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魔女のお茶会  作者: さとうとしお


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4/22

賢者の元へ

洞窟は、地球の奥底に隠された“もうひとつの心臓”のようだった。

岩壁が呼吸するように滴り、光の筋が血管のように脈打っている。


その中央に立つ男──

四十代、鋼のように締まった体躯。

だがその眼は、長い喪失を抱えた者だけが持つ静かな痛みを宿していた。


「来たな。光明寺テティス。」


低く落ち着いた声が響く。

テティスは不安を抱えながらも近づいた。

背後にはなずな、フリーダ、リュディア、ラクウェルが控える。


男は頷き、


「……私は“力の賢者”。ヴォルフ=レイノルズ。」


洞窟がふるりと震えた。

青白い光がテティスに集まり、まるで出自を探るように揺らめく。


「光明寺の娘よ。

お前が狙われる理由は不明だが、魔女はまたお前を狙うだろう」


「また私を……?」


「魔女はお茶会から人間が逃げられたのは初めてだ」


テティスの喉が鳴る。


男は続ける。


「魔女は“容姿端麗なフランケンシュタイン”を作り続けている。それがやつの趣味だ。」


「それが……趣味?」


「そうだ。」


フリーダとリュディア、ラクウェルは無表情でその場を見据え、なずなが怒りで拳を握る。

しかし力の賢者は表情を変えなかった

「完全なフランケンシュタイン、お前たちが会場に乗り込んでそのままいたらそいつにやられただろう。…そいつの正体は…」

──“三人の賢者”を育てた優しい神父


力の賢者は、洞窟の奥に飾られた古びた十字架へ視線を向けた。


「……テティス。

私たち三人の“父”の話をしよう。」


テティスは息をのむ。


男は静かに語り出した。


「私が子どもの頃、気づけばどこか知らない牢屋に閉じ込められていた。名前はなく力の賢者と知らない大人たちに呼ばれていた」


重い沈黙。


「そんな私を拾い、育ててくれた男がいた。

名はロメオ=フランケンシュタイン。珍しいストロベリーブロンドの髪と常に優しい微笑みを浮かべていた。

人間に生まれながら、怪物にも同じように優しかった神父だ。」


どこか遠くを見る目。

喪った者だけが持つ静かな光。


「彼は私を“息子”と呼んでくれた。彼は賢者の候補だけではなく、身寄りのない子どもを引き取って衣食住と教育を提供し、育てた。他の守りの賢者と…魔女も例外ではなかった。ただ魔女は引き取られた年齢が高く5歳できたため、愛をくれた養父に愛情を超えた感情を抱いていた。最初は純粋な恋心だった。」


テティスは胸が締めつけられる。


「しかし……慈悲深い者は、往々にして憎まれる。」


力の賢者の声が低く沈む。


「養父、ロメオは“国家反逆”の濡れ衣で処刑された。

本当は、賢者と子どもたちと怪物たちの権利を守ろうとしただけなのに。」


テティスの背筋が凍る。


「魔女はその死を受け入れられず──

私たちから遺体を奪い、“フランケンシュタイン”として蘇らせた。」


洞窟の奥で、何かがぎこちなく動いた気配がする。


「魂のない器を、父だと思い込んだ。

その狂気に気づかせるため、何度も対話を試みた。」


拳が震える。


「だが彼女は、父の死を認めることは

“自分の心が死ぬこと”と同じだったのだろう。」


沈黙。


「彼女は魔法で魂を入れた。そしてそれを父と信じ込み、本来弔い休ませるはずの身体を弄んでいる。

私は……それを許せない。」


抑え込んだ怒りではなく、

長い悲しみがすり減って鋼になった音だった。



力の賢者はまっすぐテティスを見た。


「魔女は“父”を完全な存在に作り替えるため──

お前の血を求めている。」


テティスの視界が揺らぐ。

息が苦しい。


なずなが支え、

フリーダとリュディア、ラクウェルが背後に立つ。


男は柔らかく、しかし残酷に告げた。


「お前はただ巻き込まれた娘ではない。

魔女の計画の“鍵”なのだ。」


テティスはぎゅっと拳を握りしめる。


「……わたし……

その鍵を、壊します。」


力の賢者の眉がわずかに揺れた。


「……私たちの父が見たら、

たぶん……お前を誇りに思うだろう。」


初めて、彼の声に温度が宿った。

そこへ、コツリ、と硬質な靴音。

黒いコートの青年が姿を現した。灰青色の瞳は静かだが、底に鋭い光が宿っている。


「ギル=ニコラウス。私の直属……いや、右腕と言った方が早いか」


力の賢者が紹介すると、青年は丁寧に一礼した。


「はじめまして。ギル=ニコラウスです。あなた方の救出記録はすでに確認済みです」


ギルは淡々と言いながら、手にした端末を操作する。彼は“完全記憶能力”──見聞きしたすべてを寸分違わず保持する異能を持つ青年警察官で、賢者にとっては作戦立案の要とも呼べる存在だった。


