動き出す歴史と物語
「神に召されるであろうアーメン。」
「うわあああ!フィリピンに帰りたかっただろうね、家族に会いたかっただろうね!!」
フィリピン人女性の同僚なのか、棺に入れられた女性を見ながらその者はその場で泣き崩れていた。香港の葬儀場では多国籍の人々が泣き叫びそして死者を供養していた、亡くなったのは主に香港人と東南アジアからの出稼ぎ、そして西側諸国の人々だ。
皮肉なことに中国本国の死者は兵士を除き殆どいなかった、だが同族意識ましては世界が孤立したためその傾向は強くなり本土のみならず旧世界の民衆の間で国籍を問わず報復論が巻き起こっていた。
「解放軍は何をしているんだ!?捕虜を皆殺しにしろ!」
「何処の国かは分っているんだろ!?折角の空母もただの飾りだ!」
常 万全国防部長は苦々しくその様子を二ュースを経由して見ていた。
「バラスカ王国、バージリ王国の南に位置する国かしかも随分と遠い。」
「第一彼らはどうやってここまでワープと言うべきか、来たのかそれを知りたい。」
除作成大将は頭を掻きながら敵の発生ポイントを記した地図を何度も見直していた。一部では彼の責任問題を追及する人は少なからずいる。
なんとしても彼は反撃を行いたかったがそれは無理であることを把握している。
まず位置と衛星写真があるだけで詳しいことが分からない、加えて船は座礁する可能性もあるし不用意に近づくことはできない。それ以前に近づく途中でいきなり魔法で船を破壊されかねないことと航海中に別の海域に飛ばされる可能性があることだった。
「5000kmも離れた土地だ、ウニオー大陸に滑走路を造れば爆撃が出来ないことはないが・・・・流石に軍事基地を作るのは向こうの政府を挑発することになる。」
「それに鉱山も基本は向こうが警備を管轄することになりましたからね。」
それにただでさえウニオー大陸の開発で抵抗勢力が妨害して作業が思うように進んでいないと言うのにそこで問題でも起こせば・・・
「主席、嘘の情報でも流してはどうでしょうか?幸いにも国外はネットがありませんので嘘が発覚することはそうそうないと思います。」
主席は首を振る。
「だがどこの部隊が侵攻したことにする?大々的に報道しないと怪しまれる。第一信じてくれないだろうし工作も大変だ。それよりも前に調査員が襲われただろ?あれを口実にウニオー大陸を攻めるのはどうだ?」
「現地の人間とつながっている確証がない限りそれはお勧めできません。」
それを言ったのは国家安全部の人間だ、軍事作戦ではなく主に工作を行うと買って出てきたのだ。
「我々はウニオー大陸のスパニョル王国内で起きた襲撃事件の背景を調べましたがそこにいるリヒテン家の貴族が怪しいと思われます。」
「待て、そんな報告聞いていないぞ。」
各省を担当する将軍たちが彼に目を向ける、だがそれは驚きの視線と言うより自分たちを軽視した事へ対する怒りと疑念の視線だった。
「何せ極秘の内容でしたので、主席も含め今日まで報告は避けていました。」
それは主席に対してまで秘密にする必要があったのだろうか、確かに混乱の真っ最中であったことと海賊に襲われたことにはしたが、正規兵がそこかの工作員に襲われたという重大性を理解していないかの行為であった。
「報告を聞こう。」
主席は思う、恐らく自分たちの存在価値を知らしめたいのだろうだがそれは余計に不信を煽りただでさえ文官と武官の不協和音に拍車をかけかねなかった。
いや自分も悪いのだろう、国家の危機という免罪符を使い公安の行動を拡大しすぎ安全部を蔑ろにしてしまった。そればかりか逆恨みに近い形で汚職を行った議員や派閥からも不信を買ってしまったのだ。 転移する前に行えばよかったことを行わなかったツケだった。
『このまま清みたいに滅ぶなんてことになったら笑えないぞ。』
手短に魔法を教えてもらえるのはローマ帝国もどきのルイーマ共和国ぐらいだがあの国はバージリー王国といざこざを起こしたくないと考えており消極的だ、かといって北方の化け物にも頼りたくなかった。
「ウニオーでいざこざを起こしても折角の資源供給元が不安定になるだけ、バージリー王国とは民生品の交易を結んだ矢先にその隣国に攻め入るのはよろしくない。しかしこのまま傍観者を貫くと血気盛んな軍人が暴走し文民統制が効かないどころか最悪内乱にもなる。」
『核兵器を使用するわけにもいかん、最悪教科書に愚行の主席と載りかねん。』
