第6話 女は異世界人らしい
「な、なに?ドシた?ヤバイ…?」
地球と言った途端考え込むように黙ったマイくん。怒ってるのか何なのかこちらを見る目が冷たいような呆れているような…
あまりに動いてくれないので蜘蛛を食べることも忘れてわたわたしたり話しかけたりするのにそれでもまいくんが動いてくれない。
何か言ってよぉ〜!何も言ってくれないから心配になっていくだけじゃん〜!!
「…お姉さん、召喚元がどこかわかる?」
ああ、やっと口を開いてくれた!泣きそうになってたからとりあえず嬉しかったけど…しょうかん…?
「あー…この世界に来たときのこと詳しく教えて。」
え、この世界に来たときのことなんてよくわかんない。それでも言えと言うので仕方なく順序立てて説明する。
「えと、施設かラ抜け出して…夜、に道を歩いて、ガッ!って…なんか…気がついたら、広い原っぱ?にイて、歩いて、蜘蛛に襲われてるマイくんいた…から、殴っタ…?」
はぁ?って顔した後またマイくんが黙った。
だって本当にわかんないんだもん。これでもかなり頑張ったから許してほしい!
「…この世界には召喚ってものがある。異世界から人を呼び出すんだ。呼び出された魂は次元を渡ることで強化された上に神に〈祝福〉をもらえる。」
お、頑張りを認めてもらえた感じかな?いちから説明してやると言ってくれたのでありがたく聞く。理解できなかったらその時はごめん!
「《祝福》?」
そっからかよ、と表情が物語っている気がするけど幼児だからやっぱ可愛い。ふくふくのほっぺたで呆れた顔されてもただ可愛い。
「あー、〈固有魔法〉…その人のために用意された魔法だ。それは何百の兵士を育てて隊を作るよりも何倍も強く効率がいいんだよ。だからこそ、どんなに難しくて莫大な労力と時間をかけてでもそれぞれの国は召喚をする。そして召喚者は召喚した国の所有物と世界で決められている。」
召喚かあ…つまり私はこの世界に呼び出されてしまったというわけか。いきなり変な世界になった理由がようやくわかってスッキリした。
…あれ?でも何かおかしくない?
「私、どこの国に召喚されタ、の?こんな、変なトコ、出てくるもの、ナノ?」
さっきまでの呆れた顔じゃなくて何だか難しい顔をしたマイくんが頷く。ヤバい、これ以上話が難しくなったら寝ちゃうかもしれない。
「…おそらくだけどお姉さんはどこかの国が召喚に失敗して召喚地点がズレたんだと思う。解析魔法さえかけられればお姉さんがどこの国に召喚されたかわかると思うんだけど、あいにく俺の魔力すっからかんなんだよね。ご飯食べて寝たから多少戻ったけどあまり無理はしたく無い。」
お手上げポーズをとるマイくんに難しい話にならなさそうでホッとした。
そうかぁ、ここには魔法とかあるのか。召喚?されたんだったら私は一体どんなスキルがあるんだろう。ちょっとワクワクする。
「…お姉さん、一応俺は貴女のこと解析魔法かけるまでは完全に信用できないししない。こう見えて割と面倒臭い立場の人間なんだよ俺。だけどまあ、警戒するのはやめるわ。お姉さんなんか嘘ついてなさそうだし。」
お?信用しないと言いつつなんか信用してくれたのかな?…面倒臭い立場の幼児ってなにがあるんだろう。こんなにちっちゃい可愛い幼児を面倒臭い立場にさせた奴がいるなら殴りに行きたいかも。
「…あー…言っておくけど俺子供に見えるだろうけど中身は違うからな。」
え…違う…?コドモニミエルケドナカミハチガウ?子供じゃない⁈
「俺、少なくともお姉さんの何倍も何十倍も年上だから。」
じわじわと言葉の意味がわかって来てそれと同時に体の奥底に電気が走った。
え?…嘘…でしょ?こんなに可愛いのに子供じゃ無いの…?
