敵や、元世界の素材を使用した高性能な武器を使用するのは追いつめられた状態であるべきだとパイロットは思っている。
「しかし警戒ばっかりだね、こんなに飛び回っていたら上陸する前に燃料がなくなってしまうよ。レーダーがあるんだからそれで良いような気がするけどな。」
「さっきの木造船は船のレーダーに映らなかっただろ?」
「まぁそうだけどさ。」
すると対潜レーダーに反応があり何かが浮上する様子を察知した、よからぬ気配を感じ高度と距離を取ると水中の何かがクジラが魚を食べるか如く残骸をそのまま丸呑みしまた水中に戻っていく。
「なっ!?」
一瞬の出来事、恐らくだが餌か何かだと思ったのだろう。国内輸出輸入業者はよくもまぁこんな危険な海に進出出来るなと思った。
実はこの生き物はバラスカ王国の飼っている海中生物であり本来この海域にはいないのである、現にウニオー大陸の航路では巨大生物と遭遇すれどこのような攻撃的な生物ではない。
「とりあえず回収が不可能にあったことと、巨大生物接近と報告しておこうか。」
「王隊長、どう思います?」
本来海軍だけで行うかと思われたこの上陸作戦に何故か陸軍も参戦している。
「さぁな、確かに実戦経験があるとはいえ人間相手は初めてだし・・・何で俺らが選ばれたのやら普通は香港の駐在部隊を向かわせると思ったが。」
「やっぱり香港の守りが気になるんですかね。」
「それ以上に、陸戦隊を見ましたか?すげえ面してましたよ。」
「ん?おっかないから見てなかった。」
「そうですか、でもいい銃持ってましたよ。」
訓練で使っていた半自動小銃のことを思い出す、木製で世界大戦のような装備、陸戦隊はどんな装備なのか。
「まぁ、俺らは走り回って銃を撃ってバズーカーを撃つだけだ。」
『しかし魔法使いっていうのはどんなんだろうか?ゲームでしか見たことが無いからできれば会ってみたいな・・・こういう形ではなく。』
王隊長胸ポケットに入れたタバコを取り出し火をつける、そのとき左手が微かに光ったが本人は気づかなかった。
翌朝、まだ朝焼けが海面に映る中CIAの映像には主力艦隊と思わしき艦影が映っている。
「ロックオン完了、いつでも発射できます。」
「我が解放軍の力を見せてやる。」
圧倒的距離からアウトレンジを行い、圧倒的な戦闘力で戦闘を行う、そして海にいる巨大生物は置いておき通常戦闘ではまず負けない。
「発射。」
「了解発射!」
事務的にそしていつもの演習のように行う、艦長はもっと乗員が興奮状態になっているかと思ったが巨大生物に追われたり、撃破している間に慣れてしまっていた。
『まぁ緊張しすぎるよりマシか・・・』
砲雷長は某イージス艦の砲雷長のようにくいっと眼鏡をかけなおす。
『昔の海戦は直接乗り込んで戦っていたが、ここの世界の人間もするのか?大型船だけではなくゲリラ戦術も多用すると聞いたが・・・仮に乗り込まれた場合対応できるのだろうか。」
基本的に艦内で銃撃戦はまず起きない、おきるはずがないのだが魔法とやらですり抜けて入って来るのではないのかと懸念しており指揮官クラスは拳銃の所持をしている。
『使うことがなければいいのだが・・・』
陸戦隊を除き通常銃をいじることがない彼らはAKライフルとサブマシンガン、手りゅう弾しかない。
もしこの船に侵入されたのであれば一方的な虐殺になるだろう。
(まぁ緊急時の為のRPG7といったロケットランチャーもある。小銃弾が効かない場合に備えての最悪のケースを想定しての事だった)
「着弾まで10秒前9,8,7,6・・・!?撃墜されました!」
「バリアーか・・・」
司令官は顎を撫でレーダーに映る艦隊を睨み付けドットまで見える程睨んだ。マニュアルに従うのであれば輸送船に載せた、中国版CLUB-Kともいうべき簡易ミサイル発射台にデーターを送信し飽和攻撃の準備を行わなければならない。
「遼寧から偵察機飛ばし目視にて艦隊を確認せよ。」
「宜しいので?」
作戦方針ではなるべくジェット機を使用しないことになっていた為司令官の命令に不審を感じた。
「構わん、どうも引っかかる。」
現在、どこから流れたのか不明だが雑誌やテレビ、ネットといった媒体から世界中に中国の情報をこの世界の人間は手に入れいている。
第二次世界大戦の本や戦術を記したその他の内容は今大急ぎで形だけの回収を行っている、だがいくら回収しても漏れてしまうだろうし、また石油やその他の技術等も機密情報を除きダダ漏れ状態だった。
