23 彼の気持ち、彼女の気持ち、周囲の気持ち
週が明けて月曜日。
修二とふたりで登校することになった。私が誘った。
彼は日曜日がバイトだった。バイトの次の日の朝はギリギリの電車で登校する。
私はそれに合わせた。
電車で合流して3駅、駅から学校までの徒歩10数分。
他愛もない話をした。やっぱり楽しい。
ただ修二の目が、いつもと何か違う。
昨日、日曜日の夜に声が聞きたくなって電話した。
修二がバイトを終えるくらいの時間を狙った。
私は自分の部屋、修二は外を歩きながら。
すぐに電話を取ってくれたけど、最初、声が沈んでるように感じた。
なんだか焦った。
『修二、何かあったの?』
『え、なんで』
『なんでかな。アンタの声で何となくね・・』
『・・えと、ちょっとバイトで疲れたかな。ありがとう。そんなとこも気付いてくれるんだね。美佳ちゃん』
『ふはは。がさつな私だけど、チイちゃんと同一人物と知ってから、修二のことだけは分かるのだよ』
『うわ、将来は役に立たなそうな特技。けど、何か疲れが飛んだかも』
以前よりもっと、修二の波長の乱れが分かる気がする。
それからしばらく話した。修二はマナーを守る方だけど、電車の中でも電話は繋がってた。
駅に着いて、そのまんま改札近くで話してたようだ。
電話口から駅アナウンスの声も聞こえてた。
なんとなく、修二が電話を切りたくなさそうだった。その流れで朝の約束をした。
◆
修二の学校生活は邪魔しない。基本的に彼は、自分が大切にするグループで昼ご飯も食べる。
休み時間も邪魔しない。
だから放課後に、修二を誘って一緒に歩いてる。
「修二、これから・・一緒に学校行かない? あ、面倒だったらいいけど」
「え、いやいや、俺の方こそ大歓迎」
「本当に?」
「本当だよ。ほら、一応は俺の方から告白して返事待ちってことになってるでしょ」
「わ、そうだった。私は修二を弄んでる悪い女ってことか。あはは」
「そ。俺はやきもきしながら返事を待ってるの~」
「まだまだ焦らそっかな~」
「あはははは」
「ふふふ」
私達は私の家に招くほど仲良しになってる。なのに関係としては親友みたい。
私の中に芽生えた最優先事項『修二の癒やし』を考えると、今の中途半端な立ち位置がちょうどいい。
だからなのか、修二の笑顔が何か覚えがあるものに見える。不安を掻き立てられる。
火曜日は修二がバイトで、その近くまで一緒に歩いた。
ちなみに修二の笑顔のことをマキに聞いても『いつもと同じだよ』と返事か返ってきた。
そして水曜日になって、私が気になってた修二の目の変化が何なのか気付いた。
放課後。
私は自分のグループを追い出された。
お茶飲みに行くはずだったのに、前のプチ合コンのメンバー6人で遊びに行くそうだ。
授業が終わって、いきなり言われてボッチになった。
けどみんなに『修二とふたりでどこかに行けば?』だって。
いやいや、修二も今日は自分のグループで約束があるって。
ところが・・
修二も同じグループのみんなから約束をドタキャンされてた。
4人で行きたいところがあるそうだ。
唖然としてる修二。
修二グループのリョウヤが私に「マキさんと話ついてるから、修二をヨロシク」だって。
朝、カナコに言われてた。自分達は大小の違いがあっても、みんな修二に助けられた。
自分達も協力するから、修二を癒せる私に、彼の苦しさを取り除いてあげてと。
これだったのか。
ただ、今回のやり方は悪手だよ。
気遣いは感じるけれど、こういうサプライズはやってほしくなかった。
修二はきっと、過去の経験が尾を引いて『阻害』ってものに異様に敏感なはず。
引きつった笑顔をしている。見てて切ない。
同時に修二とチイちゃんの『目』が私の中でシンクロした。
だから気持ちを抑えて明るい声出した。
「ね~修二~」
「あ、美佳ちゃん、なに?」
「どうも、みんなが気を遣って私達をふたりにしたみたいだよ」
いきなり修二が安心した顔になった。私は気付かないふりをした。
「あ、ああ、そうなんだ。だよね、俺って美佳ちゃんに告白して熱烈アプローチ中だもんね」
「うん、そうだね」
「美佳ちゃん、告白の返事は?」
「まだ保留だよ~」
取って付けたような受け答えに、まだ修二の動揺を感じる。
「そうだね、あはは・・」
「修二、とりあえず外に出よう」
私は修二を促して学校を出た。
もう6月もなかばで蒸し暑い。
けれど私達は人がいない方に歩いた。
気付いてしまった、最近の修二の目。
あれは最初に話した頃のチイちゃんの目だ。
思い出した。チイちゃんの家庭事情なんて知らなかったけど、何かSOS信号のようなものを感じた。同じだ。
土曜の夕方に別れたときは普通だった。
あのあと、夜から日曜日にかけて何かあったんだと思う。
「美佳ちゃん、何か冷たいものでも飲む?」
修二はいつもの笑顔に戻ったけど、私の方が切ない。
コーヒーショップへの近道の路地を歩いてる。誰もいない。
しばらく黙ると、また修二が辛そうに見える。
教室で明るく振る舞ってた分、反動が出たんだろう。
きっと何かあったんだ。
聞いても隠される。
だったらここで、チイちゃんとの思い出を再現しよう。
・・またひとつ思い出した。
チイちゃんとの、本当の交流が始まるきっかけの話。
私は路地裏で立ち止まって、修二の腕を引っ張った。