ショックのせいか頭も体もクラクラした。もう一度マイくんを見つめる。
痩せているけれど子供特有のぷにぷにのほっぺにプクッとした手。まんまるな目。
あ、とってもかわいい。でへへってなっちゃう。やっぱどの角度からどう見ても子供だよね。良かった…
ま、中身が大人だろうがおじさんだろうがいいか。大事なのは見た目だ、見た目。可愛いは正義。
「で、お姉さん。いきなりごめんけど首見せてくれる?」
私が色んな角度からジロジロとマイくんを眺めてデレデレしてたのに気がついたのか口元がピクピクしてる。変なことは考えてないからね?
いきなり首を見せろと言われてもどうしたらいいんだろう。し髪の毛あげたらいい?って髪の毛持ち上げたら正解だったらしい。
立ち上がって私の後ろに回ったマイくんが何かを確認して「無いな、良かった。」と一人で納得してる。
「首がどうシタの?」
座り直したマイくんを見計らって聞く。もう髪の毛戻していいかな。まっすぐ下ろしたら膝下くらいあるから結構邪魔なんだよね。
「奴隷印がないか見たんだよ。」
やれやれといった感じで新しい蜘蛛の肉を持ち直したマイくんがこともなさげに言った。
「どれいいん?」
なんとなく自分の首の後ろを摩る。奴隷って単語、絶対ろくな話じゃない。
「この世界にいきなり召喚された人達が見知らぬ人の言うことを聞くと思うか?だから、大抵の国は召喚した後すぐに奴隷契約を結ぶんだ。主人に逆らわないよう都合のいいコマにできるように。…逃げないように。」
奴隷印はこんな感じのやつ、って言いながら地面に不思議な模様を描いて教えてくれた。何だか文字にも見えるような…適当な線を書いただけのように見えるような…ナメクジが這い回った跡みたいにしか見えないような…
マイくんいわくこれは術印語というらしい。魔法をかけるための特殊な文字。実際のものは首の後ろから前にかけて文字が肌に浮かんでいて光って見えるらしい。
文字の色は効力によって変わっているらしい。薄緑が一番弱くて紫が一番強い。
私も奴隷印をつけられて居たとしたら紫色の強い印が結ばれて居たかもって。
そうか〜もし私が召喚に成功されてしまっていたらそんなものをつけられていたかもしれないのか〜。他人事っぽいけど実感ないから許してほしい。
「その印、つくとどーナルの?」
正直あんまり興味ないけど聞いておこ。会話が弾んだ方がご飯は美味しいからね。奴隷の話で美味しくなるかは微妙だけど!
「まず主人に逆らえなくなるな。紫印だと徐々に主人に洗脳されていって明確な判断ができなくなるが、それ以外の印なら洗脳効果は薄いから意志が強いやつはあまり効かない。逆らうと雷魔法が作動して電気が走るのもある。ま、最近は印の質が上がってきているからその雷魔法で奴隷が死ぬことは少ない。ギリギリ生きたままで痛くて苦しいだけの躾をされる。そして逃げられなくなる。逃げたやつの印の部分を爆発させることもできる。」
やっぱり食事中の会話としては不適切だったらしい。さっきまでの美味しいご飯が急に不味くなった気がする。
ん?印の部分が爆発…って首が爆発ってことじゃん!それって大変嫌な予感がするのですが…
「奴隷ってのは使い勝手のいいコマなんだ。そこに人権なんてものは存在しない。一度契約すると契約主が死ぬか契約印を壊すしか逃げる方法は無い。」
そうかぁ…奴隷になっちゃうとやっぱ大変なんだなあ。契約主をオラッてやるのはまぁできそうだけども壊すってどうするんだろ。だって印って文字でしょ?しかも肌に直描き。肌剥ぐ?
「奴隷契約を無くすには二つの方法がある。一つ目は印紙を破る。印紙ってのは奴隷契約する時に使う奴隷印が書かれた紙な。印紙もただの紙じゃないから破るのは難しいし汚すこともできないけど印の部分を壊せば契約はなかったことになる。」
お腹がいっぱいになったのかお水を一口飲んで落ち着いている。小さいお手手でコップ持ってるのが可愛いなぁ。
おっと、難しそうな話に意識が飛んでた。集中しろ自分!