だが今回の戦闘を逆に有難がっている面もある、侵攻する大義名分を得たのだ。中国は今の今のままでの回復ペースでは間に合わないのだ。中国の銀行は大量の不良債権があり、それを今まで外貨で補ってきたがその外貨がただの紙屑になってしまった。その穴埋めもしなければならず、どうしても侵攻という形で中央にお金を回さなければなかった。
できれば戦費を最小に、だが相手はどんな武器を使用するかもわからない国。戦費を最小に抑え利益の回収ができるのか怪しいところだ。
「ルイーマ共和国に打診しよう、彼らに協力を仰ぐんだ。」
ルイーマ共和国
「北方の蛮族が何やら申し出があったそうだ。」
議場ではなく兵器製造を請け負う会社の執務室だった。 そしてその席にはダグラス・ヒューズと呼ばれる社長がおり彼はワインをグラスに注ぎ手紙を読む。
「こっちの世界の基本的な戦術や航海術を御教授願いたいだと、やはり蛮族ではないか。」
チュングアの港町に攻撃を仕掛けたが侵攻部隊の殆どが返り討ちと捕虜になったと知らせが入った、当初この知らせに世界は驚いたが後にチュングア発表を元に分析した記事を見て失笑したのだ。
1バラスカ王国侵攻軍は対魔物戦に備えた戦時体制の相手を平時体制とみて侵攻した
2その部隊の殆どは実戦経験がなかった
3貴族や良家出身が大多数だった
4地理などを地図上だけでしか理解していなかった
5敵の装備すら知らないことと戦争への意識の欠如
6敵は4000人に対しての一万以上の兵を派兵した
これでは負けて当然である、いくら魔法があっても坊ちゃん育ちにましては正規兵を相手に戦えるわけがない、敵の一万の派兵には多少なりの衝撃はあるが200万の軍が存在することと13億の人口が存在する故大規模な輸送や移動には慣れていると予想した、おそらく彼らにも高速道がありそれなりの規模なのだろうと予想する。
「しかし数だけの軍はいずれ崩壊するぞ。北方の化け物を退治するにも限界がある、それだけの輸送は国内であるからこそ可能であって国外では数頼みの戦いは展開できない。チュングア人はどうあがいても文明的な武器がない限り不可能だ。」
「ですので兵器も購入したいと申し出がありました。」
「良い商売相手だが向こうの方が貨幣に価値があるというのに納得がいかんな。」
GDPやその他の概念がこの世界にも既にありそれらを基準に計算していくと向こうの方が物価が高くなってしまい、中国は貿易赤字を被っている。
「まぁ13億の国民がいるので当たり前と言えば当たり前かもしれません。あの国は潜在的な力を秘めていますので。」
「丁度政府は骨董品の武器を一斉に切り替えて新しい兵器にしたがっていただろ?チャンスだ議員に働きかけてチュングアどもに中古品と我が社の抱える骨董品を売りつけてはどうだ?」
「ですが納得しますかね?」
「バラスカ王国のような国相手に戦うならばともかく魔族や辺境ならば充分武器として機能する。数しか脳のない国には特に喉から手が出るぞ。」
「ウニオー大陸の諸国から抗議が来ると思いますが。」
それもそうだ、水準から見てその中古品はウニオー大陸諸国の正規兵と同じ性能の武器なのだただダグラスの会社が抱えている骨董品はそれ以下だろうが。
「ああ、すっかりそいつらのことを忘れていたよ。」
何を言っているのやら、秘書は思う。
そのウニオー大陸で絶大な力を誇っているのは貴方でしょうがと、先進的な魔導道具を用いウニオー大陸の経済の殆どを全て握りしめていた、またウニオー大陸は前時代的な国であり王族こそが一番と言わんとばかりに商人を見下す傾向がある。
つまり現地の王族の機嫌取りさえ怠らなければ本国では違法なことを好きなだけ行えるのだ。
そう例えば低賃金労働を行わせる等ではない、商売や労働の待遇に至っては民衆の反感を買わないようにしている。では何をしているのか、一夫多妻のハーレムを築き上げる、それだけならばまだしも10代後半の少女を寝室に連れて行くことさえ珍しくなく、ダグラスの好きな解釈しかしない教会や女学園まで設立し、授業や修行の合間に女子生徒やシスターを寝室まで連れて行っており労働者以外の現地人に反発を買っている。
だが実力のある商人であるには変わりなくまた彼が大陸から引けば仕事がなくなることを理解しており、表立って批判する人はいない。
加えて彼との間に生まれた子供の養育費も彼が払っており、将来その国でそれなりの地位のある仕事に就かせるつもりでもある。現に若い間に作った子供がある港町の有力者になっておりゆくゆくは藤原道長の立ち位置になることを目指している。
「しかし、チュングアが国挙げて商人のように鉱山を開拓しにくるとは思わなかったな。」
