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第2話 俺の名前は匿名希望


とりあえず荒野を歩いてみた。

今まで夜だったはずだ。

今まで街中にいたはずだ。

 なのにここはどうみても荒野。…荒野って言っていいのかな?なんか原っぱというほど草は生えてないんだよね…大体土…岩?なんか所々クレーターみたいに地面凹んでるし…

 遠ーーくの方には森っぽいものも見えるけど今はただただ広い丘?なんて言ったらいいかわかんないや。

そしてどうみても朝だ、というより明け方?

真横にあった太陽が段々と上に登っていく。


「なんだこれ…」


 口に出してみても状況が変わるわけがない。夢かと思ったが夢ならばそろそろ目覚めてもいい頃だと思うしほっぺをつねると痛かった。

 あてもなく一応歩いてみていると微かな音が耳を掠めた。音の方に目を凝らすと遠くの方で小さな人影が見える。

 何か大きな物、いやどうみてもありえないサイズの蜘蛛だ。蜘蛛に誰かが襲われている。目も耳も鼻も、普通の人の何倍も良い自分が間違えるはずがない。

 何もかもわからないが蜘蛛が大きな足を振りかぶって子供を襲っている。


「あぶない!!」


 気がつくと走ってその勢いのままぶん殴っていた。物凄い音がしてありえないほど吹っ飛ぶ蜘蛛。


「…あれ?」


 数キロはありそうな距離だった気がしたのに蜘蛛の元まで一瞬だった?数歩しか踏み込んで無い気がする。

 そして蜘蛛は殴っておいてなんだが1発で死んだらしい。かなり遠くの方まで吹っ飛んだ蜘蛛はピクピクとした後動かなくなってしまった。なんか申し訳ないな。


「…だ、ダイジョブ?」


 恐る恐る口を開けたまま動かない子供…いや小さな男の子の方を見る。

 痩せこけた身体にボロボロの服。それよりも目についたのはボサボサの金の髪に隙間から覗く青い瞳。あれ?外国の子かな?


「…え…」


「ん?」


「ぇぇえええええええええ⁈⁈」


 止まっていた子が急に叫んだ。急に大声で叫ばれてるとびっくりするじゃないか。


「な、な、何?どシた?」


 今までボッチだったから子供の扱いが全くわからない。ここで泣かれたりしたらどうしていいか本当にわからない。

 とりあえずオロオロとしているとハッとした顔をして私の殴った方の手を持ってじっとと見始めた。


「え?え?」


こっちは引き続きオロオロしておくしかない。


「…なんで…硬いデーモンスパイダーを…素手で無傷…魔法…ではなさそう?だって(じん)も魔力も見えなかったし…特殊魔法(レアスキル)…にしても、…魔力が感じられなかった…あ、」


 ようやくオロオロとしている私に気がついてくれたらしく手を離してくれた。


「す、すいません、助けていただいてありがとうございます。」


「うぇぁ⁈」


 どうみても3、4歳くらいだよね?この子。しっかりしすぎじゃないか?びっくりして変な声が出た。

 とりあえず泣く様子はなさそうなので良かったが…


「で、お姉さん何者?魔物を魔法も使わず素手で殴り倒すとか聞いたことないんだけど。」


 グイグイくるなー…ん?魔物?魔法?なんかそう言われた気がする。

 というかこの子ませてんなー。本当に幼児?

色々関係ないことを考えていたせいで答えあぐねていると、


「…そういえばその服…見たことがない格好だ。少なくともこの国、この大陸のものじゃない。…どこかの国の最新の流行りか…?お姉さん、ここら辺の人じゃないよね。髪色もそうだし、どこから来たの?」


