2 告白にはトキメかない。なのに一緒にいて楽しい
「強引にごめんね、美佳ちゃん」
私は教室にいたくなかった。
「一応は助けてくれたんだ・・よね」
「なんか、あいつらにムカついたし。だったら、やつら踏み台にして美佳ちゃんと仲良くなるのもいいかな~ってね」
「ええと、正直に言うと固まってた。ありがとう」
「お、彼氏候補として脈ありかな~」
「え~、あの告白で~?」
「やっぱりか~~。残念。ははは」
助かった。最低な告白だったけどね。
あの場から連れ出してくれた修二は身長175センチの長髪。
右目の下に少し傷痕があるけど、目元がキレイ。
帰宅部でバイトもしてて、夜は遊んでるとか。
陽キャ連中に隠れヤリチンとか、からかわれたりする。口調も軽い。
けど、陰キャって呼ばれてた子を集めて5人グループ作ってて評判は悪くない。
そして私と小4のときにクラスメイトだったらしい。
私は『修二』の名前に心当たりがなかった。
高1のときは別クラスだったけれど、入学から数日後に知った。
いきなり声かけられた。
『美佳ちゃん、お久し振り』
『・・はい?』
『転校前の、小4の美佳ちゃんに世話になったんだ。あのときは本当にありがとう』
いきなり言われて、かなりびびった。
変なイタズラかと思った。親と兄貴ふたりにも、そういう男子がいたと報告した。
警戒したけど、変なことはされなかった。
たまに会っても、満面の笑顔を見せるだけだった。
小学校時代のこと聞こうと、こっちから何度か声かけた。あまりクラスに馴染んでなかったと苦笑いされた。
なのに誕生日の7月8日にチョコくれた。
『小学生のときチョコ好きだったよね』
『今でも好きだけど・・。ごめん、マジに修二の名前から誰も思い出せない』
それでも修二は笑ってた。
『昔のお礼みたいなもんだから、受け取ってくれないかな』
『じゃあ遠慮なく・・』
それから特別なアプローチもなく2年生になった。
今のクラスで一緒になった。この修二が過去の私に助けられたって何度も言ってる。
私と何があったか教えてくれないけど、目が合うと本当に嬉しそうに笑うんだよね。
改めて言うけど、私は修二って名前に心当たりがなかった。それに人助けした覚えもない。
いやいや、記憶力が皆無とかじゃない。私の方が小4とき、5月20日っていう中途半端な時期に転校していなくなった。
転勤族の父親が突然の栄転で隣の県に引っ越し。
すごく忙しかった記憶ばかり。
中学まで転校しなかったけど、卒業と同時期の父親の異動が決まってた。
隣街だけど引っ越しもしたから、高校はこちらで受けた。
なので中学時代は修二と別の学校だった。
小学校時代の友人サクラコに連絡したら、確かに同じクラスに修二っていた。
けど、サクラコも『修二』は単なる級友だったと。
小4で仲良くなった男の子といえば、『チイちゃん』しか思い付かない。
サクラコは私、チイちゃんと3人で遊んだこともあるけど、私の引っ越し後はチイちゃんとも疎遠だったらしい。
なんだかな~。修二とサクラコは、当時のクラスメイトのこと聞くと話を濁すんだよね。
不思議なんだ・・
誰とでも話す明るい修二、私としか話さなかった静かだったチイちゃん。
顔だってシャープな感じと、不健康だった下ぶくれ。結び付かない。
今までは深く聞かなかった。けど、修二と大きな接点ができたから、今になって気になり出しだ。
私ってホント、テキトーなとこある。
修二は明るい。昨日も前の席の陽キャとバイト先の女子大生の胸がどうとか、バカ話してたもんな。
誰に対しても同じように接してる。
「美佳ちゃん」
「な~に?」
「行きたいお店があるんだけど、付き合ってくれない? あ、付き合うってのは交際って意味とかじゃないから」
「ふふ。分かってるよ」
「それと来週の土曜日にデートしようよ」
「うん。何時に待ち合わせる?」
「ざんね・・へ、美佳ちゃん、いいの?」
「ふふ。自分から言ったくせに。あ、彼女がいたりするから冗談だった?」
「い、いやいや、彼女もいないし、会ってくれるなら大歓迎」
「じゃ、来週の土曜に助けてもらったお礼するよ。けどさ、あんな告白でOKする女いないよ」
「しくじったけど、勇気を出して立候補したでしょ。寛大な心で俺にお慈悲を下さいな」
「あはは」
「後生ですじゃ、お代官様」
「ほっほっほ。今日の私の立ち位置は冤罪かけられた悪役令嬢じゃない?」
「じゃあ、あのチハルが男爵庶子のヒロインか」
「へ~、修二ってネット小説の婚約破棄モノとか読む感じなんだ」
「まあね。『善と悪』が分かりやすくて好きなんだ。ほら、あのチハルって子、ヒロイン気取りで美佳ちゃんに勝ち誇った顔してたでしょ」
・・確かに、あれはムカついた。
「冤罪令嬢の逆襲で、軽い嫌がらせまでがセットでしょ」
「ぷっ。じゃあ協力してよ」
思わず吹いてしまった。
確かに私が、ヒロイン気取りのチハルに、ヨウタ王子を誘惑した冤罪で裁かれるとこだった。
修二の乱入で予定が狂ったのはチハルだよね。
しばらく修二といれば、マウントも取られない。
意外と隠れファンも多い修二と一緒にいるだけで、チハルを悔しがらせられる。
そのまんま近い駅の駅ビルに連れて行かれた。
偶然にも6階の、私が行きたかったお店。
ただ、ここのフルーツ乗せワッフルと紅茶のセットは高い。
いや!
財布さえ教室に置きっぱなしだ。持ち物はスマホのみ。
焦ってたら店の中に入るよう促された。
「当然、俺の奢りだから」
「えと・・」
「まかりなりにも俺が告白したんだし、その直後にワリカンしたら一生もんの恥でしょ」
メンツを保てるように協力してくれって押し切られた。そんで色んな話した。
修二は、今は親と離れて祖父母のところに身を寄せてる。それ以上は教えてくれない。
逆に私に色々と聞いてきた。最初の話題は音楽だった。
ずっと私が好きで聞いてる『大樹』って曲を修二も知ってた。
その曲が世界で一番好きだって、目を輝かせた。
思わずテンションが上がった。そして何か知ってる感覚を思い出した。
兄が2人いること。引っ越したあとの生活のこと。自然に話せた。
気が付いたら、1時間以上も喋ってた。前から思ってた以上の聞き上手。
修二が駅まで送ってくれた。その道中も話してた。
修二はこれからバイト。
家は同じ電車の沿線上にある。「仮彼氏でも初デートだし送りたかった」って舌を出して言われた。
笑って駅で別れた。楽しかった。
ふと思い出した。
「あ、そういえば私って今日、修羅場に巻き込まれたんだった」
帰り際になって思い出した。




