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魔女のお茶会  作者: さとうとしお


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20/22

人魚の肉 変異

登場人物

テティス=光明寺=ハースト

アメリカの大企業のCEOの娘。オカルト趣味があり、かねてから興味があった魔女のお茶会に招待されるが、それは魔女の罠であった。SSのなずなと狼男のフリーダとリュディアに救出され、力の賢者のもとへ案内される。異世界でであった仲間を守る決意を固めた。


服部なずな

テティスのSS。日本人であることをテティスに気に入られた。日本の格闘技の達人である。何よりも主であり、唯一無二の親友であるテティスを守ることを大切にしている。


フリーダ

人狼の代表。彫刻のように整った顔立ちと身体つきをしている美青年。人間界にビリヤードのプロ選手として潜入して魔女のお茶会の動向を探っている。力の賢者、レイノルズから人間界の常識を教わっていて、怪物のなかで唯一人間界に溶け込んでいる。


リュディア

フリーダの実弟。フリーダと同じく人間界に潜入しているが、人間界にいるときは隠れている。フリーダには劣るが腕っぷしが強い。親分肌である。


ヴォルフ=レイノルズ

力の賢者。40代くらいの男性。怪物たちが住む異世界と人間界の境界を守っている。賢者は一人1国家の権力が与えられているが家族を持つことができない、人間に魔法で攻撃してはいけないなど多くの制約に縛られている。自身が尊敬していた"養父ロメオ=フランケンシュタイン"を改造した義妹の魔女=ヴィクトリアを裁くことを目的としている。


シャイナ=レイノルズ 

守りの賢者。ヴォルフ=レイノルズとヴィクトリアの義妹。ヴィクトリアと対峙しているが、面会を許可されていて時々会うことができる。 


ギル=ニコラウス

レイノルズの側近。完全記憶能力を持つ人間の男性。 


ラクウェル

吸血鬼の代表代理。美少女と間違われるほどの美貌をもつ少年。


代表たち

人魚の代表代理、ローラ。ハーピーの代表カラビナ。エルフの代表カザリ。ドワーフの代表ヤゴ。オークの代表ウルゴラスとその妻ドラリナ。


ヴィクトリア=フランケンシュタイン

魔女。癒しの賢者。容姿端麗なフランケンシュタインを作る目的で魔女のお茶会というものを開いていた。養父ロメオ=フランケンシュタインの遺体を使いフランケンシュタインを作った。


ベガ=フランケンシュタイン

ヴィクトリアの"息子"SNSやアーティストとしてはJIROと名乗っている。歌で怪物たちの動きをとめることができる。 


ロメオ=フランケンシュタイン

元々は賢者たちの養父であり、異世界の代表たちを束ねていた神父であった。国家反逆の罪を着せられ殺害されたのち、ヴィクトリアに人造人間フランケンシュタインとして蘇させられる。


ジャック=モリソン

JIROが主演の映画のアクションスタントマンを務める男性。ヴィクトリアに唆されて人魚の肉を食べてしまう。


「いやー、今回は"誰も死なないで"よかったな!」


「ほんとだよ。派手だけど危険なアクションが多かったよな。さすがアストラル•サウンズ社だよ。トランポリン、ワイヤー、火薬…… どれか一つ間違えたら大怪我だった」


スタッフが笑い合う。中には多少怪我をしたスタントマンもいた。ジャックはそんな談笑に微笑みながらも、脳裏には亡くなった親友のスタントマン、マークの笑顔が過った。


「運が良かったよ、運が」


その言葉が―― ジャックの胸に、鈍く刺さる。


(……運、か)


無意識に、手を握る。マークは、親友のスタントマンは運が悪くて命を落としたんだ。そして自身は死への恐怖から怪しい女から受け取った人魚の肉を口にしてしまった。運が良ければそんなことにはならず、今作の仕事も万事うまくいったのだろうか。


…もしかして取り返しのつかないことをしてしまったのだろうか…


そう考えたジャックの皮膚の下で、何かが―― 脈打つ。


「……ジャック?」


スタッフに声をかけられ、振り向こうとした瞬間。


ジャックの視界がぐらりと歪んだ。


「……っ」


膝をつく。呼吸が、うまくできない。骨が、きしむ。血の流れが、変わる。


(……来た、か)