 子供に子供をあやすように聞かれてしまった。これじゃどっちが子供かわかんないね。


「…わかラなん…さっき、夜。で、しせつ…抜け出シ、歩いテ…その…」


 おおっと、久々に使う口がうまく機能しないぜ。言いたい事はかるのに言葉が出てくれなくて途切れ途切れになってしまう。


「…?しせつ?…何か訳あり?…まあ、なんでもいいか。もう一度言うけど助けてくれてありがとうございます。お姉さんがいなかったら死んじゃってたよ。」


 なんだかむず痒い。今まで感謝されることなんてなかったからこういう時どう言う反応していいかわからない。


「じゃ、」


 えへえへ照れてたらスタスタと少年が歩き始めた。


「え、ちょ、っト…」


 慌てて肩に手を置こうとして躊躇する。

あまりに小さな体は簡単に壊れてしまいそうだった。

 それによく見たらこの子、普通の子よりも細くてボロボロで傷だらけ。施設に来たばかりの子供たちとよく似ている。


「?助けてくれたことは感謝するけど僕出せるもの何もないし何をしても無駄だよ?」


 それだけ冷たく言い放つとまたスタスタと歩き出す子供。どうしていいか分からなくてとりあえず着いていくことにした。


「…お姉さんも訳ありみたいだけど僕も他人に構う余裕なんてないの。着いて来てもなにもないよ。」


 そう言われても…ここがどこかも分からないし…


「あー、もう。来てもダメだって!」


 何度追い払っても何も言わずに付いてくる私に段々イライラとしながら幼児君が叫ぶ。

 こっちの話も聞いてほしいけど何だかうまく喋れなくてちが、とかその、とかしか言えない。


「…あー、はいはい。わかりましたわかりました。降参します。」


 しばらく着いていくと手を上げて降参ポーズを取った幼児君がようやく止まってくれた。

 結構歩いたな。1キロは吹っ飛ばしたと思ってた蜘蛛がそこにいるや。


「魔力がすっからかんじゃなかったら逃げられたのに…」


 ぼそっと言ったけど私耳いいから全部聞こえるよ。そっか…逃げたかったのか…


「で、何?僕に何をしてほしいの?」


 トントンと片足を何度も踏みつけてる様子は明らかにイライラしてる。幼児なのに大人っぽいにもほどがあるな。


「…そ…あ…こコ、どこ?」


 なんだか改まると恥ずかしいし気まずくなって来て、もじもじしながらようやく言葉を話せた。まずここがどこか知りたい。


「は?第三大陸、《ガイア》の西方、蜘蛛の森の中央部分だよ?知らずに来たの?」


 すんごく呆れた顔してるけどますますわからない。とにかく日本じゃない?っぽい?


「あんだけ強いから大丈夫ってタカをくくって来たんだろうけど、さっさと元居たところに戻った方がいいと思うけどね。今は朝だから良くても夜になったらここは蜘蛛の巣の中だ。周りの森の中はさっきみたいなやつがうじゃうじゃいるんだから。それくらい知ってるでしょ?」


 いや、そんな常識みたいな感じで言われても知らないし…。


「今なら魔物はあまり動かないって。太陽が登る方角に向かって歩きなよ。一月くらい頑張って歩いて運が良ければ第三大陸最大国家、リスタールに着くよ。」


 1ヶ月歩くって、簡単なことみたいに無茶言うなこの子。結構しんどいよ?


「リスタールなら大きい国だし多様国家だから訳ありでも受け入れてくれるって。」


 もういいでしょ、と言う風に私をどうにか置いていこうとする。こんなあからさまにされると流石にちょっとしょげる。でもここがどこかわからない私には幼児くんしか頼れない。


「き、君ハ?」


 訝しげに眉毛をあげる幼児君。怯むな負けるな自分!


「そ、そんなニ。危な、い場所、キミ、危ない。小さい、ノに。」


 ようやく口が回るようになってくれてなんとか意思疎通ができそうだ。

 にしてもこんなに喋るのって大変だったっけ?うまく言葉が出てくれないし口も回りにくい。


「僕はいいの。子供だと思って甘く見てるみたいだけど、普通に強いから。こういうところで生活するのも慣れてる。…まあ、今は魔力すっからかんだから弱いけど。」


 最後の方は声が小さくなってたけどバッチリ聞こえました。


「…でも、危ない。かラ、わたし居る。」


 小さな子供1人をこんな所に置いていくのは気が引ける。今は弱いって言葉も聞こえたし、さっきの蜘蛛みたいなのが沢山居るみたいだし。


「はぁ…いい加減にしなよお姉さん。俺は!今から!少なくとも3ヶ月はここに住むの!!見て!危険な森だろ⁈何もないんだぞ?!毎日あの魔獣相手に狩りして生活すんの!できる⁈泣き喚いたって何もならねぇんだぞ⁈」


 なんだ、そんなことか。そんな理由なら私を説得するのは絶対無理だね。


「できる!」


 これには胸を張って答えられる。


「山でくらす、やったことあル。熊、片手でたおす!熊肉おいし!そウいう、得意ダよ!」


 ぽかんと呆れた顔でこっちを見てくる幼児君。言葉通じてるかな?何でこんなに口が動いてくれないんだろ〜?


「そレに、獲物、さっきのクモくらい、ナラ、簡単にたおす!」


 あ、ポカンと開けてた目と口を閉じたと思ったら大きくため息をついた。動き方がなんだか疲れた社会人のサラリーマンみたい。


「…降参です。好きにしたらいいよもう…だけど僕はお姉さんのことなんて構わないし俺の事情も話さない。互いに詮索は無しだからな。」


 お!これは私の勝ちかな!やった!正直人が沢山いるところに行くの怖いし、この幼児君も気になる。何より施設に帰らなくて良さそうな現状が1番嬉しかった。


「よろしく!幼児くん!」


「何その呼び方…」


私は笑顔だけど幼児くんは呆れ顔。

これが私たちの始まりだった。


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