そう、蛮族だと侮りながら彼は心の中で自分の権力がチュングアに取られるのではないのかと懸念している。普段はウニオー大陸でその低俗な生活を行っていたが中国の船舶やチュングアの情報端末を見るや否や本国に戻ってきたのだ。
理由はそう、チュングアが大規模な鉱山事業に乗り出し、金を落とすようになったからだ。まさか鉱山業の掘り出しをそのまま他国に任せるとは思いもよらなかった。
そしてチュングア人の落とす金が市場で流れチュングアと関わる物が潤う。そしてチュングアの持ち込んだ製品が便利な物ばかりで我が社も使用しているのだ。
だが蛮族らしく信じられない程の粗悪品もあり、ウニオー大陸で生産した方が信用できる製品もあるのがまた事実であった。
「技術が高いのか低いのか分からん国だな。」
シャープペンシル、これを見たとき驚きしか感じなかった。鉛筆と違い削る必要がなくしかも比較的細い。文字を書くには最適な一品だった。だがすぐ壊れる商品もあり、性能にばらつきがある。
「商品は金ではなく向こうの製造機の物々交換で行おう。」
その時だった。
「新貴族のダグラスは会長を辞めろ!」
「貴様に良心はあるのか!?」
「不道徳者!!」
耳障りな音が聞こえる、そうだこの共和国本国ではウニオー大陸でやってきたことで嫌われているのだ。
あくまでも本国でそれらの行為を行っていないので法律で罰されることはないが、それでも納得のいかない人々がいる。
「くそ、だから本国に帰りたくなかったのだ。」
秘書は目の前の彼の手腕には尊敬しているが、彼のやっていることに関しては不快感しか感じない、こればかりは同意できなかったのだ。
「門の目の前にいる連中を退かせろ、警備会社に連絡をまわせ。」
「承知しました。」
秘書は礼をすると執務室から出て行った。
「さて、チュングア人にあの情報でも売るか・・・・」
起て!奴隷となることを望まぬ人びとよ!
我らが血肉で築こう新たな長城を!
中華民族に最大の危機せまる、
一人ひとりが最後の雄叫びをあげる時だ。
起て!起て!起て!
我々すべてが心を一つにして、
敵の砲火をついて進め!
敵の砲火をついて進め!
進め!進め!進め!
「あ~団結力を高めるためとはいえ鬱陶しい。」
ユンイェーは校内で音楽を流す前に必ずこの国歌が流される、今まで直接流行の曲を流していたのに今ではこの状況だ。ハッキリ言って鬱陶しい・・・鬱陶しい。
「ゲ~ロゲロボ~ゲーロゲロボ~♪」
「何の音楽?」
「日本で人気の音楽らしい。」
特に子供に人気だとか・・・
これから日本の音楽が聞けない、世界の新曲が聞けないと思うと寂しいものである。今までの生活が全て味わえないと思えば非常に心苦しい。
「今の間に好きな物食べておけよ。」
好きな物を食べておけ。
政府は食糧の配給を発表し今は食糧の買いだめが発生している。そしてその買い溜めが原因で一週間以内にそれを執行すると噂がある。
「モクドのハンバーガーでも買おうかな?」
すると同級生は残念そうにその発案を残念そうに蹴る。
「モクドは一時閉鎖だってよ。肉が調達できないとかなんとか。」
「早く情勢が回復してほしいね。」
「牛肉の品種改良もやらないといけないそうだぞ。」
「それはまた・・・・」
自分が大人になってからそれが解決しそうだなと思った。
すると女子グループがキャッキャしながらシンシン達が廊下をわたっていく、だがそこで一人だけ場違いな人物がいた。
紅花、父親が外資系の会社の役員だが海外の工場が全部消失
してしまい、今色々と危機的な状況になり今までの友達グループつまりお嬢様グループから見捨てられたそうだ。
「本当世の中何が起きるか分らんな?」
「ああ、そうだな・・・おいユンイェーすぐにスマホのニュース見ろ。お前の兄貴が魔族の貴族娘に告白されたって。」
「本当世の中何が起きるか分らんな!?つーか兄貴何しているんだ!?」
いきなりの婚約宣言(?)、しかもニュースという形で行ったそれは驚愕しか無かった。
魔大陸北西中部 ドラストピ (地方都市)
「ワタシ知ラナイ。」
「戦車長。諦めてください。全てはお国の為です。」
非情な現実に目を背けようとする彼に追い打ちをかける。
「いや、肌の色が水色な件に関して。」
「肌で人を判断してはいけませんよ。」
「いや目が爬虫類みたいになっていて翼と尻尾が生えている件。」
「逆玉じゃないですか、相手は貴族ですよ。」
「お前交代するか?」
「すみません、無理です。」
