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魔女のお茶会  作者: さとうとしお


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17/22

人魚の肉 影の取引

登場人物

テティス=光明寺=ハースト

アメリカの大企業のCEOの娘。オカルト趣味があり、かねてから興味があった魔女のお茶会に招待されるが、それは魔女の罠であった。SSのなずなと狼男のフリーダとリュディアに救出され、力の賢者のもとへ案内される。異世界でであった仲間を守る決意を固めた。


服部なずな

テティスのSS。日本人であることをテティスに気に入られた。日本の格闘技の達人である。何よりも主であり、唯一無二の親友であるテティスを守ることを大切にしている。


フリーダ

人狼の代表。彫刻のように整った顔立ちと身体つきをしている美青年。人間界にビリヤードのプロ選手として潜入して魔女のお茶会の動向を探っている。力の賢者、レイノルズから人間界の常識を教わっていて、怪物のなかで唯一人間界に溶け込んでいる。


リュディア

フリーダの実弟。フリーダと同じく人間界に潜入しているが、人間界にいるときは隠れている。フリーダには劣るが腕っぷしが強い。親分肌である。


ヴォルフ=レイノルズ

力の賢者。40代くらいの男性。怪物たちが住む異世界と人間界の境界を守っている。賢者は一人1国家の権力が与えられているが家族を持つことができない、人間に魔法で攻撃してはいけないなど多くの制約に縛られている。自身が尊敬していた"養父ロメオ=フランケンシュタイン"を改造した義妹の魔女=ヴィクトリアを裁くことを目的としている。


シャイナ=レイノルズ 

守りの賢者。ヴォルフ=レイノルズとヴィクトリアの義妹。ヴィクトリアと対峙しているが、面会を許可されていて時々会うことができる。 


ギル=ニコラウス

レイノルズの側近。完全記憶能力を持つ人間の男性。 


ラクウェル

吸血鬼の代表代理。美少女と間違われるほどの美貌をもつ少年。


代表たち

人魚の代表代理、ローラ。ハーピーの代表カラビナ。エルフの代表カザリ。ドワーフの代表ヤゴ。オークの代表ウルゴラスとその妻ドラリナ。


ヴィクトリア=フランケンシュタイン

魔女。癒しの賢者。容姿端麗なフランケンシュタインを作る目的で魔女のお茶会というものを開いていた。養父ロメオ=フランケンシュタインの遺体を使いフランケンシュタインを作った。


ベガ=フランケンシュタイン

ヴィクトリアの"息子"SNSやアーティストとしてはJIROと名乗っている。歌で怪物たちの動きをとめることができる。 


ロメオ=フランケンシュタイン

元々は賢者たちの養父であり、異世界の代表たちを束ねていた神父であった。国家反逆の罪を着せられ殺害されたのち、ヴィクトリアに人造人間フランケンシュタインとして蘇させられる。


ジャック=モリソン

ベテランのアクションスタントマン。ヴィクトリアに唆されて人魚の肉を一度食べてしまう。

ヴィクトリアは、地下の保管室に降りた。


そこは屋敷の“移動式”の腹。棚の奥に、箱。箱の中に、瓶。ヴィクトリアお気に入りの場所である。


赤い液体。


青白い肉片を漬けた瓶。


透明な液体に浮かぶ、銀色の鱗。


科学の容器に入れれば、魔法は商品になる。人間の欲望は底を尽きない。ヴィクトリアを飽きさせることはない。今日もまた一人、吸血鬼の血を飲んで若返りと美貌に歓喜していた。その後の代償も知らずに鏡に写った自分に酔い痴れていた。


