7 前と同じ接し方が物足りない
次の日の火曜日。教室でまず、バカカップル・ヨウタ&チハルの話を聞いた。
クラスに奴らと同じバスケ部のヤベ君がいる。彼がダイジェストでまとめてくれた。
修二に反撃食らったバカカップル&愉快な仲間達は、ここのクラスメイトの白い目にさらされ、逃げるように去った。
バカカップルはそろって、昨日の部活をサボった。
なんでヨウタとマネージャーのチハルがそろって休んだか先輩に聞かれたヤベ君は、昨日の出来事を話したそうだ。
チハルのアオハルムーヴ、ヨウタのロミオチックな動きに辟易してた部員に大ウケだったそうだ。
「うわっ、ヤベ君って容赦ないね。けどサンキュー」
「光栄の至りでごさいます、なんてな」
吹き出したクラスメイトもいた。
「うむ、余は満足じゃ。ざまあみろだね。さ、授業の準備しようか」
仲良しのマキに肩を押さえられた。
「こら美佳、チハルは前菜。メインディッシュの話を聞かせなよ」
みんな聞き耳立てて、シカトもできない。
で、教室飛び出したあと、修二にお茶をゴチになったこととか言った。
「本当は、2人は小学校時代に仲良しだったんでしょ」
「まあ・・良かったはずだけど、ほんの短期間だよ~」
「ほら~、運命的な再会なんじゃ~ん」
私と修二の小学生時代の接点なんて少ししかない。
だけど昨日の一件があった。
そして修二は普段から、私に助けられたことがあると言ってる。
実は私達は親の転勤で引き離されたけど、本当は想い合ってた幼馴染み説が浮上。
だから華麗?に修二が私を連れ去ったんだと、昨日の放課後の教室は盛り上がったみたい。
否定はしない。バカカップルの仲を引き裂こうとした悪女のレッテル張られるより、数倍ましだ。
「で、美佳はあの告白を受けるの?」
「シーンだけなら修二様に惚れそうだけど、心の隙に漬け込んで身体を狙う、みたいな最低の告白だよ」
「ぐらっとは、こなかった?」
「きたよ。告白のセリフの最低さに目眩がしそうだった」
「ふふっ。けど修二のお陰で、自分のクラスでも評判の悪いチハルに一杯食らわせたでしょ」
「それは感謝してる。けど、あんな言い方した相手とカップルか~。ずっと同級生にいじられそう」
「彼は人気あるよ。結局は美佳を助けて株が上がったし。美佳が連れ去られたのを見て、なんで自分じゃないのかって顔してた子もいたよ」
確かに最低2人は心当たりがある。
このクラスに孤立してる奴はいない。例えば女子で太めだったヤイコとか、修二がボッチ集めて作ったグループに強引に入れた。
そのヤイコと、1年の時から修二と仲良くしてるカナコが、修二をよく見てる。
ヤイコは痩せて髪を整えた。カナコは少し化粧してる。どっちもキレイになってきてる。
その2人が私に強い視線を浴びせてくる。
けどさ・・。あんたらだって、昨日の修二の行動が私の救出目的だったの分かるでしょ。
いくら相手が修二だって、昨日の告白されたら恋心も覚めると思うよ。
「美佳、当面はどうするの?」
「交際とか抜きにしても、一緒にバカカップルの前に現れて嫌がらせしようかって話してる。とりあえず修二とは来週の土曜日に一緒に出掛ける」
「なんだ。しっかり約束もしてるんじゃん」
「助けられたのは事実だし、お礼はしなきゃ」
そう言いながら、次に期待してる自分がいる。
昨日は本当に楽しかった。
あの修二を知ったあとに昨日の出来事が起こり、余計な一言がなければ、私はなんて返事しただろう・・
考えてると、修二が教室に入ってきた。夜のバイトがあった次の日は、いつもホームルームぎりぎり。
いつものように、私を見つけて嬉しそうな顔。
私は美形じゃないし、最初はうぬぼれかと思った。けど、毎回これだもん。そして修二は安心したように席に着いた。
修二のとこに行った。
「修二、昨日は断罪劇からの救出と美味しいワッフル、どうもありがとう」
「こっちこそ、ありがとう。騒ぎに便乗して、いい思い出が作れたよ」
「ぷっ。正式なお礼は必ずするからね」
「ははっ。期待してるよ~」
虚勢じゃない。
変なことされたダメージはあっても、小テストの点数が悪かった時と同程度。早くも、どうでもいい。
席に着いて、修二は真剣な顔で授業の準備を始めた。
これまで話したときと同じ距離感だった。
変な照れもない。よそよそしさもない。馴れ馴れしさもない。
それは望んでいたこと。希望通りの満点行動だ。
ただ・・。なぜ今日は、それを物足りないと感じるんだろう。