裏方
「我々はいかなる方法を使ってでも自国の為に行動をするだと?」
「北朝鮮はルイーマ共和国に武器輸出を視野に入れている。」
ギリギリと歯ぎしりをしたい怒鳴りつけてやりたい、だが目の前にいるのは金一族、そしてそれは国家の代表であるためそのような行為は許されない。
無理に祖父と似せるため太るだけ太った巨体、そして時代遅れの人民服の集団が彼を囲っており中国高官と対峙していた。
スーツ姿の中国の外交官、そして歴史教科書や映画にしか出ないような前世期の亡霊達。その光景はまるで西側陣営と東側陣営、もしくは同じ世界の者同士であるにも関わらず全く別世界であることを表しているかのようだった。
「君は旧世界から来た者同士共に力を合わせようとは思わないのか?我々は今までと変わりのない量の支援を行ってきた。」
「そうであたったな、だが我々も中国と共同で経済活動を行いたいのだよ。」
何が言いたいのか、会話が成立しているように思えなかった。まさか普段から権力片手に我儘を通してきたせいで頭まで本当に腐ったのかと思った、すると中国の高官の一人がその意図を察した。
『そういえば北朝鮮は中国と同じ武器輸出国家。中東やアフリカに武器を売って外貨を稼いでいたが、その方法が途絶してしまった。観光も駄目となれば今までの支援では成り立つことは出来ない。』
「無論タダではない、我が国は武器を提供する。」
『毎度のことだが北朝鮮は交渉だけはうまいな。だが我が国だって大量の武器を売ってきた。
そいつらの会社を支える為にもそいつらから買い取る必要があるんだよ。武器を売ることで支援して仲間であることを中国国民にPRするつもりだろう。だが政府からしてみれば余計に荷物が増えたような物だ。
我々が欲しいのは武器ではない燃料だ資源だ兵士だ・・・・兵士。
ハッキリ言えば訓練不足で栄養失調気味の彼らを敵地に置いていくことに不安はあるだが国内の国境警備ならば?国境にいる人間は皆無に近い、国境警備ぐらいできるのでは?
そうすれば幾つか兵力に余裕ができる、加えて兵の育成もいや何を考えている、上陸作戦の際無学な犯罪者を一掃する計画があるんだそんなことしなくても自国の兵だけで事足りる、だが北朝鮮を放置すると何をしでかすか分らん。』
「休憩をはさみましょう。」
高官が頭をフル回転している間不意をつくように言う。
そういって悠々と総書記の金将軍は自室へ戻った。
20世紀のままだ、鎖国のように閉じこもり人民服とチマチョゴリを着て木炭車を滑らす、最近になって液晶テレビやパソコンを輸入し始めたがそれでも閉鎖された国である。
「変わらないな、この光景。20年前から・・・自分が生まれた時から全然・・・・」
金主席は目を瞑り日本や旧世界にいた時のことを思い出す、秋葉原の小さな電気屋。お世辞にも綺麗とは言い難くむしろ小汚い印象があるが、そこに売られている商品は北朝鮮国内にはない一流の商品ばかりだ。
北朝鮮国内で上流階級の者しか通えないデパートに行っても秋葉原に敵う商品はあるだろうか、ラジオさえもだ。
「父上本当にこの国の将来は大丈夫なのだろうか?」
亡き父と二人きりになった時列車で問いかけた質問だ。その返事は何だったのか、今となっては思い出せない。
「共和国の未来の為・・・」
彼は天井に飾られている祖父と父を見る。旧世界にいる兄は今どうしているのか、家族でありながらここまでバラバラで挙句の果てには親戚まで粛清する始末。かつて革命の嵐に吹き荒れていた世界は資本主義の波に飲み込まれ盟友である中国でさえその波に飲み込まれる。
そしてかつての盟友からも朝鮮共和国を厄介者としてしか見なくなった。そして隣国の中国は我が国の事を・・・・
死の商人として、世界に武器を販売するだけしか能のない国になった我々はその国の人々にどう思われているだろうか、恨みかもしくは圧政を解放に貢献したとして感謝しているのだろうか。
いや、しないだろう。その武器のせいで無用な戦闘が長引いているのだから。
