第9話 お前、疲労って知ってるか?
自然と目が覚めて起き上がる。目の前に広がるのは一面の岩。この光景も6度目になると何やかんや慣れてくるもんだね。
勢いよく跳ねるように起き上がる。そのまま部屋を出て奥の水場で顔を洗った。水面に映った自分の顔の先にはとても澄んだ水がどこまでも深く続いている。
この世界に来て7日目。気がついたことはこの洞窟は誰かが住みやすいように変えたものだということ。この水場だってそう。水源というよりも谷底の川みたいになっていてその本筋はとても深くて急だ。そこからこの池のようになっている場所に水が溜まっているのは地形からして人為的なものだろうな。
手を器にしてためたお水を口いっぱいに煽る。にしても美味しいお水だよね〜。最高。
長い髪を後ろで高く結んで軽く身体をほぐす。洞窟から出ると少し霧が出ているが道に迷うほどじゃないな。目も鼻も少し鈍る程度で困ることはないだろうし。
んー、よし、今日は右にしよう。よーいドンと心の中で呟いて右の崖に沿って走り出した。自分からすれば軽快なリズムで軽やかなランニングのつもりである。周りから獲物が飛びかかってくるけど。
ここに来た2日目の朝、自然と目が覚めたあと暇だったから走ることにした。夜は日が落ちたら寝るしそうなると朝目覚めるのも自然と早くなる。
というか本当は私はあまり寝なくていい。2時間くらいで足りる。それでも施設にいた頃に周りと合わせるために寝る癖がついた。とりあえず6時間くらいは寝ようと努力はしている。
とにかく2日目から暇だったわたしは獲物を捌いたりとか何とかあるけど動きたかったのでランニングに行ってみた。
1日目に見た黒いベトベトがいるか不安だったけどあの日以来今のところ見かけていない。もちろん出会いたくないので匂いを気にしつつ走っている。
と、右から大きいカエルみたいな獣が跳んできた。うわぁ、体液が表面にネットリネバネバしてる。気持ち悪い〜、ので殴る。道路で車に轢かれて潰れたカエルみたいになったけど気にしない。
お次は上から蜘蛛が落ちるように飛びかかって来た。お!蜘蛛だ!!美味しいから嬉しい!!!!
全力で殴るとかなり吹っ飛ぶから最低限の力で尚且つスピードをつけて首を狙う。よし、うまくいった。首だけ引きちぎることに成功。
身体は使い道があまりないしそんなに美味しくないので足だけ引きちぎって担ごう。今日は蜘蛛だ。るんるんで走る。
帰ったら何をしようかな。そろそろ1日目にゲットした熊の皮をなめせると思う。やり方なんてわからないからなんちゃってなめし革だけど。これで毛皮ができればマイくんが寝やすいんじゃないかなって思うんだよね。
最初の日以降、日中マイくんが何をしているのかよくわからない。私は外に出て草木を刈ったり食べられそうな果物をとって来たりあーだこーだしているけどマイくんは洞窟の中から出てこない。まるで消えてしまったみたいになる。
どこを探しても居ないし気配自体が消えるから初めは慌ててたけど、普通に洞窟の何処かから出てくるから深く聞かない事にした。多分マイくんは話したくない事が多いみたいだし。
そんなマイくんは毎日肉に火を通すだけの私を見て岩塩をいくつかとでかい鍋、なんか大きいスプーンみたいなやつ、あと綺麗な色をしたナイフをくれた。こんなに沢山の物をどこから出して来たのかはわかんないけど。
不思議な子だな〜とは思う。けどご飯は一緒に食べてくれるし、毎晩ポツリポツリとこの世界の常識を教えてくれる。すっごい良い子なのは間違いないね。
この世界の名前はギルシア。
大陸が12個あって神様も12神いる。
神様って「にん」じゃなくて「じん」って数えるんだって。神って書いてじん。全然知らなかった。日本でもそうだったのかな?
