17 修二が一番嫌いな日
修二はお婆ちゃんへの誕生プレゼントを選ぶため、買い物に来ていた。
私は勝手に修二に付いていくことにした。たちまち見つけた。
気のせいか足取りが重いように感じる。
「修二~」
「え、なんでこっち来たの?」
「言ったでしょ。あっちのプチ合コンは3対3。だから余計な私は修二発見を口実に退散してきた~」
「え~、要するに俺は抜け出すためのダシ?」
「そう、修二からいいダシが出てたの」
「じゃ、じゃあ俺はオシダシ」
「うわ・・修二」
「スベった、ごめん美佳ちゃん。ははは・・」
「ぷっ。なにを動揺してるの。まあまあそれはさておき、同行いいかな。プレゼント選び手伝うからさ~」
コウタ君とも波長は合ったけど、修二とはもっとピッタリくる。
昔、好きになりかけたコウタ君と会ったから分かった。
それに嬉しいんだよね。
私とコウタ君が一緒にいるのを見た瞬間は複雑そうだった修二だけど、今の顔はめっちゃ笑顔。
「じゃあ、お願いしようかな」
「任せて。予算は?」
なんか、すんなりというか、横に並んでるのがしっくりくるようになった。
付き合うとか抜きにして、どんどん心地よくなっていく。
買い物は終わった。商業施設の中をけっこう歩いて疲れたし、大きな柱のとこに設置してあるベンチに座っている。
かなり修二との距離が近い。左側にいる修二の右目の下にある傷痕がくっきりわかる。
そして今の修二に伝えたいことがある。
誕生日に関して、チイちゃんとの会話を思い出した。
で、納得したことがある。
去年の7月8日、私の誕生日にいきなり修二がプレゼントをくれた。
あとでお返ししようと思って修二の誕生日を聞いたら「もう過ぎたから気にしないで」って言われた。
それきり。
次に話したとき日付を聞いたけど、教えてくれなかった。笑顔が微妙にひきつって見えたから、改めて聞くのもやめた。
修二が、あの心に悲しみを抱えてたチイちゃんと同じ人間なんだから当然だ。
「修二、そういえばアンタの誕生日さ」
「・・俺のはいいよ」
「修二は教えてくれないけど、小4のときのチイちゃんに聞いたから日付は覚えてるよ」
「・・そうなの?」
「当たり前だよ」
修二が、困惑した目で見てる。普通なら、その程度と思う・・
けれど、この反応は予想通り。
家族と不仲だった彼の誕生日。それが7月7日だ。
きっとどこかで、悲しい思い出があったはず。
修二にはお兄さんがいる。
例えばお兄さんはプレゼントをもらえて、彼はもらえなかったとか。
自分だけ祝ってもらえなかったとか。
その日が嫌で仕方ないってオーラが修二から出てる。
けれど、私は踏み込んでみる。
だって私が7年前のチイちゃんとの会話を思い出し、それを伝えるたびに今の修二が喜んでくれる。
これだけは自惚れじゃない。こんな方法で彼の心の痛みを和らげられるのは、私しかいない。・・はず。
なので当時と同じ劣化王子様モード。
「『チイちゃん、そうかい、キミは誕生日が嫌いなんだね』」
「え、美佳ちゃん、その口調って」
「覚えてる?」
「うん。すごく」
そうだよ。7年前、こんな話もしたよね。
再現しようよ。
私が言ったよね。
「『チイちゃん、ボクは7月8日生まれなのさ』」
「『そうなんだ、美佳ちゃんとは1日違いなんだね』・・俺、そんな風に答えたよね」
「うん正解、次がね・・。『ボクが8日、上の兄貴が12日。だからウチでは7月10日に一緒に誕生会をやってるんだよ』」
「『お兄さんと仲良しなんだ。いいな・・』」
「『仲良しだから一緒にお祝いできるんだよ。だからねボクの仲良しのチイちゃん』」
「『・・なに美佳ちゃん』」
「『10日にキミもうちにおいで。ダイ兄、ボク、チイちゃんの3人のお祝いをしよう』」
「『ホントにいいのかな。僕は邪魔じゃないの?』」
「『ボクが好きなチイちゃんなら、絶対にボクの家族も大歓迎だよ』・・だったよね、合ってる修二?」
「うん。そんなの、覚えててくれたんだ・・」
修二が下を向いた。
横に並んでる彼の声も肩も震えてる。
私は修二の背中に手を当てた。
「・・ごめんね修二。私がいきなり引っ越たせいで、約束破っちゃった」
「思い出してくれただけでいい・・」
「修二さえ良ければ、お祝いのやり直しをしようよ」
「あ、ありがと・・」
泣いてるような声。けれど、修二の心のかさぶたを一枚剥がせた気がする。
そうなんだよね。鋭い方でもない私なのに、彼の気持ちの揺らぎだけは分かるんだ。
逆に修二も私の気持ちの変化が分かるのかな。
だったら修二・・。私の自分でも説明できない感情の正体を教えてほしい。
これは、チイちゃんでもある修二を癒してあげたい純粋な友情?
それとも、もっと違う気持ち?
どんどん新しい感情が芽生えてきて、分からなくなってる。
何なのかな。




