表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷だらけになった心の隙間を埋めてくれた人  作者: #とみっしぇる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/35

15 ただの水滴が輝いてる

修二のことをよく考えてる。


アイツ自身は優しい。そして人を助けに危険の中に飛び込んでいける勇気もある。



初デートから2日後の月曜日。


思ったことを素直に言ったら嬉しそうに笑った。


「そうなれたんなら、美佳ちゃんのお陰だよ」

「リップサービスありがとう。けどマジに、それって修二の頑張りだよ。謙遜しないの」


「へへへへ」


なんで、こんなに柔らかい笑顔を見せてくれるんだろう。


7年前、2か月足らずの間だけのクラスメイト。チイちゃんと呼ばれてた頃のアイツ。当時の背景は聞けば聞くほど、家族の愛に包まれてた私とは逆だった。


コーヒー店で偶然に聞いたお父さんとの話、そしてハル兄の話から考えると、必死に自分と周りを変えたんだと思った。


私には絶対的な味方と信じて疑わない家族が、修二には敵だったという事実が見えて来た。


私だったら耐えられない。


なんて強いんだろう。


大きなマイナスを跳ね返した姿が、目の前にいる彼なんだ・・


「あれ、胸が締め付けられる」


「食べ過ぎ?」

「いやあ、食後のメロンパンが余計だったか。って違うよ」


「チョコ持ってきたのにあげれないね」

「あ、それは食べる。別腹だよ」


私と修二は基本、自分のグループと一緒だけど、2人でいる時間も増えた。


話すほど、しっくりくる感じがする。



だからなおさら思う。小4の5月、逆境を乗り越える勇気を私が与えたとは思えない。


けれど、ほんの少しでも役立っていたらいいなと思うようになった。


もっとチイちゃんとの会話を思い出そう。


思い出すたび、修二が喜んでくれる。


◆◆

1週間もすると、少しずつ変化が現れた。


修二は自分のグループを大切にするし、私も仲間と過ごす。


チャラい感じでも修二は授業態度も真剣。私は家族を落胆させない程度の成績をキープするため、眠いのを我慢して頑張ってる。


放課後に修二の方から話しかけてくる回数が増えた。たまにジュースや飴玉を持ってきてくれる。


「美佳ちゃん、どうぞ~」

「サンキュー、お返しにチョコだよ~」


「おっ、嬉しいな。大事に食べるよ」

「早く食べてよ。安く買ってきた見切り品だから、消費期限ギリだよ」


「大きな愛がこもってるかと思ったのに、勘違いか~~」

「込めてるよ~、値段と一緒で80パーオフだけどね」


「あははは」

「うひゃひゃ」


「あんたら、妙に息があってるけど・・」


親密だけど甘い空気のなさに仲良しのマキがあきれてる。


そして次の週末に会って何をするかってLIMEが来る。


クラスメイトは、ようやく期待してた展開になったと言う。修二を好きな子の視線は前よりきつい。


私の中でも大きな変化。あっちから接触してきてる。


会話は短くても、的を外さずキャッチボールできてる。


今日も6月の大粒の雨が降った。雨が止んだ直後、窓ガラスに水滴が流れていく。


なんだか最近、その水滴が妙にキラキラしてるように映るんだよね。



そういえば、アイツが来た。


水曜日の休み時間、私に浮気の冤罪をかけようとしたバカカップルの片割れ、チハルが教室の前に現れた。


正直、存在を忘れかけてた。


廊下に呼ばれて、隅っこで謝られた。


「迷惑かけて、ごめんなさい」


この女もダメージがすごいって聞いてる。


情報提供してくれるバスケ部のヤベ君によると、バスケ部に居づらくなってマネージャー業も休部状態だそうだ。


考えてみれば私は、コイツの幼稚な策略のお陰で修二と仲良くなれた。


断る気だったヨウタの告白の返事も、湿度ゼロで霧散した。


私が謝罪を受け入れてプラマイゼロでいい。


さてさて、腕を組んで何を言おうか。


ちらっと脇を見ると、意外と人が集まってきた。


え・・ちょっとギャラリー多くない?


緊張してきた。


あの断罪返しのときのように変なこと言ったら、また収集がつかなくなる。



そこで頼もしい助っ人が来た。


見かねた修二が間に入ってきた。


私に背を向け、背中に右手を回して2本の指を立てた。


3度目の拝見となるハンドサイン。『待機』だった。素直に従う。


かなり安心感がある。ここで人あしらいがうまい彼が丸く収めてくれるだろう。



「チハルさんだっけ。本当に反省してるんだよね~」


「・・はい。心から反省してます」


「美佳ちゃん、これでいい?」


「うん、それじゃ、よりを戻した彼氏君と一緒にお幸せにね」


私のひとことに、チハルの顔色が変わった。


「・・・たわよ」

「・・ん?」


「もうヨウタとは、今度こそ別れたわよ!」


私が軽く失言した。チハルの逆鱗に触れた。


「あんたが好きでもないヨウタの告白を保留にしなきゃ、こっちは楽に復縁できてた」


ちょっとチハルの目が怖い。


「結局は何にもしてないくせに修二君に助けられて・・」


これは言い返せない。ごもっともだ。



「違うよ美佳ちゃんは、ドン底のときの俺を助けてくれた。だから俺は恩返ししてるだけなの」


その話を知らない人が、この場には多い。ざわざわとしてきて、何か身もだえしてる女子もいる。


ただ修二の口調が普段と違って真面目だ。


少しの沈黙のあと、いつもの修二に戻った。


「ほら~、せっかく勇気を出して謝罪に来たこと忘れちゃダメだよ~」


「そうでした・・ごめんなさい」


「チハルさんだっけ」

「は、はい」


「うん、こんな風に来るのって、なかなかできないよ。筋を通そうとしたことは美佳ちゃんも分かってくれる。一歩目を踏み出せたから、これからはいいことがあるよ、きっと」


「そ、そうかな・・頑張ります」


チハルは、少し潤んだ目で修二を見たあと去っていった。え、顔が赤くね?


修二の優しさはすごい。敵さえも気遣っている。



教室に戻ると、修二を知っているクラスメイトほど驚いていたようだ。


私は大した女じゃないのに、あんなこと言われた。


顔が熱くなってきた。だから気付かなかった。


ヤイコは何かを決意したこと。カナコも気持ちの区切りをつけてたこと。


私にも懐かしい人が会いに来ようとしたこととか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