ジャックの異変を察知し、他のスタッフたちが騒ぎだした。誰かがジャックの身体を横にし、回復体位にしてくれたようだ。遠くで、誰かが叫ぶ声が聞こえる。


だが、少ししか耳に入らない。


そのとき――


「ジャックさん!」


テティスの声がした。


テティスが、駆け寄ってジャックの側にしゃがみ込み、ジャックの手を握った。ジャックの手はひどく冷たかった。


「……ジャックさん、無事で……」


言葉の途中で、異変に気づく。


「……え?」


ジャックの腕。 血管が、青く浮き上がっている。


皮膚の色が、わずかに―― 人間のそれではない。


「……大丈夫だ」


そう言おうとして、声が出なかった。


「ジャックさん……?」


ジャックは弱々しい視線をテティスに向けて無事なことを伝えようとした。


「……ごめんな」


ジャックのやっと絞り出せた唐突な言葉に、テティスは戸惑う。


「え?」


「ヒロインのアクション…、無理させたな」初めての映画で、初めてのアクションでテティスは涙一つも見せずに頑張っていた。ジャックはそんな彼女に期待も込めて無理を言ってしまったと思っていたのだ。


「そんなこと……!」


反射的に否定しようとして、言葉が止まった。


ジャックの肩が―― 小刻みに揺れている異変に気づいたからである。


「ジャックさん……?」


そのときだった。


彼の指先が、床に触れた。


――濡れたような音。


照明が半分だけ残るセットの中で、 彼の指先が、淡く光っていた。


「……え?」


テティスはジャックの握っていた手を見た。


そして―― 見えてしまった。


皮膚の下。


人間の血管とは、明らかに違う走り方。


脈打つたびに、 まるで潮が満ち引きするように、青白い光が走る。


「……それ、なに……?」


テティスの声は、震えていた。


ジャックは、ゆっくりと顔を上げる。


その目が―― 一瞬だけ、人間ではない反射をした。


獣でも、機械でもない。


もっと古く、もっと深いもの。


「……ついに、きてしまったか…」


低い声。


だが、その声は、嘆きに近かった。


「気にするなよ、テティス」


「……ジャック、さん……?」


彼が、苦しそうに息をつく。


「これは…俺の自業自得なんだ」


そのとき、 彼の首筋に、鱗のようなものが浮かび上がった。


一枚。


また一枚。


すぐに引いていくが、 確かに“そこにあった”。


「……人魚、の……」


無意識に、口をついて出た言葉。


昨日の女の人魚の肉。 不老不死。 孤独。


点と点が、最悪の形で繋がる。


「……違う」


ジャックは、かすれた声で言った。


「俺は……まだ、人間だ」


だが、 彼自身が、その言葉を信じていないことが、 テティスには分かってしまった。


「……誰か、呼ぶ?」


震える声で言う。


テティスはジャックを助けたかった。医者? 救急? レイノルズ、フリーダ…


誰でもいい。早くジャックを助けなければとテティスは焦った。


「……心配するな」


ジャックは、考えを巡らせるテティスの手首を掴んだ。


その手の感触が―― 人間のそれではなかった。


「……あとは…自分で何とかするさ」


「え?」


「奴らに見つかったら……もう…」


その瞬間、 テティスは理解してしまった。ここはもうヴィクトリアの罠の中だと。


「……ヴィクトリアに?」


問いかけた、その刹那。


――スタジオの非常灯が、一瞬だけ、ちらついた。


ジャックが、はっと顔を上げる。


「……来た」


来たのは救急車ではない、ヴィクトリアの回収部隊、フランケンシュタインの軍団である。スタッフたちが悲鳴を上げて逃げ惑った。なずなとローラがスタッフたちを避難させようと誘導していた。


