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石の記憶 回想編 休息の日


休息の日

休日の昼下がり。

「じゃあ、龍斗も優斗も、今日はじいじとばあばが預かるから。」

真奈美の母、麻子が笑顔で両手を広げる。

「じいじー!」

「ばあばー!」

二人の小さな怪獣は同じタイミングで駆け寄った。

「今日は公園行くぞ。」

純男が笑うと、

「こうえん!」

「いくー!」

二人は声を揃えて大はしゃぎ。

「二人とも、お父さんとお母さんの言うこと聞くんだぞ。」

「はーい!」

返事まで一緒だった。

その様子に亮介と真奈美は思わず顔を見合わせ、笑ってしまう。

「たまにはゆっくりしなさい。」

麻子は優しく言った。

「ありがとう、お母さん。」

「助かるよ、お義父さん。」

「気にするな。」

玄関の扉が閉まる。

賑やかな笑い声が少しずつ遠ざかっていく。

そして——。

家の中が静かになった。

亮介はぽつりと呟く。

「……静かだな。」

真奈美も苦笑した。

「二人が生まれてから、こんなに静かな休日って初めてかも。」

「かもしれないな。」

ソファに腰を下ろす。

ダイニングテーブルには仕事用のノートパソコン。

今日は閉じたまま。

代わりに手に取ったのは、プライベート用のタブレットだった。

「コーヒー淹れるね。」

「ありがとう。」

穏やかな時間。

ニュースを流し読みし、動画を眺め、何気なく画面を指で滑らせる。

育児用品。

家電。

アウトドア用品。

広告が次々と切り替わる。

その時だった。

亮介の指が止まる。

「……あ。」

透明な水晶の中を走る黒い針。

思わず画面を見つめる。

「ブラックルチル……。」

真奈美がマグカップを持ってくる。

「どうしたの?」

「いや……懐かしくて。」

画面を覗き込む。

「天然石?」

「ああ。」

亮介は小さく笑った。

「昔、神戸の高架下で買ったことがあってさ。」

「そうなんだ。」

「その頃はブラックルチルなんて珍しかったんだけど……。」

広告には、

『ブラックルチルクォーツ』

その下には、

『トルマリン入り』

の文字。

「……え?」

思わず目を丸くする。

「トルマリン入り?」

昔は知らなかった。

そんな種類があるなんて。

さらに価格を見て、

「高っ……。」

思わず苦笑した。

「そんなに?」

「俺が買った頃とは全然違うな。」

しばらく画面を見つめる。

昔の相棒。

もう手元にはない石。

「あの頃は独り身だったな。」

ぽつりと漏らす。

真奈美が隣に腰掛けた。

「今は?」

亮介は部屋を見回した。

子どものおもちゃ。

小さな靴。

ソファに置かれた絵本。

そして隣には妻。

「……今のほうが賑やかだ。」

「ふふっ。」

真奈美が笑う。

「でも、その賑やかさも嫌いじゃない。」

「私も。」

静かな時間が流れる。

ブラックルチルの広告を閉じた、その時。

タブレットが鳴った。

「ビデオ通話?」

画面には、

『お義母さん』

「もしもし?」

画面いっぱいに飛び込んできたのは、

「ぱぱー!」

「ままぁー!」

龍斗と優斗だった。

「すべりだいした!」

「ぶらんこものった!」

「アイスたべた!」

「じいじとはしった!」

二人同時に話し始める。

「順番、順番。」

真奈美が笑う。

画面の奥では純男が豪快に笑い、

その隣では麻子が少し疲れを滲ませながら微笑んでいた。

「二人とも元気よ。」

「お義母さん、大丈夫?」

「ふふ、大丈夫よ。」

そう笑うものの、

髪は少し乱れ、

額にはうっすら汗。

二人同時の子守りは、やはり大変なのだろう。

「ありがとう。」

真奈美が申し訳なさそうに言う。

「何言ってるの。」

麻子は優しく首を振る。

「たまには休まないとね。」

「ぱぱー!」

「おむかえー!」

画面の向こうで双子が手を振る。

亮介は笑った。

「……よし。」

立ち上がる。

車の鍵を手に取る。

「迎えに行くか。」

「うん。」

真奈美も笑顔で頷いた。

静かな休日は終わる。

また賑やかな毎日が始まる。

それでも。

それが今の自分たちの幸せだった。

玄関の扉を開ける。

二人は並んで車へ向かった。

午後の柔らかな陽射しが、静かに二人を包んでいた。


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