「そしてもう一つ、契約主が死ぬこと。死んだ途端に印が壊れる。まあ本当は第二契約印とか色々抜け道があるけどめんどくさいから説明は省く。」
ふーん、とりあえずこの世界には奴隷が存在するんだなあ。思ったよりもシビアな世界なのかもしれない。まあ、召喚とか見たことない獣とか魔法とか色々あるし…魔法…?
あ、完全にスルーしてた!
「ど、どうした?」
いきなり立ち上がった私にびっくりしてマイくんがお手手のコップを落とした。おどかしちゃったかな?ごめんね。それよりも、
「魔法!召喚!魔物!!コノ世界!魔法がアルの⁈」
ぜんっぜん考えてなかったし実物を見てないから気にしてもなかった。この世界、魔法があるんだ!
私も使えるかな?ワクワクしちゃう!!
「…えっと、今更?」
呆れたように落としたコップを拾いながらマイくんがこっちを見上げている。見上げる顔も可愛い。
「だっテ魔法、まだ見てナいかラ。」
見てないものは気づきようがないよね。そうか、ここはファンタジーってやつか!どうりで獲物が変なやつばっかだったんだな〜
「えっと、みる?」
へ?と、隣を見るとマイくんが人差し指を立てている。まさか、やってくれるというのか…?魔法を!!
「今魔力がマジでないから初歩の初歩だけど、〈火の魔法〉ファイア」
マイくんの指先に小さな炎が灯った。それを焚き火に移すと炎の色が赤から黄色、緑、青、紫、ピンク、赤と変わって行く。
「⁈すごい!!すごイ!魔法⁈コレ魔法⁈」
テンションが上がった私を見て若干顔が引き攣っている。でもそんなの気にしてる場合じゃない。だって凄いしとっても綺麗だもん!
「こんな単純な魔法で喜ぶの2歳児までだぞ…」
そんなん言っても初めて見るものだよ?テンションも上がるよ〜。
にしてもいいなあ魔法。私も使えるかな?
「…どうやっタラ魔法使えル?」
手を前に出して唸ってみたが何かが出てきそうな様子はない。
というかここに来てから自分の身体に変わったところが思い当たらない。強いて言えば前よりも身体能力が上がってる気がするけど…わかんないな。だって今まで出来る限り力を抑えようとしてきたし本気とか出したことなんてないし。
「…お姉さん、自分の世界に帰りたいとか思わないの?」
急に少し低くなったトーンでマイくんが聞く。その声に合わせてカラフルだった焚き火が元のオレンジに戻ってしまった。
そのせいかなんだか部屋の雰囲気が暗い気がする。
「帰れルノ?」
そういえば勝手にもう帰れないものだとばかり思っていた。そうだよね、こっちに来ちゃったってことは向こうに行くことも出来るってことだよね?
「帰れる方法がないわけじゃ無い。けど、それはお姉さんが選べることじゃないんだ。…最悪、帰ることは難しいかもしれない。」
ふーん、結局帰れないのかもしれないのか。難しいって…帰れないことがあるの…?私、帰らなくてもいいの…?
「…なんでそんなにキラキラした目で見てくるんだ。」
マイくんに言われて慌てて両手でほっぺたを挟んだ。え?目キラキラしてたかな?自分じゃわからないけどちょっと体が熱い気はする。
「帰りたくないのか?」
そんな私を見て更にマイくんが言った言葉に大きく頷く。何度も噛み締めるみたいに大きく頷く。そうだ、そうなんだ。
「私、帰りタクない。絶対ニ、やだ。」
あんな場所で独りで生きていくくらいなら、いっそここで死んだ方がマシだ。
珍しいものを見るようにマイくんがこっちを見つめる。その目から逸らさないように、また私は頷いた。