正直神様一人一人の話も簡単に教えてくれたけど全く覚えられなかった。無理。12神もいるしそれぞれ話が長すぎる。地道に覚えていこうと思う。
ちなみに今私がいるここは第三大陸ガイア。神様の名前が大陸の名前なんだってさ。
ガイア様は大地を司る神様だとかなんとかかんとか。この大陸に住んでいる種族は基本は人間族。国によって神様の信仰度も種族も違うらしい。人間以外の種族ってどんな感じなんだろう。会ってみたいな〜。地球とは本当に何もかも違うや。
おっと考え事してる場合じゃ無いや。今度は左から木が襲いかかって来たので軽くジャンプして躱してからそのまま走る。
へー、木って自分で動けるんだ…好きなところに根っこ下ろせたら楽そうだよね。少し走るスピードを上げて動く木を振り切る。木自体はあんまり動くの速くないや。
鼻をぴくりと動かす。風に乗って微かに甘い香りがする。その香りを追うように走るとやっぱりあった。実がなってる木をはっけん。
軽くジャンプして実を一つ取る。手のひらに乗るくらいのサイズの黄色いウリみたいな見た目。だけど中身はどぎつい赤色だったりする。
マイくんから食べられるって言われたし実際美味しかった。2日目の時にいくつか木の実を採ってマイくんに確認してもらったから食べられる物は大概わかる。
「何で当たり前のように俺に聞くんだよ。わからない可能性とかもあるだろ。」
とか言われたけどなんの疑問もなく聞いてしまった。マイくんなら知ってそうな気がするんだもん。実際知ってたし。
水分補給代わりに一つ齧りながらもう一度ジャンプして枝に上って木の実を取る。あ、蜘蛛の足あったんだっけ。両手いっぱいに木の実を取ったところで思い出した。
こう蜘蛛の足を脇に挟んで…ムリだな。そこらへんの蔓草で縛って背中に…切れた…もうちょっとこう、なんとか…
そうやってどうにかこうにか全部のものを持つ。私、毎日同じこと繰り返してるな。ツル草とかでカゴを作ろうかとか考えたんだけど無理だった。ツルって弱くてすぐ切れちゃうんだよね。とりあえず一回帰ろう。動きづらいったらありゃしない。
洞窟に戻る頃には陽がすっかり昇っていた。ちょうどマイくんが洞窟から顔を出したところだった。
「おはよう!」
喋ることにも慣れて来て最初に比べて結構スムーズになってると思う。マイくん曰く召喚者は初心者パックとして言語スキルを持ってるらしいんだけどそのレベルが低いんじゃないかって言われた。そのせいでカタコトなんじゃないかってさ。よかった。普段から喋り慣れてないせいで全然喋れないんじゃないのかって心配してたんだよね。
「…カゴとかないのか?」
挨拶をスルーして引き攣った顔で聞いてくる。両手にいっぱい木の実と背中にボロボロのツルで巻き付けられた蜘蛛の足。ついでに牙の生えた熊サイズのコアラに蛇の尻尾が生えたような変な獣引きずってるからね。いや、作ろうとしたんだよ?でも…
洞窟の隅に押しやった元々はツル草だった何かを指差す。
「…わかった。俺が作る…」
マイくんカゴまで編めるの?凄いね!!
もう何も言わないマイくんの顔が最大に引き攣ってる。なんで?
まあいいや、朝ご飯だよ朝ご飯。2日くらいお肉やら何やら煮込んだ鍋に追加で蜘蛛の足を入れて焚き木に火をつけてもらう。
2日目の朝に5分くらいかけて木を擦って火を起こしてた私をみかねて1秒かからず魔法で火をつけてくれた。マイくんって優しいな〜。
よし、お鍋が煮立って来たので完成!蜘蛛の足煮込み!焼くのもいいけど茹でるのもいける。
地面に敷いた綺麗な木の板の上に小さくしたホカホカのスパイダーを乗せて渡す。もちろん殻は割ったやつを。なんかこの殻固いらしいからね。
慣れたように受け取ったマイくんがありがとうと言って食べ出す。毎回きちんとお礼を言うあたり律儀な子だな〜と思う。
よし、私も食べよう。いただきます。う〜んやっぱ何回食べても美味しい!岩塩のおかげで微かに塩味なのがいいんだよ。
このお鍋も2日くらい同じお湯で煮てるから凄い良い出汁出てると思うんだよね。適当な草とかを入れてお鍋したいな。あ、熊鍋とかいいよね…キノコとかマイくんわかるかな?
「順応しすぎだ!!」
なんか叫ばれた。食べれるキノコがわかるか聞いただけなのに。あ、やっぱりわかるんだ。やった、お鍋お鍋!!
大きなため息をついたマイくんが一旦手を止める。
「食料調達に行くのちょっと待って。」
ん?なんだろう。やっぱりご飯中に次のご飯の事を考えるのは難しかったかな。確かに口の中に違う味があったら次の味決めにくいよね。
自分で納得しながら頷いてたら多分お前の考えてることとは違うってスッパリ切られた。何で考えてること分かったんだろ。
「そろそろお姉さんに解析魔法かけさせて欲しいんだよ。魔力も大分戻って来たから。」
あ、そういや1日目になんか言ってたよね。確認するまで信用しないとかどうとか。ここの生活満喫しててすっかり忘れてた。
でも確認するための魔法?ってそんなに大変なの?7日も待たなきゃいけないなんて。そこまで大変な魔法なら私のために頑張られるのは気が引けるんですが…
「いや、本来解析魔法を使う事自体はそんなに大変じゃない。鑑定のスキルで相手を鑑定すればいいだけだからな。ただ俺の魔力が尽きてて身体が傷んでたこと、お姉さんが召喚者なことが問題だ。鑑定される側と鑑定する側の力関係で鑑定できるかどうか変わるんだよ。お姉さんが召喚者なら相応のレベルの高さだと思うから魔法かけるのも大変な可能性が高かった。それだけの話だよ。」
ふーん、鑑定のスキルいいなー。あ、だからマイくん食べられるものわかるのかな。それがあれば毒キノコとかもわかるんじゃない?あれ、疑問に思ったから聞いただけなのに何だか呆れてる?まあいいや。早速見てもらおうっと。
「じゃあ、〈解析鑑定〉」
あ、なんかマイくんの周りが少し光ってる。魔法だ魔法だ!