「早く逃げろ!慌てるな!」


「みなさん、この場から離れてください!」


同時刻。


スタジオから数ブロック離れた場所。


黒塗りのバンが、音もなく停車していた。


中にいるのは、三人。


全員、年齢も性別も判別しにくい。


共通しているのは、 心拍が異様に安定していることだけだった。


「対象コード:マーマン・プロトタイプ」


淡々と、タブレットに表示される情報。


「摂取から約三十六時間。  変異、初期段階確認」


「感情反応、強め」


「保護名目での回収、可能」


運転席の人物が、低く言う。


「……抵抗は?」


「不要」


後部座席の一人が、わずかに笑う。


「“彼女”がいる。自分から、動けなくなる」


その言葉と同時に、 画面に、テティスの映像が映る。


スタジオ内。 ジャックのそばに立つ、ヴィクトリアが最も欲しがっている少女、テティス=光明寺=ハースト。


「同時回収」


別の一人が機械的に言う。


「最も回収効率がいい。テティス=光明寺=ハーストも回収する」


バンのドアが、静かに開く。


「移動」


彼らは、黒いコートを翻し、 夜の中へ溶けていった。


スタジオの方角へ。


スタジオの裏口は、すでになずなによって施錠されているはずだった。


だが―― 鍵の外れる音は、しなかった。


電子ロックが解除される音も、警告音もない。


ただ、開いた。


ゆっくりと、 まるで「ここが自分たちの場所だ」とでも言うように。


夜のスタジオは、広く、静かだ。 昼間の喧騒が嘘のように、空間が空洞になっている。


三つの影が、床に落ちる。


足音は、ほとんどない。


革靴でも、スニーカーでもない。 音を“発生させない”歩き方。


照明が落ちた廊下を、彼らは迷いなく進んだ。


地図を確認する者はいない。


それでも、向かう先は一致している。


控室フロア。


誰もいないはずの一角で、 自動販売機の蛍光灯だけが、白く光っている。


その前を通り過ぎたとき、 一瞬だけ、照明が明滅した。


――気配。


だが、警備室は反応しない。


モニターには、 何も映っていない。


実際には、彼らは映っていた。 ただし、人間の目に“認識できない”形で。


輪郭が、わずかにずれる。 ピントが合わない。 存在しているのに、情報として処理されない。


「……対象、近いな」


囁くような声。


だが、その声は空気を震わせない。


「変異反応、強まってる」


「痛覚、過剰。感情、不安定」


「――保護フェーズ、移行」


言葉の選び方が、 あまりにも機械的だった。


スタジオの一角。


ジャックがもたれかかっているセット裏。


そこへ続く通路の照明が、 一つずつ、消えていく。


パチ、パチ、と音もなく。


テティスは、背筋が凍る感覚を覚えた。


「……誰か、いる?」


返事はない。


だが、 “見られている”感覚だけが、はっきりとあった。


ジャックが、歯を食いしばる。


「……来た」 彼は一歩、テティスの前に立った。


庇うように。


その仕草が、 テティスの胸を、ひどく締めつけた。


「……隠れろ」


「え?」


「今すぐ」


その瞬間――


影が、伸びた。


廊下の奥。 照明の届かない場所から、 人の形をした“何か”が現れる。


三人。


全員、顔がよく見えない。


いや、見ようとすると、 視線が、勝手に逸れる。


「ジャック=モリソン」


名前を呼ばれた。


感情のない声。


それだけで、 空気が“終わり”を帯びる。


「回収命令が出ている」


「身体に異常が発生しているだろう」


「苦しいはずだ」


テティスが、声を張り上げる。


「なに、それ……!? 回収って、どういう意味!?」


三人のうちの一人が、 初めてテティスを見る。


視線が、 “人”を見るそれではない。


「……テティス=光明寺=ハーストか」


「記録対象外」


「だが、回収対象」


ジャックが、低く唸った。


「……帰れ」


それだけ言った。


だが、三人は、微動だにしない。


「抵抗は、想定内ではない」


「君は――もう、人間の範疇を逸脱し始めている」


「このままでは、事故になる」


事故。


その言葉が、 ひどく軽く、ひどく残酷に響いた。


「……だから、連れていく」


一歩、近づく。


その瞬間、 ジャックの足元に、水が滲んだ。


床が、濡れている。


スタジオにあるはずのない、 潮の匂い。


テティスは、叫びそうになった。


だが、声が出ない。


恐怖と、理解と、怒りが、同時に押し寄せる。


――これは、助けではない。 ――これは、狩りだ。


「……離れろ、テティス」


ジャックの声は、震えていた。


「俺は……」


続きを言えない。


三人が、同時に動いた。


早い。


人間の反応速度では、追えない。


次の瞬間―― テティスの視界から、ジャックの姿が、半分消えた。


いや、違う。


人間の皮膚を引き剥がされ始めている。


「やめて!!」


叫んだ、その声が、 スタジオに虚しく反響する。


回収部隊は、 確実に、ジャックを“持ち帰る”つもりだった。


そして―― テティスが、それを止める術は、 まだ、何一つ持っていなかった。


床に落ちた水滴が、 波紋を描いた。


それは誰も触れていないのに、 広がり続けている。


「……やめろ……」


ジャックの喉から、 人間の声ではない、擦れた音が漏れた。


回収部隊の一人が、淡々と言う。


「変異、臨界点到達」


「完全転化、始まります」


「――回収対象、固定」


その言葉と同時に、 ジャックの背中が大きく反り返った。


骨が、鳴る。


筋肉が、水を含んだように膨張していく。


「ッ……ああああっ!!」


叫びは、途中で変質した。 声帯が、人間の形を保てなくなる。


首筋から、 青緑色の鱗が、浮き出る。


照明を反射して、 生き物のように脈打つ。


テティスは、動けなかった。


「ジャック……さん?」


伸ばした手が、 彼の肩に触れる前に――


バシャ、と音がした。


空気の中に、水が生まれた。


幻覚ではない。


確かに、 潮の匂いが濃くなる。


ジャックの瞳が、 一瞬だけ、テティスを捉えた。


そこにあったのは、 恐怖と、謝罪と、――安堵。


(……ごめんな)


