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傷だらけになった心の隙間を埋めてくれた人  作者: #とみっしぇる


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19/35

19 オリジナルより響く歌

楽しみにしてた、修二と2度目のデートの日が来た。


考える必要もなく、バッチリなイベントがある。修二が大好きな曲『大樹』を作った男性歌手が街のイベント広場で歌う。


誰でも知ってるヒット曲を持った人ではないけど、暖かな曲を作っていて根強いファンも多い。


市の催しのゲストで、チャリティー絡みなら色んな場所に駆け付けてくれるらしい。



それを見に行く。


その次は軽くファーストフード。


前回のデートは私が修二に助けてもらったお礼がメインだったはずなのに、かなりお金を出してもらった。


なので基本は私の奢りだけど、お金を出すって押し切られたときでも無理させないルート。


イベント→昼ご飯→沿岸の散歩。あとは気分次第。


海岸近くにあるストリートバスケ場に、ハル兄も行くって言ってた。


会えたら修二を紹介したい。きっと気に入ると思う。


だって修二は私の大切な友達。ハル兄は私の大切な家族だから。



修二は数日前の商業施設、私が7年前の言葉を再現したら泣きそうになるほど喜んでくれた。


クラスメイトは恋愛に発展するのを期待してるけど、私は成り行きでいいと思うようになった。


それより子供時代の仲良しとして、彼に何かしてあげたい気持ちが強くなっている。


また、助っ人というか首を突っ込んできた兄ふたりがいる。


ハル兄とダイ兄のシスコンブラザーズは常に、そして勝手に私の情報を共有している。


当然、修二のこともハル兄からダイ兄に報告済み。


けど、ダイ兄も最後は私の意思を大事にしてくれる。静かに私の話を聴いてくれた。


私は、最近の流れをきちんと話した。漠然とでも、私が修二を心配していることを理解してもらった。


するとダイ兄も、前に私達や修二が住んでいた街に残っている友達に連絡を取ってくれた。


その中のツテで、修二の実家の近くに、今でも住んでる人を見つけた。


ダイ兄とは単なる同級生だったから、直接は連絡を取れない。友達を通じて何か聞いてくれるそうだ。


◆◆

「おっす、修二」

「おはよ~」


目的のイベント広場に行って、何人かのパフォーマーの出し物を見てた。


そしてオリジナルの『大樹』を聴いた。


「美佳ちゃん、この歌の歌詞を7年間前に教えてくれたよね」

「うん。あのシーンも思い出した」


「あれが俺が今、笑える原動力」


「ああ・・いい歌だもんね」


歌詞にあった。


愛情に飢えてる君だけど、あきらめるな。


辛くても人を愛することを忘れるな。


頑張って人を助けていけ。


そうすれば、きっと君に大きな愛をくれる人が現れる。


そこを聴いたとき、またチイちゃんとの思い出が蘇った。


右側に立って歌を聴いてる修二の手を握った。7年前もそうやった。


すると握り返された。


演奏が終わった。


みんな拍手した。私もしようと思ったけど、できなかった。


「・・修二?」


ぎゅっと手を握られて、けれど修二は前を向いたまんま。とても穏やかな目をしてる。


「美佳ちゃん、ありがと」

「なにに?」


「・・ありがとう」


返事の代わりに手を握り返した。



ハンバーガーを一緒に食べる頃には普段の修二に戻っているようで、何か違った。


小さな丸テーブルを挟んで向かいに座っている。少し前のめりになると、相手の顔に手が届くほど近い。


修二が笑顔なのは学校と同じ。だけど表情がいつも以上に柔らかくて、口調も普段以上に優しい。


「修二、ナマの歌っていいよね。すごく響いた」


「うん、俺も。けど今まで聴いた中では、あの人のは2番目」


「え~、オリジナル以上のやつがあったの?」


「そうだよ。7年前にね」


ドキッとした。


「俺の中では美佳ちゃんが最初に歌ってくれた歌が、圧倒的に一番だよ」


なぜだろう。こんな風に言われて嬉しいのに、私の歌なんかが響いた理由を考えてしまった。


「美佳ちゃん?」

「あ、ああゴメン。そんな恥ずかしいこと言うから、何も返せなかったよ」


「ははは。そろそろ行こうか」

「どこ行こか」


「美佳ちゃんと話してて楽しいし、どこでもいいかな」


そのまま海岸歩いて、尽きない話をしてた。


話題なんて、他愛もなさすぎる。なのに楽しすぎて止まらない。



そのうち、海岸線近くにあるミニバスケ場が見えてきた。


「美佳ちゃん、ここにも来るんだよね」


「うん、ちょっと見ていっていい?」

「もちろん」


休日だし、そこそこ人もいる。


「その前に俺はトイレ」


「それじゃ私は、事務所近くの日陰の方で待ってるね」


誰もいないとこで独りになって、さっきの歌のことを考えてた。


7年前の、うまくもない私の歌がチイちゃんの心に入り込んだ。私は、当時の彼の心が傷ついてたからだと思っている。


「傷だらけだったから、消毒液みたいに染み込んだのかな・・」


同時に修二の優しい目を思い出す。


「・・私・・」



「美佳~」「ん?」

呼ばれて思考が途切れた。


ハル兄、彼女さん、そしてバスケ仲間のドレットヘアなタクさんと、金髪坊主のキミハルさんだ。


バスケットで汗流して、終わったとこのようだ。


みんなデカい。そして近付いてくるタクさん、キミハルさんは、かなりの威圧感。


私は慣れてるけど、街で友達と一緒の時にドレットタクさんと会って挨拶したら、友達がビビってた。


ちょうどよかった。ハル兄に修二を紹介しよう。


「美佳、おめかししてるな。お前、スカートなんて持ってたのかよ」


「タクさん、デート中だよ。私だって17歳の乙女だよ」

「おお~、美佳も成長したなあ。もしかして相手は公開告白してきた男か?」


「だよタクさん。トイレ行ったけど、そろそろ戻ってくるよ~」


外から見た絵面はともかく、いつもの感じだ。


「ねえハル兄」

「なんだ?」


「ほら、例の修二を紹介するよ」


「タクとキミハル見て、ビビって逃げないか?」


そう言われて思い付いた。


修二はどんな人とでも、冷静に話せる。


ドレットヘアと金髪坊主の大男ふたりにも、うまく対応するだろう。


そういう修二をハル兄に見てもらうのも手かなと思った。

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