柳 哲生。香港事変にも参加しエースパイロットである彼は陸地のある会議室に集まっている。その部屋には彼だけではない、遼寧に所属する全てのジェット機のパイロットが集っていた。
いつもの無機質な部屋ではなく、木材を沢山使用して豪華さと華麗さを見事に調和しきった応接間だ。
何故呼ばれたのか、パイロットたちは不思議に思ったが渡された非常識な資料でその疑問はどこかへ吹き飛んだ。
「これは?」
「空母増強の計画だよ。」
「無礼を承知で申し上げますが今の我が国では不可能ではないでしょうか?」
そう、この国は自分で着陸の際使用するワイヤーを自国で生産できない状態だ、今中国と北朝鮮しかないこの世界では勿論不可能だ。中国製のワイヤーでは耐えきれない。
今彼の勤務先である遼寧でさえそのうち使い物にならない可能性がある。
「ああ、そうだ。」
「では・・・ヘリ空母ですか?」
「察しがいいな。だがそれだけではない。」
『それだけではない?』
彼らは何を載せるのか想像してみたハリヤーのような垂直離陸機か?いや中国にそれを作る技術は無いまさかオートジャイロ?いや中途半端な性能しか無い。その時嫌な疑問が起きた。一応中国もワイヤーは作れるジェット機に耐えれないだけで・・・・
「まさか・・・プロペラ機ですか?」
「そうだ、プロペラ機とヘリコプターを中心とした空母を作ることになった。今候補に上がっているのは米軍のスカイレーダとII-10攻撃機が候補に挙がっている、つまりCOIN機を搭載するのだよ。」
COIN機、安価で揃えることが出来るが殆どは対空能力を持たない紛争地域だけで先進国同士の戦いには使用できない。だが彼らはそれ以上の技能を有するジェット機のパイロット、何が言いたいのか。
「つまり我々に空母働きたければプロペラ乗り換えなければならないそういうことですね?」
「そうだ。」
COIN機という成り下がりの航空機を使ってでも空母でいるか、ジェット機のパイロットであることを選ぶのかどっちの栄誉を選ぶかは好きにしろと言いたいのだろう。
選ばれたエースパイロットだからこそ許される選択、普通ならば選択義なんぞないだろうに。
「とはいえ、制空権を握れるんですか?」
「今まで制空権を取ってきた。」
「それはジェット機があったからです。ジェット機のような規格外であったからこそ勝てたものの、レシプロ機であれば不安があります。」
「別に世界大戦のような装備で行くわけじゃない、ちゃんと近代改装はするさ。ミサイルなどを装着してね。」
パイロットらは戦闘ヘリとやっていることは変わりがないと思った。
しかし何故わざわざ不安の残るCOIN機を引用するのか、まず敵地にジェット機を飛ばすにも地上の設備が必要となる、無論中国軍が負けるとは思えないが兵士の損害はなるべく減らしたい、しかもこれから少子高齢化社会が待ち受けている中若者を失うのは国家にとっての損失だ。
となれば汎用性の高い空母からすぐに地上部隊の掩護を行いたい。
攻撃ヘリだと航続距離の関係から限界があり、色々制約を受ける。だがCOIN機は航続距離があり奥地の歩兵に援護や攻撃、支援等行える。
例として中国の攻撃ヘリWZ-2は820kmの航続距離に対してスカイレーダーは4800kmもある、無論La-9といった昔運用していたプロペラ戦闘機も考えているだろうがそこら辺は上の考えることだ。
「さて、どうする?」
「決まっています、ジェット機での任務を続けます。」
パイロットたちは皆そういった、当たり前だろう。ジェット戦闘機は空軍の華だ、好き好んで格下の部門に行きたがらない。だが一人だけ違った。
『敵がいなくなった後にポチポチとボタン押して戦うより真正面から一線で戦った方が面白そうだな。一方的に敵を叩くより張り合いがある。』
今現在判明しているドラゴンの速度は200kmハッキリ言って敵ではないのかもしれない、だがまだ判明しているだけあり、奥地の魔大陸では明らかに800kmを超える速度で襲ってきた種類もいると報告にある、本土防衛の最終兵器として控えている可能性もあるだろうし油断もできない。
ただこの転移で中国は大きく変わろうとしていた。