蛇足になるが、周辺国が機械文明を再現しようにも機材がなければ不可能であるし、また製造機械があってもノウハウや経験があれば再現が不可能であるはずだった。
『魔法』魔法を応用すれば可能である技術はいくつかあるだろうしまた最大の懸念である周辺国の工学技術の向上につながる可能性がある懸念もあった。
『漏れた情報と戦術思想、それらで対策を取られているかもしれない。レーダーに映るだけの船とか・・・』
国が予想していない所からも出てくるかもしれない、戦記物の小説漫画、アクション映画。元世界の我々が行ってきたコピー活動のように、逆に彼らも中国の技術を求めて追いかけてくるだろう。
しばらくしてJ-15戦闘機が甲高いジェット音を鳴らしスキージャンプ式の甲板から飛び立った。
『英雄が戻ってくる、だがそれは今日じゃない。出し惜しみしていれば折角の燃料やミサイルが使う前にお釈迦様という笑えない状態になる。最悪のケースを考えて今のうちに叩けるだけ叩いて組織だった抵抗を出来ないようにしてやる!』
バラスカ王国海軍主力艦隊
「チュングア軍のフィジが接近!速いです!」
主力艦隊はいくつかの結界に着弾を確認すると生命探知機に一機の影が見えたのだ。
魔大陸の時に使った陸地から出る膨大な魔力とは違い、軍単位で動く魔力や生命力では35kmぐらいが限界だった、ましてや魔力反応が無いため余計に不安定になっている。
「これがフィジか・・・おそらくさっきの攻撃で無駄弾を撃たせようとしたのがばれたのか?」
「対空戦闘用意」
数発撃たれただけで結界はかなり弱っており、このまま回復する前に何発も撃たれては結界が持たなかった。通常このような戦闘では何十発も撃ち合って戦う物であり簡単に敗れる物ではない。
「徹甲弾と言われている特殊砲弾でしょうか?」
「純粋に爆薬の量が多いだけだ。」
敵司令官ダグロスは不安に思う部下にただの力技だと言い放ち、自身の心を落ち着かせた。
『仮に力技だとしても、その力技ができること自体問題だがな・・・』
フィジはぐるぐる回って攻撃らしい攻撃を行わない、おそらく偵察なのだろう。だがあの速度では撃墜は難しいし、不可能だ。
「帰って行きました。」
「これで・・・攻撃は確定だな。」
誰が誰に対して、それは言わずとも分かっていた、ただそれに対して何も対策が出来ない。
「飛行船は中古しかない、本土戦でいかに程役に立つか。」
「我々が敗北する前提なんて縁起が悪いですよ。」
「彼らは決して、人知を超えた存在ではない。」
「?」
何を伝えたいのか、クエッションマークを浮かべている部下に彼は本を出す。
それはチュングアの本だった。
「彼らは五千年の間に様々な国難を乗り越えてきた、魔法が無いにも関わらずここまで生き残れる民族はそうそういないぞ?
彼らはカラクリが優れているのであって神や精霊ではない。その気になれば私たちもこれを再現できる。だが・・・伝統に縛られた我々では不可能だ。」
悔しそうに手を握りしめ窓ガラスの向こう側を見る。
「我々は彼らの優越している所を最大限に活かす、そして必ず勝つ。」
その時だった、いきなり爆発し結界に焰が映った。
「探知機が探知するより速いのはかなわない。各自の判断で撃墜開始!」
すると各自で砲とエクスプロードが光り、撃墜に全力を尽くすが全てはずれ殆どが結界に当たっている、対してこっちからは攻撃すら出来ない。
「あたりさえすれば!!」
チュングアの船は鉄で出来ているが、設計思想のため薄いと報告にある。実際(冶金による硬度は置いておき)今積んでいるエクスプロードでチュングアと同じ厚さの鉄板を貫通した。
「駄目だ!結界が壊れる!」
そして一刻も経たないうちに結界は破られた、下手をすれば十時間以上持つとも言われた最高の結界がいとも簡単に破壊されたのだ。
「総員衝撃に備え!」
するとまず隣の艦に命中し赤い火柱と、魔力の暴走による青い光が混じり合いピンクの火柱が出来上がった。
次にミサイルが襲ったのは数名しか乗っていない無人の船だ、ロクに荷物も積むこともできないので全くの役立たずだったが、今では弾よけとして充分に役に立っていた。
「総員海に脱出!」
結界が破られた時点で勝ち目はなし、決断をした敵司令官はすぐさま乗員を海に放り出し、そして次々沈められる僚艦を眺めた。
