8 断罪カウンターを食らったカップルは
その日も、次の日の水曜日もヨウタとチハル、『逆襲を食らったバカカップル』を見かけなかった。
ついでに修二も私にアプローチしてこない。
教室では男女ふたりずつの自分のグループの仲間とよく話してる。
修二のお陰で、みんなで仲良くなってきてる。
水曜日の2時間目が終わって、思い切って修二に声をかけた。
気になってるバカカップル、チハルとヨウタを見に行くのを付き合ってもらった。
2つ隣の教室に行くとヨウタは黙って席に座ってた。
私と修二の視線に気付いて、下を向いた。
悪いけどさ・・かわいそうとは思わない。チハルとあいつの思惑通りに事が進んでたら、ああなってたのは私だ。
『善か悪』。そのどっちかって判断されたとき、中立の人まで敵になったりする。
無実でも悪と思われたら、痛い目をみる。
兄貴ふたりには、できるだけそういう状況に巻き込まれるなっていわれてる。
巻き込まれちったけどね、てへ。
その隣のチハルの教室に行くと彼女はいなかった。昨日は学校に来てたけど、ギャル系の子に笑われて早退。今日は最初から学校を休んでるそうだ。
チハルのクラスメイトにも、私や修二の知り合いはいる。
私と去年のクラスが同じだった、ギャルふたりに見つかった。
ニヤニヤしながら足早に近付いてきた。修二とも顔見知りで共通の知り合いだ。
「修二、やるじゃ~ん」
「まあね~」
「けど、美佳に教室でコクったのはいいけど、告白のセリフが最低だったって聞いたよ~」
「ぐっ。勢いが付きすぎて、隠すべきエロい本音まで口から飛び出してしまったのだよ」
「あはは。ばっかで~」
「美佳、冷たい目してる~」
「まったくだよ。長髪の王子様が現れたと思ったのに、コンマ1秒で気持ちが覚めたもん」
修二は、やっぱりニコニコしてた。
教室に帰る途中で知らない女子にお礼を言われてた。脚を怪我したときに荷物を持ってもらったらしい。
その可愛い子は、私の方をちらちら見てた。修二に気があるのかも。
教室に帰って、なんとなく修二をお昼ご飯に誘った。けど、自分の5人グループで食べるからって断られた。
私も自分とマキを入れた4人グループがある。
こういうときだけ修二はハッキリしてる。
同じグループの陰キャを脱出しかけてる男子2人が笑ってる。
特に修二に気があるヤイコとカナコは、ふたりとも安心してた。
へらへらキャラの修二なのに、要所は締めるから人気があるのかと思った。
少し話してて思った。
修二は人に優しくできる。人に色んなこと聞いて、どんな答えにだってお礼を言う。
なのに、何かが欠けてる気がする。
修二がヤイコとカナコのラブラブビームを浴びてたとき思った。
これは前から思ってたことでもあるけど、自分の大切なグループが円満に回ることだけ考えてるように見える。
モテたいと口に出してて、実際にモテてる気がする。
だけど2日前に助けた私にさえ、なにも見返りを求める気配もない。
告白の言葉がバカげてても、そのあと外に連れ出されて楽しかった。
昨日、今日で怒涛の攻めを食らってたら、本当に「心の隙間」に入り込まれるんじゃないかと思ったのに・・
昨日、家でダイ兄に辛い過去を持ちながらも、人を助けて回ってる男子がいたって話した。
もう私は修二が、家族との間に何かあった『チイちゃん』だと思ってるから、そんな聞き方になった。
助けられた女子は私とは言ってない。
ダイ兄は心理学を学んでいた彼女さんの影響で心理分析とか得意。
ただ、私が絡みそうな話だと、誤作動を起こすんだった・・
最初は、本物の優しさを持った男って、冷静な評価をしてくれた。
けど、次第に壊れ始めた。
私の話じゃないって何度も言ってるのに私の話だと、シスコンレーダーで察知したようだ。
「高2男子の頭の中にはエロとスケベしか入ってないからな!」って興奮しまくり。
ハル兄も出てきて、「何かしてくれた男がいたら、それはエロ目的。兄ちゃん達に報告だ」って口約束させられた。
相変わらず過保護だ。
ともかく、修二は結局は守ってくれただけ。美味しいものを食べさせてくれただけ。優しい目で見てるだけ。
過去の私に何かで感謝してるとしても、所詮は中身もない小4女子の言葉。
修二自身が変わるタイミングが欲しかったときに、たまたま背中を押してたと考えるのが順当かな。
恩返しの分量で考えたら、バカカップルから助けてもらい十分に返してもらってる。
むしろ私の方が借りを作ったと思う。
よく分からない関係になったから、今さらだけど何に感謝してるのか気になってきた。
それを教えてくれない。修二は常に冷静だ。
単に修二のメンタル的成長が早いだけ?
修二は、バイト先に年上彼女がいるとか誰かが言ってた。
そんなのいないって笑ってたそうだけど、実際に年上女子から告白されたことはあるようだ。
経験値が高いのかも。
6歳上のダイ兄みたいなとこあるし、大人の余裕ってやつなのか。
むしろ大人の彼女がいたと言われた方が納得いく。
修二になったチイちゃんは、そんな男の子に成長してる。