…なんだこれ、身体がモヤッとする。身体というか頭の中の方がモゾモゾするようでちょっと気持ち悪いかも。私の能力とかやらを見られてるのかな。
早く終わらないかなぁってマイくんの方を見たら瞬き一つせずに止まってた。静止画みたいに本当にピクリともしない。
「なんか、おかしかった?」
黙ったまま何か空中を見つめてあまりに動かないから顔の前で手を振ってみた。そこで顔を上げてくれたから効果はあったみたい。良かった。
「お、お前…本当にただの召喚者か?ありえないんだけど。俺よりもレベルが高い…とか?
いや、レベルの高さだけでこうなるわけないよな。第一俺より高いはずもないし…」
今度はブツクサと何か言い出したけど何を言ってるかわかんない。どうしたの?
「…お姉さんの解析結果一応見せてやるよ。」
私の目の前にホログラムみたいな光る文字が浮かんだ。凄い、これもマイくんがやってるのか。分かりやすいようにわざわざ書き直して表みたいにしてくれたらしいんだけど…
___________________________________
《 山モt あサ日》
種族:今のところ人間
性別:女
年齢:17
クラス: 蟄、鬮倥?繝、繝ウ繧ュ繝シ
基礎レベル: 陦ィ遉コ荳榊庄
レベル: 陦ィ遉コ荳榊庄
魔力:0
攻撃力: 陦ィ遉コ荳榊庄
防御力: 陦ィ遉コ荳榊庄
俊敏力: 陦ィ遉コ荳榊庄
魅力: 陦ィ遉コ荳榊庄
運: 縺?s縲
《スキル》
[ ]
《称号》
荳肴?縺ェ蟆大・ウ
辟。謨オ縺ョ繝、繝ウ繧ュ繝シ
《状態》
縺ェ繧薙b險?縺医↑縺
__________________________________
「…読めない…この世界の文字?」
気持ち悪い感じの文字の羅列が並んでる。分かりやすいように表にしてくれたって割に全然読めない。なんかやだなーーこれーーー。
「…違う…俺にも読めない。」
ん?よくわかんないからマイくんの方に目を向けたけど頭を横に振るばかりで何を言いたいかわかんない。
「…バグってる。解析結果をそのまま文字に起こしたはずなのに文字化けしてやがるんだよ。こんなの初めてだ…お前何者なんだよ。」
文字化け?なにそれ。読めないってこと?私、結局どこの国の召喚者なの?色々わかんない事だらけなのにマイくんも首を横に振るので結局何もわかんない。
「…わからん。が、…俺の〈解析鑑定〉のスキルレベルはカンストしてる。」
んー?カンストってことはレベルがすっごく高いってことだよね?つまり…どういうこと?
「レベルの上下関係で相手の鑑定ができないということはほとんどありえないってことだ。それこそ相手が神レベルでもない限りな。お前がどこの召喚者かもわからなければ、正体もわからない。お前もしかして神様だったり…」
私が神様?え?神様なの?私?
「絶対ねえな。」
なんか失礼なこと考えたでしょ!!私の抗議は無視して淡々と話を続けられる。この数日で私の扱い雑になってない?
「いいか、この世界の生き物の能力値…ステータスは神が管理している。俺たちは神相手に魔法を使うことはできない。詳しく言うと使っても通用しない。それこそ神レベルの力が必要だからな。」
あー、また話が難しくなってきた…つまりどう言う事なのか結論だけお願いします。
「つまりだ、お姉さんは何かの神に干渉されている。それがどこの神なのかまではわからないがな。」
んんんん?え?ちょっと待って?結局私はどこに召喚された何なの?私はカミ様なの?
「お姉さんは召喚者の中では比べ物にならないくらい上位のレベルである可能性が高い。そして神の所有物であるならば俺はお前を見捨てることが選択肢になくなった…」
何もよくわかないけどこれだけはわかる。マイくんがめちゃくちゃ面倒くさそう!!