いくらレイノルズが、赤髪の吸血鬼が救済しようともいたちごっこなのだ。愚かなレイノルズ…今も必死に走り回っているのだろう。


ヴィクトリアはそれが滑稽で仕方がなかった。


「ねえ」ヴィクトリアは独り言のように言った。「人間って、愚かよね。欲望を満たすためならいくらでもお金をはずむのよ」


背後で、影が揺れる。


背の高い“男”が、静かに立っていた。


髪はストロベリーブロンドで整った短髪、目は氷のように冷たい。190センチほどの身長で体格が良い。きっちり整った神父の服を身に纏ったフランケンシュタイン…


ロメオ。


ロメオはヴィクトリアの問いかけに優しく微笑み「ヴィクトリアの用意したものがすごいからだよ」と答えた。


ヴィクトリアは振り返りロメオに微笑んだ。


「あぁなんて愛しいロメオ…あなたと一緒ならどこへでも行けるわ…」


「私もだよ、ヴィクトリア」


ヴィクトリアは小さな紙袋を手に取った。中には、温かい匂いがする。


人魚の肉のムニエル。作り置き。


「回収対象に、これを持っていってくるわ」まるでお使いに行ってくるかのように、ヴィクトリアは言った。「今回の回収対象は堅物すぎるの。やり方を変えないとね」


ロメオが「気をつけてね」とにこやかに微笑み言った。


ヴィクトリアは、冷蔵棚の前で囁いた。


「私はね、“渡す”ときが一番優しいのよ」ヴィクトリアは歌うように続ける「優しさは、拒否されにくい」ロメオの首に細くて長い手をまわしキスをする。「拒否されなければ、飲み込まれる」ロメオの唇は氷のように冷たかった。

その夜。再び。


ジャックの部屋の電灯が、ちかりと揺れた。


彼は息を呑んだ。


「……またかよ」


玄関の鍵は、かけたはずだ。チェーンもある。なのに――


ドアが、音もなく開いた。


入ってきたのはこの間の黒いローブの女だった。


黒いローブ、ローブの中から見え隠れする豊満な胸…


顔は、どこか挑発的で――妖艶と言う言葉がよく似合った。


「またか、誰だあんたは……!」


ジャックが立ち上がる。拳を握る。だが、拳が震える。


「差し入れよ、ジャック=モリソンさん」


ただ、紙袋をテーブルに置いた。


袋の口から、香りが漏れる。


焼いたバター。レモン。白身魚の匂い。


“同じ匂い”。


ジャックの喉が鳴った。


(……欲しい)


胃の奥が、脈打つ。身体が勝手に前へ動く。だが、欲望とは裏腹にジャックの第六感がそれは危険だと警告を鳴らした。ジャックは"それ"から離れた。


「ねぇ、お友達が一人死んじゃったんだって?」ヴィクトリアが艶めかしい身体をジャックにまとわりつかせる。


「やめろ……」


自分に言っているのか、誰かに言っているのか分からない。


「自分は怖くないの?」ヴィクトリアがジャックの胸板の線をゆっくりとなぞった。ゆっくりと往復したと思うと、心臓に手を当ててきた。


「あの高いところからジャンプして首でも打ったら大変…"死"と隣り合わせの現場…」


ジャックは纏わりつくヴィクトリアから離れた。「何が言いたいんだ!」


ヴィクトリアはクスクス笑いながらまたジャックに近づいた。ジャックは恐怖で動けずにいた。ヴィクトリアはまたジャックの心臓に手を当てた。「そんなことを続けていたら、ここが止まってしまいますわ」ヴィクトリアはジャックの手を取り自身の豊満な左胸へと押し当てた。「人魚の肉があれば永遠の命が手に入りますわ」


その言葉にジャックは恐怖した。


ジャックは袋を掴んだ。


「……金ならないぞ」


ヴィクトリアはほんの少し首を傾けた。「お金はいりませんわ」


ジャックは袋の中を覗く。


皿には、ムニエル。


冷めても美味そうな、現実的な料理。


「……くそ」


ジャックはフォークを突き立てた。


一口。


口の中に、海が広がる。


塩気ではない。潮の記憶。


身体の奥が、喜ぶ。


骨が鳴る。


皮膚が、痒い。


「……っ」


ジャックは喉を押さえた。


ヴィクトリアは黙ったまま、背を向けた。


去り際、ほんの一瞬だけ、ヴィクトリアの肩越しに見えたものがある


ジャックは、冷たい汗をかいた。


(……あれ、なんだ)


フォークが落ちる。


床に金属音が響く。


彼の喉の奥で、違う音がした。


――潮鳴り。


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