声は出なかったが、 確かに、そう伝わった。


次の瞬間。


床に溢れた水が、 渦を巻いた。


ジャックの身体が、 その中心に引き込まれていく。


脚は、完全に形を変えていた。


人の足ではない。 魚の尾でもない。


――マーマン。


人と海の、どちらにも属さない姿。


「回収――」


部隊の声を遮るように、 空気が、歪んだ。


「――そこまでだ」


低く、よく通る声。


影から現れたのは、 フリーダ。 リュディア。 なずな。 レイノルズ。 そして、ラクウェル。


「……来るのが遅れたな」 レイノルズが、歯を噛みしめる。


回収部隊が、初めて警戒の姿勢を見せた。


「予想外の介入」


「対象拡張――」


JIRO、ベガが回収部隊側に立ちはだかる。だが、フリーダが前に出る。


「彼女に、触るな」


声は穏やかだが、 空気が、毒のように張り詰めた。


なずながテティスを引き寄せる。


「大丈夫、こっちだ!」


「でもジャックさんが…」


ラクウェルが、自分の指を噛み一筋の血を流した。ラクウェルは、呪文を唱えた。


「……“断絶”」


ラクウェルの血が飛び出し、フランケンシュタインたちの口の中に、体内に入った。


フランケンシュタインたちは、激痛に苦しみ悶え始めた。


「何をしている!…なら僕が!」


ベガがジャックの方へ向かおうと駆け出した。リュディアとテティスがベガの前に立ちふさがった。


「そこまでだぜ、スタントマンのおっさんは回収させねぇ」


「お願い、ベガ!ジャックさんを傷つけないで!」


「テティス、邪魔をしないでくれ!」


ジャックは、消えた。


床には、 濡れた跡だけが残る。


回収部隊は、 のた打ち回りながから後退した。


「……今回は、撤退」


「次は、完全な回収を」


影は、 来たときよりも静かに消えた。ベガはその場に残り、辺りを見回した。


「…逃げられたか」


消えたジャックを探すテティス


「ジャックさん!!」


テティスは、 制止を振り切って走り出そうとした。


だが、 膝が、崩れた。それはベガも同じだった。


「……え?」


突然崩れたベガとテティスに周囲の仲間たちは戸惑った。


テティスとベガの視界が、赤く滲む。


身体の奥が、 異様に熱い。


心臓が、早すぎる。


息が、浅い。


「テティス!」 なずなが駆け寄る。


「……熱い……」 掠れた声。


その瞬間、 レイノルズの表情が、変わった。


「……おかしい」


彼は、すぐに理解した。


「映画の撮影中……飲んだ水だ。ヴィクトリアの、別の仕込みだ」


フリーダが、はっとする。


「……愛の、系統の魔術……?」


レイノルズは、低く頷いた。


「媚薬だ。それも、古い型。理性を壊さず、欲求だけを増幅させる」


テティスの視線が、 ふらつきながら、ベガを探す。


「……ベガ……」


その声に、 ベガが、びくりと震えた。


彼自身も、 異変を感じていた。


胸の奥が、焼ける。


身体が、重い。


動こうとしても、 力が入らない。


(……母さん…どうして僕まで…)


母の、ヴィクトリアのやり口。


レイノルズが、歯噛みする。


テティスは、 ベガの方へ、必死に手を伸ばした。


理性ではない。 恐怖でもない。


ただ、 “求めてしまう”衝動。


「……近づくな……」 ベガが、苦しそうに呟く。


だが、 止まらない。


なずなが、テティスを抱き留める。


「ダメだ、今は!」


フリーダが、低く言った。


「……ヴィクトリアは、奪えなかった代わりに、 “壊す段階”に入ったね」


その背後で。


誰にも気づかれない場所で。


海の匂いが、 わずかに、強くなっていた。


――ジャックは、まだ、生きている。


だが、 もう、同じ場所には戻れない。


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