「魔女のお茶会については、まだ分かっていないことが多すぎます」

ギルの声音は落ち着き、しかしどこか不穏な温度を帯びていた。


「アメリカ以外でも開催されている可能性が高い。参加者の国籍、年齢、人種も統一性がない。共通点が薄すぎる。つまり──」


「“狙われる理由は外側にはない”ってことか?」とリュディア。


「はい。本人の家系、血、異能、心理的条件……要因は相当に複雑です。そして会場は毎回違う。おそらく移動式施設か、あるいは空間転移か……」


ギルが次々に仮説を積み上げるたび、テティスの中で、あの“お茶会の甘い香り”が再び蘇った。あれは罠の香りだったのだと、いまなら分かる。


力の賢者も続いた。


「魔女は執拗に容姿端麗のものを探している。」


テティスは息を呑む。

しかし次の瞬間、そっと拳を握った。


「……怖いけど。なずなを巻き込んじゃったのも、いやだけど……私、逃げるだけは嫌です。友達を守れるようになりたい」


彼女の声は震えていたが、芯があった。

なずなは横でほんの少し涙ぐみ、リュディアは肩を叩き、フリーダとラクウェルは黙って頷いた。


力の賢者は静かに微笑む。


「なら──来るといい。“世界の境界”で、君に見せたいものがある」


その笑みはどこか影を帯びていたが、まっすぐ希望へと伸びる色でもあった。


向かっている途中、ニコラウスがテティスとなずなに話しかけた。

「大変なことになってしまいましたね」


場を和ませようとしているのか、その声は柔らかさがあった。


「はい…でもなずなもフリーダさんたちもいるから大丈夫です!」

テティスはそう答えた。


「強いですね…、しかしフリーダさんたちだけじゃなくても、僕もいますからね!こんな可憐な美少女たちの護衛ができるなんて僕この仕事してて良かったですよぉ!魔女のお茶会の件が片付いたらどちらか僕とデートしてくださいね!あ!2人一緒でもいいですよ!あわよくばどちらか僕のお嫁さんに…」


ニコラウスが満面の笑みでまくし立てテティスは唖然と、なずなは眉間にしわを寄せた。レイノルズがニコラウスの後頭部を叩いた。

「いったぁ!何するんですか!!パワハラ!訴えてやるぅ!!」

「うるさい、黙れ」

「僕だってあなたみたいな人をこき使う人と警察より、芯が強くて可愛い女の子の護衛したいですよぉ!なずなさんと一緒にSSでもなろうかな!」

ニコラウスは後頭部を押さえながら叫んだ。


「こいつ…急に元気になったな」

リュディアは呆れていった。

「ムッシュニコラウスは最初、ぼくにも口説いてきましたよ。」 

ラクウェルは苦笑しながら言った。それにリュディアは引きながら

「まじかよ…野郎にまで口説くとは見境がないな」と言った。

「ムッシュ曰く"付いてても"可愛いからいいんです!…と。どういうことなのでしょうか」

「あ!ラクウェル君!!君も僕の"お嫁さん"候補ですからね!浮気じゃないですよ!僕の愛は広く深いので誰でも何人でも可愛い子を受け入れられるのです!!テティスちゃん、なずなちゃん、ラクウェル君と僕で永遠のハーレムを」

レイノルズが再びニコラウスの後頭部を殴った。

「黙れ」

「魔法を放たないだけ、優しいですね」

フリーダがレイノルズに皮肉な笑みを向けた。

「力の賢者は人間に魔法を向けるのはご法度だからな。こいつに使うのはもったいない。…よく知ってるだろ」


城の内部は、血色の花が枯れずに咲き続ける“赤い庭”。天蓋のように垂れた黒い繭がゆっくり脈打ち、その奥から低い息づかいが響く。


そこに、ひとりの青年がひざまずいていた。

"ストロベリーブロンド"の髪に、母譲りの鋭い輪郭。

瞳だけはどこか優しさを孕んだ色をしている。


魔女は椅子に腰かけ、隣に…ロメオ=フランケンシュタインを座らせて 命じた。


「ベガ。──あの子を連れてきなさい。テティスを。この世界でただ一人、あなたの父の“完全復元”に使える素材なのだから」


ベガは顔を上げる。

その瞳には迷いが滲んでいた。


「……母さん。本当に、彼女を……?」


「必要なのよ。あの子の血が。あなたの父を再び“生きた形”に戻せるのは、あの子だけなのだから」


魔女の声は、狂気の温度と深い悲しみを同時に孕んでいた。

ベガは拳を握る。


「……了解しました。必ず連れてきます」


その様子をロメオ=フランケンシュタインは無表情に見つめていた。



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