「まさか先頭に立っているこの船が司令塔だと思っていなかったのだろうな・・・」
周りにボートに乗ろうと我先に泳いでいる乗員がいる、後方に予め放しておいたボートがこっちまで流れてきている。海流の関係で戦闘が終えた後に乗るつもりだったが、まさかここまで早く終わるとは思っていなかったので、まだまだボートは先に方にある。
「さらばだ・・・」
司令官そして艦長はブリッジから見える最後の光景を愉しみ共に海へと沈んでいった、艦長や責任者のあるべき姿として。
「全艦撃沈。」
CICのレーダーを担当していた船員は演習と同様に冷静で機械のように報告だけをする。
「ミサイルの消耗が馬鹿にならない、あともう少しアレだったら上陸に使用する予定だったロケットも使う所だったぞ。」
おそらく上陸地点は結界が張られており海上戦と違いミサイルのような高価な物を使う気はさらさらない。そこで中国軍は砲弾より安くかつ簡単に設置できるロケットを採用した、北方防衛戦でも使われ、物量攻撃にはもってこいだった。
まずこれらで結界と防衛施設を破壊し、重要施設や後方の施設をミサイルや戦闘機で片付ける予定になる。
輸送船が多いのもそれが起因している、輸送船にそれを載せ現代の戦闘艦では不可能な鉄の暴風を再現しようとしているのだ。
「敵の乗員がボートに乗って浮遊していますがどうしますか?」
「迂回しろ、救助して内部から暴れられては敵わない。それに乗員の分しか食料は積んでいないし、魔法で攻撃されてはたまらん。」
「了解。」
ここには五月蝿い国連もいない、それに国際法を知らぬ侵略者、相手にする必要は無いと中国全体に渦巻いていた。仮に救助するようなことがあれば世論を気にした政府が何かしらのペナルティを加えられるのかもしれないのだ。
『まぁ、自国の王様を恨むんだな。』
「おええええええ!」
「楊大丈夫か?」
輸送船内で盛大にゲロという噴水を披露する男がいた。
「王隊長、何で陸軍が上陸するんですか~、船酔いが嫌だから陸軍に入ったんですよ・・・」
「知らん、上層部に言え。」
「晩飯いらないです。」
「そうだな、だが明日はしっかり食っておけ。明後日からは上陸作戦開始だ。あとテレビは見るな。」
食堂では多くの海兵や上陸部隊がテレビを見ている、娯楽を求めハリウッド映画を見ている。宇宙からやってきた得体の知らない生命体に対し、米軍と日本が最新の船から旧式の戦艦が異星人の船をたたき倒すというハリウッドの定番ネタだ。
「確か日本の戦艦大和が一番強いと聞いたが?」
「でも空母の前じゃ雑魚だよ。」
すると次反日ではなく反バラスカドラマが放映された、実際のバラスカ人との共通点はフードと鎧を付けている箇所だけであり、日本と同様勝手なステレオタイプになっている、顔はバイキングか海賊のような醜悪な顔をしており、今後バラスカ人のイメージがこの顔で定着するだろう。
そのバラスカ人の一人が中国軍の発射した砲弾が直撃し吹き飛んぶ。
「はは、吹き飛んだぞ!」
その次は安っぽいCGのゴーレムと戦車が撃ち合い、一体のゴーレムが倒される度にドミノ倒しのようにゴーレムが巻き込まれガンガン倒れていく。あそこに映っているのはアメリカ人やロシア人といった元世界の住民がエキストラや俳優として出演している。理由は破格の出演料であることは内密になっているが。ドラマの中だと言うのに本気で興奮し声を荒げている。
『実際の戦闘はこんなものではない・・・』
主力の上陸部隊と別行動をとる部隊の隊長 陳 列缺は一部が欠けた右耳を触りながらその映像を通路から眺めた。あの戦闘は中国軍の圧倒的勝利を収めた、数値でも戦死者の数でも全てにおいて圧倒している。
だがあくまでも戦術や兵器の利がこちら側にあっただけで、向こうが戦術や戦い方、そして中国の兵器を模倣すればどうなるか分らない。
銃が通じなかった恐怖、逃げることだけしかできなかった恐怖が彼を震えさせる。戦闘と呼べるものではなかった、撃つことすらせず必死に走り背中から迫りくる魔力弾から逃れようとしていた。当たったら防弾チョッキだろうが防弾プレートだろうが関係なしに攻撃を通し命を取る、あの背中からやってくる恐怖はいまだにぬぐえない。
「この戦闘、歴史に残るな・・・」
迷彩服ではなく黒い戦闘服の彼はそのまま食堂に入らず通路へ消えた。