ドラゴンとドラゴンの住処(というより本拠地)の一歩手前で停戦協定を結び、事無きことを得て中国の勢力内になった土地で魔物狩りだけ行う場所になったその時、中国軍は人型の魔族との交流の為(実際は戦車に興味を持った姫様がもう一度見たかった)と打診が来た際、戦車とその護衛の部隊と一緒に魔族の国に赴いたのだが。
たまたま屋敷から逃げ回っていたお嬢様を見つけて、それを戦車で匿ってかつお泊まりしてしまい問題になった。
「しかし自分が押し進めたのではなく、向こうが勝手に・・・」
「分かっている。」
彼の上官が同情するように彼を見る。その一部始終を見ているだけに。
「無理矢理乗ってきて無理矢理テントに泊まって、んで既成事実を作られたと。」
「一緒に寝てませんよ?」
「分かっている!お前がエルフフェチだと言うぐらい。」
「ふぁ!?待ってください、何か偏見持っている!?まぁ強ち間違いでもないですけど!!」
「あの悪魔族か魔族が良く分からんが結婚して損は無い、普段彼女がいないって嘆いていただろ?」
「いやいや、相手アレですよ?卵で子供生むんですよ?どんな子供が出来るか怖いんですけど!?親になんて言えばいい!?」
「大丈夫だ!親には上手に言いくるめておく!!」
「自分には二次元という心に決めた人がいます!!」
「二次元の嫁なんて捨ててしまえ!!」
「嫌ですよ!!」
「政治システムは中世並だ、嫌だったら側室で人間の彼女作れ!」
「・・・・・・・・・・・それでも嫌です!」
「随分悩んだだろ?」
「それでも嫌です!」
バラスカ王国控室
「撤退した部隊の報告によると歩兵の戦闘能力は低いですがそれを援護する正面火器、つまりゴーレムや船舶の性能が高く正面から戦うことは危険でしょう。また念話妨害も念のために行いましたが、奇妙な通信器具を介して通信する道具がありました。
しかもそれは我々の認識している原理と違うことが判明し、勿論のことですが魔法文明を所有していない故当たり前ですが魔法石が発見されませんでした。」
「だろうな。」
どういうことだろうか、チュングアとの戦いは資産だけ回収(強奪)する予定だったが返り討ちに合いむしろ損失の方が大きくなっている。
何よりも貴族の方々や良家からの批判が殺到しておりチュングアへ対する報復論が巻き上がっている。
上司はもじゃもじゃに生えたひげをいじりながら貴族や軍人への対処を考えていた。
「防衛に回ろうにもいきなり本土決戦になる。海戦で持ち込むしかない。上陸作戦なんぞ論外だ。」
そう、論外だ。攻めるには三倍の戦力が必要。
彼らは攻めに来て直ぐに一万人に等しい数で攻めに来た、奇襲をかけたと思ったら奇襲にかけられたのだ。 彼らは大慌てで数を揃えたそうだが慌てて揃えた数がその数だ。
「とりあえず海上戦で抑えよう、そして待ち伏せだ。彼らとて外洋に出る能力はある、となれば反撃に出るのは読める。だがそのタイミングだ。あの動員力なのだから二か月以内に出動できるだろう。」
「蛮族にそこまでの力あるでしょうか?」
「あるから返り討ちにあったんだろうが。問題は議会が待ち伏せの方針で納得してもらえるかだ。」
「でもまぁ、うまいこと言っても気付く人は気づくでしょうね・・・・・」
彼らはそう言って彼らの地図を見る。一つの大陸程の大きさはある、人口も13億と聞いた、国境の警備もあるだろうから根こそぎ動員は出来ない。しかし100万ぐらいの軍は文字どうりに用意ができるだろう。
「謁見の準備が出来ました。ヨウジ大臣。」
「分かった。」
中国と同様大量の負債で今回の侵攻が起きたそして最終目的はバージリー王国へ対する侵攻の備えだったが大量の赤字という形で終わったそれをどうやって補うのか、今回の謁見で責任のなすり付け合いだけで終わらないことを望んだ。
大きな謁見場そして貴族と良家、また有力な商人がそこに並んでいた。国防大臣は軍の報告を皆の目の前で包み隠さず読み上げる中には負けた言い訳をとかげ口をたたく者がいたが知ったことではない。
「ふざけるな息子は生きているのか!?捕虜になっているのか!?」
「国交もない国だ知らせが来るわけがない。」
「三国を通してくるだろ!」
何を言っている、何も考えず戦争をするように差し向けたのは貴様らだろ国防大臣を心の中で罵る、有力商人も例外ではない彼らとてその甘い汁やお零れをもらうため税を懐に入れるために
大量の武器や必需品を売り込んでいた。
謁見が終わると罵声の中無表情な顔で部屋から堂々と出る、胸を張りまるで勝者であるかのように。
あの大国はどう動くのか。眠れる獅子なのかそれとも図体だけの豚なのかそれは一か月も経たないうちに判明することになる。